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独自フィルタのESS DACやHypex素子採用、マランツの次世代USB DACアンプ「HD-AMP1」

 マランツは、USB DACとスピーカードライブ用アンプ、ヘッドフォンアンプを搭載した「HD-AMP1」を12月上旬に発売する。価格は14万円。カラーはシルバー・ゴールド。コンパクトながら、音質にこだわった「MUSIC LINK」シリーズとして展開する。

USB DAC搭載アンプ「HD-AMP1」

 マランツとして初めて、ESSのDACを採用。そのまま使うのではなくオリジナルのデジタルフィルタを投入。さらに、同社のレギュラーなスタイルのアンプとしては初めて、パワーアンプ部にスイッチングアンプを搭載するなど新要素が多いのが特徴。ただし、フルデジタルアンプではなく、パワーアンプの最終段にのみ使っており、その他の部分はマランツのハイスピードなディスクリート回路「HDAM回路」を多用している。デザインは「HD-DAC1」に似ているが、サイズは一回り大きい。

 USB DAC部には新開発のUSBインターフェイスデバイスを搭載。最大でDSD 11.2MHz、PCMは384kHz/32bitまでに対応する。DSDの再生方式は、Windowsの場合ASIOドライバを使ったネイティブ再生と、DoP(DSD Audio over PCM Frames)の両方に対応する。アシンクロナスモードにより、ジッタフリー伝送も可能。対応OSはWindows 7/8/8.1、 Mac OS X 10.10.1。

 同軸デジタル入力を1系統、光デジタル入力を2系統装備しており、CDプレーヤーやネットワークプレーヤーとのデジタル接続も可能。その場合はPCM 192kHz/24bitまでのサポートとなる。

背面端子部

 前面にUSB-A端子も装備。USBメモリに保存したハイレゾファイルも再生可能。iOS機器からの再生や、充電も可能。USBメモリからの再生では、DSD 5.6MHz、PCM 192kHz/24bitまでの再生が可能で、PCMはWAV/FLAC/Apple Lossless/AIFF/MP3/WMA/AACをサポートする。

 マランツの製品に多く採用されているデジタル・アイソレーション・システムを搭載。USB接続されたPCから流入する高周波ノイズや、HD-AMP1内のデジタル回路から発生する高周波ノイズによる影響をカットするため、高速なデジタルアイソレーターを4素子、7回路搭載している。

 この素子はICチップ上に組み込まれたトランス・コイルを介して磁気によるデータ転送を行なうもので、入力側と出力側は電気的に絶縁される。これをデジタルオーディオ回路とDAC間の信号ラインに設置する事で、DAC回路やアナログオーディオ回路への高周波ノイズの影響を排除している。USBインターフェースデバイスのグラウンドをオーディオ回路から分離させてノイズの回り込みも防止している。

デジタル・アイソレーション・システムでPCから流入する高周波ノイズや、HD-AMP1内のデジタル回路から発生する高周波ノイズによる影響をカット

 DACはESSの「SABRE 32 ES9010K2M」を採用。このDACは、最初から用意されているデジタルフィルタに加え、オーディオメーカーがオリジナルのフィルタを追加する事ができる。マランツではDAC内蔵のフィルタは使わず、独自のアルゴリズムによるデジタルフィルタ「Marantz Musical Digital Filtering(MMDF)」を新開発して搭載。フィルタの特性は、上位モデルの「SA-11S3」や「NA-11S1」で使っているものを踏襲している。

DACはESSの「SABRE 32 ES9010K2M」

 フィルタは2種類あり、「Filter 1」のインパルス応答は、プリエコー、ポストエコー共に短い特性で、「音の情報量が多く、奥深い音像や音源の位置関係を明確に再現する」というもの。「Filter 2」は非対称インパルス応答と呼ばれる特性で、プリエコーに対してポストエコーが少し長め。「アナログ的な音質傾向」だという。

フィルタは2種類から選べる

 「ES9010K2M」は電流出力タイプであるため、外付けのI/V(電流/電圧)を利用する。音質にも関わるこの部分とポストフィルタに、独自のディスクリート回路「HDAMと「HDAM-SA2」を使用している。

クロック回路には超低位相雑音クリスタルで、44.1kHz、48kHz系それぞれに搭載

 クロック回路には超低位相雑音クリスタルを搭載。44.1kHz、48kHz系それぞれに専用のクリスタルを搭載する事で、入力信号のサンプリング周波数に応じて最適な供給。ジッタを抑制し、明瞭な定位と見通しの良い空間表現が可能という。

 ハイスルーレートな「HDAM-SA2」を搭載した電流帰還型プリアンプを採用。左右チャンネルの等長、平行配置を徹底してレイアウトすることにより、チャンネルセパレーション、空間表現力を高めている。

 入力バッファにもHDAM-SA2を使用・入力信号を低インピーダンス化することで、L/Rチャンネル間、各入力ソース間の相互干渉を防いでいる。

クラスDアンプを搭載した低価格なM-CR611と、AMP1の回路図を比較。HDAM回路が随所に使われているのがわかる
PM7005と比較したところ。DAC部や増幅段など、PM7005を超えている部分も
ディスクリート回路のHDAMが使われている場所

 パワーアンプ部にはHypex製の「UcD」(Universal Class D)スイッチングパワーアンプモジュールを採用。低域から高域に至るまで歪が少なく、スピーカーのインピーダンスに関わらず周波数特性が変化しないのが特徴で、HDAMを使ったハイスピードなプリアンプ回路と組み合わせることで、DSDやハイレゾ音源の持つきめ細かな情報を忠実に描写できるという。

Hypex製の「UcD」
ヘッドフォンアンプの構成。こちらにもHDAMが使われている

 ヘッドフォンアンプも搭載。スピーカー用アンプから抵抗をかませてヘッドフォン出力としているのではなく。ハイスルーレートなオペアンプを使った電圧増幅アンプと、HDAM-SA2を組み合わせたディスクリート出力バッファアンプで構成。従来型の回路に比べ、出力インピーダンスを低くすることにより勢いのある再生音を実現したという。3段階のゲイン切り替えも利用できる。

 DACのポストフィルタ回路やプリアンプ回路などのアナログオーディオ回路には、オーディオグレードのフィルムコンデンサを使用。パワーアンプモジュールのデカップリングコンデンサにはニチコンのMUSEシリーズの最高グレード品を使っている。

 スピーカーターミナルはオリジナルの「SPKT-1」。真鍮削り出しのコア部に金メッキを施し、経年変化による音質への影響を防止しています。直径5mmまでのケーブルを固定可能で、Yラグやバナナプラグにも対応する。ピンジャックは真鍮削り出し。

 筐体にはダブルレイヤードシャーシを採用。メインシャーシにボトムプレートを追加することによって重心を下げ、外部からの振動による音質への影響を抑制している。シャーシを支える脚部には、アルミダイキャストインシュレータを使っている。

筐体にはダブルレイヤードシャーシを採用
アルミダイキャストインシュレータ
付属のリモコン

 アンプ部の定格出力は35W×2ch(8Ω)。ダイナミックパワーは70W×2ch(4Ω)。SN比は105dB、高調波歪率は0.05%。ヘッドフォン出力は350mV(32Ω)。

 音声入力はUSB-B、USB-A、同軸デジタルを各1系統、光デジタルとアナログRCAは各2系統装備。音声出力はヘッドフォンに加え、サブウーファ用出力も備えている。消費電力は55W。待機電力は0.3W。外形寸法は304×352×107mm(幅×奥行き×高さ)。重量は5.8kg。リモコンを同梱する。

リビングでの使用イメージ
デスクトップでの使用イメージ

次世代に繋がるアンプソリューション

ディーアンドエムホールディングス GPDサウンドデザイン D+M シニアサウンドマネージャーの澤田龍一氏

 ディーアンドエムホールディングス GPDサウンドデザイン D+M シニアサウンドマネージャーの澤田龍一氏によれば、HD-AMP1の開発スタート時には、8月に発売したコンパクトな一体型コンポ「M-CR611」(7万円)をベースとし、「あれとほぼ同じ構成にしながら、各部をグレードアップしようと考えていた」という。しかし、「(ESS DACの搭載やスイッチングアンプの採用など)いろいろやっていくうちに暴走してしまい(笑)、最新のハイレゾスペックに対応しながら、マランツならではプレミアムなコンパクト、そして次世代に繋がるアンプソリューションとして開発する事になった」と笑う。

 方針転換のキッカケはESSのDAC「ES9010K2M」を採用した事だ。「マランツとしてこれまで採用していなかったが、ESSのDAC自体はかなり前からテストはしており、大変結果は良く、いつ採用しようかと思っていた」という。

 このES9010K2Mには、ESSがあらかじめ用意したデジタルフィルタが複数用意され、オーディオメーカーが好きなものを選んだり、設定を開放してユーザーが好きなものを選べるようにする事ができる。さらに澤田氏によれば、「メーカーが自分でデジタルフィルタを作り、DACに搭載する事もできる」という。

 そこで、マランツが高級機で取り入れてきた、オリジナルのデジタルフィルタパターンをESS用に手直しして投入。「ESSのDACを搭載するメーカーは多いが、我々はこのデジタルフィルタを入れ込む事で、我々ならではの使い方ができるようになった」という。

 さらに電流出力型のDACである事も採用の決め手となった。電流出力型DACでは、その後ろにI/V変換を用意する必要があるが、逆にその部分が音質にも効いてくるため「マランツの音」を追求できる。

 また、このIV変換だけでなく、ポストフィルタ、プリアンプ、インプットバッファなどにも独自のディスクリート回路であるHDAMを搭載。極力オペアンプは使っていないという。

 もう1つの大きな特徴は、パワーアンプ部にHypex製の「UcD」(Universal Class D)スイッチングパワーアンプモジュールを採用した事。マランツはアナログアンプにこだわるメーカーで、「本格的なスイッチングアンプを使ったマランツのアンプはほとんどなく、初めてに近い」(澤田氏)という。

 そのため、「回路図を見ていただければわかるように、HD-AMP1は基本にはアナログアンプとして作っています。終段だけはスイッチングにしましたが、それはこの筐体サイズではスイッチングにしないと大きなパワーがとれないため」だという。

 Hypex製の「UcD」を選んだのは「もちろん音が良いから」(澤田氏)だが、もともとマランツはHypex製のデジタルアンプを良く知っていたという。「マランツはかつてPhilipsの傘下でしたが、当時Philipsのエンジニアが考えだしたSODA(ソーダ)というデジタルアンプの方式がある。そのエンジニアが、今、Hypexで手がけているのがUcD」だという。

 だが澤田氏によれば、音が良い反面、Hypexの「UcD」は使うのが難しいという。「ゲインをほとんど持たず、簡単に言えばパワーアンプ部の後ろ半分しかないようなもの。前段をメーカー側で作らなければ鳴りません。また、入力はアナログのみで、しかもバランスでないと動作しないのでプリアンプの終段をバランスにしなければなりません。小さな筐体のコンポでは使うのは大変ですが、音を聴けばやるだけの価値はある」という。

 その結果「徹底的にやった結果、スイッチングアンプで、マランツらしさを前面に打ち出したモデルになった。小型で高性能でも、ややこしいものは入れずにシンプルな構成を追求した。大げさな(サイズの)機械ではなく、それでも音楽が楽しめる。'90年代にラインナップしていた“MUSIC LINK”の名を再びつけることができた」という。

マランツは小型ながらハイクラスな音質が楽しめる機器として、'90年代に「MUSIC LINK」シリーズを展開。AMP1は、「MUSIC LINK」復活モデルでもある

 なお、既報の通り、10月から発売が開始された英B&W(Bowers & Wilkins)のスピーカー「800 D3」シリーズの上位モデル「802Diamond」がマランツの開発用試聴室に導入されているが、HD-AMP1は802Diamondをモニタースピーカーとして使って開発した最初の製品だという(製品開発後半のリスニングテストで使用)。

 1台170~180万円のスピーカーと組み合わせるのは非現実的だが、AMP1は802Dも十分にドライブできるという。小型・低価格スピーカーとしては、B&Wの「CM1S2」との組み合わせも提案されている。

マランツの開発用試聴室では「802Diamond」が使われており、HD-AMP1のリスニングテストにも使われた

(山崎健太郎)