秋のヘッドフォン祭 2009【Beyerdynamic編】

-1テスラ実現した最上位ヘッドフォン「T1」公開


新フラッグシップヘッドフォンのT1

開催日:10月31日 11時~17時30分 

開催場所:中野サンプラザ 15階

入場料:無料

 東京・中野にあるAV機器の専門店フジヤエービックのデジタルスタイルショップが主催する「秋のヘッドフォン祭 2009」が10月31日の土曜日、中野サンプラザにて開催された。入場料は無料。

 薄型テレビやビデオカメラ、各種オーディオ機器の新品/中古販売、買い取りなどを行なっているフジヤエービックは、業務用機材も手掛けるプロショップも設けるなど、AV関連機器専門の総合販売店として知られている。一方で、国内外の中高級ヘッドフォンや、ヘッドフォンアンプなど、ヘッドフォンと関連製品の販売にも注力。東京におけるヘッドフォンムーブメントの中心地的な存在となっている。

 「ヘッドフォン祭」は、そんな同店が取り扱う製品や、各社の新製品が体験できるイベントとして開催されているもの。15階の全ルームを貸し切り、普段あまり聞くことのできない国内外の高級ヘッドフォンや、ヘッドフォンアンプが多数試聴できるイベントとなっている。


 会場で大々的な発表会を行なったのは独beyerdynamic(国内販売はティアックが担当)。10月30日に発表したフラッグシップヘッドフォン「T1」と、ハイエンドヘッドフォンアンプ「A1」を初披露した。11月下旬発売予定で、価格はオープンプライス。店頭予想価格はヘッドフォンが14万円前後、ヘッドフォンアンプが12万円前後の見込みだ。細かなスペックは既報の通り。

セミオープンタイプとなっているヘッドフォンアンプの「A1」

 「T1」はセミオープンタイプのダイナミック型ヘッドフォン。最大の特徴は、ドライバ部に1テスラ(=10,000ガウス)を越える強力な磁束密度を生み出すテスラテクノロジーを用いた、新開発の小型トランスデューサーを採用した事。その結果、出力音圧レベルは最大102dB 1mW/500Hz(126dB 300mW/500Hz)で、同社ヘッドフォンのDT770/880/990などと比べ、約2倍以上の能率を実現している。

コンシューマプロダクトビジネスのユニットマネージャー、グンター・ワイドマン氏
 開発のキッカケについて、beyerdynamicのコンシューマプロダクトビジネスのユニットマネージャー、グンター・ワイドマン氏は「技術的な研究として1テスラを越える磁束密度を持ったマグネットを作ろうと、2年以上前から取り組んでいました。このたびそれが完成し、ヘッドフォンとして製品化する事になり、我々が持つ様々な技術やこだわりも盛り込みました。その結果、高価なモデルになりましたが、最初から“高級ヘッドフォンを作ろう”と考えていたわけではなく、ユニットの開発がキッカケです」と説明。

 ゼンハイザーの「HD800」やウルトラゾーンの「edition 8」など、高級ヘッドフォンの新モデルが相次ぐ形になった事については「HD800やedition 8が登場した時にはまだユニットが完成しておらず、完成し、製品化したのが偶然この時期に重なっただけなんです。でも市場価格ではT1の方が安いと思いますよ」と笑い、意識的に同時期に投入したわけではないと語った。


A1に搭載されているユニット。左側の部分が1Tを実現したドライバー部ユニットの表。バッフルには通常のフェルトではなく不織布を使用し、軽量化を図っているドライバーの構造図。赤い線と緑の線が磁力の流れを示しており、ボイスコイル近くのエアギャップ部分で1Tを実現。ここに集中し、外部への磁束の漏洩は少ないため、人体に影響は無いという

ヘッドバンドの調節部分。T1の文字の形に穴が空いている
 特徴はマグネットだけでなく、シンプルな構造を採用し、部品点数を削減、ユニット自体を軽量化している事にもある。ボイスコイルの捲線を0.018mmの細いものにし、コイルを軽量化。バッフルにも通常のフェルトではなく不織布を使用するなど、いずれも能率をアップするための工夫がほどこされている。

 能率の高さを追求する理由についてワイドマン氏は「T1のインピーダンスは600Ωです。普通、この抵抗値だと、能力を最大限発揮するためにはちゃんとした(駆動力/出力の高い)ヘッドフォンアンプを用意しなければなりません。しかし、T1は能率が良いため、その難点をカバーできます」と説明した。


イヤーパッドにはベルベットを使っている
 なお、同社のヘッドフォンには600Ωタイプと32Ωタイプの2種類が用意されている機種があるが、T1は600Ωタイプのみとなる。「T1は頂点に位置しているので600Ωのみですが、ポータブル用のニーズなどで、将来的にこのドライバを使い、32Ωタイプを作る事はあるかもしれません」とワイドマン氏。

 ケーブルは両出しで、入力端子はステレオの標準プラグ。なお、左右のユニットに2本の信号線とシールド線が繋がれているため、プラグ部分をXLRコネクタに付け替えるだけでバランスヘッドフォンとしても使用できるという。


製品は大型のアルミケースに入れて販売される


 

A1の前面。ヘッドフォン出力は標準プラグ用を1系統装備する
 ヘッドフォンアンプの「A1」は、海外では2007年に発売されていたモデルだが、日本での販売は初めてとなる。「600Ω級のハイインピーダンスヘッドホンの実力を余すところ無く引き出し、全ての周波数帯域に渡り完全ドライブする」というヘッドフォンアンプで、再生周波数帯域1Hz~100kHz(-1dB)に対応しているのが特徴。

 電源部にはトロイダルトランスコアと、厳選したパーツを投入。マイクロプロセッサで制御されるリレーにより、電源のオン/オフ時に発生するクリックノイズや、入力切り替え時に発生する不要なノイズをカットしたという。

 ヘッドフォン出力は標準プラグ用を1系統装備。入力(アナログRCA)は2系統装備。RCAのラインアウトも1系統備えている。大型のボリュームツマミを採用。出力は100mW(600Ω)、170mW(250Ω)、150mW(30Ω)。入力インピーダンスは50kΩ。最大増幅は18dB。S/N比は100dB以上。 出力インピーダンス(ヘッドフォン端子)は100Ω。消費電力は15W。外形寸法は250×225×50mm(幅×奥行き×高さ)。重量は2.3kg。


 

 今後の商品展開について、コンシューマプロダクト エリアセールス マネージャーのボブ・ピレイ氏は「beyerdynamicのブランドは、ハイエンド市場には浸透しているが、今後は女性を含めた若い世代の人々にも認知してもらえるようにしたい」と語り、低価格なモデルの拡充にも取り組む姿勢を強調。


コンシューマプロダクト エリアセールス マネージャーのボブ・ピレイボブ・ピレイ氏はbeyerdynamicの歴史や会社概要も説明した

 さらに、ドイツの製品をそのまま海外で販売するのではなく、各国のニーズを聞き、現地の市場に会わせた製品開発にも注力するという。また、海外で実施している、ユーザーがWebで色や素材を注文し、ヘッドフォンをオーダーメイドできるサービスも紹介。「日本でどのようにサポートできるか考えている」と語り、同様のサービスを日本でも展開する可能性を示唆した。

発表会場には現行モデルも展示された
TASCAMブランドの新製品も展示。写真は業務用で初のiPodドック搭載CDプレーヤー「CD-200i」米KOSSのヘッドフォン「PORTA PRO」の誕生25周年を記念したモデル「PORTA PRO 25th ANNIVERSARY」


(2009年 11月 2日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]