ソニー、挿すだけで機器を認証する「認証型コンセント」

-AV機器の課金やEVの充電他。世界的普及目指す


発表会場で展示された、認証型コンセントのコンセプトモデル

 ソニーは14日、コンセントからの電力を、利用者や機器毎に管理できる「認証型コンセント」を開発したと発表した。今後、AV機器メーカーだけでなく、様々な分野の企業と協力し、普及を図っていくほか、規格や仕様など、ガイドラインの策定も検討している。

 14日に発表された「認証型コンセント」には、大きく分けて「FeliCaタイプ」と「電力線重畳通信タイプ」の2種類がある。




■FeliCaタイプ

 現在、広く普及している非接触型ICカード・FeliCa(フェリカ)は、ソニーが開発したものだが、その技術を電源コンセントに応用したもの。例えば、電車の改札では、改札の機械の中にFeliCaのリーダ/ライタが搭載されており、そこにICチップが埋め込まれたカード(Suicaなど)を触れて、認証やカード内の電子マネーの引き落としを行なっている。

FeliCaタイプの認証型コンセント
コンセントとプラグの内部

 開発された「認証型コンセント」は、このリーダ/ライタを壁のコンセントの中に、そしてテレビなど電化製品のコンセントのプラグに、ICチップを埋め込んだもの。プラグを壁のコンセントに挿すとICチップとリーダ/ライタが接近し、通信が可能になる。

 例えば、このICチップに個人情報や電子マネーデータなども記録しておけば、「Aさんが所有している、B社の、Cというテレビがコンセントに接続された」という情報がリーダで読み取れ、その情報をインターネットを介して認証サーバーへ送信。有料コンテンツなどを視聴したら、その視聴料金をICチップのデータから引き落とす事が可能になる。この際、リーダ/ライタとサーバ間の通信には、一般家庭のネット回線などを使用する。

 認証型コンセントを家中に配置した場合、テレビやエアコン、ドライヤーなど、どのような機器が接続されているか、どの程度電力を消費しているかといった、家庭内の家電製品全体の情報が取得可能。ユーザーがタブレット端末などでそれをチェックできるほか、認証型コンセントに電力供給をON/OFFできるリレー機能を内蔵すれば、「夜間にいない部屋や、小さな子供がコンセントにいたずらする可能性がある子供部屋のコンセントへの電力供給を、元からカットする」といった事も可能。

 また、FeliCaと同程度のデータ通信(200kbps~500kbps程度)が可能であるため、コンセントを介して、機器にプログラムのコマンドを送る事も可能。コマンド受信に対応したテレビなどを作れば、「洗面所でドライヤーが使われ、キッチンで電子レンジも使われているため、あらかじめ設定していた供給量の上限に近づいた。ブレーカーが落ちる前にテレビに対してコンセント経由で“画面の輝度を落とす”というコマンドを送る」といったシステムも構築できるという。「ドライヤーへの給電は1分のみ」といったシステムにする事も可能。

 他にも、火力や風力、ソーラーパネルなど、様々な電力の供給元を選ぶコンセントも実現できるという。


認証型コンセントのプラグ試作機プラグの中にはICチップが入っている
デモの様子。壁のコンセントに扇風機が接続されている。電力が供給されている状態で、青く光っているタブレットで、家の中のコンセントに接続された機器と、使用電力がわかるタブレットから指令を出すと、電源供給が止まり、扇風機の回転がOFFになる。壁のコンセントが赤く光る

 家庭の外での使用も想定。例えば電気自動車の充電用プラグにICチップを埋め込み、街中の充電スタンドにもリーダ/ライタを搭載。充電する時に、プラグを差し込むだけで、サービスに契約しているユーザーであると認証され、電気が流れて充電が可能。認証されないプラグでは、電気を流さないといったスタンドも実現できる。

 カフェなどで、持参したタブレット端末を見ている場合は、同じく持参したACアダプタをカフェのコンセントに接続。あらかじめ登録してあるユーザーだと認識されれば、電気が流れ、タブレットを充電できるようになる、といった使い方もある。また、FeliCa ICカード認証と互換性もあるため、ACアダプタが認証システムに対応していない場合でも、コンセントにFeliCa ICカードをかざして、認証&課金を行ない、電気が流れるようにするといった事も可能になる。

2030年の暮らしをイメージしたデモ映像の一コマ。電気自動車を充電しているところだが、街中の充電スタンドにプラグを挿すだけで、個人認証が行なわれ、給電されるカフェでタブレット端末を楽しんでいるところ。テーブルにあるコンセントの上に、持参したACアダプタを乗せると認証され、タブレットが充電される。非接触充電技術との組み合わせも可能だという

 FeliCaタイプは、FeliCaでセキュア通信の実績・信頼性がある事や、既存のFeliCa ICカードと互換性を持っているため、FeliCaのインフラを使った使用電力の課金サービスなどの展開が見込めるとする。

例えば認証システムに対応していない機器の場合、そのまま接続すると電力が供給されないが、FeliCaカードと互換性があるため、カードをかざして使用料を支払、一定時間電力が供給されるようになる……といった事も可能


■電力線重畳通信タイプ

電力線重畳通信タイプは、電力線を使って通信を行なう

 FeliCaタイプでは、各コンセントにリーダ/ライタやアンテナを内蔵しなければならず、コストがかかる。そこで、非接触通信を行なわず、電力線を経由して通信を行なう「電力線重畳通信タイプ」も開発された。PLC(電力線搬送通信)と似ているが、ソニー独自の「電力線重畳通信技術」が使われている。

 このタイプでは、例えば家庭内の配電盤などにリーダ/ライタ機能を搭載するだけで、各部屋のコンセントに接続した機器の認証ができるようになる。そのため、既存のコンセントが流用できる可能性があり、リーダ/ライタも1台で済むため、コスト面に優れている。

 ICカード技術と同様であるため、接続する機器側は電源不要でパッシブな通信が可能。機器の電源がOFFになっていても認証ができるのが、PLCとの違いとなる。

 また、設置自由度の高さも特徴で、例えばコンセントから延長ケーブルやタップを介して機器を接続しても、電力線を通じて通信ができるため、問題なく認証ができる。

 ただし、この電力線重畳通信タイプでは、「どんな機器が接続されているか」を把握・認証する事は可能だが、個々のコンセントに電源ON/OFFのリレーが入っていない場合、FeliCaタイプのような、特定のコンセントだけ給電をストップするといった、細かい制御機能は利用できない。


電力線重畳通信タイプのデモ。左にあるのがリーダ/ライタで、そこに壁コンセントが複数接続されているというイメージコンセントにICチップを組み込んだ機器を接続すると、その機器が接続された事が認識される


■実用化に向けて

業務執行役員SVP 研究開発プラットフォーム担当役員 共通ソフトウェアプラットフォーム担当役員の島田啓一郎氏
 業務執行役員SVP 研究開発プラットフォーム担当役員 共通ソフトウェアプラットフォーム担当役員の島田啓一郎氏は、今回の技術の意義について、「現在、再生可能なエネルギーの比率を上げていく事が必要とされている。また、そのエネルギーを大切に使っていかなければならない。無駄を出来るだけ少なく、効率を上げていく事が重要。ユーザーの視点で、エネルギーの効率を上げていくための1つの提案として、認証型コンセントを開発した」と説明。

 技術開発本部 新規事業創出部門 ホームエネルギーネットワーク事業開発部の只野太郎部長は、今後について「ソニーだけでは実現できない技術であり、賛同してくれる機器や住居、インフラなど、様々な企業と取り組んでいきたい。まずはFeliCaが普及している日本で実用化し、その次に欧米やアジアへも展開。そのためのガイドラインの策定も、参加企業と共に行なう。どのようなアプリケーションが利用できるか、利用用途についてもディスカッションを通じ、発展させていきたい」と語る。


技術開発本部 新規事業創出部門 ホームエネルギーネットワーク事業開発部の只野太郎部長
 そのため、実用化の時期は未定だが「数十年先とは言っていられないので、もう少し現実的なスピードでいきたいと考えてはいる」(只野氏)とのこと。また、この技術に関しての競合メーカーについては、「2年ほどまえから関連する様々な特許を出願しているが、特に電力線重畳通信タイプでは、競合は無いのではないかと感じている」という。

 また、開発時の苦労として「単純にコンセントにアンテナとチップを乗せているわけではない。なにしろコンセントなので、大変厳しい規制や安全規格に対応する必要があり、信頼性が重視される。それを踏まえ、レイアウトを最適化しているのが今回の技術のキモ」だという。

 また、家庭内への導入の仕方については「まずは、やはり新築からの導入になると考えられる。従来の家の場合、内部の電力線の品質などがバラバラである事もあり、難しさは伴う。しかし、現段階で保証できるものではないが、もちろんそのあたりの余裕も考慮した技術にはなっている」とした。



(2012年 2月 14日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]