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HQM STORE、初のDSD配信を12月開始。ペドロ&カプリシャスの未CD化音源もハイレゾ配信

 クリプトンは、ハイレゾ音楽配信サイト「HQM STORE」において、新たにDSD音源の配信を12月29日より開始する。第1弾は、「別れのサンバ」などで知られる長谷川きよしの楽曲から、ファーストアルバム「一人ぼっちの詩」、「透明なひとときを」、「卒業」、「いにしえ坂」の計4作品を配信。いずれもDSD 2.8MHz(DSD 64)と、リニアPCMの192kHz/24bitの両方を用意し、価格は1作品3,500円。これらの作品は、HQM STOREにおける「スタジオマスターシリーズ」のラインナップに加わる。

HQM STORE

 さらに、新たなアーティストとして、高橋真梨子もかつてリードボーカルとして参加していたペドロ&カプリシャスの楽曲も同シリーズで配信開始。こちらはリニアPCMの192kHz/24bitのみで、「ジョニィへの伝言」や「五番街のマリーへ」などのヒット曲を含むHQMオリジナルのべスト盤「BEST HITS」と、洋楽カバー集の「COVERS」、CD未発売のライブ音源「Special Live 1977」(1-2と2-2の2タイトル構成)の、計3作品4タイトルを用意。価格は各3,500円。

「PCMもDSDも、聴いて良ければそれはいい音」

 1969年にデビューして「別れのサンバ」がヒット、70年代前半のフォークシーンをリードした盲目のシンガーソングライター・長谷川きよしの楽曲をDSD配信の第1弾としてラインナップ。アナログのオリジナルマスター音源を352.8kHz/24bitのDXD形式でデジタル化、変換して、DSD 2.8MHz(DIFF形式)で配信する。作業はJVCマスタリングセンターのマスタリングエンジニア/エコーディングエンジニアの杉本一家氏が担当している。

 HQM STOREでは現在、リニアPCMやFLAC、Apple Lossless(ALAC)の各フォーマットで配信しているが、DSDでの配信については、ユーザーからの要望も多かったことから、「DSDで配信するなら、トレーサビリティを含めきちんとしたものを出す」(オーディオ事業部長の渡邉勝氏)と説明。5.6MHzではなく2.8MHzのみとしているのは、現時点での同社の編集環境が2.8MHzまでの対応で、5.6MHz対応には大きなコストを要することを要因として挙げた。352.8kHz/24bitのDXD形式を経てDSD化したことを明確に示すため、「DSD by DXD」と記された専用のロゴも規定し、該当する配信楽曲にはこのロゴを明示する。なお、他社で配信されているDSD配信ではDSF形式が多いが、HQMがDIFFを選択した理由については、クリプトンの社内でブラインドテストをした結果、DIFFの方が音が良かったためだという。

「DSD by DXD」のロゴ

 HQM事業室長の樋泉史彦氏は、同サービスにおけるDSD配信開始までの取り組みを説明。「HQMの名前にある通り、ハイクオリティにこだわり、これまで検証してきた。DSDはサンプリング周波数が高いことからアナログ的だといわれるが、原理的に大きな問題を抱えている。一つは、周波数が“ハイ落ち”(高域ほどゲインが落ちる)になる点。もう一つは、DSDがパルス密度の粗密で表現することから、時間軸方向で基準になるものがないこと。例えばジッターが入って、パルスの振れが本来のものでなくなっても、識別して取り除く方法が無い。編集機材も少ない。よく言えば個性的、悪く言えば扱いづらい」と指摘。

 DSDへの要望も多いが、こうした問題も抱える中でクリプトンが出した結論は「原理、理論だけではなく、聴いて良ければそれはいい音だろう」というものだという。一方でこだわったのは、(使用したマスターや制作過程などの)「素性を明らかにしていくこと」だという。DSDとPCMで好みが分かれることを承知したうえで、両方を配信し、聴く人の選択に委ねるというやり方を採った。

クリプトンの渡邉勝オーディオ事業部長
HQM事業室長の樋泉史彦氏
HQMにおけるDSD制作プロセスなど

 第1弾として長谷川きよしの楽曲を採用した理由については、ギターとボーカルというシンプルな構成のほうが、DSDとPCMを比較して違いが分かりやすいこともあるという。今後もDSD楽曲を追加していくが、数をそろえるのではなく、今後の配信楽曲から、DSDに適したものはPCMとDSDの両方で配信していくという。

 今回デジタルリマスタリングを担当したJVCマスタリングセンターの杉本氏は、DSD化に使用した機材や制作工程について説明。テープレコーダはStuder A80で、JVC特製ヘッドアンプを使用。DSD制作にはマイトナーのADCを使用した。イコライザやコンプレッサを掛けず、「原音そのままを移す」ことを目指し、「電源やアナログケーブルを取り換えるなどして、当時録られていたであろう音を探りながらデジタル化してきた」と説明した。

JVCマスタリングセンターの杉本一家氏
杉本ルームでの制作風景

アナログマスターシリーズに「ペドロ&カプリシャス」のヒット曲も追加

 ペドロ&カプリシャスは、1971年にデビューし、2代目ボーカルを務めた高橋真梨子(当時は高橋まり)の時代に「ジョニィへの伝言」、「五番街のマリーへ」というヒット曲を生んだ。

シンコーミュージックの吉田聡志取締役 著作権部長。手にしているのはSpecial Liveのアナログ盤

 HQMでの配信にあたり、上記の2曲を含む特別編成の「BEST HITS」や、カーペンターズ、ビートルズなどのカバー曲を集めた「COVERS」、CD未発売のライブ盤「Special Live 1977」を用意する。Special Live 1977は、これまでアナログ盤しか存在せず、「レベルの高い演奏と、高橋まりの圧倒的な歌唱力がレコーディングされた素晴らしい音質ながら、CD化の機会がなかったものを関係各位と協力してハイレゾ化した、ファン待望のアルバム」としている。

 ペドロ&カプリシャス作品の配信権を持つシンコーミュージックの吉田聡志取締役 著作権部長は、Special Live 1977について「ジョニィへの伝言」、「五番街のマリーへ」が出た後の絶頂期のバンド演奏が収録されている。約30年経って初ハイレゾ化/初デジタル化され、最も当時のマスターに近い」とした。なお、シンコーミュージックは長谷川きよしの原盤を保有しており、今後も作品を順次ハイレゾ化していくことも予告した。

クリプトンの濱田正久代表取締役

 クリプトンの濱田正久代表取締役は、HQMにおける配信数を、現在の649タイトルから、年末には約900タイトルを目指して取り組んでいることを説明。7月に開始した「HQMクラウド」の楽曲も284タイトルとなり、「だんだん認知されてきたので、今後も数を増やす。特にクラウドは、これまでと違う客層がハイレゾ聴く機会として、増やしたい。ハイレゾ機運を盛んにしていきたい」と述べた。