レビュー

Astell&Kern、新究極DAP「A&ultima SP4000」先行で聴いた。音が“覚醒”する四輪駆動モード

新最上位DAP「A&ultima SP4000」

アユートは26日、今後日本で発売予定のAstell&Kern新最上位DAP「A&ultima SP4000」をメディア向けに披露した。7月中旬頃の予定で、価格は未定だが693,000円前後になる見込み。まだ正式発表前のDAPだが、主な特徴と短時間だが試聴したファーストインプレッションをお届けする。

さらに、Astell&Kernと64 AudioがコラボしたプレミアムIEM「XIO」も参考出品されていた。こちらは8月頃の発売予定で、価格も未定だが70万円ほどのイメージだという。こちらのサウンドもチェックしたので後述する。

プレミアムIEM「XIO」

A&ultima SP4000

新たなハイエンドDAPとして開発された「A&ultima SP4000」は、5月にドイツで開催された「HIGH END munich 2025」で公開されたもの。その特徴を、既存のハイエンドDAP「SP3000」と比較しながら紹介する。

「A&ultima SP4000」

まず、外観的な違いとして、ディスプレイサイズがSP3000は5.46インチの1,080×1,920ドットだったが、SP4000は6インチの2,160×1,080ドットへと大型化、高精細化している。

これにより、外形寸法もSP3000が139.4×82.4×18.3mm(縦×横×厚さ)であるのに対して、SP4000は149.8×85×19.5mm(同)と、主に縦方向に大きくなっている。逆に、横幅や厚さにはあまり大きな違いはない。

筐体の素材も、ステンレススチール904Lで同じなので、手に持った時の質感、手触りも似た感じだ。

左からSP3000、SP4000

イヤフォン出力は上部に3.5mmアンバランス(光デジタル出力兼用)と、4.4mmバランス出力を備えているが、SP3000に搭載していた2.5mm/4極バランス出力は削除されている。また、上部にロックボタンが追加された。

上部。2.5mm/4極バランス出力は削除された。代わりにロックボタンが追加
底部

Google Playへのアクセスが可能になり、アプリがインストールしやすくなっている。

音質面で大きな違いは、DACとオペアンプだ。

SP3000は、旭化成エレクトロニクスのプレミアムデジタルDACである「AK4191EQ」を2基、「AK4499EX」4基搭載している。

一般的なDACチップは、内部処理において、入力された音楽のデジタルデータを、デジタルフィルターに通し、⊿Σモジュレーターを経由し、D/A変換してアナログ音声として出力する……という工程を内包している。

この工程に注目すると、DACチップの中で“デジタル信号とアナログ信号が共存している状態がある”事がわかる。この状態があると、シリコンウエハーを通してアナログ信号に影響を及ぼす。それを解決するため、DACの「AK4499EX」とデジタル信号処理用チップ「AK4191EQ」の組み合わせとしている。

前述の工程から、前半にあたる「入力されたデジタル信号にデジタルフィルターと⊿Σモジュレーターを通す」という部分をAK4191EQが担当。その後にあるAK4499EXは、マルチビットデータのインターフェイスとDAコンバーターだけが内蔵するという構成だ。

つまり、1つのDACチップの中でデジタルとアナログを分離するのではなく、2つのチップを用意してチップのレベルで分離。“デジタル信号処理”と“デジタル音声のアナログ変換だけ”という役割分担をしているのが特徴だ。

SP4000も、SP3000と同じようにこのAK4191EQ、AK4499EXを採用しているのだが、その構成をさらに理想的なものにしている。

具体的には、SP3000はAK4191EQ×2基、AK4499EX×4基だが、SP4000はAK4191EQ×4基、AK4499EX×4基という構成になった。つまり、1つのAK4191EQに対して、1つのAK4191EQを割り当てられ、真のクアッドDAC構成になっている。

さらに、オペアンプの構成もリッチになった。搭載する個数を、SP3000の2倍とし、さらにオペアンプを並列配置(SP3000は直列構成)とした。従来は、出力を上げるとノイズも増加し、ノイズを下げようとすると音量が不足するというジレンマがあったが、出力を上げてもノイズを抑えられるようになったという。

この、並列配置した2倍のオペアンプを使うモードは「High Driving Mode」と名付けられており、Astell&Kernでは「車の四輪駆動」に例えている。なお、High Driving Modeを利用すると、バッテリーの消費は大きくなる。

Astell&Kernでは「車の四輪駆動」に例えている

さらに、ESA(シグナル・アライメント強化技術)も新たに投入。様々な周波数の音が内部システムを通過する際にかかる時間差、群遅延に注目したもの。オーディオ信号内の異なる周波数が、同時に到達せず、わずかに遅延が生じる現象を改善するため、周波数信号をより均一に調整。周波数歪みを最小限に抑えるという。これにより、サウンドの明瞭性と純度が向上するという。

また、DAR(Digital Audio Remaster)機能も進化。出力レベルも、SP3000のアンバランス3.3Vrms/バランス6.3Vrmsから、SP4000はアンバランス4.1Vrms/バランス8.2Vrmsへと向上している。

SP4000のサウンドをチェック

SP4000開発中の様子

SP4000のサウンドを、qdcの「WHITE TIGER」や、final「S3000」を使って試聴した。

まず、High Driving ModeをOFFにした状態で、SP3000とSP4000を聴き比べたのだが、この時点で明らかにSP4000の方が音が良い。

SP3000は、その圧倒的なSN比の良さ、音のクリアさ、駆動力の高さなどで“DAPの新時代”を感じさせる製品だが、SP4000を聴くと「さらにその先があった」と感じる。

「藤井風/まつり」の冒頭で聴き比べたが、まず音場の広さがSP4000の方がさらに広く、また、音が鳴っていない瞬間もSP4000の方がより静かだ。低域の沈み込みも、SP4000の方がより深く、また、低域の中の分解能も優れている。これは、イヤフォンを繋ぎ変えると、すぐにわかるレベルの違いだ。

全体的にSP4000の方がキレが良く、音の輪郭も明瞭。「シャキッとしたサウンド」と言っても良いだろう。これは、AK4191EQ×4基、AK4499EX×4基という“真のクアッドDAC構成”になった影響もあると思うが、前述の「ESA」の効果もあるのだろう。フォーカスがよりクッキリと定まったようなサウンドに進化している。

High Driving ModeをONにする

驚くのはここからだ。High Driving ModeをONにすると、SP4000のサウンドがさらに覚醒する。トランジェントが格段に良くなり、1つ1つの音が、ズバッと出て、スッと消える、歯切れの良い音になる。音量が上がったり、低音が厚くなったりすわけではないのだが、1つ1つの音の“出方”が、力強くなる印象だ。

「ヨルシカ/晴る」も、High Driving ModeをONにすると、キレキレのハイスピードサウンドに変化し、聴いていてとにかく気持ちが良い。

据え置きのピュアオーディオで、低価格なスピーカーを、駆動力のあるハイエンドアンプでドライブすると、まるで別物のようなサウンドで鳴る事があるが、あの変化に似ている。「これが、このイヤフォンの真の実力だったのか」と、まさに目が覚めるようなサウンドが楽しめるのがHigh Driving Modeだ。

High Driving ModeをONにすると、かなり消費電力がアップするそうだが、一度このHigh Driving Modeを聴いてしまうと、もうOFF状態には戻りたくないというのが正直な感想だ。

パッケージと内容物
SP4000のケースが付属
そのほかイヤフォンなどを収納するためのポーチも付属する。なお、このポーチにSP4000本体は入らない

プレミアムIEM「XIO」も聴く

Astell&Kernと64 Audioがコラボした「XIO」

Astell&Kernと64 AudioがコラボしたプレミアムIEM「XIO」は、低域用にダイナミック型×2、中域用にBA×6、中高域用にBA×1、高域用にtia(Tubeless In-ear Audio)×1を搭載。片側10ドライバー構成だ。

tiaは、BAの筐体をオープンにする事で、解像度やディテールを高める64 Audio独自の技術だ。これ以外に、外耳道をイヤフォンで塞いだ時に発生する空気圧を外に逃がし、鼓膜への負担を軽減する「Apex mX Modules」も搭載する。このModuleは4種類が付属し、交換できる。

XIOのサウンドもSP3000で聴いてみた。

片側10ドライバー構成だけあり、低域や中低域がパワフル、高域もクリアで、非常にリッチな、ハイエンドらしいサウンドのイヤフォンだ。

それでいて、音が狭い空間に充満するような閉塞感が無く、開放的な気持ちの良い鳴り方をしてくれる。これは、前述のApex mX Modulesが効果を発揮しているのだろう。

山崎健太郎