ニュース

日本コロムビア、CD相当のデジタルマスターをハイレゾに再構成する「ORT」。12月配信開始

 日本コロムビアは、アナログ信号をデジタルに変換した際に失われた高域成分を、再構築する「Overtone Reconstruction Technology(ORT)」技術を開発。これを用いた「ORTマスタリング」の第一弾としてDENON Classicレーベルの名盤を「DENON Classic ORT Masteringシリーズ」として復刻。12月16日からe-onkyo musicにて、ハイレゾ配信を開始する。

「ORTマスタリング」のロゴマーク

 第一弾タイトルは「マーラー:交響曲第5番/インバル&フランクフルト放送響」などで、通常価格は2,500円だが、12月16日~2016年1月12日までは特別価格1,500円で販売する。なお、e-onkyo musicでの配信は、他の配信サービスに1週間先行したものとなる。

過去の名盤のデジタルマスターをハイレゾ化

 1972年に世界初の実用PCM録音機を開発し、デジタル録音を開始した日本コロムビア。その後も、デジタル録音のスペック向上に伴い、自社開発の機器設備も改良を重ね、デジタル編集卓やCDマスタリング用の波形編集機なども開発。それらを用いて制作された多種多様なフォーマットの膨大なデジタルマスター音源が存在するという。

 PCM初期の録音の中には、CD相当の録音スペックながら、優れた録音と演奏による名盤も多数存在する。そうした、CD相当のデジタルマスターの倍音成分を解析し、その高域倍音成分を再構築するのが、新たに開発された「ORT」技術。「本来の楽音がもっていた豊かな音色やなめらかさを復活させ、ハイレゾ音源として蘇らせることを可能にした」という。

上が44.1kHz/16bitのオリジナルマスター、下がORTマスタリングで96kHz/24bitにマスタリングしたもの

 具体的には、アナログ/デジタル変換時に失われた高域成分を、低域部分の倍音を利用して予測・再構築する。様々なパラメータが用意されており、マスタリングエンジニアがそれを駆使して、楽音本来の豊かな音色やなめらかさ、ホールの響き感などを復活させていく。

 この倍音再構築技術と、従来からスタジオで導入されている「Master Sonic 64bit Processing」による高品質なマスタリング技術を組み合わせたものが「ORTマスタリング」となる。64bitで処理を行なう事で、ORTによって得られた広い周波数帯域とダイナミックレンジを最大限に活かせるとしている。

K2技術との違いは?

 失われた高域成分を予測・再構築するという技術は、JVCケンウッドの「K2テクノロジー」など、既に存在している。A&C本部 レーベル事業部長の岡野博行氏は、こうした技術を日本コロムビアも古くから研究してきた事を紹介。

「44.1kHz/16bitなどのマスターで、良い録音なのにハイレゾとして出せないものが多く、忸怩たるものがあった。一方で、我々は倍音の再構築を機械的に行なうのではなく、録音状態やホールの響きなどに合わせ、人の手でパラメータを変える必要があると考えていたため、慎重になっていた。今回はその技術を煮詰め、皆様に発表できるものができたと考えている」と説明。

 K2など、他社との違いについてA&C本部 スタジオ技術部長の冬木真吾氏は、「録音したホールの響きなど、そういうところがわかっているエンジニアが、細かくパラメータを作り、適用していく部分」と説明。さらに、音作りの面では、「ハイレゾの広いダイナミックレンジを活かし、CD相当マスターの時のように詰め込んだ感じにせず、レンジの広さを活かした音作りにしている」とのこと。

A&C本部 レーベル事業部長の岡野博行氏
A&C本部 スタジオ技術部長の冬木真吾氏

 なお、今回披露された作品は96kHz/24bitのものが多いが、技術的には192kHz/24bitなども可能という。

 また、前述のとおり、エンジニアの経験や感性といったものも重視しているため、技術をハードウェアに入れ込んでチップとして販売したり、マスタリングの技術だけを外販する事は現時点では予定されていない。

 一方で、他のレーベルがORTを使って音源をハイレゾ化するサービスは想定しており、「弊社でやらせてもらう事になるが、マスタリングとしてのサービスは、ぜひ他社も使っていただきたい」(冬木氏)と期待を寄せた。

聴き比べてみる

 発表会場にて、「マーラー:交響曲第5番/インバル&フランクフルト放送響」や「モーツァルト:ピアノソナタ集/イングリッド・ヘブラー」などを、ハイレゾ化前と後で聴き比べた。

 ORTマスタリングを施したものは、CD相当の音源と比べ、音場の空間がさらに広くなる。中低域の音圧もアップするが、余分な膨らみは一切感じられない。高域はより伸びやかで、細かな音に質感が出ている。それゆえ、キツい音であっても、うるさいとは感じず、音楽がすんなりと入ってくるイメージ。より自然で表情豊かな音に変化しており、確かにハイレゾで収録された音源と近い印象を受けた。

発表会は東京・八重洲のマリンシアターで行なわれた

タイトルラインナップ

 「DENON ORT MASTERINGシリーズ」の第1弾として12月16日に発売されるのは、以下の10タイトル。DENONレーベルの高音質録音の代名詞といえる、エリアフ・インバル指揮のマーラーの5番など。

 初回特別企画として、10タイトルをまとめて購入すると、特典としてスゥイトナー指揮のベートーヴェンの第九がもれなくついてくる「10+1セット」(15,000円)も期間限定で用意される。第2弾も含めたラインナップは以下の通り。クラシック以外のジャンルについても、今後順次復刻していくという。

マーラー:交響曲第5番/インバル&フランクフルト放送響
モーツァルト:ピアノソナタ集/イングリッド・ヘブラー

 【12月16日発売】
('15年12月16日~2016年1月12日まで限定各1,500円※通常2,500円)

  • マーラー:交響曲第5番/インバル&フランクフルト放送響
  • ブルックナー 交響曲第4番/ブロムシュテット&シュターツカペレ・ドレスデン
  • 黛敏郎:涅槃 交響曲、他/岩城宏之指揮・東京交響楽団、他
  • コレッリ:ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ集/寺神戸亮
  • モーツァルト:ディベルティメント/ウィーン室内管弦楽団
  • フランク&ラヴェル:ヴァイオリン・ソナタ集/カントロフ
  • モーツァルト:ピアノソナタ集/イングリッド・ヘブラー
  • ドビュッシー:ピアノ作品集/ルヴィエ
  • ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 悲愴 月光 熱情/ゲルバー
  • シューベルト:冬の旅/ヘルマン・プライ

 【2016年1月13日発売】(各2,500円)

  • マーラー:交響曲第4番/インバル&フランクフルト放送響
  • ドヴォルザーク:新世界より/ノイマン&チェコフィル
  • 吉松隆:ブレイアデス舞曲集/田部京子
  • 武満徹:ノヴェンバー ステップス~管弦楽作品集1/若杉弘&東京都交響楽団
  • ヴィヴァルディ:調和の霊感/イタリア合奏団
  • テレマン:パリ四重奏曲集/有田正広+寺神戸亮
  • ドビュッシー&ラヴェル:弦楽四重奏曲/カルミナQ
  • 春の花盛り/ウィーン・ビーダーマイヤー・アンサンブル
  • ブラームス:後期ピアノ作品集/アファナシエフ
  • モーツァルト:弦楽五重奏曲第3&4番/スメタナ+スーク

(山崎健太郎)