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テレビ事業の黒字定着を目指すパナソニック。プレミアム高級テレビ連打

 パナソニックは5月18日、アプライアンス社の事業方針について説明。アプライアンス社の本間哲朗社長は、「2011年度から着手した、テレビをはじめとするデジタル事業の整理が一段落し、収益を伴った成長を目指す環境が整った」とする一方、テレビを含むAV事業を「収益改善事業」に位置づけ、「投資を必要最小限にするとともに、リスクを最小化することで、黒字化の定着を目指す」とした。

パナソニック 常務取締役 アプライアンス社 社長 兼 コンシューマ事業担当の本間哲朗氏('15年10月撮影)

 2015年度決算では、8年ぶりの黒字化を果たしたテレビ事業だが、体質改善への取り組みは、しばらく続くことになる。

 パナソニックでは、3月31日に行なわれた津賀一宏社長による事業方針説明会において、すべての事業を、全社の売上高、利益成長を牽引し、リソースを集中させて、非連続の成長を見込む「高成長事業」、成長市場に身を置き、業界全体を上回る成長を維持する事業を「安定成長事業」、売り上げ成長が望めない領域において、利益率向上を図る「収益改善事業」に分類することを明らかにしていた。

 だが、これまでは、どの事業がどこに分類されているのかは明確にはされていなかった。今回の説明において、アプライアンス社においては、「エアコン」、「食品流通」、「スモール・ビルトイン」を高成長事業に、冷蔵庫などの「メジャー」、と「デバイス」を安定成長事業に分類。一方で、テレビ、レコーダー、オーディオの「AV」を、唯一、「収益改善事業」に位置づけた。

 アプライアンス社の本間哲朗社長は、「食品流通やスモール・ビルトインは市場成長率が高く、業界平均利益率が高い、好立地にあるビジネスであるが、それに対して、AVは成長率、利益率がともに低く、プレミアム化や新たな用途展開など、より儲かる立地を探す必要がある」と語った。

マルチセル化+プレミアム戦略で収益力強化

 2015年度のAV事業の売上高は前年比12%減の4,764億円。2016年度は前年比4.8%減のマイナス成長を計画している。

 AV事業では、テレビにおいて、IPSやVA、4KやフルHDといった異なるパネルや、複数メーカーのオープンセルパネルが取り付けを可能にするマルチセル化を全8拠点で推進。これによって、限界利益の向上を図る一方、グローバルプラットフォームを確立し、最小の投資で国別ラインアップを実現し、開発スピードと開発力強化を図る考えを示した。

「これらの施策により、日本、欧州、中南米、アジア、大洋州の5地域において、国別の商品戦略、流通戦略を加速する」という。

TH-49DX850

 また、プレミアム戦略を加速。「2015年度に欧州向けに発売した有機ELテレビのCZ950や、世界初のULTRA HD PREMIUM対応テレビであるDX900の評価が高く、数多くの専門誌や評価機関から表彰されている。また、日本地域限定モデルとして、テクニクスのノウハウを展開したハイレゾサウンドを実現するDX850を投入。プレミアム高級テレビの連打で市場プレゼンスを高め、収益力強化を図る」と述べた。

 さらに本間社長は、「2011年度にテレビ事業を大きく方向転換してから、パナソニックのテレビの事業にはフラッグシップといえる製品がなかった。家電事業は、フラッグシップがないと、利益を取れる事業ができない。ようやく、そうした製品を、自分たちで作れるところまできた。勝負する地域も定め、それぞれの地域で収益性を重視する」と語った。

国内フラッグシップモデル「TH-65DX950」

 一方で、パナソニックでは、2016年度を底に、2017年度以降、AV事業の売上高が、成長へと反転する計画を掲げている。2018年度には5,000億円近い規模にまで回復する見込みだ。

 本間社長は、「国内市場が、テレビの買い替え時期に入ってくるのが要因。また、オリンピックに向けた需要も期待できる。営業部隊には、この流れを捉えて、責任を持ってこの数字をやってもらうことになる」とする一方で、「だが、売り上げが伸びないと収益が確保できないというものではない」と、AV事業の体質改善を進めながら、今後、成長に舵を切る姿勢を示した。

アプライアンス全体で高付加価値シフト

 なお、アプライアンス社全体では、2016年度の業績見通しとして、売上高は前年比4%増の2兆6,000億円、営業利益は83%増の1,000億円を目指す。売上高は943億円の増収となるが、AVは118億円の減収計画。だが、454億円の増益分のうち、AVで113億円の増益を見込んでいる。

 また、2018年度に向けたアプライアンス社全体の中期事業戦略の柱に「高成長事業へのリソースシフト」を掲げ、家電事業では、「プレミアムゾーンのさらなる強化」、「日本の勝ちパターンの海外展開」、「アジア・中国、欧州での事業成長を加速」に取り組む。BtoB事業では、「非連続な取り組みとIoT活用で高収益化」に取り組む姿勢を示した。

 とくに、重点市場となるアジア市場においては、「エアコン、冷蔵庫、洗濯機、テレビの主力4事業において、地域に根ざした新たな価値を提案できる商品を強化していく」と述べた。

 アプライアンス社の2018年度業績見通しは、売上高が2兆8,000億円、営業利益は1,250億円を目指す。

 一方、2015年度の実績については、アプライアンス社全体で、売上高が前年比2%減の2兆5,048億円、営業利益は前年比33%増の678億円になったことを、「日本、アジアの販売増や、プレミアム化により増益になった」と総括。AV事業については、「テレビは、北米や中国での構造改革により大幅な減販。この落ち込みを白物家電の増販ではカバーできなかったのが減収要因。だが、テレビ事業の8年ぶりの黒字により増益となった」とし、テレビ事業を含む、アプライアンス社の全11事業部で黒字化を達成したことを示した。

 テレビ事業は3億円の「白字化」を目標としていたが、それを上回る13億円の黒字となった。「テレビ事業は、日本、アジア、大洋州の収支改善、構造改革効果が出ている」とした。

 また、中国市場においては、三洋電機のテレビ事業の譲渡を行なったことにも触れ、「戦略的投資による事業ポートフォートフォリオの組み替えを進めており、2018年度に向けた企業価値の向上につなげていくことになる」と述べた。

 なお、3月31日の事業方針説明で、津賀一宏社長は、「収益改善事業は、どう変えていくのかを基本に考えるが、売却が適切と判断した場合には、オプションとしてそれを選択する場合もある」としている。

(大河原 克行)