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帰ってきた「iPad mini」はサクサク動作+広色域で完成形に!? カメラも画質UP

アップルの「iPad mini」が帰ってきた。片手サイズでコンパクトな筐体に7.9型のRetinaディスプレイや最新のA12 Bionicプロセッサを搭載し、初代Apple Pencilにも対応。見た目はそのままに、大幅な機能強化が図られたニューモデルだ。今回は、かつてiPad miniを愛用していたユーザー目線で、新iPad miniのインプレッションをお届けする。

iPad mini(第5世代)

iPad miniは、2015年のiPad mini 4を最後にモデルチェンジが止まっていた。新機種が出るかも? という噂が流れる度に、期待を寄せる人は少なからずいた(筆者も、筆者の家族もそうだった)が、更新が無いままに約4年という歳月が流れ、流石に新機種は諦めていた。

だが今回、まさかのiPad miniの“復活”に、既存ユーザーもそうでない人からも多くの注目が集まっている。

ハードウェアの中身が一新された新iPad miniを使ってみると、最新のiOS 12と相まって操作感がぐっと向上している。ブラウザでネットを見たり、写真や動画のサムネイルをスクロールしたり、アプリ画面を切り替える時も、待たされたりカクつく感じがほとんどない。カメラの画質がかなり改善されているのも注目。写真編集や3Dゲームなど少々重たい作業をさせても難なくこなしてくれる。

デザインはこれまでのiPad miniシリーズを踏襲し、外形寸法は203.2×134.8×6.1mm(縦×横×厚み)、重量はWi-Fi+Cellularモデルが308.2g(Wi-Fiモデルは300.5g)で、iPad mini 4から大きな変化はない。むしろ、ここは「変化がない方が嬉しい」ポイントでもある。

なお、新しいiPad miniは、製品ページではシンプルに「iPad mini」と呼ばれているが、カメラで撮った写真のEXIFデータなどでは「iPad mini(5th Generation)」と表示される。そこで、この記事ではiPad mini(第5世代)と表記する。

今回使ったのはWi-Fi+Cellularモデル(シルバー)で、ストレージ容量は256GBの“全部入りモデル”。その他には、Wi-Fiモデルや64GBモデルなど、通信機能とストレージ容量の違いで4モデルが用意されている。カラーはシルバー、スペースグレイ、ゴールドの3色展開。


    Wi-Fiモデル
  • ストレージ64GB:45,800円
  • ストレージ256GB:62,800円

    Wi-Fi + Cellularモデル
  • ストレージ64GB:60,800円
  • ストレージ256GB:77,800円

別売オプションとして、第1世代のApple Pencil(10,800円)と、画面を覆いスタンドにもなるスマートカバー(4,500円)が用意される。

iPad mini(第5世代)とApple Pencil(第1世代)

見やすい新Retinaディスプレイは広色域対応。電書/動画/写真がキレイ

7.9型/2,048×1,536ドットで、精細度326ppiのRetinaディスプレイを搭載。iPad mini 4と同じく前面ガラスと液晶パネルを密着させた「フルラミネーションディスプレイ」を採用している。明るさは最大500nitに引き上げられた(iPad mini 4は400nit)。反射防止コーティングを採用して1.8%の反射率を実現し、映り込みを抑えているため、直射日光下などでなければ屋外でも画面が見やすくなった。色域は、iPad mini 4はsRGBを基準としていたが、iPad mini(第5世代)では広色域の「P3」(Display P3)に対応する。

ベゼルがある点は評価が分かれるだろう。個人的には電子書籍を読むとき、スマホだと手に持った部分が画面に当たってページをめくる操作をしたと誤認識され、ページが遷移して困ることがあるが、iPad mini(第5世代)ではそういったことがなくてありがたかった。ここは従来のデザインを引き継いでくれて良かったと感じる。

手前がiPad mini(第5世代)。フルラミネーションディスプレイを採用し、iPad mini 4(奥)よりも表面の保護ガラスと液晶ディスプレイの隙間(フチの黒い箇所)が狭くなった

進化点のひとつが、フルラミネーションディスプレイの隙間をより狭めて密着度を上げていることだ。液晶と保護ガラスの隙間がほとんどなくなり、Apple Pencilでの手書きメモや、電子書籍のページをめくるときなど、表示されたコンテンツに直接触れているような感覚で扱える。地味な進化だが、使用感に関わる大事なところが改良されているのは嬉しい。

もうひとつの進化ポイントは、iPhoneの最新世代などで採用されている、画面を見やすくする「True Tone」への対応。内蔵センサーを使い、周囲の光の色に合わせてディスプレイ側の色味を一定に保つ仕組みだ。

True ToneテクノロジーがiPad mini(第5世代)にも搭載された

私のiPad miniの主な用途はWebブラウズや写真・動画再生、電子書籍を読むこと。ブラウザや電子書籍の画面は、写真や動画と比べて白い部分が目立つものだが、ここの色温度が高いと青っぽく見えて不自然になるし、疲れ目の原因にもなる。True Toneは、その色温度をちょっと下げて「紙の本に近い」印象にしてくれるのだ。ブルーライトカットのために画面の色味が派手に暖色傾向になる「Night Shift」と違い、True Toneでは色味の変化は少ない。

写真ではわかりづらいかもしれないが、以下の写真は同じ画面を、周囲の明るさや照明の色味が若干違う、日常的な環境に置いて表示したものだ。いずれもiPad mini(第5世代)のほうが、青みが抑えられて見やすい感じになっている。実際、この設定で使うと画面に表示されている文字などが読みやすく、写真やイラストの色味も自然に感じる。

True ToneをオンにしたiPad mini(第5世代、左)のほうが、色味が自然に見える。iPad mini 4(右)はやや青みがかっている。明るさはどちらも最大
True Toneをオフにすると、iPad mini(第5世代、左)の画面も多少青みがかるが、iPad mini 4(右)よりは白っぽい
文章が主体の電子書籍では、iPad mini(第5世代、左)のほうが目が疲れない印象。コンテンツはKindle版の武田綾乃「青い春を数えて」(講談社)を表示している

iPad mini(第5世代)とサイズが似ている、Amazonタブレット「Fire HD 8」(2017年モデル)を並べて電子書籍の表示を比較してみた。明るさはどちらも最大まで上げているが、Fire HD 8のほうが若干暗く、そして青っぽい。屋内ではFire HD 8の明るさでも十分だが、日中の明るい電車などではちょっと読みづらく感じることもあるので、やはり見やすさはiPad mini(第5世代)に軍配が上がる。

動画再生時の画面にもTrue Toneは適用されるようだが、動画ではそれほど効果は感じられなかった。iPad mini 4と比べると若干色味が自然になったように感じられるが、これはディスプレイが広色域「P3」をサポートしたことによるものかもしれない。

写真を編集する時などはディスプレイの色味が自動で変わってしまうと色の基準が変わって調整しづらいので困るが、そういう場合は設定でTrue Toneをオフにできる。

なお、iPad mini(第5世代)の内蔵スピーカーは、縦向きに持ったときの下側の側面に2基搭載しており、iPad mini 4から変わっていない。動画を見るために横向きにすると右または左に寄ってステレオ感が失われてしまうので、音楽コンテンツなど、ステレオ感を大事にしたい場合には適さない。この場合は、ステレオミニジャックに手持ちの有線イヤフォンやヘッドフォンを繋いだほうが良いだろう。また、iOS機器とLightning接続できるUSB DAC/ポータブルアンプ「FiiO Q1 Mark II」をiPad mini(第5世代)に繋いで、Spotifyの音楽やNetflixの動画音声を高音質に聴くこともできた。

iPad mini(第5世代、上)のスピーカーの位置は、iPad mini 4(中)と同じ。ベゼル周囲のダイヤモンドカット仕上げが、第5世代ではマットな仕上がりになったのが分かる。一番下は実家で現役の初代iPad miniで、若干本体に厚みがある

Apple Pencil(第1世代)に対応しており、iPad mini(第5世代)で手書きメモが取れる。コンパクトな紙の手帳とペンのように使えることを期待していたものの、ペン先が若干ツルツル滑り、書き心地は期待よりも今ひとつと感じた。これは慣れの問題かもしれない。

ただ、フルラミネーションディスプレイが改良されたこともあってペン先と描画位置との間のギャップは少なく、傾きと圧力の両方を感知するので線の太さなど書き味(描画)に違和感はない。その昔、サードパーティのタブレット用ペンで手書きのメモをしていた頃とは段違いで、ちゃんと“ペンで書いている”感じがする。

Apple Pencil(第1世代)で手書きのメモをとったり、お絵かきできる

アップルによると、Apple PencilとA12 Bionicプロセッサのパワーを活用したアプリがいくつかあるということで、そのひとつである「Komp Create」を試してみた。これは楽譜制作アプリなのだが、A12 Bionicプロセッサに統合されたNeural Engineと機械学習フレームワークを使って手書きの音符を認識し、綺麗な楽譜が誰でも簡単に作れるのが特徴だ。

Komp Createの五線譜の上に、Apple Pencilを使って手書きで音符(のつもりの線)を引くと、すぐに綺麗な八分音符として描画された。人間のやりたいことを機械がアシストしてくれるというのは、頭では理解できているつもりでも、実際に体験すると結構新鮮な感覚だ。

手書きの汚い音符(のつもりの線)が……
画面上で綺麗な八分音符として描画された

Apple Pencil(第1世代)には、Lightning端子とLightningケーブルを繋ぐアダプタがセットになっている。Lightningケーブルが2本あれば、Apple PencilをiPad miniに直差しして充電する不格好さは解消できる。

iPad mini(第5世代)とApple Pencil(第1世代)を2本のLightningケーブルで同時に充電

背面カメラの画質UP。RAW現像もお手のもの

背面のメインカメラは、iPhoneやiPad Proのようなでっぱりはなく、デザインとしてスッキリしている。8メガピクセルの裏面照射センサーと、開放F2.4で5枚構成のレンズという仕様はiPad mini 4と変わらないが、A12 Bionicの画像処理能力を活用しているためか、出てくる写真の画質はかなり良い。

上からiPad mini(第5世代)、iPad mini 4、初代iPad mini。同じiPad miniでも世代によってカメラや周囲のボタン配置のレイアウトが違い、その変遷がわかる

標準のカメラアプリでiPad mini 4と撮り比べてみると、絵作りの傾向がだいぶ違うのがよく分かる。iPad mini(第5世代)で撮れる写真は、ひと言で言うと「彩度が高く見栄えのする色とクッキリした描写」が特徴だ。

下の作例写真は、どれも位置を変えずに、画面上で同じ場所をタップして明るさとピントをできるだけ合わせ、シャッターを切っただけ。HDRモードは自動だが、どちらも写真アプリでは「HDR」とは表示されないので機能オフで撮られたと考えて良いだろう。

左がiPad mini(第5世代)、右がiPad mini 4の写真

よく見ていくと、写真の絵作りがだいぶ違うのがわかる。iPad mini(第5世代)の写真は、特にカメラアプリで何も設定しなくても、デフォルトで彩度やシャープネスを上げる画像処理を施しているように見える。

上の写真の中央を拡大したところ。iPad mini(第5世代)の写真(左)は、デフォルトで画像処理を施しているように見える

動画撮影時の画質もかなり向上しており、カメラアプリを動画モードで待機状態にしただけでiPad mini 4とは違うことがすぐ分かる。室内などの暗所では、iPad mini 4のカメラはかなり盛大なノイズが出るのだが、iPad mini(第5世代)ではそれが出ないのだ。明暗の差が極端なシチュエーションでも、iPad mini(第5世代)は白飛びを上手く抑えている。

標準のカメラアプリで、動画撮影開始前の画面をスクリーンショットしたもの。iPad mini(第5世代、左)に比べてiPad mini 4(右)は、この状態から既にザラザラしたノイズが全体的に目立つ。右上の反射光も白飛びしている

続いて屋外で、筆者の手持ちのiPhone 7とiPad mini(第5世代)で外で撮り比べてみたのが以下の写真だ。

見頃を迎えた桜を入れつつ写真を撮ってみた。上がiPad mini(第5世代)、下がiPhone 7。iPhone 7のほうが若干広く撮れる

これらも立ち位置を変えずに、標準カメラアプリの画面上で同じ場所をタップし、明るさとピントをなるべく合わせてシャッターを切った。HDRモードはカメラ任せの自動に設定したが、写真アプリで「HDR」と表示されないので機能オフで撮られたようだ。

両機種は画角に違いがあり、iPhone 7のほうが若干広く撮れて、iPad mini(第5世代)はほんの少し画が狭い。その代わり、見た目に鮮やかな写真が撮れるのは、iPad mini(第5世代)のほう。これも、おそらくA12 Bionicプロセッサの絵作りの恩恵を受けているためだろう(iPhone 7のプロセッサはA10 Fusion)。

「iPadのカメラでそんなに写真を撮るか?」と考える向きもあるかもしれない。だが、iPad mini 4と比べてぐっと画が良くなり、十分に実用的になったので、例えばスマホまたはデジカメをメインに据え、iPad miniをサブカメラとして活用するといった風に使い分けるのは十分アリだろう。

A12 Bionicプロセッサのパワーを活かし、iPad mini(第5世代)で本格的な写真編集も行なえる。4月9日にリリースされたばかりの有料アプリ「Pixelmator Photo」(600円)と組み合わせることで、iPad miniが高度な写真編集機材に早変わりする。

RAW現像もできる画像編集アプリ「Pixelmator Photo」

たとえば、アップルの機械学習フレームワーク「Core ML 2」を活用した自動補正機能「ML Enhance」。プロの写真家による2,000万枚以上の画像調整を機械学習で学ばせており、そこから得られた明るさや色味の調整値をワンタップで写真に適用する。簡単な操作で写真に写り込んだ不要なものを除去する機能も搭載している。できることはPC用のPhotoshopに似ているが、相当の処理能力が必要なことをほんの数秒でこなしてくれる。

一眼レフカメラなどで撮ったRAWデータの現像もできる。画像調整は「非破壊型」で、元の画像データを残したまま行われるため、編集に失敗しても元に戻せる。

試用した限りでは、筆者の手持ちのコンパクト機「Cyber-shot RX100VI」で撮ったRAWデータ(ARW形式)が、iOS 12でサポートされているにもかかわらず、アプリで開けないという問題が起きた。いったん「Adobe DNG Converter 11.1」でDNG形式に変換すると無事に読み込んで編集できたが、リリースされたばかりのアプリなのでまだ細かい問題はあるようだ(機能名の日本語訳がおかしい、など)。

高機能な写真編集作業が直感的かつ手軽に行なえる良いアプリなので、今後の改善や機能強化に期待したい。競合となるAdobeの写真編集アプリ「Lightroom CC for iPad」は利用するためにAdobeのID登録が必要(一部機能は課金制)だが、Pixelmator Photoは買い切りで高度な機能が全て使える。この点も、Pixelmator Photoが気になる人にとっては後押しになるだろう。

機械学習を活かした画像編集が行なえ、動作も軽快

ゲームやARもサクサク。手放せない一台になりそう

3Dグラフィックスのゲームも安定して遊べる。筆者が暇つぶしで時々遊ぶ3Dシューティングゲーム「Smash Hit」は、未来都市のような不思議な空間を奥へと進みながら、鉄球を操作してガラス風の障害物を粉砕していくゲームだが、アプリの起動がとても速く、上手くステージをクリアして長く遊び続けても動作が重くなることがない。

従来の機種ではゲームをずっと遊んでいると動作が重くなってストレスがたまることがあったが、iPad mini(第5世代)でその心配は要らなさそうだ。先日アップルが発表した、ゲームのサブスクリプションサービス「Apple Arcade」も、これなら十分楽しめることだろう。

iOS 12で採用しているARプラットフォームの最新バージョン「ARKit 2」に対応したアプリも軽快に使えた。プラネタリウムアプリ「Night Sky」を起動してiPad miniを空にかざし、ARモードに切り替えると、カメラ越しの風景に星空や天体の3DCGが綺麗に重ねられて表示される。現実の風景に宇宙や太陽系の3Dグラフィックを重ねるといった遊び方もできる。もちろん、プラネタリウムアプリの基本機能として、日時を変更して時間を遡ったり、目当ての星を検索して見つけることもできた。

「Night Sky」のAR機能を使い、画面に写った自室に太陽系を模した3DCGを重ねてみたところ

新しいiPad miniは中身がかなり進化しており、使ってみて分かったのは、RAW現像を含む写真の編集機材として、また動画や電子書籍を楽しむメディアプレーヤーや、ポータブルゲーム機としても魅力的なタブレットに仕上がっているということだ。

一方で画面周りのベゼルやヘッドフォンジャックなど、個人的に変わって欲しくないところは従来のiPad mini 4からそのまま引き継いでいる。

この「進化」と「維持」を筆者は歓迎したい。そして、そこに新iPad miniの魅力があるとも思う。普段使いの中でスペックの進化ぶりがどれくらい実感できるのか気になっていたが、期待を上回る感触で個人的には好印象だ。コンパクトで高性能なタブレットを探している人には、新iPad miniをオススメしたい。

現行のiPadラインナップ。左端がiPad mini(第5世代)

庄司亮一