西田宗千佳のRandomTracking

第509回

コンパクトなボディに「最新仕様」満載、新iPad miniをチェック

「iPad mini」(左、パープル)と、同時発売の「第9世代iPad」(右、スペースグレイ)。8.3インチと10.2インチというディスプレイ以上にサイズの違いを感じる

9月24日から発売になる新しい「iPad mini」と、「第9世代iPad」の製品レビューをお届けする。

iPad mini(パープル)。試用したのはWi-Fi + Cellularモデル。
第9世代iPad(スペースグレイ)。こちらも試用したのはWi-Fi + Cellularモデル

もちろん世間的にはスマホである「iPhone 13」に注目が集まっているのだが、日本のファンにとっては待望のリニューアルでもあり、iPad miniに対する注目度も高い。

今回短期間ではあるが実機を使ってみると、「これは良いバランスの製品だ」と改めて感じた。このサイズのiPadを求めている人向けに、細かな部分をチェックしていこう。

このサイズで最新仕様の魅力

いきなりシンプルな結論ではあるのだが、「iPadはニーズによってサイズが決まるし、場面によって適切なサイズは変わる」という印象を新たにした。

iPad miniのサイズ感は、前モデルにあたる「第5世代」とあまり変わらない。重量に至っては若干軽くなっている。ただ、最大でも10g程度だから、「変わらず300g程度」と思ってかまわない。

アップルのホームページより。前の世代のiPad mini・新モデル・第9世代iPadを比較すと、ディスプレイのサイズ感がかなり違うのがわかりやすい

それで、ディスプレイが8.3インチと大きくなっているのは魅力だ。このサイズバランスは非常にしっくりくる。iPadのディスプレイは液晶としては総じて品質が良いが、今回のiPad miniもその点は変わらない。iPad Pro 12.9インチと違いミニLEDではないから黒の沈みこみはそこそこレベルだが、最廉価モデルなら6万円以下で買える製品としては十分な品質だ。

iPad miniのパッケージと内容物。同梱されるのはUSB-CケーブルとACアダプター
横向きに置いてみた。動画を見るならこんな感じで使うのが良さそうだ

見開きでコミックや雑誌を読むにはちょっと小さいが、1Pずつなら問題ないし、文字ものはもちろん快適だ。「片手で持ってコンテンツを楽しむ」ためにはいいサイズだ、と感じる。画面サイズ拡大の効果はとても高い。

今回、ディスプレイサイズ変更に伴ってディスプレイの縦横比も「4:3」に近い形から「3:2」に近いものに変わっているのだが、これはあまり気にならない。16:9くらいまで横長になったら体験はずいぶん変化するが、このくらいの差ならさほど気にならないものだ。この辺は、他のiPadでディスプレイが変わる時にも通った道なので、あまり気にしなくていい。

まるで「メモ帳」のようなペンとの一体感

今回のリニューアルにおける特徴の一つが、「対応するApple Pencilが第二世代になった」ことだ。

従来モデルや、同時発売になる「第9世代iPad」はLightning端子にペンを直接挿して充電する「第一世代Apple Pencil」だったので、ちょっと扱いづらい部分があった。

第二世代Apple Pencilはマグネットで本体の側面に取り付けることでペアリングと充電が行なえるようになっており、かなり使いやすくなっている。

本体右側面にマグネットが内蔵され、Apple Pencilをつけておき、充電する場所になった

サイズ的にも、iPad miniとの相性はとても良い。ピッタリと長さがあって、iPad ProやiPad Airよりも似合う。まるでペンのついたメモ帳のようだ。本格的に絵を描くだけでなく、移動先などでスケッチやアイデアメモを描くにはぴったりのサイズだ。

第二世代Apple Pencilと、別売のApple Pencilをつけた形で。メモ帳にも似た佇まいになる

iPad miniと同時に登場する「iPadOS 15」では、手書き文字入力機能「スクリブル」が日本語に対応した。だから「絵は描かない」という人にも使い道が広がっている。

ただ、ちょっと気になった点もある。

Apple Pencilをつけるために本体右側面が利用されるので、音量ボタンと電源ボタンが「上」にあることだ。電源が上に来るように(すなわち縦に)持つと、音量は一番上まで手を伸ばさないと変えられない。さらに、音量ボタンは「横」に並んでいるので、直感的にどちらを押せば音量が上がるのかが、ちょっとわかりにくい。

上部。Touch ID入りの電源ボタン(左)があり、右側にはボリュームボタンがある。縦で使うときは「右側」がボリュームアップだ

OS側で配慮がされていて、「どう持っても、ボタンは上か右がボリュームアップ」になるようにはなっている。だから慣れればいい、という話ではあるのだが。

ただ、ボタンが1つの辺に集まってしまった関係で、スクリーンショットを撮るために「左側のボタンと電源ボタンを同時に押す」のは、他の機種よりもやりづらい。

カメラは意外にも「第9世代iPad」が健闘、センターフレームは標準機能に

AV的な部分として、カメラの性能にも触れておこう。タブレットのカメラにはスマホほどこだわらない……という人も多いが、撮影して大画面ですぐ見られるのは楽しいし、仕事のメモなどでは重宝する。筆者も「一般的なノートPCよりiPadが有利な点はなにか」と問われれば、やはりまずカメラの存在を挙げるほどだ。

iPadのカメラはこれまでも性能が悪くなかったが、iPad miniや第9世代iPadもそうだった。

以下の撮影サンプルをご覧いただきたい。iPad miniや第9世代iPadに加え、比較のために、「iPhone 12 Pro Max」「iPad Pro(12.9インチ、2021年モデル)」でも撮影している。iPhone 12 Pro MaxとiPad Proには超広角のカメラが搭載されているが、今回はどれも「広角」で撮影している。

iPad mini
第9世代iPad
iPhone 12 Pro Max
iPad Pro(12.9インチ、2021年モデル)
iPad mini
第9世代iPad
iPhone 12 Pro Max
iPad Pro(12.9インチ、2021年モデル)
東京・五反田で撮影。発色などは意外にもiPadが一番iPhone 12 Pro Maxのものに似て良好。iPad mini/iPad Proは少し淡い

なお、全ての写真のHEIF形式データは以下からダウンロードしてほしい。

撮影サンプル元データ:HEIC.zip(19.53MB)

やはり発色やディテール感ともに、iPhoneが最も良い。意外なことに、iPadの中で発色が一番好ましかったのは、より安価な第9世代iPadだった。iPad ProとiPad miniは色が淡い、というか少し暖色に寄っている。両者はほぼ同じ印象だ。

解像度で言えば、iPad miniとiPad Proは12メガピクセル、iPadは8メガビクセルという違いがあり、前者2機種の方が上ではあるのだが、画面上で見る範囲であれば、その差は差ほど感じない。ここは意外な結果、ともいえる。

なお、カメラという点で言えば、iPad mini・iPadともに、インカメラが超広角化して「センターフレーム」に対応したことは大きい。

第9世代iPad・iPad miniともに「センターフレーム」に対応

これはiPad Proから導入された機能で、ビデオ会議などの際、自動的に「話している人を中央に表示する」もの。Zoomなどのサードパーティーアプリでも使える。

iPadはどれもそうだが、横に置いた場合にカメラが「左側」か「右側」に来る。そのため、ビデオ通話のためにiPadの正面に座ると、自分が右か左に寄ってしまうのだ。センターフレームがあればこれをカバーできる。話者が立ち上がったり、別の人が入ってきて複数話者になったりしても追従してくれるなかなかの優れものだ。

iPad・iPad miniどちらの機能も、性能・画質とも、iPad Proのものと変わりなく、「今後はこの機能がiPadの標準装備になるのだな」という印象を受けた。

性能は2020年のiPad Proに匹敵

パフォーマンスはどうだろうか?

iPad miniはプロセッサーにiPhone 13 Proと同じ「A15 Bionic」が採用した。A15 Bionicには、iPhone 13で使われている「GPUが4コア」のものと、Proで使われている「GPUが5コア」のものがあるが、iPad miniが使うのは後者だ。

ただし、動作クロックやメインメモリーの搭載量をアップルは公開していないので、iPad miniとiPhone 13 Proが「まったく同じ性能」とは限らない。どうやらminiのものは、クロック周波数が低く、メインメモリー搭載量も少ない(iPhone 13 Proは6GB、iPad miniは4GB)ようだ。

とはいえ、スピードは申し分ない。

ベンチマークソフト「Geekbenck 5」で比較したところ、性能的には、CPU・GPU両面で「2020年モデルの11インチiPad Pro」に匹敵することがわかった。メモリー搭載量などは違うので処理の快適さが全く同じ、とは言えないが、十分な性能であることに違いはない。「A12Z」を使っていた2020年モデルのiPad Proも、ビデオ編集やゲームでは相当に快適だった。一般的なビジネスノートPCよりは快適、と言っていい性能だと思っている。

Geekbench 5を使った、iPad miniのベンチーマーク。CPUの「マルチコア」性能、GPUを中心とした「コンピュート」性能ともに、2020年発売の「iPad Pro(11インチ)」に近い

今回、それが300gの重さの中に入ってしまったのだから、インパクトは大きい。まあ、トップ性能のiPhone 13 Proに多少劣る程度だろうと考えると、そもそも「iPhoneの性能がすごい」ということではあるのだが。

どちらにしろ、「コンパクトな撮影機材」としても使える性能だ。ストレージが最大256GB、という点が気になるが、「移動中に必要なだけのストレージ」「USB-Cで外部接続も可能」と考えれば、価格・サイズとのトレードオフと言える。

iPad miniはインターフェースがUSB Type-Cになったので、外部ストレージを使ったデータのやりとりや、ディスプレイの接続が楽になった

第9世代iPadも決して遅くはないが、やはりiPad miniに比べると差は大きい。また、M1を搭載したiPad Proはさらに圧倒的に高性能なので、「価格の差は明確にある」と考えるべきだろう。

第9世代iPadの値。iPhone 12 Pro Maxに近い値といえるが、iPad miniに比べるとかなりの速度差がある
M1を使ったiPad Pro(12.9インチ)の値。高いだけあって速度さは圧倒的で、A15 Bionicを使ったiPad miniもかなわない

5Gも高速! コンパクトで安価、というバランスが美点

ペンが使えてこのサイズ感だと「ライバルはGalaxy Fold 3 5Gのような二つ折りスマホか」という印象にもなる。ただ、使ってみるとそれもちょっと違う気がしてきた。

というのは、そもそも価格がだいぶ違う。

スマホでもあるGalaxy Fold 3は23万円近い価格(本体価格。携帯電話事業者の残価設定販売などで買うなら負担額は15万円程度になる)だが、iPad miniはWi-Fi + Cellularモデルでも8万円弱。別にスマホを持ち歩くとしても同額以下になる。

「1つにまとめたい」「折りたたむという形に惹かれる」などの要素が重要ならGalaxy Fold 3を、そうでないならiPad miniの方が、ということになるのではないか。

一方で、5G対応になったので、Wi-Fi + Cellularモデルの価値は上がっている。4G搭載で同時発売の「第9世代iPad」や、iPhone 12 Pro Maxと比較してみたが、やはり5Gの効果は大きい。

5Gの通信環境の良い、東京・JR五反田駅でテストをした結果、iPad miniとiPhone 12 Pro Maxはどちらも下りで280Mbps以上で通信できた。一方、4Gの第9世代iPadは40Mbps台。4Gとしては悪くない値なのだが、5Gで安定的に通信ができれば、やはりかなりの速度差になる。これなら4Kクラスの動画をやり取りしても怖くない。

iPad mini・iPad(4G)・iPhone 12 Pro Maxでの通信速度。5GのiPad miniとiPhone 12は下りで285Mbpsとかなりの値が出ている。4GのiPadは下りで44Mbps。4Gとしてはけっして遅いわけではないが……

iPad miniそのものでコンテンツを楽しんだり、編集したりしてもいいが、容量の大きなバッテリーを搭載している機器でもあるので、5G対応のモバイルWi-Fiルーター代わりに使う、という選択肢もあるだろう。そうすれば、スマホでテザリングする必要はなくなり、貴重なスマホ側のバッテリー消費を抑えられる。もちろん、iPad miniの分の通信費は余分にかかることになるが。

どちらにしろ、「高速な通信」「高速な処理性能」「高精度なペン」が揃ってコンパクトなタブレットがこの価格で買える、というのはお得であることに変わりはない。結局、最初に感じた印象通りなのだが、このサイズ感を魅力だと思うなら、今回のリニューアル・モデルは満足度の高い製品になっている、と言っていいだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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