西田宗千佳のRandomTracking

第429回

新しいiPad miniとAirPods、見た目は同じでも使うと中身は全く違った

今春のアップルの新製品の中で注目株の新「iPad mini」と新「AirPods」。すでにどちらも出荷を開始しているが、かなり好評で在庫がなく、入手まで時間がかかるという店舗も多いようだ。

新iPad mini

アップルからこれらの製品を借りることができたのでチェックしてみた。2つの新型は、これまでの製品とどう違うのだろうか? 今春のアップルのハードウエアは、どうも「見た目同じで中身は一新」がキーワードであるようだ。価格は、新iPad miniが4万5,800円から、新AirPodsとWireless Charger Caseのセットは2万2,800円。

新AirPodsとWireless Charger Case

まさかのiPad mini復活、サイズと価格でラインナップを細分化

まず新iPad miniからいこう。

iPad miniは、なにより「このサイズである」ことに魅力を感じ、待っていた人が多い製品ではないだろうか。前モデルである「iPad mini4」の発売から3年半が経過しており、「もう後継機種は出ないんじゃないか」と思っていた人も多いのではないだろうか。ぶっちゃけ、筆者も「もう出ないのだろうな」と思っていた。

それがなぜいきなり出ることになったのか、予想はできるが、それが正しいという確証はない。とりあえず「アップルはiPadについて、細かくニーズを満たしていくことにした」ということなのだろう。

今回は、iPad miniだけでなく「iPad Air」もリニューアルされた。昨年発売された「iPad(第6世代)」もラインナップに残っているので、7.8インチ、9.7インチ、10.5インチ、11インチ、12.9インチと、妙に細かいサイズ区分になった。

iPadのラインナップを並べてみた。左から、iPad mini、iPad(第6世代)、iPad Air(2019年モデル)、iPad Pro 11インチモデル、同12.9インチモデル

ただこれは、9.7インチ(第6世代iPad)とiPad Air(10.5インチ)、iPad Pro(11インチ)が、それぞれ最廉価モデルで3万7,800円、5万4,800円、8万9,800円となっており、サイズというよりも価格で細分化した結果ではある。そこに、ひときわサイズの小さなiPad miniが付け加わった、と思えばいいだろう。

正直発表だけを見ていると「どれがどれやら」と困惑したのだが、価格とサイズ、機能で分けて見るとそこまで難解でもなかった。とはいえ、ディスプレイサイズやボディサイズが微妙にバラバラなのは「調達の事情」が透けて見えて、あんまり気持ちいい状態ではない。

コンパクトサイズに「最高級の性能」を搭載したお買い得モデル

それはともかくだ。

今回手元にあるのは「iPad mini」だ。今回使ったのは、スペースグレイ・ストレージ256GB・Wi-Fi+Cellularのモデル。いわゆる「全部のせ」だ。

新iPad mini。デザインそのものは過去のモデルと大きく変わっていない

筆者はずっと最上位のiPad Proを使い続けている。一時期12.9インチを使っていたが、今は11インチだ。その前も、iPad Airの時代は9.7インチモデルがメインだったので、miniサイズは久々になる。

触ってみると、「ああ、こういうサイズ感だったな」というのが蘇ってくる。シンプルに「このサイズでフル機能のiPadである」ことがiPad miniの美点であり、そこは今回も変わっていない。それどころが強化されている。

今回のiPad miniは、スペックが、同時に発表された「iPad Air(2019年モデル)」とほぼ同じになっている。搭載されているプロセッサーは「A12 Bionic」。iPad Proの「A12X Bionic」に比べ、CPUコア数やメモリー搭載量が異なるものの、アップルの最新SoCであることに変わりはない。実際、「GeekBench 4」でベンチマークを計ってみると、コアは6コア・メモリーは3GB・ベースクロックは2.49GHzと、iPhone XRで採用されているものと同等と考えて良さそうだ。

iPad miniのGeekBench 4によるベンチマーク結果。コアは6コア、メインメモリーは3GB
参考までにiPad Pro(11インチ/256GBモデル)の値。速度はやはりかなり違うが、CPUコアが8つであること、メモリーが4GBであることなどが影響していそうだ

すなわち、iPhone XRのために量産したSoCが、結果的に新iPad miniやiPad Airを生み出したのでは……という予測もできるわけだ。

ただ消費者としては、それはどうでもいいことかも知れない。なにより、「あのiPad miniが、そのままのサイズでスピードアップして、Apple Pencilにも対応して帰ってきた」だけで価値がある、というものだ。

AV的な観点でいえば、ディスプレイがP3準拠になって色域が旧機種(SRGB準拠)から広がったこと、輝度が最大500nitsになったことがプラスだ。iPad Pro(11インチ)と比較してみても、明確な違いは輝度(Proは最大600nits)くらいのもので、かなり発色傾向は近い。外界の明かりの色に合わせてディスプレイ色を調整する「True Tone」も搭載された。輝度をのぞけば、ほぼ不満のないディスプレイが搭載されている。

同じ写真で、iPad Pro 11インチ(右)とiPad mini(左)のディスプレイを比較。輝度こそ劣るが、発色などはほぼ似た傾向で、十分に美しい
ウェブを表示。表示はどちらも十分美しいが、さすがにサイズはかなり異なる

これまでiPad miniは、SoCなどの仕様では、上位モデルよりも一歩劣る「安価モデル」という位置付けだった。ディスプレイも同様だ。だが、今回はSoCの性能的にも、LTEモジュールの性能的にも、iPad Proには劣るものの、一番下のランクではない。「小さいがパワフル」な製品になって戻ってきたのだ。これなら、あと、2、3年は使えるだろう。iPad Air(2019年モデル)との違いは、スマートコネクターの有無くらいだろうか。これは、mini用のスマートキーボードを用意するのがサイズ的にも難しい(小さいPCが好きな人にはOKなサイズだが、世の中一般的には小さすぎる)ことを考えると、順当な判断でもある。

iPadが最廉価モデルをのぞいて「A12」世代になり、全モデルApple Pencil対応になったことは、アプリが生まれるための「ベースライン」を変えるだろう。A12世代が搭載している機械学習用のNeural Engineは、どのSoCでも同じである。「その性能がある」「ペンが使える」ことを前提にアプリを作りやすくなるのは、アプリの新陳代謝を高める上では効果的な変化といえる。

過去とまったく同じデザインに最新の性能を詰め込んだように見えるが、実際には、ボディデザインに若干の変化がある。音量ボタンの位置が少しずれ、セルラー機能のためのアンテナも過去とはデザインが異なる。そのため、過去のiPad mini用ケースは流用できないので注意が必要だ。

本体裏側。セルラーモデルのアンテナ部分のデザインが、過去のiPad miniのものとは変更になっている

これだけの性能とディスプレイを備えているなら、写真や動画の確認用としても使いたくなる。サイズ的にも、11インチiPad Proではなくこちらを……という人もいそうだ。だが、インターフェイスを含めたボディデザインが刷新されていないため、カメラ連携がしにくいのが欠点ともいえる。

逆にいえば、「過去のiPhone・iPadのケーブルなどを使い回せる(=追加投資はしたくない)」「使い慣れたiPad miniを今のスペックにリニューアルしたい」人にとっては、iPad Proのデザイン・インターフェイスに寄せられると困惑する部分もあるかもしれない。

そういう、ある意味で「安定した使い道」に向いた製品といえそうだ。

AirPodsもリニューアル、活用にはOSアップデートも

次は「AirPods」だ。

筆者は初代モデルから使っているが、ワイヤレスヘッドフォンのベストセラーモデルであり、傑作だと思っている。

もちろん、最高音質のヘッドフォンではないし、耳への安定度など、不満点もある。だが、発売から2年半が経過した今でも、他社の新製品と十分比肩しうる機能を備えている。そのことは製品シェアが証明している、といってもいい。

そのAirPodsがリニューアルした。今回テストしたのは、Qiによるワイヤレス充電に対応したケースをセットにした「AirPods with Wireless Charging Case」(2万2,800円)だ。ワイヤレス充電に対応しないモデルは1万7,800円で販売されており、初代AirPods向けに、Wireless Charging Caseも8,800円で販売されている。

初代モデルと新モデルは、デザイン・サイズともにほぼ同じだ。一緒においておくと、どちらがどちらなのかわからなくなるくらいだ。一応OS側で区別することはできるのだが、両方持っている方は“混ざってしまう”ことには注意したい。

ワイヤレス充電に対応したケースに入れていると、LEDの違いで区別はつく
ケース裏側。ペアリング用ボタンの位置を含め、デザインはほぼ同じ。ヒンジ部分の光沢処理が多少異なる
AirPods本体。左が新型、右は初代モデルなのだが、もはやまったく見分けがつかない

ただし、Wireless Charging Caseは、充電用のLEDが「ケースの中」から「ケースの外」に移動している。また、本体裏のヒンジ部の仕上げがちょっと変わっているので、そこでも区別はつく。

初代AirPodsの充電管理用LEDは、ケースの内側にあった

なぜLEDが外に出たかというと、ケースそのものを充電する時に目安とするためだ。Wireless Charging Caseは、AirPodsをつけている時、Qi対応の充電マットに置くことで充電ができる。その時、LEDは外にあった方がいい。

Wireless Charging Caseの充電管理LEDは外にある

まあ、Lightningで充電する時もLEDは「外の方がいい」と思うのだが、ワイヤレスでない充電ケースは設計が変更されなかったのだろう。Wireless Charging CaseはLightningでも充電できる。「わかりやすさ」という意味でも、ワイヤレス充電しない人もWireless Charging Caseを選ぶ、という選択肢はアリだと思う。(そこに5,000円かと言われると、うん、ちょっと高い……とは思う)。

AirPodsの設定は相変わらず簡単だ。iPhoneやiPadなどに近づけるだけでいい……と書きたいところなのだが、新AirPodsでは1点変更がある。

まず、iOSを「12.2」以上にアップデートしないといけないのだ。iOS 12.2は、3月25日のアップルのプレスイベント後に公開されたバージョンで、AirPods向けにもちょっとしたアップデートが行なわれている。実のところ、Bluetoothヘッドフォンとしてならば、iOSのアップデートをする必要はないし、ケースの裏のボタンでペアリングすれば、アップル製品以外でも使える。とはいえ、機能をフルに活かしたいので、この記事では「iOS 12.2」にアップデートした上で使っている。

新AirPodsの設定前に、iOSが12.2になってないとこのような警告が

iOSのアップデートさえすれば、セットアッププロセスは以前と同じである。ちなみに、新旧AirPodsを同じデバイスに登録すると、後から追加した方には「#2」と番号がつく。名前の変更はいくらでもできるのだが、本記事内のスクリーンショットでは分かりやすさを優先し、「#2」とついていたら新AirPodsを指す、とお考えいただきたい。

なお、iOS 12.2になると、AirPodsの認識には若干の変化が現れる。右と左、それぞれのAirPodsのバッテリー容量がバラバラに表示され、「右か左か」もわかるようになる。これは、初代・新型ともに同じ変化である。

iOS 12.2ではAirPodsの認識表示が変わり、左右それぞれが分かる。なお、同じシステムに複数のAirPodsを認識させると、図のように「#2」と数字が表示

音質は大幅向上、遅延なども明確に変化

では使ってみよう。デザインが変わっていないので、耳への収まりなどに変化はない。仕上げもツルツルなままなので、耳の形によっては「収まりが悪く、落ちやすい」と感じる人もいるだろう。まず、その点に留意が必要だ。

デザインが変わっていないので使い勝手も変わっていないのかというと、これがかなり違う。

まず違うのは音質だ。ダイナミックレンジの広がりが大きく改善されており、高音部の再現性も良くなっている。初代AirPodsは、他の高音質をウリにするヘッドフォンと比べると、音の広がり感に欠けるところがあり、高音の伸びも悪かった。それが新AirPodsではかなり改善された。ハイハットや高音ボーカルのキレが良くなり、左右の音の広がりも良くなった。AirPodsではダイナミックレンジ不足を補うためか、音量を大きめにして聴くことが多かったのだが、新AirPodsでは、初代モデルに比べ、ちょっと音量を下げても同等以上の満足感を得られる。音が大きくなったのではなく、量感が豊かになって聴きやすくなったからだ。

レイテンシーも改善している。これは主にゲーム向けだ。音楽ゲーム「Cytus II」で試してみたが、確かに新AirPodsではより遅延が減っている。初代AirPodsと比べてみると、初代AirPodsは確かに「遅れている」。

アップルによれば、新AirPodsと初代モデルの間で、音声コーデックなどに「変化はない」とされている。とすれば、新AirPodsが採用している新しいワイヤレスチップである「H1」の能力で、改善が実現されているのだろう。

Bluetoothヘッドフォンと音ゲーの相性の悪さは有名で、新AirPodsでも「まったく遅延がない」とまでは言えないと思う。数字で示すのが難しいのがもどかしいが、初代に比べるとかなり思った通りにプレイできるようになった。コーデックやスマホOSが異なることから、まったく同じ環境で、他の「低遅延」を謳うBluetoothヘッドフォンと比べるのが難しいのだが、少なくともAirPods同士の比較ならば、改善は体感できるレベルになっている。

同じく、H1の導入によって改善しているのが「機器の切り換え」の速度だ。

AirPodsは、Bluetoothヘッドフォンの中でも、機器切り換えがとても容易なことが魅力だった。一般的なBluetoothヘッドフォンの場合、ある機器と接続した後に他の機器につなぐ(例えばスマホからタブレットへ切り換える)場合、先に使っていた側のBluetooth接続を「切る」操作をし、改めて次の機器で「接続」する必要があった。だが、AirPods(正確には、AirPodsが導入したW1を採用しているBeats製品も同様)では、使う機器の側で「接続」すれば、前の機器との接続を勝手に切ってくれるようになっている。そのため、操作が簡便で、複数の機器をまたいで使う時に便利だった。

ただ、初代AirPodsでは、この切り換えにだいたい10秒から15秒かかっていた。今回実測してみると、平均11秒弱、というところだった。それが新AirPodsでは5~6秒にまで短縮している。アップルは「デバイスへの接続が2倍高速になった」としているが、確かにその通りの値になっている。

AirPodsから音を出すには、音声出力先を切り換える。新AirPodsでは切り換え速度が従来に比べ半分まで短くなった

また、今回のAirPodsでは、Siriを呼び出す際に、AirPodsのタップが不要になった。「Hey Siri」と呼びかけると、コマンドワードを認識してSiriが起動する。「声を出さねばならない」という制約はあるが、それができる環境であれば、タップより自然であるのは事実。他の機器もすべて今はコマンドワードを待ち受けてSiriが動作するようになっているので、AirPodsもそうなるのが望ましい。

結論からいえば、新AirPodsは、初代モデルに比べ「見た目は同じだが中身は一新」といっていい進化を遂げている。旧モデルの中古などがそろそろ安く販売されはじめる時期かと思うが、これだけの違いがあるなら、間違いなく新型をお勧めする。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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