レビュー

5万円以下で超本格重低音、Polk Audioサブウーファを試す。驚異“3台鳴らし”も

Polk Audioはサブウーファーもハイコスパ?

筆者の新AVアンプ、マランツ「AV 10」、「AMP 10」が家に届く前のある日、編集部から連絡があった。「サブウーファーに興味があるけど、使ったことがない読者に向けた記事をお願いしたい」もちろん快諾。

それならば、コスパに優れた製品が良い。ピュア用スピーカーでハイコスパが人気のPolk Audioはどうかな? と、サイトで調べたところ、約4万円~5万円の手頃な価格に3モデルもラインナップを発見。これはちょうどいい。サブウーファーをオススメするだけでなく、“サブウーファー複数遣い”激しく推している筆者だけに、手頃な価格の使いやすい製品は大歓迎だ。せっかくなので、3モデルすべてお借りして聴き比べると共に、“複数遣い”も試してみた。借りたモデルは以下の通り。

  • 「PSW 10」38,500円
  • 「Monitor XT10 (MXT10)」44,000円
  • 「Monitor XT12(MXT12)」49,500円

編集部からは搬入やセットアップのお手伝いを提案されたが、お手頃価格の“可愛らしい”サイズのサブウーファーだから、それほど大変ではないだろう。作業は自分ひとりで問題ないとして製品の到着を待った。

そして、マランツAV 10、AMP 10とともにサブウーファー3台が到着。

なんだこれは!? 狭い廊下がかなり大きなサイズの5つの箱で占拠されていた。たかだか4、5万円のサブウーファーがこんなに大きくて本格的なの!? ぜんぜん可愛くないよ。Polk Audioのコスパの良さを甘く見ていた。かくして、価格からは想像できない大きくて立派なサブウーファー3台を相手にした孤独な戦いが始まった。

Polk Audio恐るべし。一番安価なモデルでさえ、25cm口径の大口径ウーファー

箱の大きさでわかったはずだった。

これはかなり立派なサブウーファーだなあ、これが最上位モデルかしら? 価格を考えるとびっくりしちゃうな……と、箱から出して感心したモデルがもっとも安価なPSW 10だった。実売3万円台のエントリークラスのサブウーファーに25cmの大口径ウーファーを搭載したモデルはかつてはいくつかあるが、どれも発売から時間が立ったモデルばかり。ここ最近に発売されたモデルではほとんど見たことがない。

3モデルの概要をまとめて紹介してしまおう。エントリークラスといえる「PSW 10」は25cmウーファーを前面に搭載し、バスレフポートも前方に配置したタイプ。サイズは35.6×41.0×36.6cm(幅×奥行き×高さ)で重量は11.8kg。

PSW 10の外観。ユニットは前面の保護用カバーの中に配置。奥にあるイクリプスのTD725SWMK2とユニットは同口径

価格的には真ん中の「Monitor XT10 (MXT10)」は、Monitorシリーズ用のサブウーファーとしてラインアップされている。ウーファーは同じく25cm口径。ただしウーファー自体は底面に装着されていて、設置するとウーファーは見えない。バスレフポートも底面にある。30.2×42.1×40.0cm(幅×奥行き×高さ)とちょっとスリムな形状で重量は10.4kg。リビングルームなどでの使用を意識したモデルだろう。

Monitor XT10。ウーファーは底面にあり、レイアウトの自由度が高い。樹脂製だがしっかりとした脚部を備える

同じくMonitorシリーズの「Monitor XT12(MXT12)」は、30cmの大口径ウーファーを搭載。お客さん! 最近じゃほとんど見かけない30cmウーファーがPolk Audioなら5万円ですよ!! なんという出血サービス。ちなみにサイズは40.7×45.6×41.8cm(幅×奥行き×高さ)で重量17.7kg。こちらはウーファーは前面にあり、バスレフポートは背面にある。

Monitor XT12。30cm口径の大型ウーファーが迫力たっぷり

同価格帯のサブウーファーというと、一般的にはウーファーの口径は16cmや20cmがせいぜいで、サイズももっとコンパクトだ。これは使いやすさ、設置しやすさを意識したものなのだろう。

だが、この3モデルを見れば、“Polk Audioの考えるサブウーファーの低音”がよくわかる。大口径ウーファーできちんと容積を確保しなければ、しっかりとした低音は出ない。もっともシンプルでもっとも正しい考え方だ。

だからサイズは大きい。しっかりとした低音を出すことが大前提だから、小口径ユニットの使用は想定していないのだろう。もしも小さいサイズのサブウーファーが欲しいというニーズに応えるとすれば、小口径ダブルウーファーとか、専用に振動板や磁気回路を開発する必要があり、価格が高くなる。“良い音をリーズナブルな価格で提供すること”がPolk Audioのポリシーとするなら、サイズのことはあまり考えなかったのだろう。

日本の住宅事情からするとあまり優しくない考え方ではあるが、正直で真面目なメーカーだとわかる。これなら音の方も十分に信頼できそうだ。

サブウーファーとしての機能はほぼ共通で、80~160Hzで可変できるローパスフィルター、ボリューム調整、フェイズ切替(0度/180度)を備える。電源はオン/オフと入力信号に連動するオートもある。入力端子はRCA端子とスピーカー端子(左/右)の入出力(MXT10のみスピーカー端子はない)がある。サブウーファーとして必要な機能はきちんと備えている。

PSW 10を正面から見たところ。バスレフポートが前面にあるのがわかる。カラーは前面だけが明るめのグレー
PSW 10の背面。接続端子や電源ボタン、各種のスイッチ類がある

内蔵するアンプはPSW 10とMXT12がAB級動作で最大出力は100W(定格出力50W)、MXT10は出力は同じ最大出力100W(定格出力50W)で、D級動作となる。MXT12をほんの少し小さくしたのがPSW 10で、リビング向けに少しだけ形状をスリムにしたり、配置の自由度が高いダウンファイヤー型としたのがMXT10というわけで、ややタイプの異なるMXT10だけがD級動作のアンプを採用しているのもサイズや使い方に合わせた選択だと思われる。

MXT10の正面。本機だけ背の高い脚部となっているのは、ダウンファイヤー型のためだと思われる
MXT10を横から見たところ。奥行きが長くなってはいるのがわかる
MXT10の背面。こちらは入力端子がRCA端子のみとなる。ローパスフィルターや音量、電源(オン/オフ/オート)、フェイズ切替(0度/180度)を備える
MXT10の底面。ウーファー、バスレフポートともに底面に装着されている

エンクロージャーは、どのモデルも剛性が高く共振しにくいMDF材を採用。内部には補強も施しており大口径ウーファーの振動をしっかり支える作りとなっている。外観の処理こそ簡素だが、作りもしっかりとしている。

MXT12の前面。30cmウーファーを中央に備えた配置で顔付きも勇ましい
MXT12の背面。こちらは背面にバスレフポートがある。入力端子などの装備や機能は他とほぼ共通

どのモデルもなんとも立派なサブウーファーで、オーディオやAVにあまり詳しくない人だとその大きさに驚くかもしれない。サウンドバーにも別体のサブウーファーがセットになったモデルがあるが、それらと比べるとかなり大きい。こちらが異常なのではなく、サウンドバーが使いやすさを優先してサイズを小さくしているのだ。もちろん、出てくる低音は次元が違う。

イクリプスの「TD725SWMK2」を常設している試聴室だとそれほど大きく感じないし、筆者はまともなサブウーファーと言えばこのくらいのサイズだと認識しているが、そうは感じない人が多いと思う。あえて良くない言い方をするが、価格を頼りに手頃なサブウーファーを探してPolk Audioに出会った人は、買う前にサイズを確認しよう。もちろん、しっかりとした低音の出る本格的なサブウーファーを探していてPolk Audioに出会った人は、大ラッキーだ。

奥にあるイクリプスのTD725SWMK2とのサイズ感の比較。TD725SWMK2に比べれば可愛いサイズと言えるかも
手持ちのコンパクトなスピーカーの例として、B&Wの607を置いてみた。そのサイズがかなり大きめであることがわかる

各サブウーファーの実力をチェック:PSW 10

PSW 10

Polk Audioの3つのサブウーファーは、口径の異なるMXT12とPSW 10、ダウンファイヤー型のMXT10とタイプが違うので、それぞれの音を確かめてみることにする。AVアンプは導入したばかりのマランツAV10、AMP10だが、こちらの取材のためもあって、短期決戦で格闘しある程度満足できるセットアップを済ませてある。

基本的には、サブウーファー側のボリューム位置は正午の位置とし、フェイズは0度。ローパスフィルターは160Hz(LFE)。接続はRCA端子。後はAudysseyのセットアップで音量などを設定している。プレーヤーはパナソニック「DP-UB9000」、スピーカーはB&W「Matrix801 S3」を中心とした常設のスピーカーだ。

マランツAV10のAudysseyのセットアップ画面
各スピーカーのクロスオーバー周波数。トップフロントのみ「小」設定でクロスオーバーは80Hzとしている
サブウーファーの設定では肝心なLFE(Low Frequency Effect)の設定
サブウーファー出力は「LFE+メイン」を選択。LFEチャンネルの音に加えて、各スピーカーの低音も合わせて再生する設定。1個遣いでは「LFE」のみでもいいのだが、ふだん使っている設定としている。クロスオーバーの設定も同様
スピーカーレイアウトの設定。サブウーファーは1台としている

PSW 10のみの接続で「トップガン:マーヴェリック」の要所を見てチェックすると、冒頭シーンの「トップガン・アンセム」や「デンジャーゾーン」の音楽はベースやドラムのリズムも力強く、しっかりと鳴る。

ジェット戦闘機のエンジン音の吹き上がりや、空中戦でのミサイルの爆発など、映画の重低音となるとローエンドまで伸びているのはわかる。一方で、感触はタイトで、もう少し馬力が欲しくなる。超音速での空気のうなる感じや爆発の衝撃波で空気が震える感じまで求めるとやや力不足を感じる。

いよいよ試聴。まずはPSW 10を1個で再生

このあたりの評価がわりと厳しいのは、ふだん使っているイクリプスのTD725SWMK2(価格は50万円以上)の2台遣いと比較した印象をそのまま記したため。一般的な5.1chや5.1.2chのシステム構成ならば低音の量感やローエンドの力強さでも不満を感じるほどではないと思う。

「ボヘミアン・ラプソディ」のライブ・エイドの場面を見ると、ズドンと響くドラムもしっかりと出るし、ベースも芯のある力強さは出る。ホール全体を俯瞰するカットでの観客の声がスタジアムの空気を震わせるような感じはやや物足りないが、音楽再生の低音としては、低音の質感やローエンドの伸びも含めてかなり良く出来ているとわかる。

特筆したいのは、“サブウーファーは密閉型でバカみたいにパワーのあるアンプで駆動するタイプが至高”と考える筆者が真っ先に選択肢から外してしまいがちなバスレフ型にも関わらず、量感寄りのふくらんだ低音にならないし、ローエンドまでしっかりと伸び、出音の勢い、低音のレスポンスもなかなか優秀であること。

密閉型はもっとサイズが大きくなりがちだし、アンプのパワーも必要になるので、コストを考えてのバスレフ型の採用だと思うが、出てくる低音はかなりしっかりとしている。このあたりの上手さがPolk Audioがコスパの良さだけでなく、音の点でも満足度の高いものになっている理由だと思う。

各サブウーファーの実力をチェック:MXT10

MXT10

続いてはMXT10だ。セッティングとしてはPSW 10と同じで、前方の左側に設置。ボリューム位置は正午でフェイズは0度。Audysseyのセットアップをやり直して聴いている。

こちらは鳴り方としてはより量感が大きな鳴り方だ。ダウンファイヤー型のためもあるが、あえて映画的なリッチな低音に仕上げたとも感じた。「トップガン マーヴェリック」では、ジェット戦闘機のエンジン音の豪快な迫力がよく伝わる。ローエンドの伸びはPSW 10よりもわずかに足りないように感じるし、低音の芯というか最低域の力感が少し弱まる感じはある。しかし、ダークスターが離陸して将軍の頭の上を飛び去っていく場面のような低音の塊が頭上を移動していくときの低音の量感や迫力はよりよく伝わる。

「ボヘミアン・ラプソディ」でも、ドラムの力感や音の厚みはやや差を感じるが、スタジアム全体が観衆の熱気でわき上がる感じ、声にならない声がうねりとなって広がっていく感じはよく伝わる。フレディ・マーキュリーの歌に観衆たちも一緒になって歌っている様子は、スタジアムの一体感というか空気が震える様子もよく伝わる。量感が豊かなタイプで気になる低音の遅れについても、ドラムなどの音の立ち上がりやアタックのキレ味がやや甘くなる感じはあるが、それほど低音が遅れていると感じるほどではない。このへんもうまく仕上がっていると感じる。

PSW 10とMXT10の比較で言うならば、PSW 10は“音楽再生に向く低音”で、MXT10は“映画に向く低音”と言える。小型スピーカーと組み合わせた2.1ch再生などで使うならば、低音の伸びも優秀で低音の解像感も高いPSW 10が合っているし、5.1ch再生でアクション映画などを爆音で迫力たっぷりに楽しむならばMXT10が合うと思う。いずれも1台遣いの場合の感想だ。

各サブウーファーの実力をチェック:MXT12

MXT12

最後はMXT12。こちらも前方の左側に設置。設定などは同様で聴いた。ただし、バスレフポートが背面にあるため、真後ろにある常設のイクリプスTD725SWMK2と干渉しないよう、少し内側に寄せてパスレフポートの開口部が塞がれないようにしている。

こちらは立派な鳴り方で、音楽も映画も不満なしだ。音の傾向としてはPSW 10に近いタイトな低音なのだが、口径が大きくなっていることもあって量感も不満がない。「トップガン マーヴェリック」での音楽やジェット戦闘機のエンジン音も言うことなしで、大量のミサイルの猛攻をしのぐ場面でも、飛翔するミサイルの移動感や戦闘機のすぐ側での爆発と遠くでの爆発の音の質感の違いもできちんと描き分け、しかも迫力たっぷりに鳴る。

「ボヘミアン・ラプソディ」でも、スタジアム全体にうずまく観客の熱気、迫力たっぷりに鳴るドラムやベースが力強く響く。音を聴いてしまえば、これが5万円ほどで買える手頃なサブウーファーとは思えない。見た目通りの馬力と迫力が感じられるものだ。一般的な家庭環境ならばこれで十分と言えるレベルの質と量を兼ね備えた優れた低音だ。

上を見ればキリがないのは確かだが、これ以上の低音を求めると、近隣への影響が大きくなりすぎる。床の強化や防音などを施して、可能ならば専用の広いスペースを確保しないと低音の制御が難しくもなる。そのあたりを考えても、リーズナブルなコストで得られる最上級の低音と言ってもいい。本当にPolk Audioはそのあたりの見極めが上手い。

3台もサブウーファーがあるなら、複数遣いにも挑戦するのは当然

PSW 10で強く感じたが、PSW 10を2台、いや4台で鳴らしたら、量感の不足も補えるし価格も含めて理想的だろう。今のAVアンプは、ほとんどのモデルがサブウーファー用のプリアウトを2系統備えている。サブウーファーの低音の偏りをなくすためだ。サブウーファー2台だと1個あたりの負担が減るので歪みも減るし出音の反応も良くなるし、ローエンドも伸びる。これは、フロアー型のスピーカーが小口径のウーファーを2個にしているのと同じ理由だ。

そして、マランツとデノンのAVアンプでは、それをさらに推し進めてサブウーファー用のプリアウトが4系統ある。しかも、4台をパラレルで駆動するだけでなく、配置したサブウーファーごとにエリアを分けて、そのエリアにあるスピーカーの低音も担当することができる「指向性」モードも使用できる。こうすることで、従来は1箇所から出ていた低音が、各スピーカーにより近いサブウーファーから出るようになるので、低音まで含めて音の定位や空間再現が向上する。

せっかくサブウーファーが3台もあるのだから、これを試さない手はない。このためにPSW 10を2台借りようかとも思ったのだが、同じサブウーファー2台では、良い結果になるのが目に見えているのでやめることにした。むしろ、音の傾向がかなり違うMXT10と組み合わせた時のことをレポートする方が面白いし、参考になるだろう。

というわけで、PSW 10とMXT10の2台を左右に置いてサブウーファー2個遣いを試してみる。最初からサブウーファーを2台使おうと考えているならば、普通は同じサブウーファーを2台買うだろうし、それが推奨だ。理由はフロントの2本のスピーカーを同じものにするのと同じ理由。だが、後からサブウーファーを追加する場合、現有のサブウーファーが生産終了になっていたり、どうせならより上位のものを新規に導入したいこともあるだろう。さて、影響は大きいだろうか。

左側にPSW 10、右側にMXT10を配置し、サブウーファーの2個遣いに挑戦
スピーカーレイアウトでサブウーファー:2台を選択すると、モードとレイアウトの選択肢

スピーカーレイアウトの設定で、「モード:指向性」、「レイアウト:左右」を選択し、Audysseyの設定もやり直す。これで準備は完了だ。タイプが異なるので見た目も違う2台だが、音の方はどうだろうか。

「トップガン マーヴェリック」を見てみると、左右の空間のスケールが大きくなることがわかる。低音の偏りは1個遣いでもあまり気になるほどではなかったが、2個になると特に前方主体で展開する音楽のステージの見通しがよくなる。ダークスターの離陸シーンのような、左右対称の構図でど真ん中をダークスターが飛んでいくようなシーンでの音の広がりが左右でバランスが取れているとわかる。

低音の質という点でも、PSW 10で気になった量感として低音感の不足もまるで気にならないし、MXT10で気になったローエンドの伸びはPSW 10と同等かそれ以上に低いところまで伸びているのがわかる。体感的にはMXT12の低音のローエンドと同等に出ている。2個遣いのメリットがしっかりと出ていて、十分満足できる再現だ。

左右の低音の質感の違いについては、聴き慣れていくと、戦闘機やミサイルが左右の移動するような場面で、低音感の違いが気付くが、映画を通して見ているとあまり気にならないレベル。ただし、「ボヘミアン・ラプソディ」のライブシーンや音楽再生だと、中央のドラムの鳴り方で響きの余韻や低音の響きの広がり方で左右の質感が変わっていることに気付きやすい。左右が異なるのは問題ないと言いにくいが、それよりも2個遣いのメリットが上回ると感じた。

今度は同じ2個遣いで、「レイアウト:前後」を試す。デノンやマランツのサブウーファー2個遣いで、筆者がより推奨するのが「レイアウト:前後」だ。サブーファーの「指向性」モードは、基本的にはフロントやサラウンドなどのスピーカーが「小」設定となり、サブウーファーが不足する低音を担当させるとき、サブウーファーのレイアウトによって担当するフロントやサラウンドのスピーカーを分担するものだ。要するに、一般的なホームシアター環境でサラウンドスピーカーが小型スピーカーを使うのはよくあるが、後ろにあるサラウンドスピーカーの低音が前に置いたサブウーファーから鳴るという変な状況になる。これを解決する方法なのだ。

だから、前側が「大」設定の大型スピーカーで、後ろ側のサラウンドスピーカーが小型という場合、「レイアウト:前後」の方が得られるメリットが大きいとも言える。左右の偏りの問題は多少出ることもあるが、サブウーファーを置く位置である程度解消もできる。デノンやマランツのAVアンプユーザーがサブウーファー2個遣いに挑戦するときはぜひともサブウーファーの前後配置も試してみてほしい。

取材時のセッティングでは、左側に置いたPSW 10の位置はそのままで、右側にあったMXT10をそのまま右側の後方に置いている。前方左側のPSW 10は1個遣いでも極端に左右の偏りが気にならなかったため。後方右側のMXT10が壁際に置いているのは、以前に別の取材でサブウーファー4個遣いを試したときに、後方のサブウーファーは壁際にした方が部屋全体の空間の偏りの影響が抑えられたため。

サブウーファーを複数置いたときの低音の干渉は案外やっかいな問題で、テストトーンなどで60Hz以下の低音を鳴らしてみると部屋の位置によって低音が盛り上がったり、相殺されて低音がなくなってしまう場所が顕著に表れやすい。このあたりは置き場所の工夫である程度解決できる。部屋によっても低音の振る舞いは変わるので、いろいろと試してみてほしい。

なお、前側が左寄り、後ろ側が右寄りとしているのは、同じ低音が同時に出たときの左右のバランスの偏りをなくすため。左右のバランス的には部屋の中央が理想だが、定在波の影響をもろに受ける位置でもあるので、その影響を抑えるために右側、左側に寄せるのが基本的な考え方だ。

前側にあったMXT10を後ろの壁際にセットして、サブウーファー2遣いの「レイアウト:前後」に挑戦
スピーカーレイアウトの設定で、「レイアウト:前後」に切り替える

「トップガン マーヴェリック」を見てみると、今度は前後の空間がより広くなったと感じる。「レイアウト:左右」を試した後なので、低音が前側にサブウーファーがある左に偏る感じは少しあるが、ダークスターの離陸シーンのような構図でちょっと気になる程度。それよりも、低音の塊が後ろの方まで飛び越えていく感じはちょっと凄い。今までは低音だけは前側に置き去りだったわけだが、サブウーファーが後ろにあることでちゃんと低音ごと後ろに移動する。

この理由は、たいがい「小」設定されているはずのトップスピーカーの低音をトップフロントは前側のサブウーファーが、トップリアは後ろのサブウーファーが担当するため。この感じをホームシアターで体感している人は決して多くはないはずなので、これをやると誰でも驚く。空間描写の実体感が大幅に向上したと感じるはず。

サブウーファーの音質傾向の違いも左右ほどは気にならない。前方に比べると後方の音は感度が低い、あるいはあまり注目しないので、じっくりと聴いても「レイアウト:左右」ほどの違いは感じない。異なるサブウーファーを組み合わせる場合も「レイアウト:前後」はおすすめだ。

「ボヘミアン・ラプソディ」では、スタジアムの観衆の声援や熱気がさらに増す。まさしく、自分もスタジアムの観客席にいて、ステージのライブを見ているような臨場感になる。低音の総量としては変わっていないし、楽器の音の低音が鳴ることの多い前側はPSW 10のローエンドの伸びの良いタイトで解像感の高いものだから、演奏の力強さもよく伝わる。観客のざわめきやうなるような空気感を量感の多いMXT10で鳴らしているのも、臨場感が増した理由かも。前後のサブウーファーの選択はまったくの偶然。

空から飛来する謎の飛行物体との遭遇をホラー要素もたっぷりに描いた「NOPE」は、謎の飛行物体が現れたときに特徴的な音を発するが、これが重低音たっぷりで、頭上から威圧感のある音を感じるものになっている。ご想像の通り、まさしく頭上に重たい低音がのしかかってくる感じがある。「レイアウト:左右」だと頭上のはずの低音は画面にもひっぱられて映像における登場人物の頭上という感じになり、観客は高みの見物をしている雰囲気になってしまう。これが「レイアウト:前後」なら自分の頭に上に来る。このプレッシャーはなかなかに怖い。飛行物体が迫ってくるときに生じる竜巻が前から後ろに移動する感じ、竜巻に巻き込まれたときの周囲を風のうなりが周回している感じも前後の方が迫力がある。

これは、後ろからサブウーファーの低音が鳴る経験があまりないためにより印象的に感じることもあるだろう。サラウンドやサラウンドバックを小型スピーカーにするという定番的なレイアウトが、ただの使いやすさ重視のものだとよくわかる。後方のスピーカーを大型にするのは難しいが、サブウーファーを後ろにも置くことはがんばれば可能だ。多くの人にぜひとも試してみてほしいと心の底から願う。

サブウーファーは3個遣いは圧巻のパフォーマンス。これぞホームシアターの最先端

最後は当然、サブウーファー3個遣い。配置は前側左がPSW 10。前側右がMXT10。後ろ側右にMXT12を置いた。後ろ側は後方の中央にしてみたが、やはり低音の干渉で視聴位置の低音が抜けてしまったので、右側にした。背面にバスレフポートがあるので、壁際に寄せずに壁との距離を確保した位置にしている。

後ろに設置したMXT12。写真では壁際に置いているが、低音が膨らみ過ぎたので30cmほど前に移動している
スピーカーレイアウトの設定。サブウーファー3台の場合、レイアウトは選択できない

サブウーファーを3台とした場合、レイアウトは前側:左右 + 後方のみとなり、選択はできない。その意味でも、サブウーファー2個遣いがレイアウトの前後と左右と試せるなど、いろいろ遊べるのでおすすめだ。前側をPSW 10とMXT10、後ろ側をMXT12としたのは、2個遣いで感触を確かめていたことと、1個のみを置くことになる後ろ側を実力に優れるMXT12とすれば全体のバランスもよくなると考えたため。

今回の取材でたまたま思いついたものではあるが、部屋の配置などの理由で、後方には1台しか置けないという場合、後ろ側をより実力の高いモデルにする考え方は有効だと思う。理想は同一のスピーカーを複数使う方が良いのだが、このあたりもいろいろと工夫の余地がある。これを面倒と考えるか、面白いと考えるかはユーザー次第。

さて、実際に試聴してみると、映画の空間の広がりというか、実体感が大きく変わる。映像に映らない後ろの音でもきちんと実体として後ろにいる感じ、映画の映像は見える景色の一部を切り取っただけで、実際にはもっと広い空間が自分を包み込んでいるという感じがリアルに伝わる。だからIMAXのようなシーンによって画角の変わる映像設計も違和感なく受け入れられるのだろう。今の映画音響というか、立体的な空間の再現というサウンドデザインがよくわかる。

「トップガン マーヴェリック」で言えば、戦闘機が飛んでいるいるシーンを映した映像の迫力よりも、コクピット視点の臨場感が印象的だ。風防がビリビリと鳴っていたり、狭いコクピット内でエンジンの暗騒音がうずまいていたりする感じがよく伝わる。そしてパイロットの荒い息づかいが厚みのある音で聴こえてくると、自分の呼吸も乱れる感じがある。

「NOPE」は圧巻で、飛行物体が頭上から発するプレッシャーを音で体感できる。獣の鳴き声のような特徴的な音も、広い空間に響いている様子がよくわかる。なにより、飛行物体に捕まってしまった人の声が響いてくる感じにきちんと方向感があったことに驚く。サブウーファー1個遣いや2個遣いだと山のこだまのように所在なく悲鳴が響いている感じだったのだが、きちんと飛行物体の位置から鳴っていて、それが飛行物体と一緒に移動する。この空間感は凄い。

「ボヘミアン・ラプソディ」でも、スタジアムで津波のように後方から押し寄せる観客のウェーブに合わせて、歓声も後ろからステージへと迫っている微妙な音量感の違いがよくわかるようになる。前方のステージの演奏の音がPA用スピーカーでスタジアム全体に鳴り響いている感じも実にリアルだ。

低音だけでこんなに変わるものかと感じる人もいると思うが、変わると断言する。低音だけ、高音だけという話ではないが、映画にとって低音は重要だ。

可愛くないサイズだが、サブウーファーの複数遣いをしようと思う人はぜひ!

ステレオ再生用のシステムをベースにして映画も見たり、サラウンドスピーカーだけ追加した4.0ch再生でサラウンド用システムを組んでいる人は案外多いと思う。それも決して悪くはないが、やはりサブウーファーが加わるとその差は歴然。特に映画の音は暗騒音や空気感として低音をうまく利用しているので、映画の音らしさがグッと増す。

安価なサブウーファーのちゃちな低音を追加するなら、無しでいいと考えている人もいるだろう。Polk Audioのサブウーファーなら安価でもかなり本格的な低音を出す。サブウーファーの導入で迷っている人はぜひともPolk Audioに注目してほしい。

そして、価格が身近だから複数遣いに発展することも現実的になる。筆者自身もなるべく早く、試聴室のサブウーファー4個設置を実現したいと思っているが、多くの人にサブウーファーの複数遣いを試してほしいと思っている。サブウーファー4個ならば、小口径の可愛いサブウーファーでも求める低音は得られると思っていたが、こうして体験してしまうと、「やっぱりサブウーファーはある程度の大きさは必要だよ。大口径は正義だよ」と手の平を返したくなる。

しかも、25cmや30cmの大口径ウーファー採用のサブウーファー自体が高級モデルを別にすれば今では数も少なく、Polk Audioが低価格で3モデルもラインアップしているのも珍しいとわかる。サイズは大きく、設置では苦労する面もあるが、その苦労に見合った低音が得られることは間違いない。

Polk Audioがコストパフォーマンスに優れ、入門用として上等すぎる良い音のスピーカーをラインアップしていることは知っていたが、サブウーファーもまったく同じだとわかった。コストの制約を課しながらも、音の点ではまったく妥協のない正統派の音作りが、サブウーファーにも貫かれていると知った事が、一番の収穫だった。

良い音を安価で提供することがポリシーだとしても、彼らはきっと低価格であることを言い訳にはしないだろう。サブウーファー複数遣いを推している筆者としても、Polk Audioのサブウーファーなら価格的な問題を解決しつつ、質の高い音を得られる良品であると思う。スピーカーだけでなく、サブウーファーにもぜひ注目してほしい。

(協力:ディーアンドエムホールディングス)

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。