レビュー

サウンドバー買うならこれを買え! HDMI搭載で10万円を切る「ELAC DCB41」

ELAC DCB41

家庭用のデジタル入力付アクティブ(アンプ内蔵)スピーカーの売上げが順調に伸びているようだ。

ぼくはAV Watchでこれまで「AIRPULSE A80」や「Q Acoustics M20」、「JBL 4305P」などのデジタル入力付アクティブスピーカーのレビュー記事を書いてきたが、それぞれの製品の機能性の高さと予想を上回る高音質に驚かされたというのが正直なところで「そりゃ売れるでしょ」と思う次第。

エアパルス製品を取り扱っているオーディオ輸入商社のユキムによると、今年に入ってアクティブスピーカーの売上げがパッシブ・タイプを上回るようになってきたそうだ。

そしてこの春、そのユキムから「ELAC DCB41」(ペア94,600円)というデジタル入力付アクティブスピーカーが登場した。

ELAC DCB41

ELACとは

ドイツ北部キール市を本拠とするELACを一度取材で訪問したことがあるが、同社の創業は1926年と古く、第2次世界大戦前は潜水艦用ソナーを製造していたという。

戦後は平和産業のオーディオ機器開発に注力するようになり、フォノカートリッジやアナログプレーヤーを製造、1990年代初頭には小型スピーカーの「300ライン」が我が国に紹介され、その音の良さで瞬く間に人気を集めるようになったのだった。

北米での販売を拡大するため、2015年にはELACUSAが設立され、KEF、インフィニティ、パイオニア/TADなどで設計を担当してきたアンドリュー・ジョーンズ氏をスカウト。Dubut シリーズなど主に低価格帯の製品を中心にラインナップを拡充してきた。

本機DCB41は、このELACUSAで企画された製品だ(もっともアンドリュー・ジョーンズ氏は 2年ほど前にELACを離れた模様)。ちなみにDCB41はDubutシリーズに位置づけられる製品だという

330CEなど、ELACスピーカーは自宅で愛用中

10万円を切る価格で、超多機能

手前がDCB41

DCB41はペア10万円を切る価格を抑えた製品だが、そのファンクションの充実ぶりが凄い。

デジタル入力は光デジタルのほか、96kHz/24bitファイルまで対応するUSB-B端子に加え、ARC(Audio Return Channel)に準じたHDMI端子も備えている。また高音質コーデックaptXに対応したBluetooth再生も可能だ。

背面の端子部

つまり、PCやネットワークトランスポートを用いてのハイレゾ・リスニングが可能で、テレビの音声強化用システムとして活用でき、スマホやDAPの音源を高音質でワイヤレス再生できるわけだ。

また、本機ならではの機能として注目したいのが、MMカートリッジ対応フォノ入力の装備だ。アナログ・ライン入力との切替えになるが、レコードプレーヤーのフォノ出力をダイレクトにつなげるわけである。

レコードプレーヤーのフォノ出力もダイレクトに接続できる

HDMI入力を備えたアクティブスピーカーは徐々に増えているものの、フォノ入力を持った製品は、ぼくの知るかぎり初めてだ。

サイズは140×203×245mm(幅×奥行き×高さ)とかなり小ぶり。デスクトップ用としても活用できる大きさだ。

奥行きもそれほど長くない

ドライバーユニットは、低音を受け持つのが115mm径のポリプロピレン・コーン型ウーファー、高域は19mm径ソフトドーム・ツイーターだ。

2基のうち1つがプライマリースピーカーで、背面に入力端子とD/Aコンバーター、アッテネーター(ボリュウム)、両チャンネル分のクラスDパワーアンプが装備されおり、もう1基とはスピーカーケーブルで接続する仕様だ。

つまり、本機は本格アクティブスピーカーに多いエレクトロニック・クロスオーバーを用いたアクティブ・バイアンプ仕様ではなく、パッシブ・クロスオーバーを用いた2ウェイ機ということになる。

また、プライマリースピーカーをL/Rチャンネル用どちらにするかを決める切替えスイッチが付いている。

フィニッシュはブラックとウォルナット。試聴機はウォルナットだったが、ツキ板仕上げではなく、価格相応に塩化ビニール仕上げ。しかしグリルを付けた状態、はずした状態ともに見た目の安っぽさはなく、トラディショナルな落ち着いた雰囲気が好ましい。

グリルを付けた外観。落ち着いた雰囲気だ

中低域が充実した聴き味の良いサウンド

まず愛用しているルーミンのネットワークトランスポート「U2」と本機をUSB接続して、ローカルネットワークのハイレゾ音源とサブスク型高音質音楽配信サービスTIDALの音を聴いてみた。

定規を引いたように超高域まで伸びたワイド&フラット・レスポンスというサウンドではないが、中低域が充実した聴き味のよいサウンド。低域もローエンドまで深く伸びているわけではないが、質感はきわめてよく、音楽を聴くうえで大きな不満はない。

ぼくのリスニングルームに常備している鉄製のスタンドに載せて聴いたが、両サイドと後ろの壁から大きく離したセッティングが奏功したか、幅と高さと奥行を実感させるワイドなステレオイメージが実感できた。また、中低域の厚みのある表現によって、ヴォーカルがじつに生々しく響く。

本機のリモコンには「X-BASS」と記されたボタンがある。この機能の詳細は不明だが、これをオンにすると中低域の量感が増して、より聴き応えのある音調に変化した。低域が下に伸びるというよりも、とてもよくできたラウドネス・スイッチ的な働きをすると言えばいいだろうか。これは積極的に使いたい機能だと思った。

リモコンも付属する

もっとも本機は値段相応にキャビネット剛性は高くないので、常識的な音量なら問題はないが、X-BASSをオンにして音量を上げすぎると、ハコ鳴りが気になると言えば気になる。

スマホからのワイヤレス再生の音質も、十分使える仕上がり。高圧縮音源の再生なのでナローレンジで情報量は乏しいが、音量を落としても低音が痩せず、音量を挙げてもヒステリックな響きにならない。チューニングの巧さに感心させられる音調だ。

サウンドバー買うならこれを買え

この音調が活きたのが、HDMI端子を用いた映画/ドラマ再生だった。

ぼくがふだん使っているREGZAの65型有機ELテレビ「65X9400」の両脇にDCB41を設置し、HDMI ARC端子を用いて本機と接続(65X9400の出力はビットストリームからPCMに変換する必要がある)、映像コンテンツをいろいろと観てみたのだが、これがなかなか良いのである。

REGZA「65X9400」とHDMI ARCで接続

とくに好印象なのが人の声。男声、女声ともに厚みと艶があり、画面に写し出されている人物がほんとうにしゃべっている、歌っているという確かな実感が得られるのである。

先頃、“最新のサウンドバー 20数機種聴き比べる”という専門誌のテストに参加したが、映像に写し出されている人物がほんとうにしゃべっている、歌っているという実感が得られた製品は、正直言って1モデルもなかったのである。

テレビ画面の下に置かれることが一般的なサウンドバーの最大の問題点は、映像と音像位置の垂直方向の不一致だとぼくは考える。4K高解像度の魅力を味わうためには2H~3H(画面の高さの2倍~3倍)くらいまで画面に近づいて観たいが、そんな近接視聴だと、画面下から声が聞こえてきて映像との乖離が大きく、興を削がれることおびただしい。

いっぽう本機のような良質なスピーカーを画面両サイドにシンメトリカルに置いて画面中央の延長線上に座って聴けば、人物の声がシャープに画面上に定位するのは言うまでもないし、サウンドバーでは実現できないステレオフォニックな音の広がりも得られる。

また、本機と同価格帯の高級サウンドバーでも、人の声、とくに女性アナウンサーの声がひりついて歪みっぽく聞こえる製品が多いことにも閉口した。コストがかかる筐体剛性が十分ではないからだろう。

本機DCB41の声再現は凡百のサウンドバーに比べると断然優れ、長時間聴いていても疲れることがない。こういうスピーカーこそがリビングルームの主役になってほしいと痛感した次第だ。

レコードならではの音も手軽に楽しめる

ところで、先述したように本機にはMMカートリッジ対応のフォノ入力が搭載されている。
ぼくが愛用しているリンのレコードプレーヤー「KLIMAX LP12」は、フォノイコライザーをプレーヤー内部にビルトインしたタイプなので、フォノではなくラインレベルで出力されるゆえ本機のフォノ入力の音質をテストすることができない。

そこでDCB41の輸入元ユキムの試聴室でその音を聴かせてもらうことにした。

用意してくださったレコードプレーヤーはMMカートリッジ(正確にはオーディオテクニカ製のVM型)を取り付けた同じELACの「MIRACORD90」(40万円前後の製品だが生産終了)である。

ELACのMIRACORD90

アームケーブルを本機のフォノ入力につないで聴いた音は、アナログ接続で懸念されるノイズが発生することもなく、レコード再生特有のふくよかで味わいの濃いサウンドが聴けた。この音ならアナログ・レコードに興味を持ち始めた若い人に安心してお勧めできると確信した次第。

PCを用いてのハイレゾ・リスニングが可能で、テレビの音声強化用システムとして活用でき、スマホやDAP の音源を高音質でワイヤレス再生できる上に、アナログレコードまでまともな音で聴けるマルチパーパスなアクティブスピーカー、DCB41。

家の中でもヘッドフォンやイヤフォンを使っているという若い人のスピーカー・リスニング入門用にこれほどふさわしい製品は他にないかもしれない。

山本 浩司

1958年生れ。月刊HiVi、季刊ホームシアター(ともにステレオサウンド刊)編集長を務めた後、2006年からフリーランスに。70年代ロックとブラックミュージックが大好物。最近ハマっているのは歌舞伎観劇。