レビュー

ハイレゾ対応の多機能USB DAC/ポタアン「Sound Blaster E5」

192kHz/24bitダイレクトモードとマルチな対応力

 ポータブルオーディオ周りでは、USB DAC搭載のポータブルヘッドフォンアンプが流行っている。今年に入ってから、ハイレゾ音源への対応した製品でも、手に入りやすい価格帯の製品になって、音質面でも機能面でも魅力的な製品が増えてきている。

 クリエイティブメディアが11月に発売した「Sound Blaster E5」は、USB DACとして動作し、192kHz/24bitまでのハイレゾ音源に対応するほか、スマートフォンともUSB接続できるポータブルヘッドフォンアンプ。さらにはNFCやBluetooth 4.1対応、独自のSBX Pro Studioによるマルチメディア再生など、機能豊富なSound Blaster EシリーズのUSB DAC/ポータブルアンプ フラッグシップモデルだ。実売価格は24,000円前後。

Sound Blaster E5
Sound Blaster E5

 フラッグシップ、といっても2万円強とポータブルアンプとしてはリーズナブル。DACチップにはCirrus Logicの「CS4398」を、ADCにはCirrus Logic「CS5361」、ヘッドフォンアンプにはTI「TPA6120A2」を搭載するなど、スペック面でも充実しているが、独自のオーディオプロセッサ「SB-Axx1」と、「SBX Pro Studio」テクノロジーにより各種エフェクトが利用が利用できるのも特徴だ。

 また、3つの内蔵マイクを備え、単体でステレオマイクとしても使用可能。内蔵マイク使用時は、デバイスの向きに応じて自動的に一対のマイクを選択し、ステレオマイクとして動作する。入出力端子は、ヘッドフォン出力×2、ライン出力×1、光デジタル出力(丸型)×1、マイク入力×1、ライン入力×1、光デジタル入力(丸型)×1を装備。ライン出力と光デジタル出力は共用、ライン入力、マイク入力も共用だ。なお光デジタル入力は96kHz/24bitまでの対応となる。

前面にボリュームや2つのヘッドフォン出力を装備
側面。Bluetoothやゲイン切替、SBXのON/OFFはここで
背面にUSB HostやPC接続用のUSB、ライン/デジタル音声入力(ミニジャック)などを備えている

 単にオーディオ用として使うだけでなく、ボイスチャットや動画のストリーミング配信など、1台で幅広い用途に活用できる点がSound Blaster E5の魅力だ。ここでは各機能の使用感を紹介したい。

同梱物
マイク利用時に便利なスタンド

iPhoneとつないでお手軽高音質

サイズは従来のSound Blaster Eシリーズに比べると大きめだ。左からSound Blaster E5、E3、E1

 外形寸法は70×111×24mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約164g。Sound Blaster E1、E3といった従来のSound Blasterヘッドフォンアンプ製品を知っている人にはやや大柄に感じるかもしれない。ただ、スマートフォンと組み合わせて利用する場合にはちょうどいいサイズ感となっている。

 Sound Blaster E5にはスマートフォンなどと結束するシリコンバンドが付属するのだが、これをiPhone 6に装着すると若干iPhone 6がはみ出る程度。手で持った時の収まりもなかなか良い。

付属のゴムバンドでiPhone 6を固定したところ(ゴムバンドは2つ付属する)

 iPhoneやAndroidなどのスマートデバイスとE5の接続方法はシンプルで、USB Host端子につなぐだけ。iPhoneの場合は、本体での再生時と同様に[ミュージック]アプリで再生すればE5から音楽が出力される。

iPhone 6と直接繋いだところ

 Sound Blaster E5とiPhone 6をUSB接続した場合と、iPhone 6のミニジャックに直接ヘッドフォンを挿して聴いた場合の聞こえ方は、楽曲を構成するそれぞれの音がソリッドな存在感をもって聞こえるかどうか、その度合いに違いがある。

 The Cranberries「Zombie」、Sting「Shape Of My Heart」、Superfly「愛をこめて花束を」などの楽曲を聞いてみたが、Sound Blaster E5を通して聞くと、一つ一つの音の輪郭がはっきりと感じられ、メリハリのある音で鳴っているのに対して、ミニジャック直挿しでは全体的に音の起伏が均されて、平坦な印象を受けた。

 この傾向はThe CranberriesのZombieで最も顕著に現れた。この曲はドロレス・オリオーダンの力強いボーカルが持ち味だが、直挿しの平坦な音では歌声の迫力も半減してしまう。個人的にはiPhone 6の内蔵アンプも頑張っているように思うのだが、比較するとやはり「段違い」という感想になる。

 試聴時に、比較的インピーダンスの高いヘッドフォンであるゼンハイザーHD650(300Ω)を使った際には、今ひとつヘッドフォンを鳴らしきれていないようにも感じたものの、Sound Blaster E5は600Ωまでのインピーダンスに対応しており、側面のスイッチでゲインを変えられる。この設定を変えることで、余裕をもってHD650を駆動してくれた。

Onkyo HF Playerにハイレゾ音源を転送

 E5は、PCとUSBで接続し、DACとして使用する際には、192kHz/24bitまでのハイレゾ音源に対応。ただし、iPhoneなどとiOSデバイスとの接続時の入力は48kHz/24bitまで、Androidデバイスとの接続時はAOA2対応機サポートとなるため44.1kHz/16bitとなる。

 試しにiPhoneにハイレゾ対応の「Onkyo HF Player」をインストールし、アプリ内課金(1,000円)でハイレゾ機能をONにして、192kHz/24bitや96kHzなどのハイレゾ音源を再生したところ、Sound Blaster E5で問題なく、音楽を聴くことができた。ただし、Onkyo HF Playerの画面上の表示は[48kHz]となっているため、E5の入力時には48kHz/24bitで出力されているようだ。

 48kHz/24bit出力とはいえ、ハイレゾらしい高音質は健在。Onkyo HF Playerでは元のハイレゾ音源を高品位にダウンコンバートして出力してくれ、ハイレゾらしい空気感、解像感はしっかりと感じられる。また、ハイレゾ音源から別途スマホ用のAACやMP3などを作らずに、そのまま転送できるのも魅力だ。Sound Blaster E5のパワフルな再生音を活かすためにも、こうしたハイレゾプレーヤーソフトとの組み合わせも、是非試して欲しいところだ。

ハイレゾ音源を再生
192kHzの楽曲が48kHzと表示される

Bluetoothで、スマホの携帯性を損なわずに高音質を楽しむ

 ポータブルアンプとして使用するためのアプリとして、アプリ内から直接Sound Blaster E5の設定を変更できる「Sound Blaster Central」などのアプリも提供されている。

 携帯端末とSound Blaster E5の接続方法は、一般的なBluetooth機器との接続と同様。ここではiPhoneからの接続例を紹介するが、難しいことは何もない。設定画面からBluetoothの項目を選択し、デバイス一覧にSound Blaster E5を見つけたら、ペアリングするだけで接続が完了する。Androidでも手順は同じだが、NFC対応のスマートフォンであれば、タッチするだけ、と更にシンプルだ。

iPhone 6とペアリングしたところ
Android端末とペアリングしたところ
Sound Blaster Central

 Bluetoothでポータブルアンプに接続できる利点は、プレーヤーの扱いやケーブルの取り回しに悩まずに済む点だろう。ポータブルアンプを携帯するときはスマートフォン(プレーヤー)とアンプをシリコンバンドで固定するのが普通だが、物理的にかなり厚くなってしまう。Bluetoothでワイヤレス利用することで、ポータブルでも、いつものスマホのような取り回しが実現できる。

スマートフォンに何も繋がなくても使い慣れたプレーヤーを操作でき、いつもより高音質で楽曲を楽しめる
Android端末(HTL22)を固定したところ

 実際にBluetooth接続で運用してみると、ポータブルアンプに接続中でもいつも通りスマートフォンが使えるのは予想以上に便利だった。スマートフォンの携帯性をまったく損なわず、タブレット端末でも同様に扱えることを考えると、Bluetooth接続の恩恵はかなり大きいと感じる。Sound Blaster E5では、高音質コーデックのaptX、aptX Low LatencyやAACにも対応しているなど、音質面でも配慮されている。

 もちろん、aptXやAACとはいえ、音声圧縮されるので、音質を求めるのであればスマートフォンやPCと有線接続した方が良い。ただし、実際に使ってみると、Bluetoothでも、パワフルかつ音の輪郭が鮮明に感じられ、Sound Blaster E5の音の良さ、音質傾向は有線接続時とそれほど変わらない。定額制配信サービス「Music Unlimited」の高音質モード(AAC 320kpbs)などでも試したが、力強いボーカル再生などE5の音の魅力はしっかりと体験できた。

本体側面のSBXボタン

 また、側面のSBXボタンにより、独自のサウンド技術「SBX Pro Studio」をワンタッチでON/OFF切り替えできる。

 SBX Pro Studioでは、音楽やゲーム、映画などのコンテンツにあわせて、アプリ「Sound Blaster Central」から細かな音質設定が行なえ、好みに合わせて音質を自由に調整可能となる。モバイル利用時でも、コンテンツにあわせてワンボタンでもSBXのON/OFFが簡単に選択できる。

Sound Blaster CentralのSBX設定画面
イコライザーも搭載
Crystal Voice

ハイレゾ対応のダイレクトモード。SBX Pro Studioの対応力

 PCの接続時には、192kHz/24bitのハイレゾ音源に対応した据え置きのUSB DACとして利用できる。PC上での設定は「Sound Blaster E-Series コントロールパネル」上で行なう。

PCと接続したところ

 Sound Blaster E5の能力をオーディオ機器として最大限に引き出すのが「ダイレクトモード」だ。オーディオプロセッサを迂回してDACに直接データを伝送するもので、ダイレクトモードに関する設定は「スピーカー/ヘッドフォン」の中にあるチェックボックスで切り替えられる。

Sound Blaster E-Series コントロールパネル
ダイレクトモードはいつでもチェックボックスでON/OFFを切り替えられる。SPDIF出力ダイレクトも選択可能
プレーヤーソフト(foobar2000)の設定画面。Sound Blaster E5は192kHz/24bitまでのハイレゾ音源に対応する

 ここでは山崎まさよし「LIVE SEED FOLKS Special in 葛飾」より「メヌエット」の24bit/192kHz/24bit、FLAC音源を再生した。

 ダイレクトモードではライブに参加したバイオリン、ビオラ、チェロの四重奏とボーカルがしっかりと分離して聞こえ、弦楽器の響きを楽しむことができた。Sound Blaster E5のスペックをフルに引き出すのは、このPCとの接続時だろう。

 筆者は普段、ラックスマンのUSB DAC/ヘッドフォンアンプ「DA-100」(71,400円)を使っているが、2万円強かつポータブル対応でこの音質というのは驚かされた。

 また、ダイレクトモードだけでなく、SBX Pro Studioによりサウンドのカスタマイズができる点もSound Blaster Eシリーズの特徴だ。ダイレクトモードとSBX Pro Studioの内蔵プロファイル「ミュージック」を交互に切り替えながら聴き比べてみると、両者の違いがはっきりとわかる。

 ダイレクトモードではボーカルが生々しい存在感を伴って聞こえ、楽器は一歩後ろに引いて、あくまでボーカルを引き立てる役割に徹しているように感じられるのに対して、オーディオプロセッサを経由した内蔵プロファイルの音は、楽曲に参加している楽器がより前面に出てきて、ボーカルと一緒に曲の世界を演出している印象を受けた。

 ダイレクトモードの方が高音質なのは確かなのだが、ポイントはその高音質をベースに好みの音質や用途に合わせた設定が楽しめること。普段使っているDA-100にはE5のようなマルチメディア用途に向けた設定はない。DA-100はオーディオ用なので当然ではあるのだが、PCに繋いで使用する以上、時にはゲームやムービーを楽しむこともある。

 Sound Blaster E5の優位性は、SBX Pro Studioをはじめ、CrystalVoiceやイコライザーといった機能によって、オーディオ以外の幅広い用途においても柔軟に、高い水準で対応できる点にある。

内蔵プロファイル「ミュージック」
コンテンツに合わせて、いくつかのプロファイルが用意されている
ショートムービーで設定の変化を確認しながら調整できる
イコライザー

 Sound Blaster E-Series コントロールパネルでは、SBX Pro Studio、CrystalVoice、ミキサー、イコライザーといった各種機能の設定を詳細に行なえる。SBX Pro StudioではSurround、Crystalizer、Bassといった項目が設定可能。設定画面でショートムービーを再生できるので、音がどう変化したのか確認しやすい親切設計だ。

 プロファイルには、先に言及した「ミュージック」のほかにも「アドベンチャー&アクション」「ドライビングシミュレーション」「ファースト パーソン シューティング(FPS)」「リアルタイム ストラテジー(RTS)」などコンテンツのジャンルに合わせたプリセットが用意されており、自分で設定したプロファイルを追加することも可能。

 試しにSBX Pro Studioのプリセット「ファースト パーソン シューティング(FPS)」を有効にしてFPSゲームの「Wolfenstein: The New Order」(PC版)を遊んでみた。SBXには映画などの音声部分をクリアに聞き取れるようにする「Dialog Plus」というエフェクトも含まれており、これを有効にすることで、イベント時の会話シーンで緊張感がぐんと上がった。

 ゲームをプレイしているとき、設定可能な項目の中で特に演出効果が感じられたのは、「Surround」と「Crystalyzer」によるダイナミックレンジの最適化だ。両者を適切に設定することで、目の前の敵の生々しい存在感が強調され、臨場感の向上に一役買ってくれた。

CrystalVoice
ミキサー

 SBXに含まれるすべてのエフェクトは個別にON/OFFを選択可能なので、試聴するコンテンツや好みに応じて調整するといいだろう。

 このほか、マイク使用時にはノイズ低減機能や自動音量調整などを備えた「CrystalVoice」を使用可能。声にエフェクトをかける「CrystalVoice FX」のほか、ハウリングやマイクの集音範囲外の音を低減する「Noise Reduction」などの機能も利用できる。

 設定画面の構成はシンプルだが、項目自体は多めなので、細かい設定が面倒であればプロファイルを選んで、一部だけ微調整する方法もおすすめだ。

クリエイティブのヘッドフォン「Aurvana Live!2」でもテストした
ボイスチャットソフト(Mumble)でマイクを設定しているところ。複数のマイクとステレオミックスが設定できる

音質も機能も充実の新ポタアン/USB DAC

 スマートフォンの音質をワンランクアップしてくれる、という目的において、Sound Blaster E5はシンプルかつ簡単に実現できる製品だ。

 それでいて、PCオーディオ使用に耐えるダイレクトモード、ゲームや音楽、映画体験を好みに合わせてカスタマイズできるSBX Pro Studio、スマートフォンはいつも通り使いつつも、音楽はいつもより高音質で聴けるという利便性など、マルチな性能を突き詰めているあたりは、Sound Blaster Eシリーズ最上位機ならでは。あらゆるオーディオ利用シーンをカバーする対応力が魅力だ。

 ポータブルヘッドフォンアンプ兼USB DACとしては比較的安価に手に入るお手頃感もあり、価格・実用性ともにバランスの取れた優秀な製品といえる。ハイレゾやポータブルアンプを体験する最初のステップとして、最適な一品だ。

(協力:クリエイティブメディア)

関根慎一