レビュー

手持ちのイヤフォンで安価にカスタム気分。Westone「カスタムイヤーチップ」を作った

 イヤフォンで音楽を聴いているとき、不意に耳からイヤフォンが外れたり、いまいちフィットしていない、周囲の雑音が漏れてくる、などと感じたことは無いだろうか? それはもしかすると、使っているイヤーピースが自分に合っていないのかもしれない。そんな人に紹介したいのが、Westoneの「カスタムイヤーチップ UM56」だ。

 今や数多く存在するカナル型(耳栓型)イヤフォンは、イヤーピース(イヤーチップとも呼ばれる)を使って装着する。ただ、多くのイヤフォンに付属するS/M/L、またはXSなどのイヤーピースが、全ての人の耳に合うとは限らない。人の耳の形は、似ているようで、よく見ると人によって様々だからだ。耳は左右でも微妙に異なるため、片側だけがフィットしないという人もいるかもしれない。

 個人の耳にフィットするイヤフォンをオーダーメイドする「カスタムイヤフォン」や「カスタムイヤモニター」は、ここ最近特に人気が高まっているが、プロのミュージシャンやエンジニアなども愛用する高い品質などもあって、10万円を超える高価なモデルも多い。そんな中、イヤフォン本体ではなくイヤーピースだけをオーダーメイドするのが、Westone Laboratoriesが販売している「UM56 カスタムイヤーチップ」。手軽に“セミカスタム環境”を実現するというものだ。

 2012年から存在しているサービスだが、イヤフォン本体とは違って製品そのものは小さく目立たないほか、プロ向け製品だったということもあり、知らなかった人は多いかもしれない。価格は約2万円からで、別途耳型の採取も行なう。

“イヤーピースをカスタム”したわけ

 筆者はFitEar(須山歯研)製のイヤフォン「fitear」を外出時などによく使っている。搭載するバランスド・アーマチュア(BA)ドライバの数は非公開というモデルだが、以前のレビュー記事で詳しく書いている通り、解像感の高い描写と、力強さが心地よいバランスで実現されている。BAながら決して線の細いサウンドではなく、低音もダイレクトに響き、ハイレゾ楽曲も気持ちよく聴ける点が気に入っている。

 普段、イヤーピースは付属品の中から最もフィットすると感じたダブルフランジ型を使用している。筆者は耳穴が大きめなこともあって、一般的なイヤフォンではLサイズ、または別売のXLサイズなどを使用している。fitear付属のダブルフランジイヤーピースは、2つの“傘”によって耳穴の手前と奥の2カ所でフィットするため遮音性が高い。地下鉄などでも、ある程度騒音を遮断してくれる。

fitear(Lサイズのイヤーピース装着時)
普段は、ダブルフランジのイヤーピースを使っている

 ただ、外でイヤフォンを着けたり外したりする時に、不注意でイヤーピースが外れてしまうことが何度かあった。その時に気付いたのは、色が半透明なこともあって、下に落ちると意外に見つけにくいこと。頻繁に落とすものでは無いが、もし人ごみの中で落としてしまったら悲惨だ。あるいは、出張や旅行先などで無くしても困る。このため、普段から愛用するイヤフォンには、なるべく予備のイヤーピースを持つようにしている。

 Westoneの「カスタムイヤーチップ UM56」は、以前からイベントの「ヘッドフォン祭」などで見かけていて興味はあったが、昨年にWestoneのカスタムイヤフォン「ES60」を作った時に採取した耳型を使って、イヤーピースも作れることを最近知った。カスタムイヤフォンと同様に、fitearでも完璧に耳に合った形で聴きたいという思いから、Westoneのカスタムイヤーチップを頼んでみることにした。

素材は2種類、66色から選択可能

 Westoneの国内代理店であるテックウインドは、3月に「UM56 カスタムイヤーチップ」のカラーバリエーションを大幅に追加したことを発表。従来はクリアとスモークの2色だったが、シリコン製が44色、ビニール製が22色の最大66色に増えた。「Westoneの補聴器の技術や素材の研究により、新しいカラーが増え、その一環でUM56もカラーが増えた」とのこと。

「UM56 カスタムイヤーチップ」の作成例

 価格はオープンプライスで、店頭予想価格(税込)は、シリコン製が23,000円前後、ビニール製が20,000円前後。なお、購入には別途耳型の採取が必要。カスタムイヤフォンの「ESシリーズ」を作成した後に、同じ耳型でカスタムイヤーチップ(UM56)を作ることも可能(要問い合わせ)とのことなので、今回はその方法で、手持ちのfitear用にUM56を注文した。なお、耳型採取を含めた作成までの流れは、下記の通り。

  1. 耳型を採取
  2. 素材(シリコンorビニール)を選択
  3. カラーを選ぶ(シリコンは44色、ビニールは24色)。使用するイヤフォンの機種名とメーカー名をオーダーフォームに記入
  4. 4~6週間ほどで完成

 対応するイヤフォンは、Westoneのほか、Shure、Ultimate Ears、JVC、ソニー、FitEar、ゼンハイザー、JH Audio、オーディオテクニカなどの、イヤーピースを使うユニバーサル型イヤフォン。ステム(イヤーピースを装着する先端部分)径や形状によって取り付けられないイヤフォンもあるが、ステム径が同じなら、前述したメーカー以外の製品にも取り付け可能だという。Complyイヤーピースに対応しているイヤフォンならほぼ確実、そうでない場合はフルシェル型(ハウジング全体を覆う形)で作成が可能な場合があるので、問い合わせて欲しいとのこと。

 取扱い店舗は、e☆イヤホン全店、フジヤエービック、ビックカメラでカスタムイヤフォンを取扱う池袋本店、有楽町店、渋谷東口店、新宿西口店、ビックロ ビックカメラ新宿東口店、名古屋駅西店、宮地楽器 神田店。耳型を採取した上で注文する。

 オーダーにあたっては、色を決める必要がある。たくさんある中からどれにしようか迷いながらも、自分だけのイヤーピースを作るというのはワクワクする。今回は素材の透明感を活かしつつ、fitearのブラックに合わせて落ち着いた色のシリコンモデル「Transparent Brown」を選んだ。RedやBlue、Yellowといった華やかなカラーのほか、クリアカラーをベースに色を散りばめたものなど様々なモデルがあるので、きっと好みのデザインは見つかるだろう。なお、シリコンとビニールによってカラーバリエーションが異なり、カラーの詳細は、テックウインドのサイトに掲載されている。なお、左右で違う色にするのもOKとのことだ。

「UM56 カスタムイヤーチップ」カラーバリエーションの一部(シリコン製モデル)
ビニール製モデルの一部

Westoneがイヤーピースでカスタムを始めた理由とは?

 Westoneが「カスタムイヤーチップ」のサービスを始めたのは、もともと補聴器を手掛けるメーカーであることが大きな理由。「耳の健康やヒアリング環境の快適さを追求するなかで、『市販のイヤーピースが合わない』、『もっと快適なヒアリング環境を得たい』という市場のニーズに応える形で提供している」とのこと。当初はプロのミュージシャンやエンジニアに提供されていたもので、一般ユーザーにも提供を開始したという。

 カスタムイヤフォンの耳型を作れる店舗も増えて認知度が高まり、盛り上がりを見せている中で「気軽にカスタムライクな環境を試したいというニーズも増え、Westoneでカスタムイヤフォンを購入した人が、カスタムイヤピースも作るというケースも多い」とのこと。市販のイヤーピースが耳に合わない人がいることや、「お気に入りのユニバーサルイヤフォンを、カスタムに近い環境で聴ける」ということも人気の秘密のようだ。

 イヤーピースをカスタムすることの最大のメリットは、より耳にフィットすることで遮蔽度が高まり、細かい音も漏らさずクリアに聴こえる点。手持ちのイヤフォンを付けている時、「思ったより低音が出ていない」と感じたことなどは無いだろうか? もし、手で耳に押さえつけた方がクリアに聴こえるのであれば、それはイヤフォンの実力を活かしきれていないだけかもしれない。Westoneによれば、ユーザーからは「遮音性が上がった」、「音場が広くなった」、「装着感が良い」といった意見が届いているという。

 様々なイヤフォンに対応可能だが、特にカスタムイヤーピースのオーダーが多いイヤフォンは、Westoneの「W60」、「UMPro30」や、Shure「SE846」、Ultimate Ears「UE 900」、ゼンハイザー「IE 800」だという。特に高価格帯のユニバーサル型イヤフォンで利用する人が多いとのことだ。

 イヤーピース用の耳型を採る基本的な方法は、カスタムイヤフォンを作る時と同じだという。なお、前述した通りカスタムイヤフォンのESシリーズを作成した後にカスタムイヤーピースを作るのは可能だが、その逆はできない。これは、カスタムイヤフォン用の耳型を作った後に、そこからイヤーピースの部分を切り出して作成するためだという。また、Westoneでの耳型保管期間が過ぎている場合や、1年以上経過している場合は、改めて耳型の採取が必要となる。

筆者は以前、カスタムイヤフォンの「ES60」の製作用に耳型を採った。これを使って今回のカスタムイヤーピースを注文

ついに到着! 普通のイヤフォンと装着方法は違う?

 注文してから約1カ月とちょっとで、ついに自分用の「UM56」が手元に届いた。イヤーピースと、専用ケースと、装着をスムーズにする潤滑ジェル「Oto Ease」が付属している。

 手に取ってみると、やはり普通のイヤーピースとは形が大きく異なり、左右でもよく見ると細部の形が違うようだ。シリコン製なので柔らかいが厚みがあり、普通のイヤーピースに比べると弾力は強い。表面は光沢があるが、手で触った感じではグリップ力は高そうだ。

自分専用のUM56が届いた
ツルツルした光沢ある表面
付属品など
fitearに装着した

 耳への装着方法は通常のイヤピースと同じで、イヤフォンに取り付けてから耳穴に入れる。初めて装着する際は、少し迷ったが、カスタムイヤフォン装着時のように、少しひねるようにして入れるとすんなりと耳に入った。もし挿入しづらい場合は、付属の塗布用ジェルであるOto-easeを使うと入れやすくなるだろう。

 外すときも、同様にひねるようにすると取りやすかった。慣れればそう難しいこともなさそうだ。fitear付属のイヤーピースと並べてみると、UM56は随分と奥行きが長いが、装着してみると、特に耳から出っ張るようなことは無く、すっきり収まっている。装着している間は周りの雑音が遮断され、途端に自分一人の世界に入ったように感じるほどだ。

fitear付属イヤーピースと比較すると、奥行きは長い
装着したところ
イヤーピース部を持って、少しひねるようにすると着脱しやすかった
前から見ても、耳にしっかり収まっている

 UM56をよく見ると、イヤフォンのステムへ装着する側に細くて透明なヒモのようなものが出ている。これは、万が一ステムからイヤーピースが抜けて耳の中に残ってしまった場合に、耳から取り出すために使うもの。耳の中にイヤーピースが残っても、慌てずゆっくりと引けば取れる。ステムからイヤーピースを外す場合はこのヒモではなく本体部分を持って行なう。

 外したイヤーピースは水洗いも可能。1回作ったイヤーピースが使える期間の目安は、カスタムイヤフォンと同じくらいだという。これは、耳穴の形も加齢により変わるためだが、耳にフィットする限りは使い続けられるとのことなので、あまり気にする必要はなさそうだ。

柔らかいシリコン製で、指で押すと形が変わる
細いヒモのようなものが付いている
カスタムイヤフォンのES60(右)と比較
fitearのノズル開口部に比べると、UM56の穴はやや小さめ
付属ケース。ジッパーではなく、口の部分を両脇から押すと開く仕組みなので、すぐに出し入れしやすい

イヤフォンから出る音を余さず、活かせる+αのアイテム

 UM56をfitearに装着して、聴こえ方がどう変わるかをチェックした。プレーヤーは、ハイレゾ対応のウォークマンA「NW-A16」や、iriver Astell & Kernの「AK240」を使った。

ウォークマンA「NW-A16」や、iriver Astell & Kernの「AK240」で試した

 音を流す前に、やはり何といっても遮音性の高さが驚きだ。カスタムイヤフォンの時にも感じたが、エアコンなどの雑音も耳に入らず、音楽に浸れる準備が万端になる。

 再生すると、これまでのイヤーピースで聴いていた音量だと少し大きめに感じるので、やや下げる(ウォークマンでは2段階ほど)ことになる。今までのイヤーピースで遮音していたつもりでも、少し音は漏れていたということだ。音質面でも、特に低域は今まで出し切れていなかったと思われる部分までしっかり耳に届く。低音が過多になるのではなく、よりタイトで輪郭がはっきりして、バスドラムなどもより定位が明確に感じられた。

 最も変化が分かりやすいのは低域だが、中高域についても、よりダイレクトに音が耳に押し寄せてくるのが分かる。やはり、従来のイヤーピースでは、合っていたつもりでもわずかにフィットしていない部分があったのかもしれない。

 何より、装着していて多少頭を動かしたり移動したりしても、全くズレたりしないところが良い。イヤフォンで音楽を聴いているのに、行儀よくジッとしていなければいけないというのはちょっとつらい。リラックスして好きな体勢で聴きたいので、それを妨げない完璧なフィット性は、イヤフォンで音楽を聴く上で重要なポイントだと改めて感じた。シリコン製で柔らかいため、しばらく着けていても耳が痛くなることもなかった。

 もちろん、付属のイヤーピースが完璧に耳に合っているという人もいるだろう。筆者の場合も、付属イヤーピースが全くダメというわけでは無く、fitearの特徴でもあるホーン状のノズル部分から出る音の広がりをそのまま伝えてくれる点などは、純正品ならではの良さだと感じている。ただ、少しでも付属イヤーピースの装着性に物足りなさを感じていたり、もう一段階上の遮音性やフィット性を求めているなら、自信を持ってお勧めできるのがUM56だ。特に、長く使いたいお気に入りのイヤフォンがある人や、そんなイヤフォンをこれから見つけたいという人は、“自分専用”の愛着も湧くカスタムイヤーピースによって、さらにこだわりのイヤフォンに仕立ててみてはいかがだろうか?

(協力:テックウインド)

中林暁