レビュー
空間に溶け込む音。ソニーの新提案グラスサウンドスピーカー
音と明かりの新鮮なコラボ。「LSPX-S1」の個性
(2016/2/9 09:30)
ソニーが13日に発売する「グラスサウンドスピーカー」(LSPX-S1)は、円筒状のLEDライトとBluetoothスピーカーを融合したユニークな商品。生活空間そのものを使った映像/音楽の楽しみ方を提案する「Life Space UX」シリーズの第3弾製品となる。
LSPX-S1が目指すのは、「住空間に溶け込み、透明感ある音色と温かい光で空間を満たす」というもの。360度に音が広がる無指向性のスピーカーと光で、リラックスした空間を演出するという。
実売価格は74,000円前後。Bluetoothスピーカーと考えても、LEDライトと考えてもかなり高価ではあるが、ユニークなデザインや有機ガラス管をツィータに使う仕組み、デザイン性など、単なる機能軸や品質軸だけではない、ソニーの新たな価値提案が込められた製品だ。LSPX-S1を自宅で試して、その魅力を探った。
淡く光るライトと無指向性スピーカーが融合
同梱品は、スピーカー本体のほか、ACアダプタと、クリーニングクロスというシンプルなもの。ユニークかつこだわりのデザインが特徴のLSPX-S1だが、ACアダプタはノートPCの付属品のような一般的な黒いものだ。筆者のPC(VAIO Pro 13 | mk2)の付属のものとよく似たデザインだが、「VGP-AC19V77」という品番の付属ACアダプタは、実際ソニーのノートPCでも利用されていたもののようだ。
特徴的な円筒形デザインの上部は、ツィータを兼ねた有機ガラス管になっており、その中心に照明用のフィラメント型LEDを配置。下部のアルミ筐体部には、ウーファやアンプ、DC入力などを集約している。外形寸法は82×303mm(直径×高さ)、重量は920g。片手で簡単に持ち運べるが、ガラス管をぶつけてないように、また指紋等もつきやすいので慎重に運びたい。
音の面での最大の特徴は、有機ガラス管をツイータにする「アドバンストバーティカルドライブテクノロジー」だ。筐体内の振動板端面に、3つの加振器を120度間隔で配置し、有機ガラス管の端面を叩くことで発音するというもの。音の広がる方向に対して垂直に加振し、その振動がガラス管全体に伝わるため、発生した音波が360度方向に広がるほか、離れた場所でも音の減衰が少ないという。
これにより、特に高域を全方位に出力し、部屋のどの位置で聞いても、同じように広がりある音が聞こえるようにしている。ウーファは50mm径で、アルミ筐体内部に下向きに配置し、ディフューザーで拡散する。
スピーカー構成は、ツイータ(加振器)×3、ウーファ×1となり、独自のデジタルアンプ「S-Master」で駆動。最大出力は13W(ウーファのみ:ACアダプタ動作時)。圧縮音源の高域を補完する「DSEE」や、ソニーおすすめの音楽設定を行なう「Clear Audio+」も搭載している。
Bluetooth 3.0準拠で、対応プロファイルはA2DP、AVRCP。コーデックはAAC、aptX、LDACに対応する。底面にNFCを備えており、対応スマートフォンなどとワンタッチでペアリングできる。なお、2台のLSPX-S1をBluetooth接続し、2台同時出力やステレオ再生も行なえるという。また、ステレオミニのアナログ音声入力も備えており、Bluetooth非対応の機器とも接続できる。
本体表面の操作ボタンは電源ボタンのみ。操作は、基本的にはBluetoothペアリングしたスマートフォンから、アプリ「SongPal」を利用する。本体底面には、ペアリングやボリューム、照明の明るさの操作パネルを用意しているものの、わざわざ本体を持ち上げて操作しなければいけない。電源ON/OFF以外の操作は、アプリ利用が前提といえる。
アプリ「SongPal」で操作
今回はiPhoneの「SongPal」アプリで、iPhone内の楽曲やストリーミング配信楽曲などでテストした。BluetoothでLSPX-S1とペアリングしておけば、あとは出力機器としてLSPX-S1を選ぶだけで、iPhoneの「ミュージック」から音楽再生が行なえる。
SongPal自体が音楽再生を行なうのではなく、[ミュージック]へのショートカットになっているだけで、ミュージックを選んだ後は普段のiPhoneの音楽再生画面と全く変わらない。機能も使い勝手も同じなので、iPhoneでの音楽再生に慣れた人には使いやすいはずだ。当然[ミュージック]に統合されているApple Musicも利用できる。
ミュージック以外のアプリもSongPalに登録可能で、Amazon MusicやGoogle Play Music、radiko.jpなどを登録しておけば、SongPalのトップメニューからすぐに呼び出し可能となる。AmazonプライムミュージックやGoogle Play MusicのユーザーもLSPX-S1を十分に楽しめるし、リラックスした環境でラジオ(radiko)を聴くのも悪く無い。
SongPalの設定画面には、サウンド設定として、[ClearAudio+]のON/OFFと[DSEE]のオート/OFF設定が用意されているほか、LEDライトの明るさを32段階で調整できる。また、15/30/45/60分のスリープタイマーやBluetoothコーデック設定(音質優先/接続優先)が選択可能。さらに、SongPalからLSPX-S1の電源OFFも行なえる。
“空間に溶け込む音”の唯一無二の魅力
「生活空間に溶け込む」がコンセプトのLSPX-S1だけに、設置には気をつけたい。ユニークかつ高級感あるデザインは魅力的ではあるが、散らかった部屋に置くとその良さを損なってしまうので、導入前には部屋を片付けておきたい。
単にダイニングテーブルやテレビラックに設置してみただけでも結構格好いいし、ライトのボワっと光る様子もエレガントで部屋の品格が上がったような錯覚をおぼえる。ただ、ACアダプタの黒いケーブルは若干雰囲気を損なうこともあるので、バッテリ駆動で使ったほうがスタイリッシュかもしれない。また、バッテリ駆動時間は約4時間とやや短めなのと、出力が6W(ACアダプタ時は13W)とやや弱くなる点は注意したい。
今回は再生機器にiPhone 6sのミュージックからのBluetooth出力を利用。LSPX-S1のBluetoothは高音質コーデックのaptX、AAC、LDACに対応しているが、今回LDACは試せていない。
早速その音を聞いてみると、「住空間を包み込む」というコンセプトに確かに納得する。普通のBluetoothスピーカーや高級オーディオとは全く違う、際立った特徴のある音だ。高域の広がりとスイートスポットの広さが印象的で、5~6m離れても、確かな情報量と広がりある音場が楽しめる。
50mmウーファ×1基ということもあり、低音はやや弱い。他のソニーオーディオ機器の試聴時は、おすすめ音質設定の「ClearAudio+」は極力OFFにして、“素の音”でテストするが、LSPX-S1ではOFFににすると、低域がかなり弱く、それに伴い中域の勢いまで損なわれてしまう。ほとんどの楽曲においてONのほうが好ましく感じたため、今回はClearAudio+ONで試聴している。
クラシックやジャズ・ピアノなどを聞いてみると、音場の広さや、音の分離の良さがとても印象的。弦の響きやアタック感が減衰せずに、離れた場所でもしっかりと味わえるのはLSPX-S1ならではだ。ピアノの音もちょっと強めで、ギターのトレモロの甘い揺れに解像感が加わり、なんとも心地よい。5m程度離れても音の解像感が保たれ、音の“強さ”があまり変わらないので、普通のBluetoothスピーカーに慣れていると、いい意味で違和感を覚えるはず。それぐらい大きな違いがある。
前述のように低音は弱めで、下の周波数は出ていないが、量感は結構しっかりしている。プリファブ・スプラウト「Goodbye Lucille # 1」を聞いてみると、冒頭の明瞭なギターとクリアな音場に、ベースラインがズーンと入ってくる迫力は十分。音量を上げると、上部のパッシブラジエーターもブルブル震えていて、ライブ感が出てくる。360度に音の粒を放出するかのような、独特の情報量と広がりこそがLSPX-1の最大の特徴だ。
ただ、最大音量ははそれほど大きくない。「住空間を包み込む」というコンセプトは、爆音で空間を覆うというイメージではなく、自然な音の広がりを創りだす、というイメージだ。また、スペック上の再生周波数帯域は60Hz~40kHzとなっているが、ハイレゾロゴ(40kHz以上)は取得していない。普通のスピーカーとは異なる高域の気持ちよさや、音の広がり、聞こえ方の違いを積極的に楽しむための音作りだ。低音の効いたEDMなどを楽しみたい、という人にはやや物足りないかもしれない。
「空間を満たす」というコンセプトを実感したのは、別の部屋から音楽をかけたLSPX-S1を置いたリビングに戻ってきたとき。リビングに入った瞬間、扉の内側に音が満たされているという感触を覚える。音が減衰せずに部屋中に広がっているため、他のHi-Fiスピーカーでは味わえない快感が確かにある。
広がりある音を楽しめる設置方法は?
音の魅力は十分に味わえたが、設置にはやはり少し注意が必要だ。例えば、ダイニングテーブルにおいた時に、食事の片付けなどで落としそうになったりと不安もある。特に背の高い有機ガラス管を使っていることもあり、小さな子どもやペットがいたずらする可能性などを考えると、落として壊しそうな場所や、走り回る場所にLSPX-S1を設置するのは難しそうだ。
例えば、普段はベッドサイドでの照明兼スピーカーとして使い、来客時にBGMを流すスピーカーにしたり、書斎でリラックスして音を楽しむといった使い方はしっくりきそうだ。LSPX-S1の導入にあたっては、自分の部屋や生活スタイルに合うかどうかをイメージできるかが、なにより重要と感じる。
基本的に平らな場所であればどこでも設置でき、テーブルやTVラック、床置きなどでは、音の傾向に変化はなかった。ただ、硬い大理石調のキッチンに乗せると、低域が締まり、すこし解像感も上がったように感じられた。
注意点としては、約2mの冷蔵庫の上に置いたところ、低域がかなり痩せて、部屋全体への広がりもが乏しく感じた。上方に比べると下方向への音の広がりは弱いようだ。落下時の破損可能性を含め、高い位置の設置はお勧めできない。
LED照明は、電源ボタンだけでON/OFF可能なほか、SongPalから32段階で明るさを調整できる。明かりの色は変えられず、シンプルなライトではあるが、上から見下ろすと真空管のように見えたり、ろうそくが揺れているようにも見える。昼と夜で違った表情が出てくるのも面白い。
予想外にLSPX-S1と相性が良く、魅力的に感じられたのが「ラジオ」。楽曲にかぶせながらDJが曲紹介やトークを入れてくるApple Musicの「Beats 1」ではライブ感がぐっと高まる。一方、radikoでトーク番組を聞いていると、普段はパーソナリティが近くで語ってくれているような、プライベート感あるラジオ空間が、公開収録に来たかような広がりを感じる。DJのトークが妙にくっきり聞こえるのもLSPX-S1ならではだ。良い悪いというより、違うメディアのように感じられたのが新鮮だ。ぜひラジオ好きにも試してほしい。
音の広がり、遠くでもいい音の「どこでもスイートスポット」が、結果的に、聞き慣れた音楽や番組でも違った表情をもたらしてくれる。新鮮な驚きと、リラックス空間の両立という狙いは確かに今までにない体験を作り出しており、唯一無二の個性的な製品になっている。それゆえに、「どこに置くか、どういう風に使うか」は利用者のセンスが問われる製品とも言えそうだ。
LSPX-S1 |
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