小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第994回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

第3世代でさらに完成度UP! ソニー、グラスサウンドスピーカー「LSPX-S3」

グラスサウンドスピーカー3号機「LSPX-S3」

「サウンティーナ」から13年

2008年に発売された、無指向性スピーカー「Sountina」をご記憶だろうか。有機ガラス管を振動させて音を出すという新方式の大型スピーカーだ。ソニー本社に行く機会があった方は、エントランスに置かれていたので、音を聞いたことがあるかもしれない。当時100万円だったので、個人で買われた方は少ないと思うが、独特の高域表現に驚かされたものである。

Sountina

そんな有機ガラス管採用のスピーカーが大幅に小型化され、2016年に「グラスサウンドスピーカー(LSPX-S1)」として再登場した。当時生活空間の新しい楽しみ方を提案する「Life Space UX」シリーズの一環として登場したのだった。当時の価格は74,000円程度。

2019年には2号機となる「LSPX-S2」が登場し、価格も49,000円と大幅に下がった。ガラス部分が細くなり、キャンドルライト的な方向性になったのを覚えている。価格もさらに買いやすくなり、店頭予想価格は45,000円前後となった。

そして今年、3号機となる「LSPX-S3」が登場する。基本コンセプトは同じで、より音質やユーザビリティが向上、しかも価格が39,000円とさらに下がっている。世代が上がるごとに高くなっていくのがこれまでの常識だったのだが、世代が上がって性能が上がってるのに安くなっていくという製品は珍しい。今回は運良く試作機をお借りすることができた。

サウンティーナの発明から13年、最新のグラスサウンドスピーカーはどんな音を出すのだろうか。早速試してみよう。

くびれがなくなり、シュッとしたスタイルに

前作のS2は、ベース部分とガラス管部分のつなぎ目がくびれており、キャンドルスタンドを連想させるデザインだった。“そこを持て”、といわんばかりの面白い形状ではあるが、その部分が華奢に見えたのも事実だ。

2019年発売のLSPX-S2

今回は、構造的には同じように見えるが、ベース部とガラス管部をなめらかにつなぎ、一体感のあるデザインに仕上げている。どこを持てばいいのか悩む格好になったのも事実だが、ベース部全体を持て、ということだろう。

くびれがなくなり、シュッとしたデザインに

まずスペック的なところからチェックしよう。グラスサウンドスピーカーは、基本的にはBluetoothスピーカーである。内部にバッテリーを備えた、いわゆる縦型モノラルスピーカーと言ってもいいだろう。ただスピーカーの構造が普通のBluetoothスピーカーとは異なるというわけである。

ベース部分にあるのは、46mmウーファーだ。前作は35mmだったので、かなり大きくなっている。スリット部分から覗くと見えるが、上向きに付けられており、向かい側には円錐状の放射板がある。またベース部内にはパッシブラジエータがあり、さらなる低域増強に一役買っている。

スリット部から垣間見える46mmウーファー
ウーファーに向かい合わせで円錐形の拡散板が見える

有機ガラス部分がツイーターになっている。ガラス管の底部をアクチュエーターが叩く事により、筒を縦に振動させる。一方、音は筒全体から放射状に音が出ている。つまり振動方向と音が出る方向が垂直なので、これを「バーチカルドライブテクノロジー」と呼んでいる。

ガラス管全体がツイーター。中央に薄くSONYロゴがある

ガラスが振動しているのは事実だが、音が出ているときにガラス管に触っても、指に振動が伝わるわけでもなく、ミュートもされない。だが耳を近づけると、たしかにガラス部分から音が出ている。実に不思議だ。

ガラスの筒の底部にはLEDライトが仕込まれており、暖色のイルミネーションとして点灯する。LED部には凹レンズのようなガラスパーツがあり、点光源を拡散する。ベッドサイドに置くとなかなか雰囲気がいい。

ガラス部の底にLEDライトがある

背面の底部には、電源ボタン、ハンズフリーボタン、ボリュームのアップダウンがある。また真ん中の充電端子はUSB-Cになった。前モデルはmicroUSBだったので、指す方向を気にしなくて良くなったのはありがたい。

背面のボタン類

USB端子の上にあるのは、タッチコントローラだ。一度タッチするとLEDライトのON・OFF、横にスライドすると光量を可変できる。

Bluetoothのコーデックは、SBC、AAC、LDACとなっているあたりは、同社イヤホンなどと同じだ。ただ今回のS3は、ハイレゾ対応ではなくなった。S2はハイレゾ対応だったが、対応をやめたことで価格を抑えたということだろう。

底部にはBluetoothペアリングボタンと、スリープタイマーボタンがある。また同モデルが2台あると、ステレオペアとして利用できる。ただしこの時はコーデックがSBCとなる。

底部にもボタンが

またソニーのBluetoothスピーカーでおなじみのパーティコネクトにも対応しており、最大100台の接続が可能だ。また8台までならLEDの光も時間差で連動するといった機能もある。レストランやバーなどのテーブルに置いて連動させると面白そうだ。

個性的なサウンドと特性

では早速聴いてみよう。いつものようにドナルド・フェイゲンの「Morph The Cat」から聴いているが、ベースのゴリッとした感じも十分で、バスドラのアタック感を強く感じる。ボリュームは「中」ぐらいだが、テーブル面にまで低音の振動が伝わってくる。

46mmというと、フルレンジのテレビスピーカー程度のサイズである。テレビで音楽が十分再生できるかというと、よほど音に気合を入れたマルチスピーカーシステムでなければ鑑賞には向かないが、本機は46mm一発で十分な低音を叩き出す。

ストロークを大きく取っているから、という事でもあるが、ソニーはパッシブラジエータの使い方が上手いと思う。その源流は2014年の「SRS-X9」ぐらいにあると思うが、エンクロージャ容積が狭い中でのパッシブラジエータの使い方のコツを掴んでいる。

ツイーター部分の表現は、一般のドーム型ツイーターよりも高域特性がなめらかで、ライドシンバルやチャイムのような打撃音が綺麗だ。またボーカルに含まれる倍音もよく表現できており、イーグルス「No More Walks in the Wood」のハーモニーのリアルなザラつき感も楽しめる。

一般にはジャズやクラシックのようなアコースティック楽器に向いていると言われるスピーカーだが、ロック系やエレクトロニカ系も綺麗に鳴る。バランス的には高域が強めではあるが、意外にオールマイティなスピーカーのように思える。

音の拡散性も良好だ。多くの縦型Bluetoothスピーカーは、拡散板によってモノラル音声を360度拡散するわけだが、本機も基本原理はそれだ。だがグラスサウンドスピーカーが高域を360度放射しているので、拡散感がさらに強まる。モノラルスピーカーとは思えない自然な広がり方も、本機の特徴の一つだろう。

特徴的なのは、音量感だ。ニアフィールドでは、かなりボリュームを上げても耳にうるさい感じがない。高域の歪率が低いからだろう。

だがスピーカーから距離を取ると、かなり遠くまで同じような音量で聞こえる。コンサートホールなどで使われる縦長のラインアレイスピーカーは音圧の減衰が少ないのだが、グラスサウンドスピーカーも縦長音源なので、同じような効果があるのだろう。部屋の片隅に置いても音が遠くまで届くので、インテリアスピーカーとしても優秀な特性である。また床置きすると床を振動させてびっくりするぐらい低音が出るので、フローリングに直置きもいいだろう。

逆にニアフィールドで小音量でのバランスも良好だ。今回はベッドサイドに置いて就寝時に音楽を流してみたが、隣室の家人に聞き取れない程度の音量だと、多くのスピーカーは低音が聞こえなくなってしまう。だが本機では十分にバランスの取れた音で楽しむことができた。

また小音量のステップが雑なスピーカーも存在する。1段小さくすると聴こえないし、1段大きくするとうるさいし、といったことになりがちだが、本機は小音量時のステップも細かいので助かる。

なお本来はソニー製設定アプリ「Music Center」で設定変更や調整なども可能なのだが、今回お借りしたのは試作機故にまだアプリが使用できなかった。

光が踊る

本体のLEDライトも、かなり機能が増えている。まず通常の点灯モードでは、明るさの設定が32段階から選べるようになった。背面のタッチセンサーで調整を行なう前作よりも最暗時の輝度がさらに暗くなり、常夜灯としても利用しやすくなった。

またタッチセンサーを長押しすると、キャンドルモードに変わる。これは光をろうそくに似せてゆらぎを付けるモードで、前作では明るさが強と弱のみだった。だが本機では強・中・弱の3段階になったのにくわえ、音楽連動モードも搭載した。

これは音楽の強弱に合わせて光がゆらぐというものだが、同社のSRS-XBシリーズのような、激しく連動するLEDイルミネーションのようなものではない。どうもボーカル帯域を検知して、ボーカルが強くなればゆらいで光が弱くなり、ボーカルが弱くなると光が強くなるというアクションである。つまり歌手の口の前にろうそくがあったら、と仮定した動きというわけだ。

したがってインスト部分では何をトリガーに揺らいでいるのかわかりにくいが、歌が入ってくるとよく分かる。実際にサンプル曲を再生してゆらぎ具合を撮影してみた。

スマホぐらいのハイエンドプロセッサを積んでるわけでもないスピーカーで歌部分を抽出するのは相当大変な作業だったと思うが、そこまで凝るのがソニーの業である。歌に対して瞬時に反応するのではなく、一歩遅れて反応するなど、本物のろうそくのゆらぎにこだわっている。正直「そこまでいる?」という気もしないではないのだが、上手く動いている。

「星が帰るとき / 蛯名めぐみ feat. Flehmann」「フリーBGM DOVA-SYNDROME」(https://dova-s.jp/)

総論

Bluetoothスピーカーも次第に価格が下がってきており、今主力は5,000円以下ではないだろうか。BOSEやJBL、Bang & Olufsen、ソニーといったブランドはまだ1万円~2万円台の製品もあるが、それでも低価格化の波には抗えない。

そんな中、第3世代となったグラスサウンドスピーカーは市場想定価格39,000円と、一般のBluetoothスピーカーからすればかなり高い部類ではあるものの、インテリア性の高い製品ということを考えれば納得できる金額になってきた。

ガラスの筒を縦に叩いてツイーターにするというのは世紀の大発明だと思うが、これをどうビジネスにするかという点で、ソニーも結構苦しんだと思う。結局ガラス部だけではフルレンジにならないということもあり、かといって大型化すれば高級品になってしまう。

全体の小型化、かつこの高域特性に見合う中低音をどうするか、そこが難しい開発だったと思うが、この第3世代を以て、ようやく上の特性に下が追いついたと言える。この第3世代の本質は、中低音を担当するベースユニットの設計にあったと思う。

スピーカーの新しいカタチであり、コンパクトにいい音を楽しめる機器に仕上がった本機は、「銘機」と呼んでも言い過ぎではない完成度に到達したようだ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。