本田雅一のAVTrends

パナソニック新有機ELテレビとUHD BDをCES開幕前にハリウッドで見た。HDR10+対応

 パナソニックは欧州向けに有機EL(OLED)テレビ、およびUltra HD Blu-ray(UHD BD)プレーヤーの紹介イベントを開催。ハリウッド映画会社やポストプロダクションとの協業から生まれた機能、画質を実現するために開発された新シリーズを、それぞれ発表した。

TX-55FZ950

 OLEDテレビは「FZ800」および「FZ950」シリーズで、いずれも55インチと65インチモデルの展開。77インチモデルは「EZ1000」シリーズの継続となる。型名の数字こそ異なるが、FZ950はEZ1000、FZ800はEZ950の後継機となり、FZ950にはテクニクス(Technics)銘の入ったサウンドバーが一体化されている。

 なお、EZ世代ではブラックフィルターの違いによる画質差が若干ながら存在したが、2018年モデルとなるFZ世代は2シリーズとも同じパネルとなり、両製品とも表面処理にはブラックフィルターが入る。採用パネルはLGディスプレイの第2世代生産プロセスのパネル(昨年、LG、ソニー、パナソニックが採用していたもの)だが、LGディスプレイが「Generation 2plus」と呼んでいる暗部階調を改良したパネルだ。

TX-55FZ800

 一方、UHD BDプレーヤーは従来製品の特徴を引き継いだ普及型モデル「DP-330/320」に加え、新開発のシステムLSIを搭載し、動的なHDRメタ情報に対応する「DP-UB820/824」および「DP-UB420/424」が披露された。末尾の「0」と「4」は仕向け地による型名の違い(後者はドイツ向け)のみで両者の画質・性能は同じ。820シリーズはDolby Visionに対応するが、420シリーズは対応しないといった違いがある。

DP-UB820/824

 あくまで欧州向け製品の発表であるため、日本で発表される製品と同一となるかはわからない。しかし例年の傾向で言うならば、テレビは同画質の製品を日本市場向けに設定した製品が春頃に発売されるだろう。

 UHD BDプレーヤーは日本ではレコーダのバリエーションとして、機能・画質・音質などを磨き込んで年末向け商品として発売される、あるいはプレーヤーとしても別仕様となる場合もあるため、現時点ではどんな製品として、いつ登場するかは未知数だ。しかしながら、今年のパナソニック製レコーダ/プレーヤーの機能を示唆していることは間違いない。

 いずれも映像パッケージソフト、ネット配信の最新トレンドをキャッチアップし、HDR表示を最適なものにする新しい機能、性能を備えたものだ。

 テレビは従来製品でも評価が高かった“正確な表示”に加え、“より見栄えのする映像”を実現。UHD BDプレーヤーはさらなる動作速度、ディスク認識速度を実現しつつ、テレビの価格帯や方式を問わず、採用するパネル能力をギリギリまで引き出す映像最適化機能「HDR Optimizer」を搭載した点がポイントだ。

 まだラスベガスでのCESが始まる前だが、それぞれについて最速のインプレッションをお届けすることにしよう。

モニタライクかつディテール表現も向上したOLED TV。HDR10+対応

 2017年のパナソニック製OLEDテレビ「EZ」シリーズは、ブラックフィルターの違いこそあれ、EZ950、EZ1000、両モデルともにシネマプロモードの正確なトーンマッピング、色表現は、ともにすばらしいものだった。プロフェッショナルが映像作品を確認する際に使うマスターモニターに近づけた……という意味では、同じLGディスプレイ製OLEDパネルを使うどのメーカーよりも優れた製品だった。

TX-65FZ950

 完全な暗室において、シネマプロモードでUHD BDを鑑賞する。その際に映画の色やダイナミックレンジを調整するカラリスト、カラリストが作った映像にOKを出す映画監督、撮影監督み見たそのままを再現し、楽しみたいのであればEZシリーズを使えばいい。

 なぜなら、ハリウッド最大手のデラックス社が業務用マスターモニターに加え、民生用テレビでの確認用デバイスとしてパナソニックのEZ1000を採用しているからだ。その評判はハリウッドの映像制作現場に浸透し始めており、LGと協力関係にあるテクニカラーも新しい確認用モニターをEZ1000に切り替え始めている。パナソニックは北米市場において民生用テレビからほぼ撤退している状況だが、映画および映画作品の家庭向けグレーディング用途などでは、むしろその浸透度を深めている。

 ただし、当然ながら一般家庭向けとなると、完全な暗室で映像を鑑賞することはほとんどない。ある程度の明るさが保たれた部屋での画質となると、ソニーや東芝の方が良い印象になることもあった。

 ライバル製品はOLEDテレビ向けパネルの“現時点の”制約を意識して、見栄えを良くするための何らかの工夫を加えている。工夫のやり方はメーカーごとに異なるが、パナソニックのEZシリーズは愚直に映像の再現性を狙ったが故に、実視聴環境における見栄えの点では一歩譲るという印象だった。

 ところがFZシリーズは、この部分にメスを入れた新世代の映像処理チップを投入している。

 100ミリ秒ごとに4K映像全体の平均輝度やヒストグラムを判別し、カラーマッピング、トーンマッピングを行なうテーブル(LUT)を動的に変化させる新機能を組み込んだのだ。さらにLUTそのものの精度も、これまで17×17×17の三次元配列を20×20×20に拡張。暗部トーンのマッピング密度を上げているは従来と同様で、階調のつながりを改善している。

 画像の輝度分布に応じて、ハイライト部、あるいはローライト部、それぞれの階調が最適に見えるようLUTを動的に変化させる機能の詳細は明らかではない。しかし、その仕組みはパナソニックが過去に長年取り組んできたプラズマテレビでのノウハウが生きていると感じた。

 機能・処理の詳細はともかく、結果としての画質改善は明白だ。

 HDR映像、特にUHD BDやAmazon、Netflixなどが配信するPQカーブを用いたHDR10の映像では、各画素の輝度が”絶対値”で指定されている。これを輝度レンジの再現性に制約があるパネルで正確に再現しようとすると、どうしても輝度の範囲を圧縮して表示せざるをえない。正確な映像再現を目指したEZシリーズのジレンマだったが、FZシリーズでは、シーンごとの明るさに応じてハイライト、あるいはローライトなどの部分により多くの階調表現を割り当て。

 とりわけ、局所のコントラストが高まり、スルーレート(ある輝度から別の輝度への変化度合い)が高まり、結果的に解像感、精細感が増している。もともとOLEDテレビとしてはトップクラスにS/N感が良かったこともあり、ハイライト、ローライトともにディテールが深く、見通しのよい映像になった。

 色再現については、製品版になるまで追い込みをかけていくとのことだが、EZシリーズに通じるモニタライクな表現と、見栄えの良い深いディテールを両立しており、これまであった“エクスキューズ”がなくなった点に感銘を受けた。

 なお、本製品は先日、ライセンス開始が発表された動的メタデータ付きHDR映像規格「HDR10+」にも対応している。愚直に“正確な表現”を負いながら、普段使いの画質も改善したFZシリーズはOLEDテレビの台風の目となるかもしれない。

HDR10+に対応

プロジェクタや普及価格のテレビで画質向上「HDR Optimizer」。Alexa対応も

 一方、「DMP-UB820」および「DMP-UB420」に搭載されるHDR Optimizerと呼ばれる新機能は、上位モデルほどの高輝度、高コントラストを実現できない普及型テレビでもHDRコンテンツを楽しめるようにする工夫である。なお、この機能以外にも、Amazozn AlexaやGoogleアシスタントによる音声コントロールにも対応予定で、動作速度、ディスクの認識速度などで、従来機を大きく上回るパフォーマンスを実現しているとのことだが、ここではHDR Optimizerについて話を進めよう。

HDR Optimizerの効果

 HDR OptimizerはHDRコンテンツに収められている輝度情報を瞬時に分析し、あらかじめプレーヤーに設定しておいたディスプレイ輝度のレベルに合わせて、トーンマッピング、つまり実際に表示するディスプレイの明るさに再割り当てを行なう機能だ。

 この機能を利用するために、接続しているディスプレイが表示できる最大輝度のレベルを大まかに(高・中・低など)設定しておく必要があるという。また、通常ダイナミックレンジのディスプレイで表示するための”SDR変換”でも、この機能は利用可能だ(ただしSDRの場合、色再現域はBT.2020からBT.709に変換される)。

 HDRコンテンツの多くは1,000nits程度までをリニアに表現できるディスプレイ(具体的にはHDRグレーディング用マスターモニターとして使われていることが多いソニーのBVM-X300)を目安に作られ、これを撮影監督や映画監督などが確認しているが、実際のテレビが業務用モニターと同等の性能を持っているわけではない。

 このため、たとえば600nitsまでしか表示できないテレビの場合、高輝度部分はロールオフ(徐々に輝度を押さえて表示する処理)させながら表示する。ところが、ロールオフを行うとRGB値の値が明るくなるほど近付く。つまり、高輝度では色が薄くなってしまい、また表現しきれない輝度領域はサチュレーションを起こし、ディテールが飛んでなくなってしまう。

 そこで映像内容を分析しながら、ディスプレイが再現できる性能の範囲内で、見えるべき階調を見せてやろうというのがHD Optimizerだ。実際にオン/オフを切り替えると、ハイライト部の階調や色がきちんと見えてくる。

HDR Optimizer OFF
HDR Optimizer ON
HDR Optimizer OFF
HDR Optimizer ON

 このように書くと、低価格テレビを対象とした機能に思えるかもしれないが、実際にはどんなテレビでも、HDRコンテンツの“すべての情報”は再現しきれない。あくまでもディスプレイ性能を最大限に引き出し、“見えなかったもの”を見えるようにするものであるため、あらゆるディスプレイに対して極めて効果的と感じた。

 また、実際には組み合わせていないが、光出力に限りのあるホームプロジェクターにおいては、HDRコンテンツ再生品質改善に大きく寄与するのではないだろうか。日本向け製品への搭載が待ち遠しい。

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。  AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。  仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。  メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」も配信中。