本田雅一のAVTrends

IFA特別編:「パナソニックが一番に3D対応製品を揃える」

-宮田AVC副社長に聞く、これからの3D製品展開



 パナソニックにとって、欧州は北米以上に大切な市場だという。EU圏ではプラズマテレビの43%、コンパクトデジタルカメラ市場で21.1%といったナンバーワンの数字を残しているほか、ドイツではHDカムコーダの36.8%をはじめ、DVDレコーダ、Blu-rayプレーヤーといった分野でソニーを凌ぐシェアを獲得しているという。それゆえ、欧州で最大の家電展示会となるIFA 2009は大切なイベントだ。

 そのIFA2009で、パナソニックがもっとも力を入れて訴求しているのが3D映像技術だ。いや、パナソニックブースはデジタルカメラなど一部を除き、ほぼ3D一色という印象さえ受ける。

 先日、ソニー会長兼社長のハワード・ストリンガー氏が2010年、ソニーが持つ全製品・サービスの分野が3Dに向けて展開すると話したが、同じコミットメントはパナソニックがすでに出していたものだ。


■ 「パナソニックが一番で3D対応製品をラインナップする」

パナソニックAVCネットワークス社 上席副社長の宮田賀生氏

 プレスイベントを終えたパナソニック常務役員でAVCネットワークス社上席副社長の宮田賀生氏は「実用性の高い高品位な3D映像技術を投入するタイミングは、パナソニックが一番となるでしょう。3D製品立ち上げ時点では3D放送がありませんから、コンテンツを再生させるBDプレーヤー(あるいはレコーダ)とテレビに3D対応製品をラインナップすることになります」と話した。

 言葉は穏やかだがパナソニックのAV部門全体が3Dに向いて、誰になんと言われようとも価値を創造してやるという意気込みが伝わってくる。“ウチが一番乗りになる”とハッキリ口にするのも、家庭向け3D映像の技術に先鞭を付けてBlu-ray DiscやHDMIの規格を3D対応にするためにリーダーシップを取ってきたという自負があるからに違いない。

 今回のIFAでは、これまで以上に3Dを全面に押し出したブース構成を採っている。たとえば、制作パートナーとして参加した20世紀フォックスの新作3D映画「アバター」のキャラクタを用いたポスターを会場の至る所にちりばめ、発表会にはアバターのプロデューサーであるジョン・ランドー氏がやってきて、パナソニックの3D映像技術を褒め称えた。

 宮田氏は「ハリウッド研究所を通し、映画スタジオと共同歩調を取りながら、撮影から編集、オーサリング、プレーヤー、それにテレビとバリューチェーンの端から端までをカバーできるのがパナソニックの強み」と話す。

 実際、アバターの監督(というよりもタイタニックやターミネータの監督という方がわかりやすいだろうか)であるジェームズ・キャメロン氏は、アバターの制作時に同社のプロフェッショナルカメラを用い、さらにデイリー編集フィルム(その日に撮影した映像のデイリー簡易編集データ)のチェックを3D対応103インチPDPの試作機で行ない、3Dでの見え具合をチェックしているという。

アバターに登場する搭乗型の二足歩行ロボットが展示されている

 ランドー氏は「アバターでは愛、環境保護、平和といったものがテーマになっているが、これはパナソニックの持つ技術とも共通する。彼らはエコの技術でも先端だ」と、単なるスポンサーシップではなく、技術やコンセプトを共有するパートナーシップであることを強調していた。

 会場にはアバターに登場する搭乗型の二足歩行ロボットが展示されていたが、これも映画撮影で使われたホンモノとのことだ。当初はレプリカを作成する予定だったが、キャメロン監督がホンモノであることにこだわったのだという。



■ 「最初の2年で世帯普及率5~10%を目指す」

 IFAというイベントはトレードショウの性格が強く、将来の新製品やコンセプトを一般にお披露目するという面では弱い。本来なら、今年これから販売する製品を強く訴求していかなければならない時に、まだ発売日も明らかにしていない3D関連にここまで徹底してブースを割くというのは異例だ。

 宮田氏は「それだけ3Dという技術には、将来のホームエンターテイメントを豊かなものにする潜在力を持っています。優れた3D映像を優れた3Dディスプレイで見ると、理屈抜きに面白い。我々としては、そうした感動をユーザーが簡単に楽しめるよう整えていく責任、役割があります」と話した。

 なぜ、ここまで強く3D技術にコミットするのか。理由は“3Dがプラズマテレビに有利”という判断があるからだ。

 「3D技術はパナソニックの持つ様々な技術を生かせます。半導体技術、放送用機器、ハリウッドでの腰を据えた映像技術の開発などですが、中でも3D向きと言えるのがプラズマディスプレイです。フルHDの3Dディスプレイを実現するには、フルHDパネルを左右の目に対し交互に別の映像を見せなければなりません。この切り替え速度を速くするため、残光特性が短くとも発光量が十分に取れる新しい蛍光材料を開発しました。応答速度が遅いと左右の目の間にクロストークが発生してしまいますが、液晶に比べるとこの部分が圧倒的に優れています。また、3D映像はサイズが大きいほど楽しめます。大画面ほどコストが有利なプラズマの良さを活かしやすい。プラズマと3Dは、技術的な親和性が高いのです」と宮田氏。

フルHDの3Dディスプレイを展開

 宮田氏は「最初の2年が勝負になる」という。最初の2年でユーザーに良い技術であると評価され、存在感を示さなければならない。「近所で3Dテレビを購入したといううわさ話が聞こえてくる程度。つまり5~10%ぐらいの世帯普及を最初の2年で目指します。これぐらいはやらなければなりませんし、価格面でも最初は上位モデルに盛り込むとしても、その後は自然に3Dテレビが家庭の中に入っていけるようにしていく必要があるでしょう」とする。

 自分たちが感じた3D映像の楽しさ、没入感。これを手頃の価格で導入してもらえるようにしなければならないし、その良さを伝えていかなければならないと宮田氏は話す。パナソニックのAV事業は、あらゆる部門が3Dという同じ方向を向き始めた。

 なお、パナソニックは欧州でのBDレコーダの発売やLUMIXの新モデルGF1(日本で発表済み)も発表したが、GF1に関しては別途、デジカメWatchで詳細をお伝えしたい。

欧州で展開する新BDレコーダやLUMIX「DMC-GF1」も発表
(2009年 9月 4日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]