本田雅一のAVTrends

有機ELテレビ時代始まる。新世代LG OLED TVに見る画質進化

 昨年(2015年)、LGは白色OLEDとカラーフィルターを用いた、RGBW画素構成のOLED(有機EL)パネル量産設備を整え、他社へのOEM供給を本格的に開始。大型液晶パネルの採算性が著しく下がっている中、彼らは大勝負をかけたのだ。

 量産技術は無理をしてでも立ち上げると、問題の絞り込みと解決ノウハウが積み上がって歩留まりが上がってくる。65~55インチという大型テレビでのOLEDパネル量産は、いよいよ軌道に乗り始めたのだろう。

 LGは13日、有機ELテレビ「LG OLED TV」3シリーズ5モデルを発表した。最上位「OLED E6P」シリーズの65型が90万円前後とまだ高価だが、最廉価のB6Pシリーズの65型「65B6P」と55型「55B6P」は、液晶テレビの1.2倍程度の価格になるとアナウンスされた。

LG OLED TV「65E6P」

 おそらくだが、B6Pシリーズならば、30万円台での有機ELテレビが入手できるのではないだろうか。高価なE6Pシリーズに関しても、かつてプレミアムクラスのプラズマテレビが100万円していたことを考えれば(画質次第では)、充分に手の届く範囲に価格が落ちてきたと言える。

有機EL/液晶テレビのラインナップ

第2世代パネルによる画質進化

 発表された機能の詳細については、本誌記事の通りだが、“新製品の仕様”よりも何よりも、本製品で注目して欲しいのは、同社の量産型OLEDパネルが第2世代となり、画質が劇的に向上したことだ。

 第1世代の製品も自発光らしいコントラストの高さなどはあったが、高画質テレビとしては勧めないレビューアが多かった(筆者もその一人だ)。しかし、第2世代パネルは長足の進歩を遂げている。ここまでの大幅な進歩は、LGのテレビ開発担当者も、欧州で同社パネルを採用しているパナソニックの開発担当者も予想していなかったと話すほどだ。

 量産第1世代のOLEDパネルに比べての改良ポイントは、大きく二つある。ひとつは暗部ノイズが大幅に抑えられたこと、もうひとつは発光効率改良でピーク輝度が伸びたことだ。前者は画質全体、後者はHDR(ハイダイナミックレンジ)を含む最新映像への対応という面で大きな意味がある。

 従来パネルの暗部表現が拙かった理由は、低輝度時の発光が不安定な上、画素ごとの発光特性が揃わないことが理由だった。このため、映画の暗いシーンなどでは背景がパタパタと見にくいノイズ状となり、またグレートーンも揃わないためランダムに色付いて見えてしまう。この弱点をカバーするため、黒側を潰した絵作りにせざるをえなかった。

 その後、実際の出荷までに少し改良が進んでいたのだが、全体に明るい絵柄は得意なものの、フルHDから4Kへのアップコンバート用LSIの世代が古いなどいくつかの問題もあった(パナソニック版は、アップコンバートや暗部補正がより追い込まれていたので、常時改良が進められていたのかもしれない)。

 発表会でのデモはLG側が用意した映像ということもあり、最暗部の詳細な画質はチェックできなかったが、これまでならば黒く潰れていた領域もきちんと再現されており、従来の弱点が大きく改善されていることは間違いなさそうだ。

 暗部の色付きも、元は低輝度時の不安定さが原因であるため、問題のないレベルにまで抑え込まれていることが期待される。やっと、OLEDパネルを積極的に選べる状況になってきたと言えるだろう。

LG OLED E6Pシリーズ

 LGによると、継続的に画質改善は続けるものの、画質面でのジャンプアップはこの第2世代が大きく、来年の第3世代は主に歩留まり向上のための改良が主になるという。言い換えれば、来年以降、65インチ、55インチに関しては、有機ELテレビがさらに身近になってくることだ。パナソニックは来年以降に有機ELテレビの国内投入を見すえており、いよいよ有機ELテレビ時代の入り口に立ったと言える。

有機ELならではのHDR画質

 一方、HDRの表現力についても大幅に上がった。従来の有機ELテレビは最大で400nitsぐらいのピーク輝度だったが、今回の製品は最上位モデルで800nitsまでの輝度を出せるそうだ。これは歩留まりを考慮してのものであるため、実力値としては1,000nits近くまで出せると見られる。

 民生用有機ELテレビの最大輝度は絵柄によって異なるため、全体が明るい場合はここまでの輝度は出せない。また、LGのOLEDパネルはRGBW画素配列のため、最大輝度時には白画素もフル発光する。白画素のフル発光はHDR映像が持つ魅力のひとつである、明部における色再現域の拡大を阻害しかねないが、800nitsまで最大輝度が上がったことで、今度は映画モードなど部屋の明るさを抑えた時の絵作りにおいて、最大400~500nits程度で余裕を持たせた画質調整が可能になる。

 400~500nitsではHDR表現ができないのでは? と思うかもしれないが、鑑賞する部屋の照明を抑えれば充分なHDR表現となる。なぜなら、OLEDは液晶よりも暗部へのダイナミックレンジが広いためである。

 明るい店頭や昼間にカーテンを開けたリビングルームなどでは、液晶テレビの方が元気よく見える可能性もあるが、カーテンを閉めていたり、あるいは部屋の照明を消して暗室で映画を楽しむ場合などは、圧倒的に今回のLG製OLEDパネルの方が良く見えるだろう。

 HDRの映像は、UHD Blu-ray Discとして今年6月ぐらいから国内でも立ち上がる見込みの他、BS衛星を用いた4K実験放送でも番組が組まれる予定だ。また、Netflixが自社撮影ドラマのHDR配信を順次始めているほか、CG制作のアニメに出資してHDR版も配信する(最初の事例としてポリゴン・ピクチュアズ制作の「シドニアの騎士」がHDR配信される)。

 液晶のようにバックライト分割によるダイナミックレンジ拡大ではなく、画素ごとに輝度を調整できるOLEDパネルだけに、より高いHDRによる画質改善効果が期待できる。

ドルビービジョン(Dolby Vision)のHDRに対応する

 ただし、前述したようにテレビとしての詳細な評価はこれからだ。

 4KコンテンツやHDR映像増加への期待が高まってきている一方、放送やパッケージ映像の主流はいまだフルHDだ。いずれ4K/HDRコンテンツが増えていくことは既定路線だが、やはりフルHDからのアップコンバートや、従来の色域(BT.709)とダイナミックレンジを、どう見栄えよく見せるか? といった、従来からのテレビに求められてきた要素、それに暗所における暗部階調の評価なども、より詳細に行ないたいところだ。

 とはいえ、パネルそのものの大幅な改良が確認できたことは大きい。やっと有機ELテレビを勧められる準備が整い、来年はさらに販売量を増やすだろう。このトレンドに、他のパネルベンダーも乗ってくるに違いない。

 ただ、一方で液晶テレビの改良も進んでいる。パナソニックの発売したDX950シリーズは、製品化までに何度か画質チェックを行なう機会があったが、液晶テレビとしては最高レベルの画質を誇っている。高価だがトータルの性能では有機ELテレビを上回る可能性がある。

VIERA DX950シリーズ

 またソニーのX9300Dシリーズ(X9350シリーズは画質が異なるので注意)は、エッジ型LEDバックライト採用で薄くスタイリッシュ、かつコストも抑えられているにもかかわらず、バックライトの多分割制御を実現した。X9400シリーズに迫る高画質を手頃な価格で入手できる。

BRAVIA X9300Dシリーズ

 東芝も気合いの入った新製品を液晶パネルで用意しているという。

 各社とも来年を見据えて有機ELテレビも発売すると予想しているが、一方で成熟した液晶パネルを用いたテレビの改良が、OLEDの改良に背中を押される形で進むことも期待したい。2000年代半ばに数多く売れた薄型テレビの買い換え需要サイクルもあり、今年はテレビの販売台数が戻って来ている。

 有機ELテレビには手が出ないという方も、液晶テレビのさらなる改良で、その盛り上がりの恩恵を受けられると思う。

本田 雅一