大河原克行のデジタル家電 -最前線-

有機EL、理美容、BtoB。パナソニックの反転攻勢

津賀社長インタビュー。「CESで見せた強み」

パナソニックの津賀一宏社長

 パナソニックの津賀一宏社長は、2013 International CESの会場において、報道関係者のインタビューに応じ、「2年連続の大幅な赤字を、3年続けるわけにはいかない。2013年は黒字を目指す」と、改めての黒字化に向けて強い意思をみせた。だが、「社員の隅々にまで、改革の意識が浸透しているのかという点では、まだ不十分である」とし、さらなる社員の意識改革にも取り組む姿勢を示した。

 また、ラスベガスで開催された2013 International CESにおいて基調講演を行なったことに触れ、「パナソニックはテレビのメーカーだけではないということを訴え、何がパナソニックであるのかということを明確に示したかった」などとした。インタビューには、パナソニック コンシューマーマーケティング ノースアメリカの北島嗣郎社長も同席した。

――今回の2013 International CESの展示をみてどう感じたか。

津賀氏(以下敬称略):サムスン、LG電子、ソニーのブースを見たが、以前のように、皆が同じ方向を向いている、というわけではないと言える。どんなアプローチを取ろうとしているのかが、各社ごとに変わりつつあると感じる。パナソニックは、BtoCの強みを、BtoB、BtoBtoCに展開していくということをポイントにしている。

 今回の2013 International CESでは、日本にあっても、米国にはなかったPanasonic Beautyの製品群や調理小物家電を持ち込み、新しさを演出している。北米市場は、マーケティング力が重要である。その点では、マーケティング力を磨く必要があると感じている。ただし、技術的に大きく負けているということはない。

パナソニック コンシューマーマーケティング ノースアメリカの北島嗣郎社長

北島氏(以下敬称略):今年のパナソニックは、テレビのパーソナライゼーションやmy Home Screenといった特徴を訴えているが、他社も同じようにパーソナライゼーションを進めている。全体的にハードウェアの革新よりも、顧客のニーズにあわせて、そこに近づいていこうという展示が目立った。

――マーケティング力の課題とは具体的になにか。

津賀:一言でいえば、パナソニックは、海外の人の声をもっと素直に聞く会社にならなくてはいけないということである。これまでは、日本、もしくは門真中心でマーケティングを行なってきた。このカルチャーを変えないと海外では成功しない。すべての地域というわけではないが、まだまだ海外の声を素直に聞く事業構造になっていないところがある。

 投資の配分についても、マーケティングに関する配分が、必ずしも適切でないところもある。門真にいても、マーケティング力はつかない。マーケットの近くでないと駄目。しかも、単に流通のいうことを聞いて右から左に流すだけではマーケティング力はつかない。自分たちの仮説をベースにマーケティングをしていかないと、マーケティング力とはいえない。日本においては、白物家電事業でかなりのマーケティング力を蓄積している。新たな価値を持った高価な製品をたくさん売っている例がある。これを世界中に展開していきたい。

――2013 International CESで展示した理美容製品のPanasonic Beautyや、調理小物製品のBreakfastシリーズは、北米市場向けにおいてどんな役割を果たすのか。

北米市場向けにPanasonic Beautyをアピール

津賀:事業の伸びしろを考えたときに、白物家電の領域はまだ成長させることができる分野だと捉えている。エアコンのグローバル展開を強化し、単価が大きなメジャーアプライアンスの工場をインドやブラジルに新たに展開している。そうした中で、北米市場向けに、Panasonic Beautyを導入するのは重要なことである。ただ、冷蔵庫のような分野で、パナソニックの製品が、北米のユーザーのニーズに刺さるのかというと疑問である。それよりも、Panasonic Beautyの方が刺さりやすいと個人的には思っている。まずは、刺さりたい、刺さりやすいと思う製品に対して、プライオリティをつけて展開していく。

――今回の2013 International CESでは、津賀社長自らが基調講演に登壇した。その狙いはなにか。この講演と、大幅な赤字を計上している点は関係があるのか。

津賀:赤字計上と基調講演にはまったく関係がない。直接結びつける必要はない。しかし、こういう機会はなかなか得難いものであり、パナソニックでは2004年に大坪(=大坪文雄会長)が、2008年には坂本(坂本俊弘元副社長)がそれぞれ基調講演を行なっており、4年というサイクルを考えれば、昨年がそれに当たっていた。

 しかし、パナソニックでは、2012年を最終年度とした中期経営計画「GT12」を推進していたため、タイミングが悪いということもあり、今年この話を引き受けた。業績が悪いこと、転換期に来たというのは事実であり、逆に言えば、パナソニックはどんな方向に行くのか、我々のDNAはどこにあり、強みの源泉はどこに作っていくのかということをもう一度考え直して、社内外に発信するいい機会であるともいえる。むしろ、業績が悪いときにこそ、こういうことをしっかりやる必要がある。

――その狙いは達成できたのか。

津賀:基調講演の自己採点は難しい。どう受け止めるのかは各者各様である。ただ、パナソニックはテレビメーカーであり、そのテレビ事業で苦しんでいるから、業績が悪いという単純なものの見方が多いのに対して、パナソニックの本当の姿はこれであるということを正しく伝えたいと考えた。そして、パナソニックの社内においても同じ見方があるため、同様に社内に向けても発信したいという意味もあった。

 パナソニックは家電メーカーであるという意識が強い。しかし、実態は家電の売上高構成比は3分の1であり、北米市場における家電比率は20%を切っている。しかも、テレビよりも、白物家電の構成比率の方が高い。マクロでみて、「なにがパナソニックなのか」ということを正しく伝える必要がある。その時に、「パナソニックはいろいろとやっています」では意味がない。そうではなくて、コアとなる部分については、筋を通して徹底的にやっていくというメッセージを出す必要がある。

 パナソニックは、お客様にフォーカスし、人の暮らしにフォーカスを当ててきた会社であり、それをエンジニアリングによって実現してきた。強みは家電事業であり、人のくらしに直結する部分である。そして、お客様をよく知っていることが強みである。そこにフォーカスを当て続けていく。しかし、お客様にお役立ちをするという観点では、BtoCであるとか、BtoBやBtoBtoCといった差はない。パナソニックは、インフラ事業のようにお客様に見えないものをやっている企業ではない。共通しているのは、お客様のくらしに近いところでお役立ちするということである。それが、家電という家の中のお役立ちだけでなく、自動車の中であったり、飛行機の中であったり、様々な公共スペースにおいても実現されることになる。また、今後伸びるサービス業に対しても貢献できるということをしっかり示したいと考えていた。

CESのパナソニックブース

 私は、2012年2月の社長指名以降、4月に本社に来て、6月末に社長に就任したが、巨大なパナソニックという会社では、役員であっても会社の全貌を理解することはできなかった。組織としてもわかりにくい環境にあったといえる。

 トヨタなどの自動車メーカーは巨大な企業であっても、事業がマトリックス上に整理されている。パナソニックは、それとは大きく構造が違い、わかりにくさがあった。そこで、わかりにくい姿を、わかりやすい姿に変えていくことを目指した。社員が、パナソニック全社のマクロの姿と、各事業のミクロの姿の両方を見ながら、これらを繋げていくという発想が重要である。それを今やっている。

 ミクロで見れば、利益が出ている事業もあれば、赤字の事業もあるが、マクロでみれば赤字となる。しかし、マクロだけを見ているとミクロの良さが見えなくなる。そして、我々の強みはミクロが組み合わさったマクロにある。そうしなければ大きな組織を維持していく必要がない。マクロとミクロをどう見ていくのかが、就任以来の改革の根本であり、基本である。小さな本社、ドメインを4つのカンパニーにくくり直す、機軸はミクロのビジネスユニット主体の責任経営に置く、海外の事業軸を強化する、BtoCだけでなく、BtoB、BtoBtoCのバランスをとりながら、そのなかでシナジーを打ち出していく。

 こうした戦略はすべてミクロとマクロのバランスの中で考えている。大きな会社であることの強みと、マクロの強みをいかに結びつけていくかが、私の発想になる。今回の基調講演でもそのあたりを感じてもらえたのではないだろうか。たとえば、有機ELの技術は、単にテレビのためだけに開発しているものではなく、様々な分野に生かせる技術だといえる。そこに我々のチャレンジがある。

――BtoBでは具体的にどんな成果があるのか。

津賀社長

津賀:この点は基調講演でも話をしたが、自動車産業や航空機産業などが代表的なものだ。こうした産業では、我々が貢献できる産業構造が出来上がっている。自動車産業は、家電産業以上に大きな産業である。パナソニックは、その大きな産業規模と構造があるからこそ、安心して投資ができる。自動車メーカーになるつもりはないが(笑)、そこに向けたパナソニックの技術があり、自動車メーカーと長期間に渡ってビジネスをやってきた信頼関係もある。

 同様に航空機産業についても長年の信頼関係がある。航空機産業にも貢献できる産業構造があり、産業の成長性もある。例えば、航空機産業向けには、大陸横断時に、衛星を利用したワイヤレス通信システムを提供することにフォーカスしている。その一環としてインターネットが利用できる、携帯電話が利用できるというサービスの提供に協力している。そのため、ワイヤレス事業の会社にも出資している。航空機会社は、一番最初にこうしたサービスを提供したいと考えており、そこにパナソニックは協力している。

 BtoBの事業においては、それぞれにどんな産業構造があり、その産業において、我々の的射度がどのぐらいあるのか、どんな位置づけを担うことができるのかということを見極める必要がある。BtoCも同様であり、家電産業において、我々のお役立ちができるのはどの部分かという見方に変えていけば、盲目的に家電事業をやるということはなくなる。お客様へのお役立ちはどの産業でもできると考えている。

――BtoB事業において、パナソニックの強みはどう発揮されるのか。

津賀:家電メーカーは、韓国も、日本も同じメーカーのように見えるかもしれないが、持っているものは全然違う。家電やテレビでは、各社のコンペティションがあるが、違う強み、違う資産に裏づけされているというのも事実である。パナソニックはBtoB市場での取り組みが強みであり、スピード感を持って、パナソニックが持っている強みをすべて生かし切り、お客様を明確に特定していくことで、必ず勝てると信じている。

 私自身、オートモーティブ事業を3年間担当し、自動車メーカーの電気自動車関係のビジネスにも携わったが、ここで感じたのは、オートモーティブ事業と白物家電事業はまったく関係がない事業ではないということだ。一見するとまったく違うビジネスのようにみえるが、仮に、電気自動車向けの冷暖房のために電動エアコンを開発しようとしていも、どこでもできるわけではない。パナソニックの白物家電の技術をうまく生かせばいいものができる。バッテリーのチャージャーや、プラグインの電圧変換の技術のベースにも、IHコンロの技術が活用されている。

パナソニックが掲げる「エコ&スマートソリューション」

 パナソニックが目指す「エコ&スマートソリューション」の、エコの強みは白物家電や住宅事業にある。ここで培ったノウハウをBtoB展開していけば車載製品へも適用することができる。これらの技術と、パートナーとの深い繋がりがあれば、パナソニックの強みはどのメーカーにも負けないものになると信じている。

 自動車の系列メーカーには、特定の領域に向けて展開している企業があり、こうしたメーカーの方が自動車メーカーのニーズに刺さっているケースが多い。しかし、パナソニックが持っている技術はこうしたメーカーとも違うため、どんな形で刺さっていくのかを考える必要がある。持っている強みの広さでいえば、我々の方が広い。パナソニックの強みは間違いなくある。他社と同じ戦略、同じ土俵でビジネスを行なうというわけではなく、我々が持つユニークなものを生かすことが必要である。

 ただ、明確にしたいのは、テレビ事業が赤字だから、テレビをやめてBtoBだけをやるということを言っているのではないということ。もし、テレビ事業をやめるのならば、今回の2013 International CESで、56型の有機ELディスプレイは出さない。

――BtoB領域では、IBMやゼネラルモータース(GM)との提携も発表しているが、この狙いはなにか。

津賀:IBMとの提携は、研究開発フェーズにおける協業であり、ここに両社の強みを生かしていく。パナソニックが持つ、白物家電、健康家電、テレビといったネットワークに接続できる機器と、IBMが持つビッグデータの仕組みとを結びつけて、どんなことができるのかを一緒に考えていくことになる。一方で、ゼネラルモータースとは、これまでにもビジネス上の付き合いが長く、GMが様々な挑戦を行うなかで、パナソニックがどこに協力できるかという点を考えたものである。これは研究開発フェーズではなく、ビジネスベースでの提携となる。

 パナソニックは、これまでは完成品を提供し、お役立ちすることをビジネスの中心にしてきたが、産業構図が変われば、別のお役立ちで貢献することもできる。IT分野においても、データセンターに対してどんな貢献ができるのか、デバイスでは、強いモバイルデバイスを活用していかに貢献できるのかといった考え方も出てくる。産業構造を意識しながら意思を決定していく必要がある。

 完成品をやらないとブランドイメージが向上しないというのではなく、どんな形においても、お客様にどんなお役立ちができるのか、ということを考えていかなくてはならない。そうでなければ、収益もなにもない。完成品を作らなくてはお役立ちができないという発想は正しくない。完成品が唯一の貢献ではない。事業が置かれている立場を客観的に見て、そこでパナソニックが持っているアセットにはどんな強みがあるのか、それを生かすにはどんなことができるのか。そうした思考の結果が、様々な成果につながっていくだろう。

――津賀社長は、2013年の年頭所感で、「反転攻勢の1年にする」としたが、その意味はなにか。

津賀:2年連続での大きな損失を出しており、3年連続での赤字は許されない状況にある。ボトムラインを黒字に置くというのは、3月に発表する予定の中期経営計画を待つまでもなく当然のこととなる。いまのところ資金繰りは回っており、資金面では問題がなく、会社の存続についての不安も早急な問題ではない。課題は、事業をいい方向へ持っていけるかどうかにある。中期経営計画では、事業を3年、6年という単位で見たときに、いい方向に行けるのかどうかが重要になる。マクロ(=パナソニック全体)に見て、いい方向にいくのか、ミクロ(=各ビジネスユニット単位)に見て、適切な方向に行けるのかをしっかりと見極める必要がある。

 私は、社長に就任以来、“スピード感”を持った経営を心がけ、様々な経営体制の改革、小さな本社への改革、各カンパニーの改革などを打ち出して来た。しかし、この間に業績が回復しているのかというと、まだスピード感を持った改革はできていない。私がやるべきことは、マクロなパナソニックと、ミクロなビジネスユニットをどう繋ぐのか、パナソニックの強みはなにか。これをどこに向けていけばいいのかということであり、これらを見える化する部分にはついてはかなり進んだ。タブーなしでやってきたため、社内外に迷惑をかけた部分もある。

 ただ、本当に社員の隅々まで、改革の意識が浸透しているのかという点では、まだ不十分であると思う。社長の立場では、業績や経営状況の悪い面ばかりが見え、その改革に手をつけることが優先されるが、一般の社員にすれば、悪い部分ばかりを見ていては元気にはならない。そんな環境では、新たなチャレンジをするということにはならない。「反転攻勢の年」という言葉のなかには、すぐに結果で出なくても、明るい発信をどんどんしていこうということが含まれている。

公開された56型、4K有機ELパネル。印刷方式を採用しているのが特徴

 その第1弾が、今回のCESでの基調講演であり、基調講演にあわせた形でしつらえたブース展示である。CESは、パナソニックのポジティブな面を表に出していくという狙いがあった。有機ELでは、韓国メーカーに負けているといわれるので、今回の発表によって、そんなことはないという点をお見せしておきたかった(笑)。

――今回発表した有機ELディスプレイは、テレビとしても展開することになるのか。

津賀:有機ELは、小型のスマートフォン向けの世界では実用の域に来ているが、テレビなどの大型向けでは技術開発や生産面で、まだまだ改善の必要性があるのは各社に共通したものである。各社それぞれの強み、方式があるなかで、パナソニックは印刷方式にこだわってやってきた。すでに開発をはじめて、6、7年という期間を経ているが、今回のCESのブースでも、我々としては素晴らしい画質の4Kの有機ELディスプレイが見せることができたと考えている。

 有機ELの特徴を生かそうとすれば、ディスプレイの技術だけに留まらず、コンテンツの進化も重要である。いま、日本のテレビ放送のコンテンツを、有機ELに表示しても、ディスプレイの方が勝り、コンテンツが負けてしまう。私自身、新たなディスプレイの技術を進めるときには、ディスプレイ技術にふさわしいコンテンツやアプリケーションを整えることが健全な発展につながると考えている。その点では、まだまだ技術やコンテンツは開発のフェーズにあり、我々は急ぐ必要がない。

 実用化については、そんなに急いでも仕方がない。パナソニックは兵庫県の姫路工場に、5.5世代の設備を持っており、ここで56型のパネルを1枚取りしている。まずは個人用のテレビではなく、業務用ディスプレイからスタートしたい。個人用のテレビとしての展開は、液晶ディスプレイに対して、コスト的な競争力を持てるようになってからだ。そのためには、第8世代以上の生産設備が必要となるが、そこへの大きな投資には踏み出せないし、まだ早いと思っている。

 有機ELの量産化については、ソニーと協業を進めているが、私がBlu-rayを担当していたときや、DVDの後期においては、ソニーと一緒に仕事をした経緯がある。日本のメーカー同士が手を握りあって、より良いものを作っていくということは非常に重要なことである。今後も力を入れてがんばりたい。ただし、各々が持っている強みがあってこそ、一緒になって強くなる。ソニーの強みと、パナソニックの強みを生かしていく。その点において、パナソニックの象徴的な技術が印刷方式ということになる。

――3月に発表する中期経営計画とはどんなものになるのか。

津賀:現在は策定段階にある。パナソニックは、約50のビジネスユニットを持ち、事業を推進している。これらのビジネスユニットを分類すると、「ピークを過ぎた事業」、「上り坂の事業」、「安定的な事業」の3つのタイプに分けることができる。それぞれの事業の組み替えにおいて、右肩下がりの事業に対しては、その状況をきっちりと認識した上で、どうしていくのかという適切な手段を講じていくことになる。

 そのため、事業ごとの手の打ち方は、一概にはいえない。たとえば、デジカメ事業はそれなりの競争力を持ってはいるが、やはり弱みもある。技術的にはそこそこのものを持っているが、カメラメーカーとしての生い立ちではないため、カメラメーカーとしてのマーケティング力が弱い。現状を再認識しながら、どうしていくのかを中期計画のなかに盛り込んでいきたい。

 マクロを捉えて方針を出しても、ミクロにどうしていいかがわからないと実行に移せない。最初にミクロから見ていくことが大切である。その結果がマクロの規模感になる。

――テレビ事業の収益改善のポイントはなにか。

津賀:テレビの収益改善には様々に方法があり、その合わせ技になる。

 ひとつの決め打ちで取り組めば、収益が大きく改善をするというものが見えているわけではない。従って、テレビの収益改善に向けては、様々な角度から改善に取り組んでいく。

 その挑戦の中で、サービスは間違いなくやらなくてはならない領域であると認識している。ハードウェアの価値と、サービスの価値を考えれば、米国はサービスの価値が高い国である。有料コンテンツにお金を払い、ハードウェアは標準化して安いものでいいという発想がある。日本はこの逆で、かつてのDVDでもレコーダというハードウェアにお金を払い、サービスは無料放送中心という仕組みとなっている。

 世の中全体はどっちに行っているかというと、間違いなくサービス中心に行っている。先進国化が進めば、さらにそちらの方に進む。その点で、米国は日本に先行している。米国においても、日本においても、サービス化が進むことになる。ということは、そこに金が流れるわけで、金の流れという観点からみれば、サービスによる収益改善は大きな手立てになるかもしれない。

 ただ、サービスで改善したら、全体の赤字が黒字になるのか、という絶対値の大きさの話もある。赤字を消していくためには、事業規模が大きいハードウェアの工夫もしなくてはならない。そうした組み合わせが重要である。

 サービスで収益をあげるには、すべてのテレビがネットワークにつながっている必要がある。出したテレビの10%しかネットワークにつながっていない状況ではサービスで価値をあげることは難しい。ネットワークの接続率をあげていくこと、どんなアプリケーション、どんなキラーコンテンツでつないでいくのかということを明確にしていくことが重要である。サービス事業は、やる価値がある事業である。サービスの幅を広げることで、お客様のテレビに対する期待度があがる。

 私は、朝起きたら、テレビをつけてニュースを聞きながら、さらにPCを立ち上げて新聞の電子版を読み、朝食を食べる。なぜ、2つのデバイスの電源を入れるという効率の悪いことをしなくてはならないのか(笑)。シンプルで見やすいもの、動画コンテンツが見られるものがあれば、私のくらしは豊かになる。

テレビに、ユーザーにマッチしたホーム画面が表示される「my Home Screen」

 ひとつの端末の電源を入れただけで、私に来てほしいサービスがやってくるといったものを期待している。テレビをつけたら、そのときにたまたま流れているコンテンツを視聴するというは、効率が悪いことでもある。

北島:米国では7割以上の家庭にケーブルテレビが来ており、ユーザーの多くが、テレビにネットワークを接続している状況だ。北米市場でIPTVの需要が高い理由はそこにある。パナソニックのテレビ事業もこれをターゲットにしなくてはならない。VIERA Connectや、今回発表したmy Home Screenは、サービス提供への取り組みの象徴的なものである。

――ソニーは、音楽や映画といったコンテンツを持っているが、パナソニックは自前で持つことも考えるのか。

津賀:ソニーとは違う別次元でのシナジーを考えている。パナソニックは、かつてMCAを買収したことがあったが、そうした戦略を取るつもりはない。新たな戦略を進めるときに、我々が主体的に進めたいのであれば、パートナーシップ戦略となる。また、買収があったとしても、それは単なる音楽、単なる映画という既存型ではなく、新たなタイプのコンテンツである。そうしたところにこそ、新たな価値が生まれると感じている。既存型のコンテンツを手に入れるということは考えていない。

大河原 克行

'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、20年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウドWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp (アスキー・メディアワークス)、ZDNet(朝日インタラクティブ)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下からパナソニックへ」(アスキー・メディアワークス)など