藤本健のDigital Audio Laboratory

第738回

“ヤオヤ”復刻リズムマシン「TR-08」を使う。Roland Boutiqueなど秋の新製品

 ローランドは、9月14日に「2017秋の新製品発表会」を開催。ビンテージ機材を復刻させたRoland Boutiqueシリーズをはじめ、ステージキーボード、DJ機器、電子ドラム、モニタースピーカーなどさまざまなモデルが発表された。中でも多くの人から注目されていたTR-808の復刻版「TR-08」を中心に、今回の新製品発表会の内容をレポートする。

Roland Boutiqueシリーズの「TR-08」

復刻のRoland Boutiqueシリーズをチェック。オリジナルとの違いは?

 ローランドでは、毎年春と秋に新製品発表会を行なっているが、今年の秋の発表会ではBOSSブランドで4製品、Rolandブランドで15製品が登場した。ここには全国の楽器店から店員、バイヤーなどが集まり、プレゼンテーションが行なわれると同時にミュージシャンによるデモ演奏などが行なわれた。そのプレゼンテーションの中では、比較的サラリとした扱いであり、デモ演奏もなかったが、展示品に多くの人が集まり、筆者個人的にも興味があったのがRoland Boutiqueシリーズだ。

発表会の模様
Boutiqueシリーズなど様々なモデルが登場した

 Roland Boutiqueシリーズは2年前、2015年10月に発表されたシリーズ製品で、昔のローランド製品を最新技術で復刻させるというもの。そして、いずれも約300×128×46mm(幅×奥行き×高さ)という小さなサイズ(製品によっては多少前後するものもある)のガジェット的な製品にまとめられているのが特徴。これまでにJUPITER-8を再現させたJP-08、JUNO-106を再現させたJU-06、JX-3Pを再現させたJX-03をはじめ、TR-909の復刻版TR-09、TB-303の復刻版TB-03、VP-330の復刻版VP-03など、まさに往年の名機がリメイクされてきたのだが、今回待望のTR-808の復刻版TR-08が登場するとともに、SH-101を再現するSH-01A、D-50を再現するD-05のそれぞれが発売されることになった。

 多くの方がご存知の通り、TR-808、通称“ヤオヤ”は、現在のEDM、テクノ、ハウス、エレクトロ……と呼ばれる音楽ジャンルにおいて必要不可欠ともいえるドラムマシン。もともとTR-808は1980年にローランドが発売したアナログのドラムマシンであり、当時15万円という価格で販売されていたものだ。

オリジナルのTR-808

 1980年代はまさにデジタル化、サンプリングブームが押し寄せた時代。筆者も完全デジタル音源として発売されたばかりのTR-707に飛びついたりもしたが、やはり主流はTR-808のようなアナログ機材からサンプリングタイプのドラムマシンへと移り変わっていった。

 ところが、90年代に入ってからTR-808がダンスミュージックで利用されるようになったことで、再評価されるようになり、他社からもTR-808をサンプリングした音を収録した製品が数多く発売されるようになった。さらにはPropellerheadsのReBirthのようにソフトウェア的にTR-808をエミュレーションするような製品も登場し、TR-808はこの音楽ジャンルにおいて絶対的な存在へと昇華していったのだ。その結果、オリジナルのTR-808は貴重な機材として人気が集まり、2000年代に入ってからは中古市場が高騰、現在では30万円程度で流通するようになっている。

 そのTR-808は、ローランドが2014年に出したAIRA TR-8において、現在の音楽シーンにマッチさせた新楽器として復刻されていた。しかし、今回改めて見た目のデザインも昔のままに、ミニチュア版のような形で再登場させたのが、Roland Boutique TR-08というわけだ。

'14年モデルのTR-8
往年のデザインを継承して登場したTR-08

 オリジナルが鍵盤搭載のシンセサイザの場合、Roland Boutique本体にK-25Mというミニキーボード搭載のドックを組み合わせて使う形になっている(MIDIやUSBで接続することで本体だけでも使えるが)のに対し、TR-08はドラムマシンであることもあり、本体だけで使える。ただ、本体だけだと強度的に弱いことなどもあり、鍵盤がないドックのDK-01が付属しており、2段階のチルトアップも可能となっている。この点は昨年登場したTR-909を復刻させたTR-09と同様だ。

ドックのDK-01が付属
フラットにした状態
2段階のチルトができる
TR-09(左)とTR-08(右)

 また、microUSBからの電源供給でも動作するが、単3電池4本でも駆動可能で、内蔵スピーカーで鳴らすこともできるため、手軽に遊ぶことができる。ただ、だからといってこれをオモチャと思ってしまうのは早計。まず、このTR-08はAIRA TR-8と同様、完全デジタル機材ではあるが、ローランド独自の技術ACB(AnalogCircuit Behavior)によって、昔のTR-808のアナログ回路の1つ1つを部品レベルにまで掘り下げてモデリングしたうえで、オリジナル・ハードウェアのディテールや癖まで再現した機材。その意味では、まさにアナログそのものといった性能を持った機材なのだ。

単3電池4本でも駆動
スピーカーも内蔵

TR-08を使ってみた

 今回、発売前のTR-08を借りることができたので使ってみた。メイン出力をモニタースピーカーに接続した上で、音量を上げた状態で鳴らすと、内蔵スピーカーでの印象とはまったく異なるものになってくる。特にTR-808特有のキックの迫力やカウベルやハンドクラップのサウンドもいい感じに目立ってくる。それぞれの操作がすべてこのTR-08の盤面で行なえ、自分でプログラムしてオリジナルのリズムを簡単に作り、パラメータをいじって音色を変化させることもできる。Hi、Mid、Lowのコンガとタムが切り替えの排他制御になっていたり、クラベスとリムショット、マラカスとハンドクラップが切り替えになっているのもオリジナルと同様だ。

 リアを見てみると、ヘッドフォン出力、メイン出力、ミックス入力がそれぞれステレオミニで、またMIDIの入出力が用意されている。手元にTR-808の実機があるわけではないので、比較しにくいのだが、これはかなり簡略化されている。

背面の入出力

 TR-808の場合、それぞれの音源をパラで出力することができるため、スネアにゲートリバーブ、キックにコンプ、ハイハットにEQなど、個別にエフェクトをかけて音作りをすることができたが、TR-08だと、2mixされた状態でメイン出力から出てきてしまうため、そうしたことができない。そこで、TR-08にはUSBという新兵器を搭載した。Windowsに接続すればASIO、MacならCoreAudioのデバイスとして認識することができ、PC側から入力を見てみると、ミックスされたTR-08のメイン出力がステレオで入ってくるほか、計10chのモノラル信号ができている。これらを別々のトラックに入力し、そこに各種エフェクトをかけていくことで、TR-808と同等のことができ、しかもそれらをプラグインエフェクトでこなすことができるという仕様になっている。

PCからみた入力画面
個別のトラックに入力し、エフェクトをかけられる。プラグインエフェクトにも対応

 ちなみに、TR-08は44.1kHzまたは96kHzの2種類のサンプリングレートで動作する仕様になっているが、Roland Boutiqueシリーズの場合、内部的には44.1kHzで動作しているため、96kHzを選んだ場合には、強制的なサンプリングレートコンバートがかかることになる。一方、出力は2chのみとなっている。

TR-08の対応サンプリングレートは44.1kHzまたは96kHzの2種類
出力は2ch

 このように、本家であるローランドが自ら復刻させたTR-08、かなり人気を集めそうだが、ほかのRoland Boutiqueシリーズと同様に数量限定生産となるため、早い者勝ちとなる可能性もありそうだ。ちなみに発売は9月29日の予定で、オープン価格だが、実売で50,000円程度(税込)になる模様だ。

フルデジタルシンセ「D-05」など他にも注目機が続々

 同時発売のRoland Boutiqueシリーズとしては、前述の通り1982年発売のモノフォニックシンセ、SH-101を復刻させたSH-01A、そしてD-50を復刻させたD-05も登場する。SH-101はもともとあったシルバーに加え、限定色のブルーとレッドがあり、希少モデルとされていたが、今回のSH-01Aではこの3色がすべて登場。このうちシルバーのSH-01Aのみが9月29日発売で、ブルーのSH-01A-BUおよびレッドのSH-01A-RDは10月28日の発売、いずれもオープン価格で、実売は50,000円程度(税込)。

SH-01A
SH-01A-BU
SH-01A-RD

 もう一つのD-05は1987年発売のローランド初のフルデジタルシンセ、D-50を再現させたもの。LA(LINEAR ARITHMETIC)方式と呼ばれたこの音源は、その後、大ヒットとなったミュージくんの音源のMT-32やミュージ郎の音源のCM-64に引き継がれ、1つの時代を作り上げていったもの。これまでRoland Boutiqueシリーズで復刻してきたアナログ機材ではなく、D-50はフルデジタル機材なので、単にロジックを現在のデジタルで再現すればいいだけでは? と思ったが、ここで使われたのはDCB(Digital Circuit Behavior)というテクノロジー。この詳細については、まだ確認できていないが、最後のDA回路部分やアンプ回路部分まで再現している、ということなのかもしれない。このD-05も同じく9月29日発売でオープン価格、実売で50,000円(税込)となっている。

D-05

 発表会のステージで最後に披露されたのは、VR-730というオルガン、ピアノ、シンセ音源搭載で、ルーパー機能を持ったV-Comboシリーズの73鍵モデル。こちらは、9月29日発売で168,000円前後(税込)。デモをビデオで撮影することができ、なかなかカッコよかったので、ご覧いただきたい。

VR-730のデモ
その他にも様々な製品が発表された。写真はステージキーボード
DJ機器
電子ドラム

 そのほかに気になった機材としては、かなり久しぶりに登場したモニタースピーカーのMAシリーズ。今回登場したのは、いずれもウーファ8cm、ツイータ2cmで出力20Wという小さな機材で、Bluetooth接続機能付きのMA-22BT(9月23日発売、25,000円前後)とBluetoothなしのMA-22(9月23日発売、20,000円前後)の2種類。サイズ的にいうとモニタースピーカーというよりもPCスピーカーという感じだが、小さなPCスピーカーで、モニター的に使えるいい製品はあまりないので、ぜひ改めてチェックしてみようと思っている。

MA-22BT
MA-22

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TR-08
SH-01A
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D-05

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto