藤本健のDigital Audio Laboratory
第805回
コンデンサ型で1.5万円を切るUSBマイクを試す。96kHz/24bit対応の実力は?
2019年4月15日 10:15
録音やライブ配信向けで、96kHz/24bit対応のUSBコンデンサマイクがサンワサプライから発売された。USBコンデンサマイク自体は、最近いろいろなメーカーから出ているが、その多くは48kHz/16bit止まりの製品も多い中、96kHz/24bit対応というのは目を引く。同社直販サイトのサンワダイレクト限定販売で、直販価格14,630円と手ごろなこともあり、製品を借りて試してみた。
高感度なコンデンサ型で、96kHz/24bitまで対応したUSBマイク
カラオケなどで使われるダイナミックマイクに対し、プロのレコーディングなどでよく利用されるラージフラムのコンデンサマイク。そのコンデンサマイクは一般的にダイナミックマイクより高感度で、繊細なサウンドまで拾うことができるが、これを動作させるためには電力供給が必要であり、壊れやすいため丁寧に扱う必要があり、比較的高価だ。
もちろん、一言でコンデンサマイクといっても、何十万円もするものから1万円以下で入手可能なものまで様々だが、従来は一般ユーザーがコンデンサマイクを使うケースは少なかった。しかし、最近はUSB接続で簡単に使えるコンデンサマイクが各メーカーからいろいろと出てきている。Shureやaudio-technica、RODE、Blue、marantz Professionalと、国内外の大手マイクメーカーも参入してきており、より手軽に使えるようになってきた。
これらUSBコンデンサマイクが通常のコンデンサマイクと異なる最大のポイントはオーディオインターフェイスが不要である、という点。一般的なコンデンサマイクの場合、ファンタム電源と呼ばれる+48Vの電量供給が必要となっており、それに対応した端子がないと動作しない。また、マイクで捉えた音は非常に微弱な信号であるため、それを増幅するためのマイクプリアンプも必要。そのため、コンデンサマイクを利用するためにはオーディオインターフェイスが必須となり、結果として、DTM系のユーザー以外はなかなか扱いづらいものとなっていた。
しかし、最近各社から出てきているUSBコンデンサマイクは、そうした問題を解消してくれる。つまりUSBからの電源供給で動作するのでPCと簡単に接続できるし、マイクで拾った音の信号もUSBケーブルでPCに伝送できるので、オーディオインターフェイスが不要だ。
ただ、各社のUSBコンデンサマイクを見ると、そのほとんどが44.1kHz/16bitか48kHz/16bitで動作するものであったため、せっかく高精度/高感度なマイクなのに、その性能を生かし切ることができなかった。そうした中、今回サンワサプライが発売した「400-MC015PRO」は、1.5万円程度と手ごろな価格でありながら、96kHz/24bitを実現している。いわゆるマイクメーカーではなく、PC周辺機器などの印象が強いサンワサプライが出しているというのが、やや珍しく感じるところでもあるが、実際レコーディングなどに使いやすいものなのだろうか?
手元に届いた箱を開けてみると、スポンジに包まれた形で、このUSBマイクは入っていた。他社のUSBマイクと異なり、スタンドもセットになっているのが、サンワサプライのこのUSBマイクの大きな特徴。
転ばないよう、かなりしっかりしたスタンドとなっており、マイクとスタンドを合わせた重量は1.03kgもある。メッシュの内側は見えなかったが、この中にラージダイアフラムが入っているのだろうか。付属品としてはmicroUSBケーブルとマニュアルが同梱されていた。
まずはWindows 10のPCにUSB接続してみたところ、あっさりと認識された。ドライバ不要で動作するUSBクラスコンプライアントなデバイスとなっているようだ。見てみると、ボトムにはmicroUSB端子とともに、3.5mmのヘッドフォンジャックが用意されており、PCからの再生音を聴くこともできるようになっている。つまり、このマイク自体がマイクであると同時にオーディオインターフェイスとなっているわけなのだ。
ただしドライバ不要で動くということは、別の見方をすると、CoreAudioで動くMacであればともかく、WindowsにおいてはASIOに対応していないので、DTM用途にはあまり向かないデバイスである、ともいえる。まあ、ASIO4ALLをインストールすることで何とかなるのだとは思うが……。もっとも、サンワサプライの商品ページを見ると「自宅でのレコーディングに」というほかに「ゲーム実況・ボイスチャットに」、「ネットラジオなどの配信に」とあるので、どちらかというとDTM以外の用途をメインに作った製品なのかもしれない。
でも本当に96kHz/24bitに対応しているのか? マイクのプロパティにおいて「詳細」を見てみると、確かに「2チャンネル、24bit、96000Hz」まで選択できるようになっている。
では、再生性能も96kHz/24bit対応しているのか? スピーカーのプロパティで確認してみたところ、なんとこちらは「2チャンネル、16bit、48000Hz」と48kHz/16bitの仕様となっていた。つまり、入出力のスペックが大きく異なるアンバランスなシステムとなっていたのだ。まあ、これはあくまでもマイクであって、オーディオ出力機能はオマケ的なものと割り切ればいいとは思うが、アプリケーションとの相性がやや気になるところだ。
さて、このヘッドフォンからの音をモニターしてみてすぐに気づくのは、PCの再生音が聴こえるだけでなく、マイクに入力された音がそのまま聴こえているという点だ。とくにPC側で何の設定をしていないのにマイクが捉えた音が聴こえるというのはダイレクトモニタリングがされているということ。PCを介していないからレイテンシーゼロでモニターできるという意味では初心者にも扱いやすい。また、このマイクには指向性切り替えダイヤルというのが用意されており、これによって「単一指向性」、「無(全)指向性」、「双向性」、「ステレオ」の4つのモードを切り替えて使うことができる。
机の上に置いて使う場合など、拾う音が真横から来る場合は、マイクが垂直に立っている状態にするのがいいが、上方向から喋るといった場合は、その方向にフロントパネルが向けられるように、角度調整が可能になっている。
ヘッドフォン出力レベルおよびマイク入力レベルは、それぞれのボリュームで調整可能になっているが、そのダイレクトモニタリングで聴いている感じでは、とても高感度で音を捉えているように感じられる。指向性切り替えダイヤルについては、電源を入れたまま切り替えることが可能で、指向性が明らかに変化することも分かる。
また、ステレオとした場合のみ、左右の差が出るが、それ以外の3つのモードはいずれもモノラルとなっている。また、一番下にあるミュートボタンを押してONにすると、上のLEDが青から赤になるとともに、マイクからの入力がミュートされる。ただしミュート状態にあっても、PCからの音はヘッドフォンに届く仕様のようだ。
スペック通りの高音質で録れるかチェック
気になるのは実際の音質。いくらスペック的に96kHz/24bitだといっても、マイクそもそもの音質が悪かったら、意味をなさない。そこで、いつもリニアPCMレコーダーで行なっているのと同じテストを、このサンワサプライのマイクでもしてみた。つまり、CDの音をモニタースピーカーから再生し、それをこのマイクで捉えるとともに、レコーディングしていく、というもの。ここではMAGIXのSOUND FORGE Pro 12を使って96kHz/24bitで録音してみた。これをほかのリニアPCMレコーダーと同様、48kHz/24bitに変換した上で周波数分析をかけた。また、44.1kHz/16bitに変換したファイルも用意しているので、聴いてみて欲しい。
【録音サンプル】
CDプレーヤーからの再生音(44.1kHz/16bitにダウンサンプリング)
400mc_music1644.wav(6.94MB)
楽曲データ提供:TINGARA
※編集部注:96kHz/24bitで録音したファイルを変換して掲載しています。
編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます
それなりにしっかり捉えているけれど、これまで連載で試したリニアPCMレコーダーと比較すると、高域があまりキレイに出ていない印象。実際グラフを見ても、19kHzあたりから、丸く落ちていて、やや不自然な感じに見える。96kHz対応を前面に打ち出すマイクであれば、もう少し高域のキレがあってもいいと思った。
では、実際どこまで高い音を捉えることができるのか? これをチェックするために、20Hz~48kHzまでを連続的に出すサイン波のスウィープ信号を作成し、モニタースピーカーから再生。これを96kHz/24bitのフォーマットで録音してみた。
直接信号を入力しているのではなく、モニタースピーカーで鳴らした音を空気を媒介して、マイクで捉えているからキレイな直線にはならないけれど、想定よりも滑らかではないようだ。ただ、23kHz辺りで完全に落ちてしまっているので、この周波数特性を見る限りでは、スペック上は96kHzながら、実際は48kHzのサンプリングレートでもあまり変わらなかったかもしれない。もっとも仕様を見ると、20Hz~20kHzとなっているので、そこにおいては十分クリアしているし、そもそもがそういうスペックの製品なので、過度な期待は禁物ということなのかもしれない。参考まで1kHzのサイン波を捉えた上で分析した結果も掲載する。
ちなみに、ASIO4ALLをインストールした上で、いくつかのDAWで動かしてみたが、多くのDAWは入力と出力を一致させるのが原則となっているため、上限のサンプリングレートが48kHzになってしまい、ソフトによっては分解能も16bitに制限されてしまう。またDAWで利用する際は、ダイレクトモニタリングをオフにしたいところだが、そうしたスイッチは見当たらず、常時オンでの利用となる。レイテンシーゼロなのはいいけれど、やや扱いづらいと感じたところだった。
一方、iPhone XSにLightning-USBカメラアダプタ経由で接続した場合は電力不足で動作しないが、USB Type-C端子を持つiPad Proとの接続であれば、すぐに青いLEDが点灯し、iPadからの音が、このUSBマイクのヘッドフォン端子から聴こえてきたので問題なく使えるように見えた。しかし、録音してみたところ、iPad Pro本体のマイクが有効になっていて、USBマイクのほうがアクティブにならない。アプリを変えたり、モードを変えたり、いろいろ試してみたものの、うまく認識されないので、仕様上、使えないということなのかもしれない。
以上、サンワサプライのUSBコンデンサマイク、400-MC015PROについて、いろいろと細かく検証してみたがいかがだっただろうか? 手ごろな価格の一体型マイクということもあり、DTM的な使い方はあまり多くを期待しすぎない方がいいかもしれない。
一方で、これを使ってゲーム実況をするとか、ネット配信をするというのであれば、まったく問題なく使えるし、Skype用のマイクなどとしても、便利に使えるはずだ。少なくとも、これまで使っていたヘッドセットや簡易マイクなどと比較すれば、断然いい音だし、高感度なコンデンサマイクだから、ちょっと離れたところから喋ってもキレイに音を送り届けることができる。また、ダイレクトモニタリング機能があるから、実際どう聴こえるのかをリアルタイムにチェックできるのも便利な製品といえるだろう。