藤本健のDigital Audio Laboratory

第929回

Windows11の新アプリ「メディアプレーヤー」検証。カーネルミキサー問題も

Windows11の新アプリ「メディアプレーヤー(Media Player)」

先週、Windows 11の新ビルド「22000.527(KB5010414)」の提供がスタートした。これに伴い、「メディアプレーヤー」と「メモ帳」の2つのアプリがアップデートしたとのこと。

とくに音楽再生ソフトとしてデフォルトになるメディアプレーヤーは、多くのユーザーに影響を及ぼすことになるアプリだが、アップデートで何か進化した点はあるのだろうか。そして、例のカーネルミキサー問題に進展はあるのだろうか。さっそく試してみた。

メディアプレーヤー

「Grooveミュージック」から「メディアプレーヤー」へ

先週PC Watchなどのニュースサイトで、Windows 11において「メディアプレーヤー」が新しくなった、という記事が出た。それによれば、前述した新ビルド22000.527とともに、デフォルトアプリも更新されたという。

所有するPCのOSビルドを確認したところ、2022年2月8日リリースの「22000.493(KB5010386)」だった。試しにWAVファイルを開いたところ、普段とちょっと見かけが異なるプレーヤーが起動した。これまでは「Grooveミュージック」がデフォルトプレーヤーだったはずだが、ウィンドウの左上を見ると「メディアプレーヤー」とある。

OSビルドは「22000.493(KB5010386)」
従来の「メディアプレーヤー」が起動

“メディアプレーヤー”といえば、昔からのWindowsユーザーであれば馴染みの「Windows Media Player」を思い浮かべると思うが、それの新バージョンというわけではなく、今回のメディアプレーヤーはGrooveミュージックの後継なのだという。たしかにWindows Media Playerは、それとは別に今も残っているが、Grooveミュージックは存在しないようだ。

試しに、「メモ帳」の方も起動してみたところ、これは従来通りで変わらなかった。

メモ帳

せっかくなので、更新プログラムで「22000.527」にアップデート。すぐには変化が見られなかったのだが、1日経過したところで改めて起動してみたら、いつのまにか「メモ帳」も新バージョンに切り替わっていた。

更新プログラムで「22000.527」にアップデート
新しくなった「メモ帳」

機能的には大きく変わらないのだが、設定画面からテーマを選択してバックグラウンドカラーが変更できるようになっている。もっとも、筆者は「秀丸」一筋で四半世紀以上生きてきたので、今後もメモ帳を触ることはまずないと思うが、他のPCを触る際など、デフォルトのテキストエディタがもう少し使いやすくなってくれたらいいな、と思うところではある。

ライト/ダークなどのテーマ変更もできる

さて、本稿でのテーマは新アプリである「メディアプレーヤー」のチェックだ。

最新ビルドに更新後、AACファイルを開くと、非常にシンプルなデザインのインターフェイスが表れた。パッと見の印象は使いやすそうに見える。

「メディアプレーヤー」のUI

Grooveミュージックでもジャケット(アートワーク)が左下に表示されていたが、ジャケットがより大きく表示され、全体の背景にもジャケットを薄くしたものが配置されている。画面右下のアイコンをクリックすると、全画面表示やミニプレーヤー化もできる。ミニプレーヤーは数秒触らないと時間経過表示もされず、さらにシンプルなものになる。

「Grooveミュージック」のUI
「メディアプレーヤー」のミニプレーヤー
数秒触らないと時間経過も表示されない

ただこの新UIで、一つ気に入らない点がある。それは標準プレーヤーでもミニプレーヤーでも、曲の頭出しができないことだ。

標準プレーヤーの再生/停止ボタンの左右には、10秒巻き戻しスキップ、30秒早送りスキップのボタンが追加されているのだが、その隣の矢印ボタンは前の曲、次の曲に飛ぶだけで頭出しができない。Grooveミュージックでは頭出しができていたにも関わらず、更新で機能が削除されてしまった意図が分からないが、ぜひ元に戻してほしいところ。

「メディアプレーヤー」では、10秒巻き戻しスキップ、30秒早送りスキップのボタンが追加されたが、曲の頭出しができない

画面にもある通り、10秒巻き戻しスキップ、30秒早送りスキップは「Ctrl+左右キー」のショートカットでも実現できるほか、従来通り、スペースキーを使うことでも再生/停止ができる。せっかくならピリオドを押すと頭出しになるようなショートカットが追加されると個人的には嬉しい。

SteinbergのDAWであるCubaseがスペースで再生/停止、ピリオドで頭出しとなっているので、同じ操作感で使えると非常に便利だな……と思うのは筆者だけかもしれないが。

Escキーを押すと、左側にメニューが現れる

再生中の画面でEscキーを押すと、左側にメニューが現れる。

これを見ると、音楽ライブラリ、ビデオライブラリのフォルダ設定ができるようになっていて、設定すれば、多くの楽曲を検索したり、一覧表示したりできるようになる。

音楽ライブラリ
ビデオライブラリ
「音楽」の一覧表示

また再生キューを表示させたり、プレイリストの作成・管理などもできるようになっている。ここにビデオライブラリというのがあることからもわかる通り、Grooveミュージックはあくまでも音楽再生のプレーヤーだったが、メディアプレーヤーはビデオ再生もできるようだ。

再生キュー
プレイリストの作成・管理もできる
ビデオ再生も行なえる

さらに、その下にある歯車アイコンの設定ボタンを押すと、設定画面が現れた。

設定画面

ここでは前述の音楽ライブラリやビデオライブラリのフォルダ管理ができるほか、テーマ設定でダーク画面にする、といったことも可能だ。またMedia Infoという項目がありデフォルトのオンの状態であれば、アルバムのジャケットデータがないデータの場合、ネット上から探し出してくれる。ただ、邦楽だとあまり効果はなさそうではあった。

テーマをダークにした場合

画面右下にあるアイコンのメニューボタンをクリックすると、いくつかのメニューが表示される。

一番上のプロパティを選ぶと、現在選択中、演奏中のデータの情報が表示される。またイコライザーを選ぶと、9バンドのグラフィックイコライザが表示される。プリセットとしていくつかの設定が用意されているほか、「近くのスライダーを一緒に移動する」にチェックを入れておくと、一つスライダーを動かすと、周りが付いてくる仕組みになっている。

もっとも、Grooveミュージックにもパラメトリックイコライザー風UIのイコライザーが搭載されており、それと同様のものと捉えるのがよさそうだ。

右下に表示されるメニュー
9バンドのグラフィックイコライザ
「フラット」「高域強調」などのプリセットが用意されている

その一方で、従来のGrooveミュージックになく、メディアプレーヤーから搭載された機能が、速度設定だ。

0.25倍、0.5倍、1倍、1.5倍、2倍と5段階で調整できるようになっており、ビデオ再生や録音した会議内容を聴く場合などには便利そう。Windows Media Playerにも3段階での速度設定はあったが、5段階のメディアプレーヤーのほうが、より使いやすそう。

5段階の速度調整が可能

デバイスにキャストする、という機能も追加されていた。これを利用することで、DLNA対応デバイスやBluetooth接続したオーディオデバイスなどにキャストできるようになる。こうした面を見ても、Grooveミュージックよりもメディアプレーヤーは進化しているようだ。

キャスト機能も標準で備える

このメニューにもショートカットが表示されていたが、先ほどの頭出しなど、実はほかにもショートカットが隠れているのではないかと、手あたり次第に試してみた。すると、いくつか発見。

Ctrl+0でミュート、Ctrl++で音量アップ、Ctrl+-で音量マイナスとなる。またCtrl+Mでミニ/標準プレーヤーの切り替え、Ctrl+Nで再生画面と左側にメニューがある画面の切り替えなどができるようになっている。が、残念ながら頭出しに関してはなかったようだ。

使い勝手や機能は進化。でも、カーネルミキサー問題はやっぱり……

以上、見てきたのが新たなメディアプレーヤーの概要だ。第一印象としては、使い勝手がよく、多機能で便利になったな、という感触だ。ただ、一番期待しているのは、以前から指摘しているカーネルミキサーをパススルーする機能があるかどうか、である。

第528回:「Windowsオーディオエンジンで音質劣化」を検証

第530回:「Windowsオーディオエンジンで音質劣化」検証その2

Windows 11はカーネルミキサー問題直った? 気になるオーディオ再生試す

昨年もWindows 11がリリースされた時点で、この部分の検証を行なったのだが、何も進展がなかった。まぁほとんど期待はしていないが、Windows Vista時代からWASAPI排他モードというのを実装しているのだから、それに対応したプレーヤーをいい加減標準で搭載して欲しいとずっと考えている。というわけで、Grooveミュージックからの置き換えと聞き「もしかしたら」という淡い期待の元、試してみた。

検証の方法は、昨年行なった時と同じ。オーディオインターフェイスのループバック機能を使って再生した音をそのままキャプチャして、オリジナルとの差分を調べるというものだ。具体的には、Steinberg「UR22C」のループバック機能をオンにし、メディアプレーヤーで作成した音を「Sound Forge Pro 15」で録音している。

Steinberg「UR22C」のループバック機能をオンにして……
メディアプレーヤーで作成した音を「Sound Forge Pro 15」で録音した

この際、タイミングをピッタリ合わせるために、頭に1サンプルだけ大きい音を入れて、これをマーカーにしてみたが、録音した結果にマーカーが現れない。そういえば、昨年実験したときにもこの現象が起きて、戸惑ったことを思い出した。

そう、Grooveミュージックは、数年前から頭に強制的にフェードインを入れてきて、それをオフすることができなくなっていたのだ。

が。どうやら、その悪い問題はメディアプレーヤーに引き継がれていたようだ。まあ、実際には非常に短い時間でのフェードインなので、気にならない人もいるとは思うが、頭からガツンという音量でスタートする楽曲も少なくないため、それを勝手にフェードインをかけてしまうのはプレーヤーとして望ましいものではない。

以前この問題を回避するために、曲の頭に空白を短時間いれてからマーカーを打っていたので、その方法に切り替えた結果、しっかりマーカーも見えて、逆相と重ね合わせることができた。

結果は……というと、予想通りで、なんら改善はされていなかった。そう、勝手にピークリミッターがかかり、0dBに近い音量がある場合、レベル抑制され音が変わってしまうのだ。

やっぱり変化なし……

まあ、マイクロソフトにこの手のことを期待するのは無理な話なのだろうが、いつかその辺に理解のある担当者がついて改善してくれることを夢見ているところ。この辺のスタンスは、これでもかというオーディオ機能をLogic Proに盛り込んで、DAW業界をつぶす勢いで攻めてくるアップルとは正反対の印象だ。お互いもうちょっといいバランスでいてくれるといいのにな、と思う次第である。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto