藤本健のDigital Audio Laboratory

第928回

音よし機能よし。プロ御用達ブランドの新USBオーディオ「VOLT 276」

Universal Audio「VOLT 276」

米Universal Audioが、昨年末に発売開始したオーディオインターフェイス「VOLT」シリーズ。DSPを全面に打ち出し、すべてデジタル信号処理する従来からの「Apollo」シリーズとは方向性の異なる機材で、マイクプリアンプやコンプレッサなどすべてアナログ回路で処理を行なうというオーディオインターフェイス。Apolloシリーズと価格を比べても断然導入しやすく、エントリーユーザーをターゲットとして製品になっている。

シリーズの中でも、76 COMPRESSORを搭載した2in/2outのオーディオインターフェイス「VOLT 276」(36,850円)が人気で、現在は手に入りにくい状況となっているようだ。今回は、そんなVOLT 276の性能をチェックしてみた。

定番コンプ「1176」を再現した“76 COMPRESSOR”搭載

Universal Audioはプロ御用達のメーカーであり、Apolloシリーズは数多くの音楽制作現場で導入されている。冒頭でも少し触れた通り、Apolloシリーズは内部にDSPを使った“UAD-2”というシステムを搭載するオーディオインターフェイス。このUAD-2により、数多くのビンテージ機材をそっくりそのままに再現することが可能で、しかもビンテージ機材を開発したオリジナルメーカーと共同開発しているから、そのクオリティはお墨付きという、ユニークなアプローチで展開し、世界中のプロに受け入れられてきた経緯を持つ。

このように、Apolloシリーズは他社のオーディオインターフェイスとは一線を画し、独自路線を歩んできたわけだが、このタイミングで、Apolloシリーズとはまったく逆の方向性を持つVOLTシリーズを展開してきたのは驚きだった。

VOLTシリーズの製品ラインナップとしては下記表のようになっており、価格的にも手頃。まさに多くのメーカーが製品を出しているオーディオインターフェイス市場に殴り込みをかけてきた格好といえよう。

型名入力ch出力chVINTAGE76 COMP実売価格
VOLT 112117,050円
VOLT 222223,100円
VOLT 176121130,800円
VOLT 276222236,850円
VOLT 476442245,100円

VOLTシリーズは、表のラインナップのほかにも、オーディオインターフェイス本体にヘッドフォンとコンデンサマイクをセットにした「VOLT 2 Studio Pack」(39,600円)と、「VOLT 276 Studio Pack」(51,700円)も販売している。

VOLT 276 Studio Pack

DSPを推進していたメーカーが、なぜアナログに? と不思議に思う方も少なくないと思うが、Universal Audioの歴史を考えると、そう不思議でもないことが見えてくる。

同社がBill Putnam Sr.(ビル・パットナム)によって設立されたのは1958年。このUniversal Audioが開発したコンプレッサ「UA1176」はプロの現場で受け入れられ、いまでも世界中のレコーディングスタジオで広く使われている名機中の名機ともいえる機材。また当時開発されたレコーディングスタジオ用のコンソール「チューブ610」も伝説の機材で、そこに搭載されていたマイクプリアンプ「610」も世界中で使われている機材だ。

ただ、そのUniversal Audioは1970年代半ばに一度解散している。しかし創業者の息子で、デジタル信号処理技術者であったBill Putnam Jr.と、その弟のJames Putnumにより1999年に再スタート。

1176コンプレッサやLA-2Aコンプレッサなどのアナログ名機を、当時のアナログ回路、アナログ部品のまま復元し、今も生産・販売している。それと同時に、それらをDSPで完全な形で再現するシステム・UAD-2も自ら開発し、それを搭載したApolloシリーズを同社の主力製品に育て上げた。その意味では、デジタルの最先端を走る一方で、1950年代、1960年代のアナログ機器を今でも生産し続けるレトロなメーカーでもあり、アナログ回路による音作りは同社にとって、会社の原点ともいえるものなのだ。

現在発売されているコンプレッサ「1176LN Classic Limiting Amplifier」(313,500円)
コンプレッサ「Teletronix LA-2A Classic Leveling Amplifier」(561,000円)

その1176コンプレッサをDSPではなくアナログで再現し、VOLTシリーズに搭載したのが“76 COMPRESSOR”。VOLT 276にはINPUT 1、INPUT 2それぞれに1基ずつ独立した形で搭載している。

もっとも、1176そのものではなく、そのサウンドを踏襲する簡易版という位置づけで、パラメーターなどは一切存在しない。その代わりに、76 COMPRESSORボタンを押すと、VOC(ボーカル)モード、GTR(ギター)モード、FAST(ファスト)モード、OFFの4つを切り替え可能で、コンプレッサのアタック時間などを変えることができるようになっている。

VOLT 276
76 COMPRESSORボタン

一方、VINTAGEというボタンも2つ搭載されており、同様にINPUT 1、INPUT 2にそれぞれ独立してかけられるようになっている。これはビンテージ・マイクプリを意味するボタンで、前述の610マイクプリをアナログ回路で再現するもの。こちらも簡易的なもので、スイッチのオン/オフしかないが、これをオンにすることで、パンチのあるサウンドにできる。

VINTAGEボタン

もちろん、VOLT 276はオーディオインターフェイスなので、ADコンバータおよびDAコンバータが搭載されており、デジタル部分は最先端の技術で固められているわけだが、音作りの部分はアナログ回路で構成されている。実は、この程度の回路であれば、わざわざDSPを使わずに、アナログ回路のまま搭載したほうが安上がり。いまのアナログ部品なら、非常にコンパクトに収まるし、精度のバラツキもほとんどないので、スマートに製品化することができる、というわけなのだ。

このVOLT 276、スペック的には2in/2outのオーディオインターフェイスであり、PCとの接続はUSB Type-C端子。フロントにマイク、ライン、ギターが接続可能なコンボジャックが2つとヘッドフォンジャックが1つ、またリアにはTRSのバランス・フォン出力が2つ、MIDI入出力が搭載されている。

フロント。コンボジャック×2、ヘッドフォンジャック×1を搭載
リア。USB-C、TRSバランス・フォン出力×2のほか、MIDI入出力を用意

昨年、本連載で紹介したSolid State Logicの「SSL 2」および「SSL 2+」も、同社の往年の名コンソールである“SSL 4000”風な音を再現するための4Kボタンなるものが搭載されており、これをオンにするとアナログ回路を通じてSSLサウンドを実現させる仕組みになっていた。基本的な考え方、方向性はVOLTシリーズと共通するものといえそうだ。

Solid State Logicのオーディオインターフェイス「SSL 2+」(写真左奥)と、「VOLT 276」

一方、VOLTが多くのユーザーを引き付けるもう一つの理由は、そのデザイン。両サイドが木製になっており、ここでもビンテージ感を演出しているのだ。1980年代のシンセサイザやシーケンサを彷彿させるこのフォルムにグッとくる人も少なくないはずだ。

両サイドの木製パネル。ビンテージ感を演出している

トップパネル右上には入力用、出力用のレベルメーターを搭載。こちらはそれぞれステレオの5段階のデジタルメーターだが、入力信号が正しく来ているのか、正しいレベルで出力されているのかをチェックする上でとても重宝する部分だ。

入出力用のレベルメーター

ほかにも特筆するべき点としては、トップパネル右下にDIRECTというボタンがあること。これはダイレクトモニタリングのスイッチで入力された音をそのままヘッドフォン出力へとルーティングするためのもの。

消灯されているとオフの状態で、PC側からの音しか出力されないが、1回押してオレンジに点灯させるとINPUT 1からの音が左チャンネル、INPUT 2からの音が右チャンネルから出力される。さらにもう1回押すと青く点灯し、この場合、どちらからの入力もセンターに定位するモノラルモードになる。ギターのプレイをモニターする場合は、モノラルモードにすると扱いやすくなる。

オレンジ点灯時は、INPUT 1からの音が左チャンネル、INPUT 2からの音が右チャンネルから出力される
青点灯時は、センター定位のモノラルモードに

なお、このダイレクトモニタリングにおいても76 COMPORESSORやVINTAGEボタンでの効果は有効。USBを介してPCのDAWでレコーディングする場合も、すべて掛け録りとなる格好だ。

入出力の音質とレイテンシーを検証

音質特性はどうだろうか? いつものようにRMAA PROを使って44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzの各サンプリングレートをチェックしてみた。このテストにおいては、76 COMPRESSORボタンやVINTAGEボタンをオフにした、シンプルな状態で行なっている。

VOLT 276の計測結果
サンプリングレート・44.1kHzの場合
48kHzの場合
96kHzの場合
192kHzの場合

上記の結果を見る限り、周波数特性もフラットで、またダイナミックレンジもしっかり取れていて、非常に優秀なオーディオインターフェイスであることが見て取れる。

ここであえて、76 COMPRESSORをFASTモードに、VINTAGEボタンをオンにして44.1kHzで測定をしようと試みたが、モニター状態で明らかに音が歪んでおり、RMAA PRO側から異常と検知されて強制中断してしまった。当たり前ではあるが、エフェクトをかけた状態で特性を見るのはナンセンス、ということだ。

では、レイテンシーはどうだろう。44.1kHzのみバッファサイズを128Sampleと最小の8Sampleのそれぞれで測定。48kHz、96kHz、192kHzはそれぞれ最小のバッファサイズにするとともに、ドライバの設定でSafeモードを解除して測定してみたのが以下の結果だ。

ドライバの設定でSafeモードを解除した
VOLT 276のレイテンシー
128 Samples/44.1kHzの結果
8 Samples/44.1kHzの結果
8 Samples/48kHzの結果
16 Samples/96kHzの結果
32 Samples/192kHzの結果

他製品と比較して際立った点はなく、ごく普通の結果ではあるけれど、32 Sample/192kHzで3msecなので、悪くない成績といえる。

以上、Universal AudioのVOLT 276についてみてきたが、いかがだっただろうか。アイディア的にも、サウンド的にも機能的にもデザイン的にも優れた機材だと感じた。一般のオーディオインターフェイスとしてはやや高めな設定ともいえるが、1つ持っておいて損のない機材だと思う。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto