藤本健のDigital Audio Laboratory

第953回

動作サクサクでハイレゾ再生も!? 無料の「ChromeOS Flex」を試した

Googleは今年7月、無料で利用できるOS「ChromeOS Flex」を正式リリースした

古くなって、使わなくなったPCに「Ubuntu(ウブントゥ)」をインストールするのはこれまでにも何度か行なったことがあったし、それ自体特段難しい作業ではない。

Ubuntuは音楽制作系のソフトも充実していて、楽しいのは確かなのだが、一歩踏み込んだ使い方をしようとするとLinuxのコマンドラインでの操作が必要になるため、一気にハードルが高くなってしまう。

昔、MS-DOSはそれなりに使いこなしてきたけれど、UNIX/Linuxは難解……という苦手意識があり、どうにも慣れないのだ。ちゃんと勉強すればいいのだろうけれど、今さらなかなか覚えられないのも事実。

そんな中、Ubuntuよりも圧倒的に簡単そうなフリーOSがGoogleより正式リリースされた。その名も「ChromeOS Flex」。

Chromebookみたいなものになるらしい……というのはネット記事などを見てなんとなく分かったが、実は筆者、Chromebook自体使ったことがなかった。というわけで、今回はChromeOSを古いPCにインストールし、音楽ファイルの再生やハイレゾ再生が行なえるのか? 試してみた。

2012年製のPCにインストール。作業は30分程度で完了

ウチには使わなくなったPCがいろいろと転がっているが、先日も1台のPCが不要になった。もう9年も前、Intelから小さなPC、NUCが初めて登場したときに購入したCore i3-3217U搭載の小型PCである。

使わなくなったPC
製造は2012年11月

当初は、持ち運びできるデスクトップPCとしてDTM用途などに使っていたが、すぐにパワー不足で別のPCに移行。その後、ソフトなどを動かす事務用マシンとして活用するものの、Windows 10の時代に入ってからは処理速度の遅さにイライラすることが多くなり、半年ほど前に引退させた。再度有効活用したい! という強い思いがあったわけでもないのだけれど、ChromeOSがオンボロマシンでも利用できるのか試してみたくなり、今回は本機を使うことにした。

Googleで「Chrome OS Flex」と検索すると、すぐに「Chrome OS Flex インストール ガイド」というページにたどり着く。ここを読むと、8GB以上のUSBメモリーを用意すれば、インストーラーを作ることができるとのこと。

インストーラー作成自体は、どのPCで行なってもいいようなので、インストールガイドにしたがってChromebookリカバリユーティリティなる拡張機能をブラウザのChromeにインストール。これを使ってリカバリメディアを作成すると、簡単に作業が完了した。USBメモリーへの書き込みに20分ほど待たされたが、難しさはまったくない。

拡張機能「Chromebookリカバリユーティリティ」をブラウザにインストール
リカバリメディアを作成する
作業が完了。USBメモリーへの書き込みは20分ほど

つづいて、半年ほど眠っていた古いNUCを引っ張り出してきてACアダプタに接続。中にはWindows 10や経理ソフトなどは入ったままにはなっているが、バックアップをとった上で、データや各種ツールは第7世代Core i7が搭載された少し新しいNUCにすべて移管しているので、残っている中身に用はない。

そもそも、メモリ容量やらストレージの容量やらがどうなっていたのかさっぱり忘れていたが、あとで中を開けて確認してみたところ、メモリは4GB×2=8GB、ストレージはmSATAのSSD 128GBだった。メモリはともかくストレージは小さいけれど、経理用ならば十分。確か容量半分ずつの2つのパーティションに分けてCドライブにOSとアプリ、Dドライブに各種データ類を入れていたはず。

ストレージはmSATAのSSD 128GBだった

そのマシンに先ほどのUSBメモリーを挿し、そのUSBメモリーからブート。すると、画面にはChromeOS Flexのロゴが表示され、しばらく待ったら起動画面が現れるとともに、「ChromeVoxをアクティブにするか?」というメッセージが出てきたので「Yes」としたら、いきなり英語で喋りだした。

ChromeOS Flexのロゴ
「ChromeVoxをアクティブにするか?」というメッセージが

このPC、サウンドデバイスはまったく持っていないが、HDMIで接続したディスプレイのオーディオ機能を掴んだようで、ここから声が出ている。その後、言語を日本語に切り替えできることに気づき、その設定を行なった上で、インストール作業を続ける。

言語とキーボードを「日本語」に変更

といっても、指示にしたがって「次へ」というボタンを何度か押していくだけで、インストールはいたって簡単だ。

その後Chromebookへのログイン画面が現れたので、現在使っているGoogleのアカウントを使ってログインすると2段階認証プロセスが現れた。いつものように、iPhoneのGmailを使って認証したら、Chromeと同期され完了。トータル30分程度の作業だったが、迷うところなどほぼなく終了した。

2段階認証プロセスの画面

これで改めてブートしてみると……Googleのログインパスワードを求められ、パスワードを入力すると、おお! これがChromeOS Flexの画面なのか! というシンプルな画面が現れた。

ChromeOS Flexの画面

デフォルトの壁紙は青いし、画面下の真ん中にランチャーがあるあたり、Windows 11とソックリな感じもする。試しにChromeを起動してみると、まさにいつも使っているChromeで違和感はない。

Chromeを起動した画面

もちろん、同期もとれているからブックマークもすべて利用できる。またファイルアイコンを起動すると、Google Driveの中身が見れるようになっており、Googleべったりなユーザーにとっては、いきなりホームグランドに来てしまったような感覚だ。これで、秀丸のようなテキストエディタがあれば……と思ったら、その名も「Text」というテキストエディタが標準で用意されていて、デフォルトの状態で普通に仕事ができそう。

Google Driveの中身も確認できる

とはいえ、初めてのOSなので、どうやって電源を切ればいいのかも分からない。色々試してみてわからなかったので、Chromebookの使い方を検索してみたら、右下の時計をクリックするとコントロールパネル的なものが現れ、ここに電源ボタンがあることがわかった。

右下の時計をクリックすると、コントロールパネルが現れる

また画面下にあるランチャーにないアプリはどうやって起動するのだろう…と思ったら、これは左下をクリックすると、アプリの一覧が表示され、ここから起動できるようだ。

アプリ一覧

デフォルト以外のアプリもインストール可能。Spotifyも

ChromeOS Flexの基本的な使い方はともかくとして、このOSで音楽ファイルを再生できるのだろうか? 前述の通り、何の設定もしなくても、いきなり喋り出すくらいだから、音は出せるわけだが、YouTubeアプリがあるのでこれを起動したところ、各種ビデオを見ることができ、もちろんしっかり音も出る。

YouTubeアプリ

Spotifyアプリを探したが、デフォルトでは入っていない。アプリストアではどうか? と探すも、何だかうまくいかない。ブラウザ上でSpotifyにアクセスすれば、きちんとストリーミングで鳴らすことは可能なので、できれば専用アプリがほしいところ。

実はその後調べてみたら、Chromebookの場合、専用のアプリストアからアプリを入れることができたり、AndroidアプリもGoogle Playからインストールできるが(できないものもあるらしい)、ChromeOS Flexはどちらもできない。つまりは、デフォルトで用意されている19種類のアプリで使うシステムということのようなのだ。

しかし、先程のSpotifyの画面をよく見ると、ブラウザの右上に見慣れないアイコンが出ている。これをクリックしてみたら、アプリのインストールができ、その後はSpotifyアプリとして利用できるようになったのだ。

ブラウザの右上のアイコンに「Spotifyをインストールします」の表示
クリックすると、アプリのインストール確認に
Spotifyアプリとして利用できるようになった

このようにインストールできるのは一部のWebアプリに限られているようではあるが、対応アプリを探していくと、自分にマッチしたマシンに仕立てていくことができそうだ。

WAVやMP3、AACファイルの再生も可能。96/24や192/24のハイレゾファイルも

一方で、気になっていたのはローカルのファイルにアクセスできないのか? という点だ。

前述の通り、もともとこのPCは64GB+64GBのパーティション構成にしており、Dドライブには経理データのほかにも、WAVファイルやMP3ファイル、AACファイルなどが入っていたはずだが、見当たらない。

この理由は簡単だった。ChromeOS Flexをインストールする際、パーティションなど関係なく、まっさらなChromeOS Flexとしてインストールするから消えてしまうのだ。

そのため、ローカルには何も入ってはいないものの、ファイル画面において、マイファイルのところに保存することができる。また、USBドライブなどを接続すれば、同じようにアクセスできるし、必要に応じてコピーもできた。

USBドライブのアクセス画面

さっそく試してみたのはWAVやMP3、AACファイルなどが再生できるのか、ということ。

結論からいえば、何ら問題なく再生することができた。アプリ的には画像ファイルを見る際にも使うギャラリーというアプリで再生しており、サムネイル画像が入っていれば、それもしっかりと表示される。

WAVやMP3、AACファイルの再生も行なえた
サムネイル表示もOK

プレイヤーのプラットフォームとしては「まったく問題なし」という印象。書きそびれていたが、Windows 10では動作が遅くて使いものにならなかったこのマシンだが、ChromeOS Flexにおいては、本当にサクサクと動く。まあ、重いアプリがないから当たり前なのかもしれないけれど、とっても快適だ。

さて、このように音楽再生はできたわけだが、その音がディスプレイ内蔵のスピーカーからだけだとしたら、使い物にならないが、USBーDACやオーディオインターフェイスは使えるのか。そして、ハイレゾ再生などは可能なのだろうか?

試しに手元にあったFocusriteのUSB-C接続のオーディオインターフェイス「Scarlett 2i2 3rd Gen」をつないでみた。すると、再生した音がScarlettに切り替わり、こちらから音が聴こえてくる。当然ながらディスプレイ内蔵スピーカーと比較したら、圧倒的に高音質であり、これは快適。もちろん、MP3やAAC、WAVも再生できるし、24bit/48kHzや24bit/96kHzなどの音を前述のギャラリーを通して再生できた。

FocusriteのUSB-Cオーディオ「Scarlett 2i2 3rd Gen」

聴いた感じ、かなりいい音に思えるけれど、内部でサンプリングレートコンバートをして16bit/44.1kHzや48kHzに変換してしまっている可能性はないのか? 耳だけの検証では心もとないが、ドライバやユーティリティをインストールできるわけではないので、Scarlettが何kHzで動作しているのかをチェックする術がない。

ハード的にサンプリングレートを表示できる機材があったらいいのにと思い、ふと頭に浮かんだのは、最近ほとんど使っていなかったTEACのUSB-DAC「UD-301」。本機にはサンプリングレートを示すインジケータがあり、これを見れば一目瞭然なのだ。

いうわけで、さっそくUD-301を接続。各デバイスの切り替えは、画面右下のコントロールパネルから呼び出す音声設定の画面で行なう。

デバイス切り替えは音声設定の画面で行なう

UD-301に切り替えて、24bit/96kHzや24bit/192kHzの曲を再生してみると……バッチリ96kHzや192kHzのランプが点灯した。確実にハイレゾ再生はできるようだ。試しにDSFファイルやDSDIFFファイルをダブルクリックしていたが、さすがにこれらを直接再生することはできなかった。もしかしたら、対応するソフトなどが開発されている可能性もありそうだが、標準の状態では難しそうだ。

UD-301のインジケータ。24bit/96kHzや24bit/192kHzで再生できていることがわかる

とりあえず、これで今回の目的としては十分達成。ChromeOS Flexを利用することで、古いPCを十分な機能を持った音楽プレイヤーマシンにすることはできたわけだ。

DTMマシンとしての検証はまだできていないが、とりあえずWeb MIDIを使いChrome上で動作するシンセサイザなどは鳴らすことができ、USB-MIDIキーボードを接続すればこれも利用できることもわかった。ただ、試したWeb MIDIアプリが古いためか、USB-MIDIキーボードから直接演奏することはできなかった。

とはいえ、このUSB-MIDIキーボードを認識はしているようなので、そのうち対応していくれるようになるのでは、と気長に待ちたいと思う。

藤本健

リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto