藤本健のDigital Audio Laboratory

第952回

小型で約1.2万円からのUSBオーディオ「ZOOM AMSシリーズ」を検証

ZOOM「AMS」シリーズ。一番左から時計回りに「AMS-44」「AMS-24」「AMS-22」

先日ZOOM(ズーム)から、非常にコンパクトなオーディオインターフェイス「AMS」シリーズ3機種が発売された。2in/2outの「AMS-22」(実売12,000円前後)、2in/4outの「AMS-24」(同15,000円前後)、4in/4outの「AMS-44」(同20,000円前後)のそれぞれで、WindowsおよびMacで利用できるのはもちろん、iPhone/iPadやAndroidでも利用可能だ。またループバック機能に加え、AMS-24およびAMS-44ではMUSICモード/STREAMモードの切り替えボタンを装備したことで、配信用としても扱いやすくなった。

どのような機材なのかを見ていくとともに、それぞれの音質やレイテンシー性能についてチェックしてみた。

AMS-22は「ミニチュア?」と思うほど小さい

32bit float対応のリニアPCMレコーダーやAmbisonics対応のレコーダー、4K対応で96kHz/24bitのオーディオ録音も可能なビデオカメラなど、非常にユニークな製品を次々と開発している日本メーカーZOOMだが、6月に他社にないユニークなオーディオインターフェイス「AMS」シリーズを発売した。

一番小さい2in/2outのAMS-22などは「ミニチュア?」と思うほど小さな機材。標準的サイズの2in/2outのオーディオインターフェイスであるSteinbergの「UR22C」と並べてみると、いかに小さいかがわかる。まさに手のひらに乗るサイズであり、重さ的にも実測で87gと軽く、ポケットにも入れても重さが気にならないレベル。

SteinbergのUSBオーディオ「UR22C」との比較
「AMS-22」の重量は、わずか87g

AMSシリーズすべて樹脂製なので、強度という面では一般的な金属製のオーディオインターフェイスと比較すると劣るが、ここは使い分け。いつでもカバンに入れて持ち歩いて、いざとなったらすぐに使える機材、として捉えるのがよさそうだ。

ZOOM史上最少・最軽量な2in/2outの「AMS-22」

では、各モデルを順に見ていこう。

まず最も小さいAMS-22は、フロントにコンボジャックが1つ、リアに標準ジャックのTRS、つまりバランス出力を持つ機材だ。

2イン・2アウトの「AMS-22」。ZOOM史上最少・最軽量を謳うUSBオーディオ
前面にコンボジャック
後面にはバランス出力を搭載

よくこのサイズに標準ジャックを搭載できたなと感心するが、コンボジャックのほうはマイク入力もギター入力も可能な構造になっており、+48Vのファンタム電源供給も行なえる。

+48Vのファンタム電源供給もサポート

コンボジャック1つというと、「2inではなく“1in”なのでは?」と思ってしまうが、よく見てみると、コンボジャックとは別に、斜め右下に3.5mmのミニジャックでのLINE IN端子があり、こちらを使うことで、2inのステレオ入力が可能になっている。また、その隣には同じく3.5mmのヘッドフォン出力も搭載されている。

トップパネルには入力ゲイン調整用のGAINおよびメイン出力/ヘッドフォン出力調整用のOUTPUTのノブがあり、いずれもアナログボリュームでの調整となっている。このGAINのほうはコンボジャック専用で、ライン入力のほうはラインレベルに固定となっているようだ。これをホストと接続する場合には、リアにあるUSB Type-C端子を使う。

仕様的にはUSB 2.0接続でUSBクラスコンプライアントなデバイスとなっているので、Windows、Mac、iOS/iPadOS、Androidのいずれもドライバなしで利用できる。ただし、iPhoneやiPadで使う場合には、Lightning-USBアダプタが、Androidの場合はOTGケーブルが必要となるほか、USBバスへの電源供給パワーが小さいスマホの場合は、AMS-22に2つあるUSB Type-C端子の左側に別途電源供給する必要がある。

iPhoneとの接続例

ドライバ不要で動作はするが、Windows用にはZOOMからドライバが提供されており、これをインストールすることでASIOでの利用も可能だ。サンプリングレート的には44.1kHz、48kHz、88.2kHz、96kHzの4モードから選択ができる。

Windowsの場合、ドライバをインストールすることでASIOも利用可能

本体右側には、2つのスイッチを搭載。1つはDIRECT MONITORで、これをオンにすると入力された音がそのままリアのメイン出力およびヘッドフォン出力に流れる。またLOOPBACKをオンにするとホスト側から流れてきた音に、AMS-22の入力の音を加えたものがホスト側に戻されるため配信などで使えるようになっている。

乾電池駆動でスマホ配信できる「AMS-24」

2イン・4アウトの「AMS-24」

次に、2in/4outの「AMS-24」を見てみよう。これはAMS-22が2つ分というサイズで、単に出力チャンネルが2つ増えたというだけでなく、機能面においてはAMS-22よりいろいろな面で優れている。

まずフロントにはコンボジャックが2つあり、ここから2chステレオ入力ができ、いずれもTRSのバランスで入力が可能になっている。

AMS-24の前面。2chステレオ入力が可能

左側の1chのほうは、MIC/LINEかGUITARかの選択スイッチが利用でき、ハイインピーダンス接続のギター入力が可能になっているのに対し、右側の2chのほうはMIC/LINEのみ。その間にあるボタンを押すことで、1/2chが連動するステレオモードとなり、この場合、1ch側のゲイン調整で両方をコントロールする。

パネル上部にある切り替えスイッチ
ボタン(写真中央)を押すと、1/2chが連動するステレオモードにできる

リアはAMS-22と同様、標準ジャックのTRSでのステレオ出力を搭載。これがOUTPUT Aという1/2chの出力となっているのだが、トップパネルを見ても分かる通り、OUTPUT Bという3/4chの出力があるのがAMS-24の最大の特徴だ。

背面のTRSステレオ出力

では、その3/4chはどこにあるかというと、フロントのヘッドフォンアウトがそれに該当。見るとわかる通り、ヘッドフォン出力は上下に2つあるが、上のほうはOUTPUT Aでリアパネルにあるのと同じ信号、下がそれとは異なるOUTPUT Bになっている。

AMS-22との違いは、ほかにも大きく2つある。

1つは、MUSICモードとSTREAMINGモードの切り替えだ。名前の通りMUSICモードはDAWで利用するためのモードでSTEAMINGモードは配信で利用するためのモードなのだが、何がどう違うのか? は下図を見るとわかるだろう。

MUSICモードとSTREAMINGモードの切り替えスイッチ
MUSICモードとSTREAMINGモードの違い

MUSICモードは一般的なオーディオインターフェイスとしての仕様になっているが、STEAMINGモードにおいては、2つある入力がそれぞれミックスされた上で、モノラルで1ch/2chに入ってくる仕様。つまり2人でマイクでしゃべるような場合でも、PANでの調整などが不要なのだ。

また、出力において3ch/4chが無効になるとともに、1ch/2chがOUTPUT AとOUTPUT Bのそれぞれに行くので、2人でモニターするような場合でも同じ信号が聴こえ、必要に応じてボリュームだけは別々に調整できる形になっている。

そのほかダイレクトモニタリングやループバック、またファンタム電源供給などはAMS-22と同様。しかし、もうひとつBATTERYというスイッチがあるのがAMS-22との違い。

実は底面に単3電池×2本のバッテリーボックスがあり、ここに電池を入れておくことでUSBからの外部電源供給がなくてもスマホで利用可能。スマホだけでレコーディングしたり配信するという場合には、非常に便利な仕様になっている。

単3電池×2本のバッテリーボックス
USBなどの外部電源供給がなくてもスマホで利用可能

小さいのに、4マイクプリ搭載。4in/4out「AMS-44」

シリーズで最上位機種となっているのが、4in/4outの「AMS-44」だ。

4イン・4アウトの「AMS-44」

小型サイズにもかかわらずフロントに4つのコンボジャックを持っており、それぞれでファンタム電源供給ができ、さらにマイクプリアンプも搭載している。4マイクプリ搭載のオーディオインターフェイスとしては、やはりこれが最小だろう。USB Type-C接続だけあって、Windows/Macで利用する場合はケーブル1本でのバスパワー供給で4つのファンタム電源供給できるのも嬉しいところだ。

AMS-24の前面。4つのコンボジャックを備える
マイクプリアンプも搭載

AMS-24同様、1chだけがLINE/MICとGUITARの切り替えスイッチが搭載されているが、それ以外はすべてLINE/MICとなっている。それぞれにゲインノブが搭載されており、3ch/4chにおいてはステレオリンクスイッチで連動させることが可能になっている。

MUSICモード、STREAMINGモードの切り替えもAMS-24同様だが、4in/4outとなっているため、信号の流れは少し異なる。

MUSICモードとSTREAMINGモードの違い(AMS-24の場合)

上図を見ても分かる通り、STREAMINGモードの場合はPC側からは2in/2outに見えるが、4つの入力がすべて同じようにミックスされて入力され、出力は同じ信号がOUTPUT A、OUTPUT Bに行く形となっている。

入出力の音質とレイテンシーを検証。”持ち歩き”には十分な性能

機能やサイズの優位性は分かったが、一番気になるのは、これだけ小さくて音質的にはどれだけの性能があるのか? という点だろう。そこでいつものようにRMAA Proを使って入出力をループさせてのオーディオ性能をチェックしてみた。

3機種とも構造が異なるので、それぞれ別々にチェックしてみたのが、こちらの結果だ。

AMS-22の計測結果
サンプリングレート・44.1kHzの場合
48kHzの場合
96kHzの場合
AMS-24の計測結果
サンプリングレート・44.1kHzの場合
48kHzの場合
96kHzの場合
AMS-44の計測結果
サンプリングレート・44.1kHzの場合
48kHzの場合
96kHzの場合

少し補足しておくと、AMS-22の場合、フロントの3.5mmのライン入力を使うため、アンバランスでの接続となっている。そのため、これまで見てきたオーディオインターフェイスと比較するとやや音質面で劣った結果になってしまうが、それは仕方ないところだろう。

それに対しAMS-24およびAMS-44はバランス接続となっているだけに、AMS-22と比較すると、性能はあがり、いずれもだいたい近い結果となっている。それでも金属シャーシの一般的なオーディオインターフェイスと比較すると、SNやTHDなど若干見劣りする面はある。

とはいえ、聴感上で気になるようなノイズレベルではないので、“常にカバンにいれて持ち歩くオーディオインターフェイス”という意味では十分に役割を果たしてくれるはずだ。

レイテンシーについても測定してみた。これもチェックしてみたところ、3機種ともに微妙に異なる結果となったので、別々に掲載する。

AMS-22のレイテンシー
128 Samples/44.1kHzの結果
16 Samples/44.1kHzの結果
16 Samples/48kHzの結果
32 Samples/96kHzの結果
AMS-24のレイテンシー
128 Samples/44.1kHzの結果
16 Samples/44.1kHzの結果
16 Samples/48kHzの結果
32 Samples/96kHzの結果
AMS-44のレイテンシー
128 Samples/44.1kHzの結果
16 Samples/44.1kHzの結果
16 Samples/48kHzの結果
32 Samples/96kHzの結果

いずれの機種も96kHzのサンプリングレートで6msec弱の往復レイテンシーとなっているので、十分すぎる性能といってよさそう。

気づいた点を挙げておくと、一般的にシリーズモノのオーディオインターフェイスのドライバは1つですべてを兼ねるケースが多いが、このAMSシリーズはAMS-22用、AMS-24用、AMS-44用と別々にドライバが用意されており、AMS-22用ドライバでAMS-44を動かすといったことはできない仕様となっていた。

またいずれのサンプリングレートにおいてもバッファサイズは16 samplesにまで縮めることが可能だが、筆者が使っているRyzen 9 5900HXのPCでは音が途切れてしまって実用にはたえず、32 samplesで測定している。

以上、ズームのコンパクトなオーディオインターフェイス、AMSシリーズ3機種を見てきたがいかがだっただろうか? 個人的には非常に気に入ったので、一番小さいAMS-22を常にカバンに潜ませておこうと思っている。

藤本健

リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto