藤本健のDigital Audio Laboratory
第954回
未来の電子楽器大集合!? ものづくり祭典「Maker Faire」に行ってみた
2022年9月5日 13:00
9月3日・4日の2日間、東京ビックサイトにおいて、オライリー・ジャパン主催のものづくりの祭典「Maker Faire Tokyo 2022」が開催された。昨年はオンサイトのイベントが中止になり、オンラインのみの開催となったため、リアルで行なわれるイベントとしては2020年10月以来2年ぶり。コロナ前のMaker Faireと比較すると会場面積が縮小されていたが、驚くほど大盛況なイベントとなっていた。
Maker Faire(メイカーフェア)では、エレクトロニクスゾーン、ロボティクスゾーン、サイエンスゾーン、デザイン&クラフトゾーンなど、ジャンルによってさまざまなゾーンに分かれているが“音モノ”を展示しているミュージックゾーンにターゲットを当てて見に行ってきた。どんなものがあったのか紹介していこう。
ミュージックゾーンにはユニークな“音もの”が
筆者個人的には、2019年末のコミケ出展以来、約3年ぶりで懐かしさを感じてしまった東京ビックサイト。すっかりリアルイベントに行く機会が減ってしまったのを実感するが、会場はすごい盛り上がりだった。初日のオープン時間12時には長蛇の列ができ、スタートすると会場内は写真のような感じ。久しぶりに活気が戻ってきたような感じであった。
今年はビックサイトの西4ホールのみでの開催で、写真ようなゾーン配置となっていた。
この中で、筆者の目当ては右上のCというエリア。全体の中で見ると、非常に小さいところではあったが、ユニークな展示がいっぱいだったので、見ていった順に紹介していこう。
MIDIで動くテーマパーク「MIDI遊園地」
まず最初に行ったのは、音楽+電子回路を主にしたものづくりユニット、necobitによる「MIDI遊園地」。机の上には観覧車やロープウェイ、ロボット……など、いかにも遊園地が繰り広げられているが、これらすべてがMIDIで数珠繋ぎに接続され、同期しながら動いているというもの。これが実際の動画だ。
左にあるMacで動作するDigital PerformerでMIDIシーケンスを流し、観覧車やゴンドラはMIDI信号を受けてステッピングモーターで動くようになっていた。
その隣には超音波ミストを噴射してLEDが光るというもの。またソレノイドコイルを使って太鼓を叩くロボットもいるし、エアポンプを使って、ピョロピョロと吹き出すロボットもいる。一方、小さな四角い機械でMIDI信号をDMX変換した上で照明を光らせているのも面白いところ。ちなみに音源は右に置いてあるRolandED時代の「SC-8850」が使われていた。
手のひらサイズの8bitシンセ「PikoPikoBit」
PikoPiko Factoryが展示していたのは、オープンソースハードウェアのシンセサイザで、Prophet-5を再現したというミニチュアシンセ「Profree-4」。
回路的にはオリジナルのProphet-5のものを踏襲しつつ小型化し、4音ポリフォニック、37ミニ鍵盤搭載でバッテリー駆動するとともに、スピーカー内蔵というユニークな機材で、開発完了したら、技術情報はすべて公開する予定になっている。これまでも、いろいろなところで展示されてきたProfree-4だが、いよいよしっかりと音が出るようになり、その内部についても公開されていた。
その一方で、PikoPiko Factoryとして今回新たに発表したのが、手のひらサイズのオープンソース・ハードウェアの8bitシンセである「PikoPikoBit」。これはヤマハのPSG音源ICであるYMZ294をArduinoシールドにしたというもの。
MIDI入出力機能を持たせるとともに、操作つまみとスイッチ、LEDを2個ずつ搭載しているという。ここではシーケンサからBluetooth-MIDIを経て演奏させるデモもおこなっていた。一方で別のPSG音源であるSAA1099やSN76489バージョンも開発中とのことだった。
ユーロラックサイズのオシロスコープ「Synth Scope」
続いては、「伝説のハンドメイドアナログシンセサイザー」などの著書でも知られる山下春生さんのブース。
ここで今回初披露となったのがユーロラックサイズのオシロスコープである「Synth Scope」。完成品として10,000円での頒布も行なっていたこのオシロスコープはまさにシンセサイザ専用のオシロスコープであり、波形表示モード、LFO表示モード、エンベロープ表示モードなどを装備したものだ。
一方、山下さんがこれまでもいろいろなところで展示などをおこなってきたアームテルミンのキットとなるアームテルミン・ミニ・キットの頒布も10,000円で行われていた。これの紹介をしてもらったのが以下のビデオだ。
冒頭がやや欠けてしまったが、ここで出ていたのは本物のテルミンをサンプリングした波形を元に出している音、加えてノコギリ波や矩形波などシンセサイザ的なサウンドを出すことができ、時計の針のようなものを回転させることで、音程を滑らかに変えていく演奏ができるという楽器になっている。裏側はシンプルで単三電池×3本で動作する構造となっている。
リアクティブエフェクター「Frigus RE-1」
佐藤ガジェット製作所が展示していたのはリアクティブエフェクター「Frigus RE-1」なるもの。ちょっと、動作が分かりにくいが、デモしてもらったのが以下のビデオだ。
見てのとおり、ゴツイ感じの機材がギターの上に載っているが、これがそのFrigus RE-1。エフェクターなのだが、青い筐体の上に乗ったスマホのようなデバイスは、ジャイロであり、ギターの傾きを検知するセンサーとなっている。そのため、ギターを持ち上げると音量が変わるほか、右手で弦を弾くとギターのボディに取り付けられたLEDが光る仕掛けが施されていた。
シンセ「Digital Synth VRA8-U」
今回のMaker Faire Tokyo 2022で、個人的に一番試してみたいと思ったのは、ISGK Instruments開発の「Digital Synth VRA8-U」。そのデモ演奏してもらったのがこちらのビデオだ。
ISGK Instrumentsでは、これまでもDigital Synth VRA8シリーズとして、さまざまなシンセをArduino Uno用に開発し、ソースコードもフリーで公開していたが、今回のVRA8-Uはそのシリーズ第8弾となるもの。
これまでのものと同様、Arduino Unoの8ビットCPU一つでMIDI音源を実現させており、今回のものは単音モードと4和音モードの切り替えも可能となっており、コーラスエフェクトも搭載している。
1,000円程度でネット販売されているArduino Uno互換品でも動作するとのことで、これを購入して、ISGK Instrumentsのサイトからダウンロードし、スケッチファイルをArduinoに流し込めば動作する、という。
ちなみに、Arduino Unoにはオーディオ出力機能がないので、PWM出力端子に、抵抗2本とコンデンサ4本を取り付ければ、音が出せるとのこと。個人的には、まだArduinoをちゃんと触ったことがないので、ぜひ近いうちに入手して、ホントにシンセとして動くのか試してみたいと思っているところだ。
なお、MIDIシールドを取り付ければ、MIDI入出力も可能になる。
キーボード「Touch Keyboard」
奇楽堂が展示をしていたのは「Touch Keyboard」という鍵盤。白鍵、黒鍵ともそれぞれが静電センサーが取り付けられた電子基板でできており、指で触れるだけで音がでて、キーボードのどの位置に触れるかによって音の鳴り方が違うようになっている。そのデモ演奏をしてもらったのが、こちらのビデオ。
ビデオにもある通り、3つのモードがある。1つ目は鍵盤を前後にこすることでビブラートがかかるというもの。2つ目は鍵盤に触れるだけで音が鳴り、押すとビブラートがかかるというもの。そして3つ目はジョイスティックを使って、アイウエオの母音を発音するというもの。Touch Keyboardはあくまでもキーボードであり、ここでの演奏は、PCのソフトウェアを使っているとのことだった。
「缶たたき機2022」「SOROBAN v2.5」「ElectroGurdy」
続いて行ったのは、ブラウザ上で音楽制作環境を開発するエンジニアのグループ、Web Music Developers JPの展示。ここに集まった4人それぞれが別の出し物をしていたのだが、面白かったので、順に紹介していこう。
一つ目はMIDIで缶を叩いて鳴らす「缶たたき機2022」。以前のMaker Faireでも展示していたものの新バージョンとのことだが、以下がその演奏の様子だ。
小さなMIDIコントローラーから発信されたMIDI信号をブラウザが受け止め、これで画像を動かすとともに、ブラウザ上でノート番号をを変換し、それを隣の缶の楽器へと送っている。ここではMIDIノートを受けるとソレノイドで叩いて音が出る仕掛けだ。
ものすごい完成度の楽器を2つ作っていたのはこのグループの中心人物であるg200kgさん。まずは以下のビデオをご覧いただきたい。
前半に登場していたのは「SOROBAN v2.5」という楽器。ボード上にたくさんのボタンが並んでいるが、実はウクレレのような配置になっているので、ギターやウクレレが弾ける人であれば、簡単に演奏ができるはずだ、という。
4基のオシレーターが搭載されていて、それが4本の弦に相当する配置で鳴る形で、ボタン1つ1つが各フレットに対応しているのだ。単に音が鳴るだけでなく、加速度センサー内蔵で本体を揺らすとビブラートがかかるのも特徴。こうした制御や音源は本体内に内蔵されているArduino Nano Everyで行っているという。
もう一つのいかにも民族楽器という感じのものは、ヨーロッパで古代からある弦楽器、ハーディ・ガーディを電子楽器として再現したという「ElectroGurdy」なるもの。メロディー音と同時にドローン音を出すことができ、犬駒と呼ばれる弦を挿させる構造によってハンドル回転速度で音色が変化するようになっている。
また本来のハーディ・ガーディにはないユニークな特徴としては、ハンドルを逆配転させることでドローンの音程が切り替わる仕掛けをしてあること。内部を見せてもらうと、こちらはマイコンボードとしてSTM32が搭載されており、これで動作している。またハンドルの軸にはマブチモーターが取り付けられていて、これを発電機的に利用し、検知される電圧を元に音を鳴らしているようだった。
Bluetooth MIDIを使った制御
マイコンモジュール・M5Stackを使ってデモしていたのはBluetooth MIDIを使った制御。
KORGの鍵盤・nanoKEY Studioを弾くと、Bluetooth MIDIが飛び、M5Stackへと届く。それがToioをコントロールする信号へと置き換わった上で、BluetoothでToioへ。モーターで動き回ることで、音が出るという仕掛けになっていた。会場の音が大きい中、Toioの音が小さいため、耳を近づけないと聴き取れないレベルではあったが、しっかり演奏されていた。
Standard MIDI File Player
純粋にWeb Musicというか、Web MIDIに取り組んでいた作品も。
「Standard MIDI File Player」はその名の通り、SMFデータを読み込んで、USBポートに接続されたMIDIデバイスを鳴らすというもの。ここでは学研のPocket miku=NSX-39を鳴らしており、そこで送信されるMIDI信号がバイナリ表示されるようになっていた。また、AKAIのウィンドシンセサイザ、EWI 4000sを制御するエディタ「EWI 4000s Editor β」も展示。その名の通り、USB接続したEWI 4000sの音色をコントロールできるようになっている。
「エンベロープジェネレーター」
慶応大学のサークルがベースとなって活動しているQux。
今は半分のメンバーが社会人になっているとのことだが、ここでは、アナログモジュラーシンセサイザーキットを開発・制作し、頒布も行なっている。今回は新作としてADSRの「エンベロープジェネレーター」をリリース。またカワイイ形のスピーカーも新登場となっていた。
「16LEDさん」「16ボタンさん」ほか
木下研究所が出しているのは、電子楽器を作る人のためのツール。
以前、小さなGM音源ボード「MIDI野郎キット」を筆者も購入したことがあったが、今回も新作がいろいろ出ていた。16個のフルカラーLEDである「16LEDさん」、16個のボタンが並ぶ「16ボタンさん」は、まさにドラムマシンなどを作る際にすぐに利用できそうな部品でそれぞれ1,500円(38)。それぞれの制御にCPUパワーをとれることなく、簡単な制御で利用できるようになっているという。
また「MIDI-UARTインターフェイスさんキット」はMIDIのTRSジャック、フォトカプラ、バッファなどの基本的な回路を備えた、マイクロコントローラとMIDI間のインターフェース基板。これを利用することで、マイコンでシンセサイザを作る際などでのMIDIのやりとりが簡単になる。また5Vと3.5Vの両対応となっていて、マイコンの電圧に合わせてジャンパースイッチで切り替えが可能になっているのも特徴となっている。
「エレキモノサシ」「MIDIビーム」ほか
Maker Faireの音モノの名物的になっている、R-MONO Labも出ていた。R-MONO labは楽器メーカーであるローランドのモノ作り同好会で、毎回大きいブースで派手な展示を行っていたが、今回は比較的こじんまりとしたブースで4つの作品を展示していた(40)。その3つを撮影したビデオがこちら。
1つ目はエレキモノサシ。見た通り、モノサシをベースのようにしているのだが、金属のモノサシを弾いた音を捉えているのは自家製のピックアップ。実は100円程度で販売されているリレーを分解してコイルを取り出し、100円ショップで売っている磁石と組み合わせて作ったハムバッカー型のピックアップ。ビデオの通り、結構いい音を出している。
2つ目の「MIDIビーム」は、ローランドの以前にシンセサイザに搭載されていたD-Beamコントローラーと同じ仕組みのデバイスを並べて楽器にしたというもの。D-Beamコントローラーを手をかざすと、その手の距離によって、エフェクトなどのかかり具合を変えるというものだったが、ここではそれを利用してドラムマシンにしていた。
3番目は、「touch:waves」というアーティスティックなWebアプリ。これまでもいくつかリリースされていたが、今回のvoiceは、iPhone/iPad/Androidのブラウザ上で動くもので、画面をタッチするとさまざまな言葉を発するというもの。
このサイトにアクセスすれば、誰でもすぐ使えるのだが、ループするBGMが流れている状態で画面にタッチすると、テンポにジャストマッチなタイミングで子供の声が発せられると同時に画面にひらがなが表示されるようになっている。
そして4番目はまったく音は出ない作品だが、よくできていると感心する「LEDピンボール」。STM32を使って作っているとのことだが、ボールがどのように動くかなど、物理演算のライブラリを活用しながらリアルにシミュレーションしているという。
「蛸焼打器」
続いては、広告代理店や制作系のメンバーが集まり、日常生活の中では忘れてしまうような、たわいもない世間話のような体験に価値を見出し、仕掛けていきたいという社会実験集団、kaiwamonoによる「蛸焼打器」。
ビデオの通り、たこ焼きをひっくり返す串が電極となっていて、たこ焼きを触るとドラムが鳴る仕掛けになっている。
そういうと、すごく単純なものにように思えるが、実はかなりテクニックを駆使したユニークな楽器になっている。電極でたこ焼きにタッチしたのをArdinoでセンシングすると同時にシリアル信号に変換して、屋台の下に設置されているMacに送り込まれる。一方で、たこ焼き機の上にはカメラが据え付けられており、それもMacと接続されていて、4×6の配列のどのたこ焼きにタッチしたのかを把握し、それに応じたドラムがなる形となっているのだ。
それを判断しているのはMac上で動作しているTouch Designer。このTouch Designerによって、実際どのたこ焼きにタッチしているかがアニメーション表示されたり、照明もON/OFFされている。一方で、その信号がAbleton Liveに送られてドラム音が出る仕掛けとなっているのだ。見たときはアルミホイルによるダミーのたこ焼きだったが、翌日にはリアルたこ焼きを焼きながら演奏していたようだ。
「電脳楽器による演奏支援システム」
最後に紹介するのは、熊本大学工学部情報電気工学科上瀧研究室による、電脳楽器による演奏支援システムだ。ここにはアルトサックス×2、アコースティックギター×1という3人のメンバーで演奏が繰り広げられていたのだが、ちょっとゴツい感じのロボット楽器となっている。その様子をぜひビデオでご覧いただきたい。
システム的にはPC上で開発したオリジナルのシーケンサを使ってUSBでMIDI信号を3台の楽器に送り、それぞれの楽器に取り付けられたロボットが演奏するというもの。サーボモーターを使ってサックスの指使いをコントロールしたり、ギターのフレットを抑える操作をしているのだが、全自動ではないというのがこだわりのポイント。
観賞用途で受動的な音楽体験ではなく、あえて半自動にし、サックスの息を吹くところ、ギターの弦をストロークで弾くところは人間が行う形の能動的部分を残し、音楽演奏体験が得られるようになっている、という。
また先ほどのビデオにもあったとおり、演奏時には音符が上から下へとスクロールする、音ゲー的な画面も表示されている。
演奏者はこれを見ながら自分の吹いたり、弦を弾いたりするタイミングを見計らっているのだ。この画面を見ていてふと気になったのは、Alt Sax 1、Alt Sax 2、GuitarのほかにもBassというパートがあること。音が聴こえなかったけれど、どこかで自動演奏しているのかと思って聞いてみたところ、「大学にはベースロボットがあり、同じように弾くことができるようになっているけれど、今回Maker Faire会場には持ってこなかったので、単純に音が出てないだけ」とのことだった。
以上、Maker Faire Tokyo 2022のミュージックゾーンをレポートしてみた。今後もこうしたところから新しい電子楽器が誕生し、広まっていくのでは……と期待しているところだ。