藤本健のDigital Audio Laboratory

第991回

半世紀ぶりにNEC「TK-80」が蘇る!? 互換キットで音を出してみた。前編

約47年前に発売されたNECのキット「TK-80」

TK-80というコンピュータをご存じだろうか? 今から約47年前の1976年8月にNECが発売した“ワンボードマイコン”で、国産のコンシューマ向けコンピュータとしては初のものだったが、筆者が初めて触れたコンピュータもこのTK-80であり、思い出深い機材でもある。

今、その大昔のコンピュータであるTK-80の互換キットが販売されている。「ZK-80」というもので、ハンダ付けして組み立てると、当時のTK-80を再現してくれる。今回は、筆者にとっての原点ともいえるこのキットで音を出すことができないか、試してみることにした。

互換キット購入は2度目。“音出し”リベンジなるか

TK-80については、ネット検索でいろいろと出てくると思うので、詳細はそちらに譲るが、簡単に紹介するとA4サイズの基板むき出しのコンピュータで、NECのμPD8080Aという、インテル8080互換のCPUを搭載したものだ。ディスプレイは7セグのLEDが8桁分搭載されているだけで、入力は5×5のキーボードのみという、とっても原始的なコンピュータだった。

TK-80に初めて触れたのは、筆者が中学1年生のクラブ活動のときだから、1978年だったと思う。技術家庭の先生が自身で購入したTK-80を学校に持ってきて、「これがコンピュータだ」といって我々に触らせてくれたのだ。この7セグのLEDディスプレイだけでゲームを動かしていたのだが、数字しか出ないはずの画面に「PLAY GOLF」と表示されて驚いたのを今でも覚えている。

まあ、中学生の当時は自分でTK-80のプログラミングをするということはなく、最初にBASICやアセンブラを覚えたのは、高校に入ってから。それまでに貯めたお年玉を使って、TK-80の後継ともいえるPC-8001を購入し、それで遊んでいた。

高校のクラブにもTK-80の実機があり、PC-8001で覚えたアセンブラの知識を元に、簡単なプログラムを作って音を出したりもした。ただ、PC-8001のCPUはZ80だったため、身に付いたのはZ80。対するTK-80はZ80の下位互換の8080だったので、使えない命令があり、それを避けながらプログラムしていた記憶がある。

TK-80はあくまでも学校のものだったが、大学入学後、たまたまクラスメイトからTK-80を譲ってもらい、初めて自分のものに。すでにPC-9801全盛期だったので、TK-80を使ったわけではないが、やはり日本最初のコンピュータはきっと持っておいて損はないはず、と今も大切に手元に置いてある。まあ、電源を入れることなんて数年に1度あるかどうかではあるが……。

そんなTK-80だが、しばらく前からエミュレートソフトや関連書籍も出ており、4年前にはTK-80を再現する「ZK-80組み立てキット」(当時の価格は3,780円)も発売された。

実はこのキット。もともと「電子ブロック工房」というサイトを運営するKatsumi Morimatsuさんが2013年に開発し、オープンソースの「ZK-80 mini」として発表したもの。これをピコソフトがキットとして販売したのが、ZK-80組み立てキットだった。

コア部分はMicrochip社のPIC32MX120F032Bというマイコンが使われていて、これ一つでほぼすべてをエミュレーションしている。そこに7セグLEDやキーボードを接続したのがZK-80で、キーボードの文字や色がTK-80そっくりなのもグッとくるところ。またZK-80という名前から想像できる通り、TK-80互換ではあるけれど、CPUは8080ではなく、Z80になっている点も個人的には嬉しいところで、ワクワクしながら組み立てた。

【藤本追記】オリジナルのZK-80 miniでエミュレートしていたのはZ80ではなく8080でした。このZK-80Nでは、CPUの容量が大きくなったこともあり、Z80をエミュレートさせています。(7月10日22時)

久しぶりのハンダ付けということもあり、結構時間がかかり、しかも最初はハンダ付けミスで動作しない…というトラブルもあったが、Facebookを通じて知人に助けてもらいながらなんとか完成。

プログラムが動作するところまで確認できたのだが、肝心の音を出すことができなかったのだ。そう音を出すには出力ポートが必要であり、基板上にはそのポートらしき端子もある。ところが、OUT命令でそのポートを叩いても、ウンともスンともしないのだ。

開発者であるKatsumiさんに、掲示板を通じて連絡を取って確認してみたところ、このファームウェア自体に出力ポートが実装されておらず、これを実現するには改良が必要とのこと。そこで、PICチップを新たに購入するとともに、PICライターを購入。プログラムの書き換えを行なってみるなど、いろいろチャレンジしてみたものの、なかなかうまくいかず断念していた。

が、先日ネットの記事で、ZK-80の“新バージョン”がピコソフトから「ZK-80N組み立てキット」として発売されていることを知った。すると、念願の出力ポートが搭載されていたので、喜んでまた購入したのだ。

値段は3,960円とちょっぴり上がっていたが、単に出力ポートが搭載されただけでなく、マイコンチップが「PIC32MX120F032B」(内蔵メモリー32KB)から、「PIC32MX170F256B」(同256KB)に変更されていた。さらに、圧電ブザーやリレーほか、プログラムのセーブ・ロード機能が搭載されるなど、かなりの強化が図られていた。

というわけで、今回4年ぶりに改めて組み立ててみることに。前回は大昔から使っていた30Wのニクロムヒーターのハンダごてを使ったが、単3電池×3本で動作するセラミックヒータータイプのハンダごてというものがあることを昨年知って購入していたので、これを使って挑んでみた。

セラミックヒータータイプのハンダごて

いざキットの組み立てへ

届いた荷物を開封し、箱を開けたところ、説明書の類が見つからない。ピコソフトのサイトにあるのかな? と思ってみたものの、そこにもなかったが、「BOOTH」で500円でPDF版が販売されていることを知り、さっそく購入。

説明書の類がない……
PDF版をBOOTHで購入

ただ、PDFには使い方の説明はあるものの、肝心の組み立て方については「基板の印刷のある面を上にして各部品を差し込み、下側からハンダ付けします」とあるだけで、詳細はほとんどなし。

これで作れるだろうか……? と不安になったが、世の中には親切な人がいるもので、組み立て手順を写真付きで丁寧に解説しているサイトがあった。リンクNGとあったので、気になる方は検索して参考にしてみるといいだろう。

というわけで、サイトの手順を参考にハンダ付けを実施。ダイオード、抵抗、コンデンサ、ICソケット……と背の低い部品から順番に取り付けていった。

背の低い部品から順番に取り付けていく

一方、キーボードは別基板となっていて、付属用紙をカッターで切るとともに、スイッチにはめ込んでいく。

キーボードは別基板。カッターで切って、スイッチにはめ込んでいく

次に、スイッチを基板に1つずつハンダ付けしていく。ホンモノのTK-80と違い、安いスイッチだけにガタピシしてしまうのは致し方ない所か。

3時間ほどでなんとかハンダ付けは完了。電源はmicroUSB供給となので、恐る恐る接続して電源を入れてみると……、7セグLEDは光るけれど、表示がピラピラと変わり、どうも怪しい。

ハンダ付けの不良があるのか? とルーペでチェックしたり、カメラで撮影して拡大してみたのだが、なかなか特定できない。怪しそうなところを、再度ハンダ付けし直してみると、今度は7セグLEDに「oooo oooo」と表示され、正しく動いている模様。

とりあえず完成

8000番地からのアドレスにデフォルトで格納されているサンプルプログラムを動かしてみると、マニュアル通りに動いてくれた。ただ、その後も若干動作が不安定で、うまく動作しない時があるのが気になるところ。落ち着いたら、再度チェックしてみようと思う。

そして、マニュアルにあるテストプログラムを使い圧電ブザーから音が鳴ることを確認。しかし、基板上にある小さなオレンジのLEDを点灯させようとしたが、こいつがどうも光らない。LEDの極性を間違えたかな……と引っこ抜いて付け直してみたけれどもダメだった。

オレンジのLEDが光らない……

そこで両端にリード線を取り付けてテスターで電圧を図ってみると、プログラムでLEDをオンにした際には4.43Vとなるので、回路自体は正しく動いている模様。

手元にあった別のLEDをリード線に付けたら赤く点灯したので、どうやらLEDの不良だった模様。まあ、不良品がほかの重要な部品ではなくLEDであったことにホッとしたところ。近いうちに秋葉原にでも行って、代替品を購入しようと思う。

どうやらLEDの不良だった模様

組み立てたZK-80Nを、本家TK-80と並べてみるとずいぶん小さく、親子というか、おじいさんと孫みたいな感じ。とはいえ、どちらも動いてくれるのは楽しいところ。

写真左が本家「TK-80」。右端にあるのが「ZK-80N」

さらに、4年前のZK-80と今回のZK-80Nを並べてみると、キーボードはまったく同じながら、メイン基板が大きくなり、部品点数も増えているのがわかる。次回はこのZK-80Nで音を鳴らすプログラムを作ってみたい。

写真左が、4年前に購入した旧キット。右のリニューアル版と比べ、基板が小さく部品点数も少ない
藤本健

リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto