第435回:iPhone/iPod touch搭載可能なMIDIキーボードが登場

~Synthesizer Festa 2010で展示。個人製作シンセも ~


Synthesizer Festa 2010
 10月9日、10日の2日間、東京・新宿区で「Synthesizer Festa 2010」(シンセフェスタ)が開催された。東京と大阪と順番に毎年開催されるシンセフェスタは今回が9回目。メーカーの展示やセミナー、ライブなどさまざまな催しが行なわれ、2日間の来場者数は1,000人を越える大きな規模へと成長した。

 このシンセフェスタの会場において、新製品も数多く登場していたので、レポートしよう。



■ 西新宿の廃校で開催された「Synthesizer Festa 2010」

体育館には、メーカーブースが展開された

 今年のシンセフェスタが行なわれたのは、西新宿にある廃校となった校舎。以前、淀橋第三小学校があったところで、現在、社団法人日本芸能実演家団体協議会が管理する芸能花伝舎として、演劇や落語、コンサートなどさまざまなイベントが開催されている。小学校の校舎だけに、体育館で各メーカー出展ブース、各教室ではセミナーが、そして別棟でコンサートやイベントが行われるなど、広い場所が有効利用されていた。当初、校庭ではフリーマーケットが開催される予定で、一般に対して出店を呼びかけていたが、雨天となったため中止となってしまった。

 まず最初に向かったのは、体育館での各メーカーの出展ブース。今年はヤマハ、ローランド、コルグ、プロオーディオジャパン、アビッドテクノロジー、インターネット、エムアイセブンジャパン、クリプトン・フューチャーメディア、フックアップ、メディアインテグレーション、モリダイラ楽器、山野楽器、レオンの計13社が出展。このタイミングで新製品が登場することは期待せずに行ったのだが、予想外にいろいろな新アイテムが展示されていて驚いた。


■ AKAI professional、iPhone/iPod touch用MIDIキーボード

 もともとシンセフェスタで展示することがアナウンスされていたため、個人的に期待して行ったのが、AKAI professional(プロオーディオジャパン)の「SYNTHSTATION25」。これはiPhoneやiPod touchをドッキングさせることを可能にした25鍵盤のMIDIキーボード。

本体上部にiPhoneまたは、iPod touchをはめ込める「SYNTHSTATION25」

SYNTHSTATION
 AKAI ProfessionalではiPadやiPhone用のアプリとして人気のあるソフトシンセ「SYNTHSTATION」を1,200円で販売しているが、このアプリをコントロール可能なキーボードとなっている。313×208×35mm(幅×奥行き×高さ)で800gとコンパクトで薄いキーボードで、iPhone 3GS、iPhone 4、iPod touch(2nd、3rd)を装着できるようになっている。

 底面に入れる単4電池×4本で駆動できるほか、オプションのACアダプタを接続すれば、iPhoneなどを充電することもできるようになっている。また、Dock経由でRCAのライン出力から音が出せるため、まさにシンセサイザとして利用できる。

【お詫びと訂正】
 記事初出時に「Dock接続することで電源はiPhoneなどから供給できる」としておりましたが、実際にはiPhoneなどからの電源供給には対応しておりませんでした。お詫びして訂正します。(2010年10月15日)

 なお、SYNTHSTATION25にはUSB端子も搭載されているので、iPhoneやiPod touchを搭載しない状態でもPCと接続して、USB-MIDIキーボードとして利用することも可能となっている。発売は10月29日で、オープンプライス。実売価格は12,600円前後になる見通しだ。



■ Avid Technology、Pro Tools Mboxシリーズ

Pro Tools Mboxシリーズ

 すでに発売されているが、実物を初めて見たのがAvid Technologyの「Pro Tools Mboxシリーズ」。従来の青いボディーのMbox2から黒いボディーに変わり、ついにDigidesignブランドが消え、Avidへと統一された。新ProTools Mboxシリーズは、USB接続のスタンダードとMini、それにFireWire接続のProと3種類があるが、今回展示されていたのはスタンダードとMini。Proはまだ入荷しておらず、今月中には発売されるとのことだ。

 この新バージョンの最大の特徴は、スタンダードとProにDSPが搭載され、本体機能でリバーブがかけられるようになったこと。レコーディング用ではなく、モニターへ返すためのものだが、CPU負荷をかけないという点では大きなメリットだ。またASIO、CoreAudio、WDMなどのドライバにも対応したため、Pro Tools LEに限らず各種アプリケーションで積極的に利用できるようになっている。なお、バンドルされるソフトはPro Tools 8 LEであり、この点では従来と変わらない。Pro Tools Mbox Proが入荷したら、製品をお借りしてレビューする予定だ。

 なお、今回展示はされていなかったが、先日海外で発表されて話題になっているPro Tools HD Nativeについても少し話を聞くことができた。Mboxと同様にDSPボードを使わず、PCのCPUパワーだけでミキサーもプラグインも動かすプロ用のレコーディングシステム。従来のPro Tools HDと同様にHD I/OやHD Omniを利用することができ、Pro Tools HD Softwareを使う。ただし、DSPがないので、TDMプラグインは利用できず、すべてRTASを利用するとのこと。また、価格的にはかなり安くなり、Pro Tools HD Native Core System単体で37万円程度、Pro Tools HD Native + HD Omniの構成で63万円程度になるそうだ。



■ ヤマハは、ソフトシンセ「HALion Sonic」をアピール

HALion Sonic

 ヤマハブースで打ち出していたのは、シンセフェスタということもあり、先日発売されたSteinbergのソフトシンセ「HALion Sonic」。12GBのサンプルライブラリーを搭載し、4種類のモードを備える16マルチティンバー音源となっている。4種類のモードとはサンプルプレイバックモード、スライスループモード、ドラムモード、シンセモードで、これらを自由に組み合わせて使うことが可能だ。

 12GBのサンプルライブラリーは「MOTIF」シリーズのサウンドデザインチームが手がけた1,200音色以上の楽器音で構成されており、楽器ごとに最大18種類のアーティキュレーション=演奏法を備えている。これを利用することで、単なる打ち込みではなかなか難しい、ギターのチョーキングやスライドなどをリアルに再現できるようになっている。

 すごいのはサウンドエディット機能。24種類のフィルターを備えていたり、マルチステージエンベロープ、LFO、ステップモジュレータなど数多くのコンポーネントを備えているほか、Cubase5に搭載されているコンボリューションリバーブ、REVerenceと同等のものが搭載されている。2001年にヤマハが発売した50万円のコンボリューションリバーブ「SREV1」をソフトウェアとして復刻したものだ。もっとも、REVerenceが使えるのはHALion Sonic内だけであり、エフェクトのプラグインとして利用できるというわけではない。



■ インターネットは「ガチャッポイド」をデモ

ガチャッポイド
Sound it! 6.0 for Windows

 インターネットがメインに打ち出していたのは、発売されたばかりのVOCALOID2「ガチャッポイド」。ガチャピンの声で歌ってくれるアプリケーションだ。先月の発表時にはニュースとして話題になったが、担当者によると1年前に発売された「メグッポイド」が最近になって人気沸騰しているとのこと。確かにニコニコ動画などでも最近見かけることが増えているが、声質の良さが評価されて売れているのだとか。先日発売された「Lily」や「ガチャッポイド」が今後どういった評価をされるのか注目される。

 一方、デモはされていなかったものの、一所懸命にアピールしていたのが11月中旬発売予定の波形編集ソフト「Sound it! 6.0 for Windows」だ。Premium(17,640円)と、Basic(10,290円)の2種類があるが、いずれもVSTプラグインが使えるようになったり、Sonnoxのノイズリダクション用のプラグインが搭載される予定。またACIDファイル作成機能も搭載され、テンポ、拍子、ルート音などの設定もできるようになっている。



■ 目立つ、アナログ系の機材

AM(Active MIDI)モデル

 メーカー展示ブースで結構目立っていたのが、アナログ系の機材。まずは山野楽器がデモをしていたビンテージエレピの代表的な存在「RhodesのMark7」だ。昔ながらの機構をそのままに、スタイリッシュなデザインに仕立て上げたMark7は、2007年に登場したが、そこにコントローラをつけたA(Active)モデルが昨年登場。

 今回展示されたのは、先日発売されたばかりのAM(Active MIDI)モデルだ。中を空けて見せてもらったが、確かに電動仕掛けの金属板が並んでいる。そこに、音色コントローラとともに、MIDI入出力も搭載し、フロントにはLCDディスプレイも備えている。ちょっと触らせてもらったが、本当に気持ちいいRhodesのサウンド。ただし価格は871,500円と、一般人には手が出せそうにないものだった。


電動仕掛けの金属板が並ぶLCDディスプレイも備えている
DRIFT BOXシリーズ
 また2年前のシンセフェスタでも見かけた大阪の小さなシンセメーカー、REONから新型のアナログシンセが発表されていた。REONではこれまで「DRIFT BOX」シリーズという、小さなユニットをいろいろ発売していた。アナログシンセ、ステップシーケンサ、リズムシーケンサ、ボコーダー……などだが、今回新たにモジュラーシステムを発表した。

 スーツケースに新開発のモジュールをガチャンとはめ込むことでシステムを構築することができ、オーダーによって自由にモジュールを組み合わせられるという。シンセサイザを5~6台に、ミキサー、CV-GATEのステップシーケンサを組み合わせた標準的なシステムで35万円程度になりそうとのこと。そのほかにもCV-GATE/MIDI変換装置などさまざまなモジュールを開発中とのことだ。


新たにモジュラーシステムを発表CV-GATEのステップシーケンサ

 エムアイセブンジャパンブースの前面では、5月のIMSTA Festaでも展示されていた「SEM」(Synthesizer Expander Module)のCV-GATE方式のアナログ・モジュールシンセサイザのデモが行なわれていたほか、奥では先日発売されたPropellerheadの統合型ソフトシンセ「Reason5」と、レコーディングソフト「Record1.5」のデモが行なわれていた。今回2年ぶりにアップデートされたReasonは、また新たなユニークな機能をいろいろ搭載しているので、近いうちに改めて取り上げたい。

「SEM」のCV-GATE方式のアナログ・モジュールシンセサイザのデモが行なわれていた「Reason5」と「Record1.5」もデモされていた

 またコルグブースでは年末に発売される予定のニンテンドーDS用のKORG M01が展示され、誰でも触れるようになっていたほか、先日発表されたUSB-MIDIキーボード「microKEY」、小さな電子ピアノ「microPIANO」が一般へ初披露された。

KORG M01
microKEY
microPIANO

■ クリエイターズ横丁には、「音の鳴らないシンセサイザー」

 体育館を出て、本校舎に入ると、3つの教室でセミナーが開催されていた。シンセフェスタの主催者であるJSPA(日本シンセサイザー・プログラマー協会)が行なうMIDI検定セミナー、メーカーが行なうハンズオンによるシンセサイザの音作りセミナー、またVOCALOIDやiPhone関連のセミナーなど、2日間で予定がギッチリ詰まっていた。Webでの事前予約制となっていたが、ほとんどが満席となるなど、活況だった。

3つの教室でセミナーが開催された

 さらに進んで、元職員室と思われる場所に来てみると、「クリエイターズ横丁」と書かれている。覗いてみると、インディーズレーベル、音楽出版社、個人やとても小さな企業、そして同人音楽サークルによるブースが設置され、展示や販売がされていた。所狭しと18ものブースが並んでいたのだが、ナンセンスなものから、ものすごいものまでいろいろとあった。

SHIN-RYUのブース
ペーパークラフトのシンセ

 まずは紹介したいのが、「音の鳴らないシンセサイザー」を販売するSHIN-RYU。「MA9-1 OSCILLATOR MODULE」は4つのモジュールが入って1,000円という格安シンセ。会場では通常の半額500円で売られていたが、実はこれ、はさみとカッターナイフ、のりで作るペーパークラフト。

 完成すると、いかにもアナログシンセのモジュールっぽくなる。さらに、本格的なのが「MAGNET SYNTHESIZER」。これは冷蔵庫や机など、マグネットが付くところならどこでも使えるようにマグネットを埋め込んだツマミを採用してあり、本物のボリュームをいじるような感覚で回せるようになっている。

 1台2,100円となっているが、ツマミはなかなか入手困難な輸入モノであるため在庫が切れると次はいつ出荷できるか分からないとのことだった。当日は開発者本人は不在で、奥様が「触っているだけでも楽しめますよ」と懸命に売っていたのが印象的だった。



■ 個人開発・販売のシンセ機材

 CDを販売しているブース、iTunes Storeへの楽曲販売の代行会社、レコーディングやイベントサポートなどアーティスト支援を行う専門学校生の団体などなど、いろいろなブースがあったが、やはりここはシンセフェスタ。シンセ機材を開発・販売している個人ブースもあった。

 まずは1つ6,000円で販売されていた「YMOクリックバッヂ」。これはMOOGモジュラーのシーケンサをモチーフとしたバッヂ型の音源。いわゆる「ドンカマ」といわれる「キッ・コッ・コッ・コッ・カッ・コッ・コッ・コッ」というガイド用のリズム音を鳴らすもので、この基板から直接音が鳴るようになっている。よく見てみると電源スイッチのほかに、半固定ボリュームが4つ並んでおり、テンポを変更できるほか、「キッ」、「コッ」、「カッ」それぞれのピッチを変更できるというマニアックなものだ。

 また同じ人が開発した「XR-NoizBoxII」は30,000円で販売されていたアナログのドラムシンセサイザ。EXARのファンクションジェネレータIC「XR-2206」を核にしたもので、かなり高機能な音源。矩形波、三角波、サイン波の3種類が出せるオシレータを搭載するとともに、ワイドレンジのLFOによって金属音も作成可能。外部のアナログシンセサイザからCV入力を受けたり、反対にCV出力もできるなど、拡張性もある本格的な音源モジュールとなっていた。

 そのXR-NoizBoxIIの開発にも協力したbeatnic.jpのtakedaさんが開発したのが「monotron++」。これは今春コルグから発売された小さなアナログシンセ「monotron」を改造したもので、本家monotronになかった波形を追加したり、VCA機能を付加するとともに、MIDI入力機能まで装備させたというモジュール。完成したmonotron++が限定3台、各20,000円で販売されていたが、即完売していたようだった。また、MIDI化するための基板(部品なし)も、当日限定の1,000円で販売されており、注目を集めていた。

YMOクリックバッヂ
XR-NoizBoxII
monotron++


■ 10年目となる来年以降のさらなる盛り上がりにも期待したい

 別棟のスタジオ側では向谷実氏によるライブをはじめ、松武秀樹氏・氏家克典氏による音楽創作番組のニコニコ動画生放送など、さまざまなイベントも行なわれていたが、ここではここでは新製品にフォーカスを当てて紹介した。

 今年2010年は楽器フェアがない年であり、また楽器フェスティバル(旧大楽器祭)も行なわれなかっただけに、シンセフェスタの重要性は高まってきたように感じた。また、以前のシンセフェスタとは変わり、単にメーカーの出展だけでなく、個人や小さな団体も発表の場が持てる学園祭的な運営方針にもとても好感が持てた。ぜひ、10年目となる来年以降のさらなる盛り上がりにも期待したい。



(2010年 10月 12日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]