第468回:「Macで音楽祭り2011」で披露された新製品

~小型多機能シンセ「OP-1」や各社iPadアプリなど ~


 7月2日、Macのユーザーグループ「Macで音楽クラブ」主催によるDTM系のイベント「Macで音楽祭り2011」がアップルジャパンのセミナールームで開催された。ここには7社の企業が出展してブースを出すとともに各社によるセミナーも開催され、国内初公開の製品もいろいろと登場した。今回は、そうした新製品を中心にこのイベントで展示されていた製品について紹介していこう。

アップルジャパンのセミナールームで行なわれた「Macで音楽祭り2011」各社のブース出展や、セミナーが行なわれた


■ 8年ぶりの開催で、7社がブースを展開

Macで音楽クラブ代表の小山利英子さん

 「Macで音楽祭り」が行なわれたのは2003年以来、8年ぶりで今回が2回目。そもそも、これを主催する「Macで音楽クラブ」とはどんな団体なのだろうか? 同クラブ代表の小山利英子さんは、「このクラブを作ったのは1999年1月のことでした。私自身、MacによるDTMで音楽を作ろうと思いながらも、情報がなくて、どうしていいのか分からないことばかりでした。そこで気軽に聞けて情報交換ができる場がほしいという思いから、アップルのユーザーグループの一つとして、たった2名でスタートさせたのがそもそもです。その後どんどんと人が増え、最盛期には80名にまでなりました」と話す。

 実際、このクラブではオンライン上で情報交換をしつつ、定例会としてミーティングなどを重ねながら、個々に作った作品を発表していったのだ。さらに、複数のメンバーでコラボレーションして作品を作るなど、発展していった。「当時、パソコンもWindowsが主流となっており、楽器フェアなどのイベントでもWindowsの話が中心になっていました。でも私たちMacユーザーとてはMacだけの情報が得られる場が欲しいという思いから最初の『Macで音楽祭り』を企画し、それなりに成功させることができました」と小山さん。

 そのときもやはりアップルジャパンのセミナールームを借りて開催したとのことだが、それから8年も空いてしまったことについては「当初、毎年企画していくつもりだした。しかし、ちょうどそのころIMSTA FESTAというイベントがはじまり、これが私たちが考えていたものと非常に近いコンセプトのイベントとなったため、それをお手伝いする形で参加するようになったのです」(小山さん)。

Macで音楽クラブのメンバー

 ただ今年の春、そのIMSTA FESTAが行なわれなかったため久しぶりの開催になったそうだ。イベントの告知から入場者の管理、また会場の整備などはすべてMacで音楽クラブのメンバーが行なった。さらに今回もセミナールームをアップルジャパンから無償で借りることができたので、入場料無料という形で開催できたのだという。

 その会場にブースを出したのは、アールテクニカ、エムアイセブン ジャパン、コルグ、ハイ・リゾリューション、フックアップ、ベスタクス、メディア・インテグレーションの計7社。ブースにさまざまな製品を展示していたほか、プレゼンテーションステージでのセミナーも行なっていたので、順に紹介していこう。



■小型多機能シンセサイザ「OP-1」がついに製品化

 まず、今回一番人気となっていたのが、メディア・インテグレーションが国内初公開として展示を行なった小型シンセサイザ、OP-1だ。スウェーデンのTeenage Engineering社が開発した製品だが、実はこれ、2009年3月にドイツの展示会Musikmesseで発表されたものであり、当時から大きな話題になっていた。ただ、MusikmesseやNAMM SHOWなど、海外の展示会で展示されるもののなかなか製品化されないまま2年以上が経過していたのだ。それが、ついに7月5日、標準価格94,000円で発売ということになったのだ。

OP-1

 見た目にはオモチャという感じのOP-1。なんでこんなものが94,000円もするの? と疑問に思う方も少なくないだろうが、実物を触ってみると納得する。これ、かなりすごいシンセサイザなのだ。4オペレータのFM音源、デュアル矩形波オシレーター、フィジカルモデリング……と7種類のシンセサイザエンジンを持つほか、6秒のサンプリングが可能なSynth Sampler、さらに12秒のサンプリングができるDrum Samplerを別途装備。そしてシーケンサ機能、4トラックのテープ機能を装備するなど、これ1つで音楽制作ができるデバイスとなっているのだ。

 中には400MHzのプロセッサコア、64MBのSDRAM、512MBのストレージ、そして24bit/96kHzのAD/DAを装備し、USBでPCと接続することで、PCからはMIDIデバイスとしてコントロールできるようになっている。そしてなんといっても目を引くのが、ここに搭載されている320×160ドットという小さなディスプレイ。実はこれ、AMOLEDディスプレイ(アクティブマトリクス式有機EL)で、60fpsでの表示ができる。それだけに、滑らかでキレイなのだ。このディスプレイを使いながら、自由自在な音色エディット、音楽制作ができるようになっている。

60fps表示の有機ELディスプレイを搭載

 同じく本邦初公開というのがハイ・リゾリューションがセミナーのほうで、チラ見せしたMOTUのソフトウェアサンプラー、MOTU MachFive3。残念ながら、こちらは写真撮影禁止ということでお見せすることはできないが、32bit/192kHzに対応したもの。強力なスクリプト機能を装備するほか、64bit版OSにネイティブ対応し、MacでもWindowsでも利用可能とのこと。ただ、現在まだ開発中であり、発売時期や価格などは未定とのことだった。

 同じMOTU製品として1カ月ほど前に発売したのが、24bit/96kHz対応で6in/8outのUSBオーディオインターフェイス、Audio Expressだ。MOTUのオーディオインターフェイスというと、かなり高価なイメージがあるが、Audio Expressは前面の液晶ディスプレイを廃しLEDによるレベルメーターのみにすることで、実売価格55,000円と比較的安価に抑えたのが特徴。DSPを搭載していないので、内部エフェクトなどはできないが、内蔵しているA/DやD/Aは上位機種と同等の部品を使っているため音質的には遜色ないという。

24bit/96kHz対応で6in/8outのUSBオーディオインターフェイス「Audio Express」

 MI7 Japanがメインに展示していたのは米PreSonousのデジタルミキサー、StudioLive 16.0.2だ。これは16chのデジタルミキサーではあるが、単なるミキサーではなく、FireWireオーディオインターフェイス機能、エフェクト機能、マイク・プリアンプ機能を備えるとともに、Mac/Windowsと接続することで、PC側からStudioLiveの各機能をトータル的にコントロールできるという多彩な機能を持つ機材。

 コントロールするアプリケーションとしてVirtual StudioLiveソフトウェアというものがあるのだが、ユニークなのはそのVirtual StudioLiveソフトウェアと連携するSL Remote for iPadというアプリが無償提供されていること。つまり、iPadを通じてStudioLiveをコントロールすることができるわけだ。これにより、わざわざミキサーの前まで行かなくても、ギタリストやキーボーディストなどが自分のプレイする位置からミキサーをコントロールし、調整するといったことが可能になるのだ。

 さらに、StudioOne Artistという高性能なDAWがバンドルされるのも大きなポイントとなっている。現在、16chといった大きさのデジタルミキサーがほとんど存在していないだけに、DTMユーザーはもちろん、PAのエンジニアなどからも注目を集めている。まだドライバが完成していないとのことで、発売は8月ごろになる見込みだが、価格的には15万円程度になるだろう、とのこと。実際に発売されたら、ぜひ試してみたいと思っている。

米PreSonousの「StudioLive 16.0.2」
アプリの「SL Remote for iPad」


■ Arturiaのソフト&ハードシンセ、アールテクニカの耳コピアプリ

 フックアップが展示していたのは、フランスArturiaの製品2種類。ご存知のとおりArturiaは「バーチャルアナログ」という分野を得意とするソフトシンセメーカー。MOOGやPROPHET、ARP-V、JUPITER-8……といった往年の名機をソフトウェアで復刻してきたメーカーとして知られるが、最近はそれをハードウェア化したOriginといった製品を出すなどさまざまなアプローチをしている。そのArturiaのソフトシンセ + ハードウェアというセット製品を今回2つ展示していた。

 1つ目がANALOG EXPERIENCE THE LABORATORY 49だ。Arturiaでは各ソフトシンセの音色をピックアップして1本のソフトにまとめたお手軽音源、Analog Factoryという製品を出しているが、その音色数、利用パラメータなどを増やした上位版Analog Laboratoryという製品が標準価格31,290円で販売されている。そのAnalog Laboratoryに49鍵盤のUSB-MIDIキーボード兼コントロールサーフェイスをセットにしたのが、ANALOG EXPERIENCE THE LABORATORY 49なのだ。ボタンやツマミ、フェーダー、パッドなどがAnalog Laboratoryの画面とそっくりだから扱いやすいというのも大きな特徴となっている。

Arturiaの「ANALOG EXPERIENCE THE LABORATORY 49」Analog Laboratory

 そして同じソフトシンセ + ハードウェアという組み合わせながらドラム専用音源となっているのがSPARKだ。こちらはArturiaのまったく新規の音源であり、ソフト単体での発売は現在のところされていない。音源としては一般的なPCM音源のほかに、アナログモデリング音源、フィジカルモデリング音源の大きく3種類を使うことができるが、やはりお得はアナログモデリングであり、数多くの音色がプリセットとして用意されている。また無償でライブラリの配布も行なわれており、6月いっぱいで終了してしまったがTR-606、TR-707のライブラリもダウンロード可能となっていた。これをハードウェアとセットで使うと、ドラムマシンっぽい感覚で打ち込みができたり、これを使ってのパフォーマンスプレイも可能。Ableton live用のプリセットデータも用意されているなど、DAWのコントロールサーフェイスとして使うことも可能なようだ。

ドラム専用音源の「SPARK」


アールテクニカの「mimiCopy」

 アールテクニカのブースにはmimiCopyというiPad/iPhone用ユニバーサルアプリが展示されていた。アールテクニカってどこかで聞いたことがあったような……と思ったら、Digital Audio Laboratoryで2002年に取り上げたWindows用のユニークなVST/DirectXホストアプリ、CONSOLEを開発していたメーカーだ。同社はその後もサウンド関連、グラフィックス関連を中心としたアプリケーションを開発していたとのこと。ただ、プロトタイプの開発など、一般ユーザーの目に見えないところでの仕事が多かったので、知られていなかったが、CONSOLE以来久々にコンシューマ向けにリリースしたのが、そのmimiCopyなのだ。

 もっとも、このアプリは昨年11月にリリースされたものであるため、新製品というわけではないが、なかなか便利な製品だ。このアプリの目的はタイトルどおり、「耳コピ」だ。iPad/iPhoneのiPodデータとして入っている楽曲やWi-Fi経由で転送した楽曲データを読み込むと波形表示される。その中から耳コピーしたい箇所を選び出した上で、ピッチを変えずにテンポをゆっくりにして再生するとともに、そこだけをループ再生させるといったことも可能。なかなか聴き取れない箇所をじっくりと聴くことができるというわけだ。まあ、ピッチを変えずにテンポを動かすといったことはさまざまなソフトでできるもので、いまさら珍しいわけでもないのだが、普段使っているiPodデータから手軽に呼び出し、面倒な操作なしに、必要な部分を抽出できるというのは、なかなか便利だ。



■ ベスタクスの最新DJ機器、コルグのBluetooth同期システムなど

 ベスタクスが展示していたのは、やはりお得意のDJ機材だ。今回展示していたのは大きく2種類、エントリーモデルのSpinと同社最上位モデルのVCI-300MK IIだ。まずSpinは実売価格30,000円前後というMac専用のコントローラでiTunesと連携したDJプレイができるというもの。タッチセンス付JOGホイールでスクラッチやバックスピンなどのDJプレイが可能で付属マイクを使って音声にリアルタイムエフェクトをかけることができる。

 Mac側のアプリケーションとしては、ドイツalgoriddim社のdjayというソフトがバンドル。そのコントローラとしてSpinを使うというわけだ。ご存知の方もいると思うが、そのdjayのiPad版であるdjay for iPadというものがalgoriddimからリリースされている。これはiPad上に表示されるターンテーブルなどを利用してDJプレイを楽しむアプリなのだが、それがまもなくSpinに対応するのだ。ベスタクスのブースではβ版が展示されていたのだが、Cammera Connection Kit経由でUSB接続すると、Spinからdjay for iPadがコントロール可能になるというわけだ。

エントリーモデルの「Spin」algoriddimのソフト「djay」Cammera Connection Kit経由でUSB接続すると、Spinからdjay for iPadがコントロールできる

 一方、最上位モデルのVCI-300MK IIは実売価格75,000円程度となかなか高価だが、一般の高級DJミキサーと同じパーツを使って、プロユースに仕立て上げたというもの。アプリケーションのほうもよりハイエンドなDJソフト、ニュージーランドにあるSerato社のITECHがバンドルされている。ターンテーブルに相当するホイール部分は解像度を上げることで、絶妙なプレイが実現可能となっているのだ。また必ずソフトとハードをセットで使う形に作られており、ソフト単独またはハード単独では使えない。

 面白いのはVCI-300MK IIのオプションとしてエフェクトコントローラが存在しているということ。VFX-1というこの機材、2系統・12種類のエフェクトが利用可能で、ハイパスフィルターを使って音をコントロールしたり、フランジャーやトレモロ、コーラス……などが使える。またLFOはテンポに同期するなどなかなか使えるツールだ。価格は25,000円前後となっているが、VCI-300MKIIとVFX-1をセットにした製品もリリースされたところだ。

最上位モデルの「VCI-300MK II」Seratoの「ITECH」がバンドル

 そして最後に紹介するのがコルグだ。コルグのブースでは同社のiPad用のヒットアプリ、iELECTRIBEや先日発売された小型のアナログシンセ、monotribeなどが展示されていたのだが、ここでフィーチャーされていたのが、先日も記事で紹介したBluetoothを利用した同期システムWISTだ。セミナーのほうでも、開発者自らが実演して紹介していたのだが、ここではmonotribeと合わせて無料でリリースされたiPhoneアプリ、SyncKontrol for monotribeを交えての同期が行なわれていた。

 以前も書いたとおりWISTは、スタートのタイミングだけを合わせる単純な同期システムだが、なかなかうまく機能してくれる。SyncKontrol for monotribeもWIST対応しており、これを通じてiELECTRIBEやiMS-20などとアナログシンセであるmonotribeを同期させることができるのだ。その仕掛けは意外と簡単。SyncKontrolではテンポに合わせてカッカッカッカッといったノコギリ波を発生させるのだが、それをヘッドフォン端子からmonotribeのSync Inに接続すると、カッという1つの音につき1ステップずつ進行するという仕組みになっているのだ。

monotribe
セミナーでの実演SyncKontrol for monotribe

 さらにこれまであまり公開されていなかったが、iELECTRIBEに埋め込まれていたユニークな機能についても披露された。それは実はMacのNetwork MIDIに対応しているということ。Network MIDIについてはだいぶ前に紹介しているが、要するにLAN上にMIDI信号を送るという機能。Wi-Fi経由でそのNetwork MIDIの信号を受信でき、MIDIクロックを送るとそれに同期して動く仕様になっているのだ。特に設定をする必要もなく動作させることが可能となっているのだが、セミナーにおいては会場にいる来場者のiELECTRIBEにNetwork MIDIの信号を送って、Ableton liveと同期させるというユニークな実験も行なっていた。

 以上、Macで音楽祭り2011で展示されていた主な製品を紹介してみたが、いかがだっただろうか? いくつかの目ぼしい製品もあったので、後日レポートしたり、自分用に買ってみたいと思っている。最後にMacで音楽クラブ代表の小山さんに伺ってみたところ、「なんとか無事に開催することができました。非常に面白いイベントができたので、今後毎年開催していきたいと考えています。今回は準備不足でできませんでしたが、今後はiPad用アプリを開発した個人の方もブースを出したり、発表したりできる場にしていきたいと考えています」とのこと。来年以降、どう発展していくのか楽しみなところだ。


(2011年 7月 4日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]