西川善司の大画面☆マニア

第247回

「デスクトップ・シネマ」実現? LGの湾曲38.5型液晶「38WK95C-W」でシネスコ体験

デスクトップ・シネマディスプレイ?

LG「38WK95C-W」

 以前からプロジェクタ愛好家の間では、「映画しか見ない」ということで、ホームシアターに設置するスクリーンをアスペクト比2.35:1のシネスコサイズで選択することがあった。

 もし「映画好き」のパソコンユーザーがいたとしたら、そのモニターのアスペクト比は「2.35:1でもいいかな」と言うことになるかもしれない。

 そんなニッチな要望をうけてかどうかはしらないが、最近ではサムスンやLGなどが、アスペクト比21:9(≒2.35:1)のシネスコアスペクト比のテレビ製品やパソコン向けモニター製品を投入してきており、バリエーションが充実しつつある。

 大画面☆マニアとしても、このアスペクト比「21:9」を無視しているわけにもいかなくなってきた感があるので、今回取り上げることにした次第だ。

 今回選択したのはLGの「38WK95C-W」。横解像度は、AVユーザーに親和性の高い3,840ピクセルだ。ちなみに縦解像度は1,600ピクセルなので、アスペクト比は正確には21:9でも2.35:1でもなく、24:10(2.4:1)である。

 これはUltra HD Blu-rayの映画コンテンツのシネスコ収録解像度とほぼ一致する。

 21:9アスペクトのモニターは結構色々出てきているのだが、「シネスコアスペクトの横解像度4Kの製品」は少なく、過去に日本で発売されたのはLGの「38UC99-W」くらい。今回の取り上げる「38WK95C-W」は、38UC99-Wの後継モデルに相当するもので、2018年4月に登場したばかりの新製品だ。実売価格は16万5,000円前後。

16:9の40インチでシネスコを見ているのと同感覚

 画面サイズは38インチだが、実際には横長アスペクトのため、「38インチ」から連想されるサイズよりも幾分かコンパクトだ。

 24:10の3,840×1,600ピクセルの38インチは、もし、これがそのまま16:9の3,840×2,160ピクセルのディスプレイだったとすると計算上は40インチになる。つまり「40インチの4Kテレビでシネスコ映像を見ているときの画面」を上下の黒帯分を除外して製品化した」と捉えるとイメージしやすいかも知れない。

 画面はなだらかに湾曲しており、曲率は2300R。つまり、半径2.3メートルの円弧状の湾曲と言うことだ。

サムスンなどからは湾曲率の強い1800Rなどの製品がでているが、38WK95C-Wはなだらかな2300Rという曲率

 額縁のサイズは実測で上、左右が約11mm、下側は約16mm。まずまずの狭額縁設計になっていると思う。

 スタンドは高さ調整付きで10cmの高低調整が可能。最も下に下げた状態では、テーブル面から約11.5cmの所にディスプレイ部の可変が来る感じとなる。

スタンドは組み立て式だが手順は簡単

 意外なことに、左右の首振り(スイーベル)機構はなし。上下方向き(ティルト)調整は下向き-5°、上向き+15°の調整に対応する。縦画面モードへのピボット回転は無し。まぁ湾曲ディスプレイなので当然か。

 このスタンドはディスプレイ部からの脱着が可能で、汎用の100×100mmのVESAマウントで設置することも可能だ。

なかなかの狭額縁デザインだが額縁レスというほどではない。
スイーベル機構がないのは意外。チルト機能は下向き-5°、上向き+15°の調整に対応
スタンドの脚部は、画面中央付近の突き出はほとんどないので、キーボードやマウスなどをディスプレイに寄せて設置しても干渉はほとんどしない

 重量はスタンド込みで9.2kg。ディスプレイ部だけでは7.7kg。軽くはないが、男性であれば一人で持ち運びや設置はできるはずだ。

スタンド部。ディスプレイ部との合体はネジ留め不要のドライバーいらず。ただし、ディスプレイ部自体にはネジ穴が切ってあるのでVESAマウントへの組み付けに対応VESA

 38WK95C-Wは、ステレオスピーカーを内蔵する。出力は10W+10W。サウンドを聴いたところ、音質は想像していたよりはずっと良かった。パソコン向けディスプレイの内蔵スピーカーというと、「とりあえず音が鳴るだけ」というものが多いが、少なくとも一般的なテレビ並の音質は担保できている。低音もそれなりに出ているし、比較的、音量を大きく出せるので、ゲームやYouTubeなどをカジュアルに楽しむ分には不満ないレベルだ。

 電源はACアダプタを使用する。ACアダプタは19V:9.48A出力のかなり大きなもので重さは約750g。高性能なゲーミングノートパソコンのACアダプタのようなイメージだ。定格消費電力は70W。

ACアダプタはかなり重量級。本体をスリム&スリークデザインとするためなのだろうが、床や足元に転がしておくことを許容できるかはユーザー次第!?

接続性チェック~HDMI×2+DP+USB-C(Thunderbolt3)接続対応。Bluetoothも

 HDMI端子は2系統で、いずれもHDCP2.2、HDMI 2.0対応で4K/HDR映像の入力に対応する。

接続端子部はスタンド接合部横にレイアウトされる
接続端子群。USB TYPE-CはThunderbolt3接続に対応していれば追加のDisplayPort接続扱いとして機能できる。対応していなければただのUSB3.0アップストリーム接続扱いとなる

 実際に、Ultra HD Blu-rayプレーヤーと接続したが、YUV444/12bitやYUV422/12bitなどのフォーマットで映像を映し出せた。

UHD BDを本機で再生し、プレイヤー側のステータス画面を撮影。HDR10、BT.2020色空間に対応できていることを示している。YUV444/12ビットでの再生が出来ているということは38WK95C-Wは帯域的に18Gbps HDMIに対応していると言うことである

 DisplayPort端子は1系統のみ。DisplayPort 1.2a対応となっている。

 注目したいのは、可変フレームレート映像表示システムの「FreeSync」に対応しているところ。しかも、HDMIとDisplayPortの両方においてFreeSyncがサポートされているのだ。FreeSync時の対応リフレッシュレートは52Hz~75Hz。最近の120Hzオーバー対応の製品がひしめくゲーミングモニター製品群と比較すれば、「上限75Hz」というスペックは物足りなく思う人もいるかも知れないが、もともと38WK95C-Wはゲーミングに特化した製品でないことを考えれば、この対応力はむしろ立派と捉えるべき。

 現状、かなりのハイエンドGPU(たとえばGeForce 1080クラス、RADEON VEGAクラス)を搭載したマシンでなければ、ゲームのグラフィックス設定を最高位に設定して3,840×1,600ピクセルでコンスタントに60fpsを出すのはきついため、38WK95C-WのFreeSyncは、60fps±αの可変フレームレートのゲーム映像を美しく表示することへの活用がメインとなるだろう。

 実際にパソコンと接続してみたが、HDMI接続でもDisplayPort接続でも3,840×1,600ピクセル解像度で最大で75Hzのリフレッシュレートが選択できた。

最大リフレッシュレートは75Hzまでを選択可能。HDMI接続、Display Port接続、いずれにおいても75Hzまでの設定が可能であった

 38WK95C-Wは、USB Type-C端子も備えており、こちらはホストパソコンがThunderbolt3に対応していれば、USB Type-Cケーブルで映像と音声伝送が行なえる。非対応パソコンの場合は、38WK95C-W側のUSB 3.0ハブ機能のアップストリーム用接続として利用される。

 3.5mmのステレオミニジャックのヘッドフォン端子も備えている。前にも触れたが38WK95C-Wの内蔵スピーカーは優秀だ。そして、この内蔵スピーカーをBluetoothオーディオとしても利用できる。つまり、スマホとBluetoothペアリングさせれば、スマホのサウンドを38WK95C-Wの内蔵スピーカーで再生できるのだ。

38WK95C-WはBluetoothオーディオ機能まで備える。スマホからの音楽を再生しながらのPC作業も可能

操作性チェック~スティック一本で操作する独特な操作系

 38WK95C-Wにはリモコンなどはなく、電源オンから設定メニューの操作までをディスプレイ部下部のコントローラで行なう。携帯ゲーム機のアナログスティックのような押し込み動作に対応したコントローラで、その押し込み動作で電源オンとなる。

スティックを押し込むと表示されるOSD画面。最近のLG製パソコン用モニター製品の多くは数年前からこの操作系を採用している

 電源オンにしてHDMI入力の映像が表示されるまでの所要時間は約4.0秒。標準的な早さといったところ。

 電源オン中は,押し込み動作で基本メニューを起動することができて、左方向が入力切換、上方向が電源オフ、下方向がゲームモード専用の簡易メニュー、右方向がフル仕様のメニュー画面への移行になる。

下側にスティックを倒すとゲーム関連設定へ移動できる

 パソコン用ディスプレイは、下部やサイドに操作ボタンをいっぱいあしらったモノが多く、どのボタンがどういう操作に対応するのか分かりにくいものが多いのだが、本機のこの「スティック操作系」はシンプルで分かりやすい。

 HDMI1→HDMI2の入力切換所要時間は約5.0秒で、あまり早いとは言えない。PCモニター製品の場合は入力切換操作は結構高頻度で行なうので、この操作だけでも専用のボタンがあった方がよかったと感じる。スティック操作で入力切換を行なってそこから、切換先の入力を選択するという操作系は、切換所要時間の遅さも相まってややストレスを感じるからだ。

左側にスティックを倒すと入力切換メニューへ飛ぶ。入力切換はスピーディに行いたいので、何度もスティック操作を強いられるこの操作系は要改善。入力切換だけでもスピーディに行なえる操作系が欲しいところ

 本機は仕様にクセがあり、LG用語も多いため、使い始めのころは取扱説明書を随時チェックすることをお勧めしたい。本稿では、そうした「クセ」や「LG用語」の中から最低限チェックしておきたい部分を紹介しておく。

 まず、最重要ポイントとなるのが「アスペクト比」設定だ。

 後述するゲームプレイ支援機能のFreeSync機能がオンになっていると、アスペクトモードが「全画面」(アスペクト比無視の全画面表示)、「オリジナル」(アスペクト比を維持しての最大拡大表示。黒帯を伴う)しか選べない。パソコンなどと接続してドットバイドット表示を行なうだけの用途ではこれでも不満はないのだが、せっかくのシネスコアスペクトの本製品であればやはり、UHD BDなどの映画コンテンツの映像部分だけを切り出してアスペクト比を維持したまま大画面表示したいもの。具体的には3,840×2,160ピクセルの4HD BD映画の中央部分の3,840×1,600ピクセル分を切り出して38WK95C-Wに全画面表示したい……ということである。

 これを実現するためには、FreeSync機能をオフ設定にすると現れる「シネマ1」を利用することになる。FreeSyncオフ時には,この他「1:1」「シネマ2」も選べるようになる。

全てのアスペクトモードを有効化するためにはFreeSyncはオフに設定しなければならない。ここは本機仕様の独特な部分である

 「1:1」は本機のスケーリング回路を介さずに、入力映像を38WK95C-Wの映像パネルにドット・バイ・ドットで表示させるモードになる。たとえば1,920×1,080ピクセルのフルHD映像であれば、画面中央に小さく表示されるようなイメージだ。

 「シネマ2」は結論から言えばあまり使う必要は無いモードだ。いちおう建前上は「シネスコ映像を拡大表示するものの映像下側に字幕表示領域として黒帯領域を残したモード」と説明されているのだが、筆者が試した感じでは、若干、映像が横太りしてしまう。

 最近のBDプレーヤーは字幕の表示位置を自由に変えられるものもあるし、アスペクト比維持ができないこの表示モードを利用する必要性はないと感じる。

 UHD BD/BDをシネマスコープ再生するには、「シネマ1」を選んでおけば良い。

アスペクトモードのラインナップ

 続いて重要性が高いのは「HDMI互換モード」だ。

 デフォルトはオフなので、心情的に「オン」にした方が良いのかな、と思ってしまいそうだが、4K映像を入力させる向きにはここはオフのままが正解だ。ここがオフ設定だと、HDMI入力の伝送速度がHDMI2.0の上限である18Gbpsまで高められるのだ。ここをオンにしてしまうと、それ未満となってしまい、38WK95C-Wのフルスペックが活かせなくなってしまう。HDMI互換モード:オン時の帯域は公開されていないが、HDMI1.3/1.4相当の10.2Gbpsにまで下げられてしまうようだ。

 筆者の実験ではここをオンにしてしまうと、PS4のゲーム映像やUHD BDのHDR表示がキャンセルしてしまったことを確認した。

HDMI互換モード設定。オンにすべきなのかオフにすべきなのか,悩んでしまう人も多いはず

 ではこの「HDMI互換モード」は、なんのための機能かというと、18Gbps伝送に対応していないHDMIケーブルを4K機器と接続して映像が全く映らなくなった際、これをオンとして本機をHDMI1.3/1.4相当に見せかけて、とりあえず映像を表示させる用途などに使う…といった感じだろうか。既に4K環境を構築している人にとってはここをオンにする必然性はない。

もう一つややこしいのが「DisplayPort1.2」設定。「設定しない」とすると互換性を重視したDisplayPort1.1設定になる。最新機種と接続する場合は「設定する」設定が無難

 モニター製品らしい便利機能としてPicture by Picture(PBP)、いわゆる2画面機能についても触れておこう。2画面機能は最近のテレビ製品からはなくなってしまったので、これに対応する38WK95C-Wは、いまや貴重な存在と言える。

 本機での2画面表示の組み合わせは、基本方針として「HDMIとDisplayPortの組み合わせ」に限られている。HDMI1とHDMI2のHDMI同士の二画面には対応していない点に留意したい。

 本機の2画面機能にはUSB Type-C(Thunderbolt3)入力も組み合わせられるのだが、これは実質的にはDisplayPortに相当するので、HDMI系との組み合わせは出来ても、DisplayPortとUSB Type-Cとの組み合わせには対応していない。パソコンはDisplayPortかUSB Type-Cで接続するのが、38WK95C-Wでのオーソドックスな活用スタイルとなる。

「2画面」機能。HDMI系とDisplayPort系の入力を同時に表示できる。HDMI1&2、DisplayPort&Thunderbolt3(USB-C)のような同系入力の同時表示は不可

 使っていて少々分かりにくかったのは「どの設定が入力系統ごとに個別保存されて、どの設定が38WK95C-W全体のグローバル設定となってしまうか」の部分だ。

  HDMI互換機能設定はHDMI入力系統ごとに個別設定ができるのだが、FreeSync設定やアスペクト比設定は、38WK95C-W全体設定に効いてしまう。

 なので、「ゲーム用途としても使いたいパソコンをDisplayPort接続にしてこれをFreeSyncオン設定」とし「UHD BDプレーヤーを接続したHDMI1をFreeSyncオフ設定」とする、というような使い方ができないのだ。これは入力系統ごとに用途別で使い分けたいユーザーにとって、とても不便なので改善して欲しい。

 最後にゲームプレイ支援機能について触れておこう。

 まずはFreeSyncからだ。

 FreeSyncは本誌読者にはあまり馴染みがないキーワードかも知れないので,念のために簡単に解説しておこう。

 FreeSyncはAMDが提唱して最終的にはVESAにも採用された映像表示のための仕組みで、フレームレートが上下する可変フレームレート映像や60Hz(60fps)を超えたフレームレートの映像を美しく滑らかに表示する技術になる。

 これまでの映像表示システムでは、その映像表示のタイミングが、60Hzなどのディスプレイ装置(あるいは映像パネル)側の都合に合わせた仕様に固定化されていたのだが、FreeSyncはこれを映像送出元(パソコン、AV機器、ゲーム機など)が任意のタイミングで映像を送出できるように改良したものになる。ただし、この仕組みに対応している製品はAMD製のGPU搭載パソコンやゲーム機(Xbox Oneなど)に限られているため、今ひとつ普及している実感がない。

 ただ、次世代HDMI 2.1で搭載される「Variable Refresh Rate」(VRR)がほぼFreeSyncそのままの機能(AMD FreeSyncを参考に仕様が決められた)なので、HDMI 2.1時代には日の目をみることになるかもしれない。

 さて、このFreeSyncだが、前述したようにAVコンテンツをメインに視聴する場合は、FreeSyncオフ設定での常用でなんの問題もないと思う。

Windows側のFreeSync設定はRADEON SETTINGアプリから行なう

 38WK95C-Wには、FreeSync以外のゲームプレイ支援機能がある。「応答速度」設定と「ブラックスタビライザー」設定だ。

 「応答速度」は液晶パネルの中間階調の応答速度を高めるオーバードライブ機能にまつわる設定で「Faster」「Fast」「Normal」「オフ」が設定できる。「オフ」はオーバードライブ駆動無しに相当し、「Normal」「Fast」「Faster」の順で駆動電圧の高い設定となる。駆動電圧が高いと応答速度は速まるが映像によってはリンギング現象と呼ばれる二重映りのようなノイズが散見されやすくなる。フレームレートの高い映像でないと設定の違いは分かりにくいので「Faster」でも問題はないと思うが、違和感を覚えたことがあれば設定値を一段下げるといい。いわゆる補間フレーム機構や倍速駆動とは無関係なので混同しないように注意したい。

液晶パネルのオーバードライブ設定がオフを含めて4段階設定できる。

 「ブラックスタビライザー」はLGが力を入れている機能で、暗部の階調を持ち上げる機能のことだ。LGは「暗がりに隠れる敵の早期発見支援機能」と説明しているが、コンテンツ制作者の意図に反した機能ではあるため、「使うか使わないかはあなた次第」といったところである。当然だが、映画コンテンツなどでは使う必要は全くない。

ブラックスタビライザーはゲームを勝つために競技的にプレイする人以外はいじる必要は無し

 表示遅延についてはいつものように公称遅延値約3ms、60Hz(60fps)時0.2フレーム遅延の東芝REGZA「26ZP2」との比較計測を行なった。計測は26ZP2側を最低遅延の「ゲームダイレクト」モードに設定。38WK95C-W側はFreeSync以外に明確なゲームモードは存在しないので、画調モードを「シネマ」とし、FreeSyncオフ設定で計測した。

 結果は、26ZP2と全く同一の結果となり、比較計測の範疇の判断としては26ZP2と同等程度の超低遅延性能が確認できた。

 38WK95C-Wはゲーミングモニターとしても優秀といえそうだ。

画質チェック~HDR表現、色再現性は良好

 映像パネルはLG製ということもあり、IPS型液晶(正確にはAH-IPS)を採用する。パネル表面は非光沢(ノングレア)仕様。前述したように曲率2300Rの湾曲した形状となっている。

画素を拡大撮影。各RGBサブピクセルは"く"の字型形状で4ドメイン分割されているのが分かる

 全品が工場出荷時に検品を行なっており「⊿E≦5」を担保する検査報告書が製品梱包箱に添付されていた。「⊿E」指標は⊿E 2000、正確には「CIE 2000 Colour-Difference Formula」(CIE DE2000)と呼ばれる「人間の色識別域指標」で、⊿E値はそのディスプレイ装置の色再現誤差値を表している。

 簡単に言えばこの値が小さいほど色表現が正確と言うことだ。⊿E≦5はいかほどかといえば「まずまず」といったところ。一般にプロのアーティストやデザイナー向けの上級ディスプレイは⊿E≦2くらい、最近では高画質テレビ製品で⊿E=0を謳うモノも出てきているので最高品質というわけではないが、本機の「⊿E≦5」は、かなりしっかりした表現力があることは保証されている、といった数字だ。

 前述したように最大リフレッシュレートは75Hz対応が謳われ、FreeSync対応がアピールされている。上限が75Hzなので、補間フレーム挿入を組み合わせた倍速駆動機能などには対応しない。

 さて、ゲームなどを使って60Hz時と75Hz時の画面の動きのスムーズさを観察したが、それほど大きな違いは感じられない。しかし、ゲーム側のフレームレートが60fps未満になった時の映像のスムーズさは全く異なる。オン時は40fps~50fpsにまで下がってもそれほどフレームレートの低下を感じさせないほどなめらかに見えるのだ。FreeSyncを使うには、38WK95C-W側の「画質」-「ゲーム機能設定」-「FreeSync」設定をオンにしただけではダメで、ゲームを走らせているパソコン上で[Alt]+[R]で開くRADEON OVERLAYメニューから「FreeSync有効化」を設定する必要がある。PCゲーマーで、なおかつRADEONユーザーであれば是非有効活用したいところである。なお、テアリング(表示フレームの分断)防止のために、FreeSync有効化時は、V-SYNCをオンにしておくことを奨励する。

【UBISOFT「FarCry5」のベンチマークモードを75Hzの可変フレームレート設定の表示を10倍スローで撮影】
FreeSyncオフ。映像が動いては泊まりを繰り返すような表示となっている
【UBISOFT「FarCry5」のベンチマークモードを75Hzの可変フレームレート設定の表示を10倍スローで撮影】
FreeSyncオン。映像が滞りなくスムーズに表示されているのが分かる

 IPS型液晶パネルで、なおかつパネル表面がノングレア仕様と言うことで、黒の締まりが心配されるところだが、若干の黒浮きはあるもののそれなりに沈んだ黒が表現できていた。

 バックライトシステムの構造は公開されていないが、明暗の激しいテストパターンを画面内で移動させても最低の黒レベルに大きな変化が見られなかったことからおそらくエッジ型で、エリア駆動には未対応だと思われる。

 公称ネイティブコントラストは1,000:1。IPS液晶パネルでは標準的な値だ。

 表示映像を見た感じでは、映像フレーム内の明暗分布に応じたバックライトの輝度制御は行なっていないようだが、フレームレバイフレーム(フレーム単位)のバックライト輝度制御は行なわれているようで、公称ダイナミックコントラストは500万:1となっている。

 採用液晶パネルはRGB各10bitの駆動に対応し、最大表示色は約10億色を謳うが、実際にはRGB各8bit駆動に時間方向の誤差拡散(FRC:FRAME RATE CONTROL)を組み合わせた疑似10億色のようである。とはいえ、ネイティブRGB各8bit駆動ではあるようなので、高品位パネルなのは間違いない。

 実際の表示映像を見てみると、純色は鮮烈だし、2色混合の中間色の表現も自然だ。明部から暗部への階調グラデーションも非常になだらか。かなり暗い色表現においても、ちゃんと色味が残っていて、色ダイナミックレンジは優秀だ。暗室でみるとたしかに漆黒部に若干の黒浮きがあることに気がつくが、全体的な色や階調のバランスには破綻はほぼなし。よくチューニングされている画質だと思う。

 本機の白色光を色度計で計測してみたところ以下のようになった。

ピクチャーモード「フォト」。色温度が若干高め。こちらがPCディスプレイとしては標準的な画調モードか
ピクチャーモード「シネマ」。色温度は6500K程度の「いかにも映画視聴向け」といった風情の画調モード。実質的に本機の標準画調モードと言えるか。色温度が低く、階調重視な画調だ。

 光源は、青色LEDベースの白色LEDなので青色のスペクトルが鋭いのは毎度のこととして、緑と赤のスペクトルピークもまあまあ鋭いので中間色表現能力はそれなりに高いとみる。ただ、緑と赤のスペクトルの麓が折り重なっている感じなので、発色可能な色域は「並み」といったところか。実際、LG側も色空間カバー率はsRGB:99%以外を公表していない。いちおう、HDR10対応なのでBT.2020色空間対応ではあるが、このカバー率の公称値は非公開としている。

 続いて、「マリアンヌ」「ララランド」といった定番のUHD BDを視聴。「マリアンヌ」のチャプター2、夜の街に車に乗った主演のブラッド・ピットが到着するシーンや、「ラ・ラ・ランド」のチャプター5、夕闇のもとで主役二人が歌い踊るシーンなどでチェックしてみた。選択した「ピクチャーモード」(画質モード)は「HDR(シネマ)」だ。

 38WK95C-WはHDR10に対応しているので、Ultra HDブルーレイをちゃんとHDRコンテンツとして視聴が出来る。エッジバックライト機構のフレームバイフレーム輝度制御、疑似10ビット駆動ながらも、HDR感はちゃんと得られていた。

 「マリアンヌ」ではブラッド・ピットが車から降りたときの街灯の光と高級クラブのネオンサインがHDRコンテンツらしい目映い光を放つのだが、このHDR感をうまく描けている。ブラッド・ピットが高級クラブに入るときにすれ違うナチス兵の腕章の赤はなかなかビビッドである。その直後に大写しになるシャンデリアもただコントラストを強調した画調となっているのではなく、高輝度領域の階調がちゃんと見えるため、HDR表現の旨味を伝える画作りはしっかりと行なえている印象だ。

 「ララランド」ではライアン・ゴスリングのグレーのパンツ、小脇に抱えている紺色のジャケット、エマ・ストーンの黄色いドレス、青エナメルのヒール、そして二人の肌色が暗がりの中でちゃんと色味を維持して描かれている。sRGB色空間カバー率99%ではあるが、BT.2020色空間へのマッピングは上手に作り込まれていると思う。しかも、それでいて、ちゃんと街灯の発光部は目映い光を放っていて、HDRらしいコントラスト感も両立できていて立派だ。

 38WK95C-Wは、映画コンテンツを、普通に高画質で楽しむことが出来ると結論づけていいと思う。

 さて、本機には、2K BDなどの従来の映像コンテンツを、4K/HDR相当に拡張して表示させる映像エンジンが搭載されている。このあたりの機能もチェックするために標準のブルーレイコンテンツとして「ダークナイト」のチャプター20の護送シーン、チャプター23のジョーカー尋問シーンを視聴した。

 護送シーンは暗がりを走行する黒塗りの車のボディに映り込んだ街の明かりなどのハイライトが、そして尋問シーンでは机の上の電気スタンド、ジョーカーの瞳に輝くハイライトが、とても鋭く光ってリアルに見えていた。

 この、4K化/HDR化に関しては、「SUPER RESOLUTION+」「HDR効果」というその名もズバリの機能が用意されているのだが、筆者が評価した感じでは、これらの機能は活用しない方がいいと思う。というのも、画質にあまりよくない影響を与える局面が散見されたからだ。

 SUPER RESOLUTION+は、陰影を鮮鋭化する効果を与えるもので、周囲に階調グラデーション表現があるとその最明部の輝度を持ち上げる処理を行なうようだ。ピクサー系、ドリームワークス系のCG映画などはまあまあうまくハマるのだが、実写系だと、フィルムグレインのランダムノイズを鮮鋭化してしまい、ひどい見映えになってしまう。

「SUPER RESOLUTIO+」は超解像機能。フィルムグレインのような時間方向のノイズまで鮮鋭化してしまうので実写系映像との相性は悪い

 「HDR効果」は、階調グラデーション表現があるとその最明部付近を収束させたり、最明部を持ち上げたりするのだが、コントラストが高くなるだけで情報量が減ってしまうのだ。

「シネマ」モード
「HDR効果」モード。明るいところはより明るく、暗いところはより暗く…というようなコントラスト重視の画作りとなる。無理して使う必要は無いと感じる

 というわけで、SUPER RESOLUTION+はオフ、画質モードは「HDR効果」ではなく、普通に「シネマ」でいいと思う。これで必要十分な解像感やHDR感が得られる。ちなみに、画質モードを「シネマ」で選択するとSUPER RESOLUTION+は強制的にオフ設定となるようだ。

38WK95C-Wで選べる画調モード(ピクチャーモード)。色々あるが無難に使えるのは「フォト」と「シネマ」の2つ

 最後に画質モードについて、総括しておこう。

 38WK95C-Wには、画質モードとして「ユーザー設定」「ブルーライト低減モード」「フォト」「シネマ」「HDR効果」「自動輝度調整 1」「自動輝度調整 2」「色覚調整」「FPSモード1 」「FPSモード2」「RTSモード」などなど、たくさんのモードが用意されるが、その多くが特殊用途用のため、基本的に使い勝手が良い「フォト」と「シネマ」の2つを使っていればいいと思う。前者は色温度が高めの標準モード、後者は色温度が低めの標準モードといった感じだ。

 HDRコンテンツ表示時には「HDR(鮮やか)」「HDR(標準)」「HDR(ゲーム)」「HDR(シネマ)」があるがこちらも同様。「HDR(標準)」「HDR(シネマ)」のどちらかで事足りる。

案外AV用途に使える大型湾曲モニター

 シネスコ映像をぴったり全画面表示できてHDR対応の画質も上々なAV用途性能、FreeSync対応に低遅延性能も担保されたゲーム用途性能。38WK95C-Wは、ゲーム好き、AV好きのユーザーにとってはかなり魅力的な製品になっていると思う。

 ただ、要改善ポイントもある。例えば設定がHDMIやDisplayPortなど個別に保存されずに、全体に効いてしまう問題については、不便なので改善して欲しいと感じた。逆に言えば気になったのはそこくらいだ。

 最後に、「湾曲モニター」についての筆者の意見も述べておきたい

 38WK95C-Wは湾曲パネルを採用したモデルだが、その曲率2300Rは見た目の印象としてとてもなだらかで、「いかにも曲がってます」というような感じではない。「だったら平面パネルのままでいいのではないか」という意見が飛んできそうだが、40インチサイズの平面パネル4Kテレビの東芝レグザ「40M510X」を原稿書きPCのメインモニターとして活用している筆者からすれば、この微妙な湾曲が「うらやましい」と感じた。

 湾曲ディスプレイは、たとえば図版制作やデザイン用途において「その縦線と横線は直交しているのか」とか「これは真円なのか楕円なのか」とか「コレとアレの距離はどのくらいなのか」といった判断が平面ディスプレイよりもやりづらいから…ということで敬遠される理由もあるにはあるが、映像鑑賞やゲームプレイ用途、あるいは筆者のように広くデスクトップを活用する用途において視距離50cm前後で使う場合は、湾曲している方が自然に見える。

 というのもPC用モニターとしての平均的な視距離となる50cm前後では、平面パネルだと、視界の左右端はやや萎んで見えるからだ。「画面の中央真ん前に座った自分一人しか見ない」用途においては、この微妙な湾曲パネルの方が、左右端の萎みが低減されて逆に平面に見えてくるし、目の焦点も合わせやすいのだ。

 湾曲ディスプレイは、日本ではやや「イロモノ扱い」という風潮が少なからずあるが、視距離を数mとって見ることになるテレビ製品とは異なり、ディスプレイ製品ではそれなりにニーズは高いと思う。今後、日本での評価が上がり、製品バリエーションも増えていくことを期待したい。

 個人的には、38WK95C-Wと同じ曲率のアスペクト比16:9バージョンの登場に期待したいところ。

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トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。3D立体視支持者。ブログはこちら