西川善司の大画面☆マニア

第246回

20万円を切る4K/HDRプロジェクタ登場! BenQ「HT2550」のリアル4K的実力

20万円以下で4Kの衝撃!! 半画素ずらしから全画素ずらしへ!?

 今回とりあげるベンキューの4K/HDR対応プロジェクタ「HT2550」の最大の魅力は何といっても「価格」だ。実売価格は19万8,000円前後(税込)となっており、これまでの4K対応のプロジェクタとしてはずば抜けて安い。

HT2550

 それでいて技術的にも注目点が多い。というのも、DLPの特性を生かし、実現アプローチは特殊だが、「リアル4K」を謳うことができそうなのだ。

 他社製品を見ると、2017年末にソニーが発売した「VPL-VW245」が、リアル4Kプロジェクタながら実勢価格で50万円を割り込み、「リアル・ネイティブ4Kの価格破壊」で話題となった。これまで100万円近辺だった、“疑似ではない4K”がさらに安価になったからだ。

 一方、JVCのDLA-Z1(350万円)はリアル4Kだが、それ以外は疑似4Kモデルだし、エプソンも4K対応機は全て疑似4Kだ。これらの製品では、フルHD解像度の映像パネルを光学的に時分割シフトで動かし、見かけ上の表示画素を倍増するアプローチで疑似的に4K解像度を再現する。

 JVCはe-Shift、エプソンは4Kエンハンスメントといった技術名を与えているが、やっていることは、画素を画素サイズの半分だけずらして表示する「半画素ずらし表示」である。半画素ずらし表示による疑似4K表示は「実効解像度は縦横√2倍しか増えない(縦横2倍には増えない)」「各"疑似"画素の表示色は加重平均を計算して駆動されるので誤差を含む」といった妥協点を伴う。

EH-TW8300シリーズの製品サイトより。疑似4Kの構造を解説した図解。半画素ずらしは強誘電性液晶を応用した光路シフト素子で実践されている

 これに対し、DLP(Digital Light Processing)方式のプロジェクションシステム家元のTIは、画質を改善するために、フルHDよりも解像度を上げた映像パネル(DMDチップ)を用いるアプローチを提案している。

 具体的には0.65型サイズの2,716×1,528ピクセル解像度のDMDチップ「DLP660TE」を用いた「半画素ずらし表示」ソリューションを展開したのである。ちなみに2,716は1,920の√2倍、1,528は1,080の√2倍であり、半画素ずらしを行うと前述したように縦横√2分だけ解像度が増強されるので、2,716×√2=3,840、1,528×√2=2,160となり、数学的には半画素ずらし表示なのにネイティブ4K表示が行なえることになる。TIは2016年以降、このDLPの半画素ずらし表示式の4Kプロジェクタのコアを、各プロジェクタメーカーに提供しており、各社から製品が発売されている。

 TIは、この画素ずらし技術に対して「XPR」(Expanded Pixel Resolution)という名前を与えているが、このXPR技術に手応えを感じたTIは、このXPRをさらにアグレッシブに活用するリアル4Kソリューションを提唱してきた。

 それは、「半画素」ではなく「全画素」ずらしてリアル4K表示を行なうソリューション。今回のとりあげるBenQのHT2550は、まさにこの荒技を搭載したモデルになる。20万円を切るというコストパフォーマンス、その4Kプロジェクタとしての実力やいかに?

設置性チェック~小型軽量。投射距離はやや長め。レンズシフト無し

 4Kプロジェクタというと「高級機」のイメージがつきまとうが、HT2550の見た目は、プロジェクタ入門機然としている。フロントパネルは青みがかったメタリックグレー、それ以外のメインボディはホワイトで、ホームシアター機と言うよりはビジネスプロジェクタのようだ。

フロントマスクの投射レンズ回りには金の差し色が。4K/HDRのステッカーも誇らしげ

 本体サイズは353×272×135mm(幅×奥行き×高さ)。4Kプロジェクタとしてみれば破格にコンパクトである。重さは約4.2kg。男性ならば片手で持てるほど軽い。

本体サイズはコンパクト。重量も軽い

 底面に備え付けられた脚は3つ。前部にあるのは引き出し伸ばしてたてつけるタイプの脚で、ギアが切ってあるので数mm単位で高さ調整できる。後部にはネジ式の脚部が2つ実装されている。前面側でピッチング方向の上下角を調整し、後部の2脚で回転方向の調整を行なう設計だ。

底面。脚部は3つ。天吊り金具用のネジ穴もあいている

 入門機なので台置きが基本となるとは思うが、天吊り金具を用いての天吊り設置も可能。天吊り金具はBENQ純正オプションとして「CMP-80」が設定されている(実売4.5万円前後)。天地逆転した台置き設置も、本体天板側の電源や簡易操作パネルのボタンを避けて設置できるなら可能だ。

 投射レンズは1.2倍手動ズームフォーカスレンズ(F:1.94~2.06 f:15.57~18.67mm)で、残念なことにレンズシフト機能は無し。

投射レンズは手動制御式。レンズカバーはキャップを被せる方式
ズーム調整、フォーカス調整は手動式。レンズシフト機能はなし。

 投射映像は、光軸に対してその投射映像の高さの約10%ほど上向きに投射される。

 100インチ(16:9)の最短投射距離は約3.2m、最長投射映像は約3.9mとなる。最近のホームシアター機にしては,レンズのズーム倍率も低いし、投射距離も長めという印象だ。ちなみに100インチ(16:9)投射時は、映像下辺が光軸に対して約12cm強上側にオフセットして投射される。

 筆者宅での評価は、天地逆転して台置き設置したが、この場合光軸に対して下向きに打ち下ろすような投射角になる。相当高い位置に設置しても、映像下辺が下に来てしまっていたので、本格的な常設設置を考えている人は、HT2550の投射特性をよく理解してシミュレーションしてほしい。縦方向だけでもレンズシフト機能があれば、設置性が相当よくなるのだが、コストを重視したのだろう。

レンズシフト機能がないため、設置には苦労し、評価時にはこんな感じに(上は私物のVPL-VW745)。地震が来たら崩れるので、絶対にマネしないように

 台形補正機能も搭載しているが、画像変形で補正する仕組みのため、事実上の圧縮表示となり画質に悪影響がある。画質を重視するのであれば利用は避けたい。

 吸排気のエアフローは、正面向かって右側面から吸気、正面および左側面から排気するデザインとなっている。

 動作時の騒音レベルはランプ輝度が「標準」モードで33dB、省電力な「エコノミー」モードだと29dBに下がる。最近のホームシアター機が20dB前半だと言うことを考えると、騒音は大きめだ。設置位置が視聴位置に対して2mくらい離れているときにならないが、1m範囲内だと、ファンノイズが結構ちゃんと聞こえる。

正面左側のスリットは排気用
スリットの内側に見える電動ファン

 本体を観察すると分かるが、吸排気スリットの内部にはエアガイドなどがなく、スリット越しにはファンがしっかり見えるので、「騒音を封じ込めよう」という設計意図は見当たらない。このあたりも、コストを重視している感じが見て取れる。

正面向かって右側面側は吸気用のスリット。こちらもスリットの内側に電動ファンが見える

 消費電力は385W。本体サイズのコンパクトさの割には消費電力は大きい。これはこれだけ小さなボディに2,200ルーメンの投射が可能という高輝度ランプを搭載しているため。このコンパクトさを考えると、前出の騒音レベル値はむしろ立派と言うべきかもしれない。

 高輝度投射を実現する光源ユニットは、出力240Wの超高圧水銀ランプだ。交換ランプの型番は「LHT-2550」、ランプ寿命は輝度「標準」で約4,000時間。これは、最近の製品ではごく標準的なものだ。

接続性チェック~HDMI1のみ4K入力/18Gbpsに対応

 接続端子は本体後面に集約。HDMIは2系統だが、HDMI1は4K入力に対応したHDMI2.0仕様で、著作権保護機構のHDCP2.2にも対応。HDMI2はHDMI1.4仕様(HDCP1.4対応)のため、4K機器はHDMI1に接続する必要がある。

接続端子群は後面側にレイアウトされている
オーバースキャンの設定も可能。
HDMI階調レベルの設定も「自動」、「フル」(0-255)、「一部」(16-235)の各種選択ができる

 またアナログRGB入力(ミニD-sub15ピン)も1系統装備。サウンド系は、3.5mmのステレオミニジャックの音声出力端子と音声入力端子を備えている。

 HT2550には出力5Wのモノラルスピーカーが搭載されていて、HDMI伝送されてきた音声や、音声入力端子経由の入力音声を再生できる。モノラル出力ながらもけっこう大音量で鳴らすこともできて、意外に使える。カジュアルにゲームを楽しむ際や、スマホから再生したネット動画をみんなでワイワイ楽しむ時には役立つと思う。

 USB端子は2系統(Type-AとminiB)があるが、Type-Aは周辺機器やスマホなどへの給電用、後者はパソコンなどからHT2550を制御するためのインターフェース用だ。USBストレージ機器内の動画や音楽を再生する機能はない。

 RS232C端子もパソコンからの制御用だ。入門機ながらも、トリガー端子を備えているのはちょっとユニーク。稼動中はミニジャックからDC12Vが出力される仕組みだ。

操作性チェック~リモコンの機能アクセス性は優秀。起動や切換は遅め

 リモコンは全長17.5cm、幅4.5cm、高さ1.8cm程度の大きさ。比較的小振りなサイズだが、オレンジ色で自発光する自照型ボタンを採用したなかなか本格的なもの。

シンプルながらもボタン数の多い機能性重視のリモコン。他機種からの流用のためか、本機では無反応なボタンもあったりする(笑)
暗闇でオレンジ色にライトアップされる機能も搭載。

 電源オン後、BENQロゴが投射されるまでの所要時間は約35秒。HDMI入力された映像が表示されるまでのは、ここからさらに30秒待たされての約65秒後。最近の機種としては待ち時間は長めだ。

 映像入力の切り替えは、自動切り替えがデフォルト設定になっているが、[SOURCE]ボタンを押すことで,ユーザー自身の手で切り換えもできる。HDMI入力時の切換所要時間は約11秒。これも最近の機種としてはかなり遅い。

天板部には簡易操作パネルがあしらわれている

 リモコン上のボタンの数はかなり多いのだが、HT2550では機能しないボタンもある。上級機のリモコンを流用しているためだと思われるが、効かないボタンは[DYNAMIC IRIS]、[DETAIL ENHANCER]、[LUMI EXPERT]などの画質調整系ボタン、HDMI-CECがらみの再生/停止/早送り/巻き戻しなどの再生制御ボタンなど。

 [BRIGHT](ブライトネス)、[CONTRAST](コントラスト)、[SHARP](シャープネス)、[COLOR TEMP](色温度)、[COLOR MANAGE](色補正)、[GAMMA](ガンマカーブ選択)といった、基本的な画質パラメータ調整メニューの呼び出しボタンは全て機能する。メニューを開かずに直接調整メニューにアクセスできるので使いやすい。

画質設定メニューに相当する「ピクチャ」設定。
ランプ輝度はリモコンの[LIGHT MODE]ボタンで専用メニューを一発で呼び出して切り替えが可能
用意されているアスペクトモード。「実寸」はドット・バイ・ドット表示の意
今回はオンシェルフ設置(疑似天吊り設置)としたことから「天井正面投写」を選択。実はリアプロジェクションにも対応している

 例によって、今回も公称遅延値約3ms、60Hz(60fps)時0.2フレーム遅延の東芝REGZA「26ZP2」との比較計測で遅延測定を行なった。

 HT2550には、画質モード(ピクチャモード)として「Bright」「Vivid TV」「Cinema」「Sport」という4つが用意されているが、その全てで約33ms~34msの遅延が計測された。特に「どの画質モードが低遅延」というのはないということだ。「約33ms~34msの遅延」というと毎秒60コマの60fps映像で約2フレームの遅延と言うことになる。格闘ゲームや音楽ゲームをプレイする場合にはあまりオススメできないが、一般的なアクションゲームやRPGくらいであれば普通にプレイできそうだ。

Cinemaモード
Sportモード

画質チェック~リアル4Kと疑似4Kの中間的な表示を実現するXPR-4Kモードの秘密

 HT2550は、0.47型のフルHD(1,920×1,080ピクセル)解像度のDMDチップ「DLP470TE」上の各ピクセルを光路シフト素子を用いて時分割表示で4ピクセル分表示するという荒技で4K(3,840×2,160ピクセル)表示を実践する。

 HT2550に搭載される映像パネルであるDMDチップは一枚のみで、フルカラー表示は時分割カラー表現で行なうので、いわゆる単板式DLPプロジェクタ製品である。

 考えてみると、HT2550は、画素表示も時分割、カラー表現も時分割で「総天然分割プロジェクター」というに相応しい(笑)。

 「パネル上の1画素を時分割で4画素分、さらにRGB3原色も時分割で表示するなんてことができるのか」という疑問を抱くかもしれない。ただ、TIのDMDチップの各画素は液晶素子よりも圧倒的に高速な電磁メカであり、毎秒9,000回のスイッチングが可能なので、これができるということなのだろう。時分割カラー表現のためのカラーホイールは6倍速のRGBRGB型の6セグメント方式。

文字コンテンツをXPR-4Kモードで投写中の映像を1,000倍スローで撮影してみた映像。1,000倍スローにしても色の時分割は早すぎて見えない。ただし、時分割ピクセル描画は1,000倍スローだとなんとか巡回しながら描画している様がちゃんと見て取れるのが興味深い
表示内容はこのあたり

 ついついいろいろ検証してしまったので、説明が長くなってしまうが、画質や利用シーンなど、HT2550の実力を簡単にまとめると以下の通り。

(1)Ultra HD Blu-rayのような、4K/HDRコンテンツの映画や実写映像は、かなりリアルな4K/HDR表現が行なえ、映画ファンにはオススメできる

(2)PC画面やゲーム画面との相性はあまりよくない

 ということで、その理由の検証に移らせていただく。技術的な側面にあまり興味のない方にはやや長くなることをご容赦いただきたい(笑)。

XPR-4Kによる4K表示の動作を解析する

 画質面で気になるポイントは2点。

 1つは「全画素ずらし表示」のXPR技術は、ほんとうにリアル4K解像度として見えるのか、という点。

 2つ目は、「解像度も色も時分割で、動画として映像を見たときに違和感はないのか」という点だ。

 まずは1つ目の4K解像感はどの程度再現できているのか。これについては、これまでのJVCやエプソンの疑似4K表示とは少々異なる4K描画となっているのが興味深かった。

 驚いたのは、この価格帯の製品でありながら、18Gbps HDMIの入力に対応しており、RGB888、YUV444の輝度解像度、色解像度ともに、ちゃんと4K解像度の60fps映像を入力できることが確認できたこと。

 さらに、PC画面などで文字コンテンツなどを表示させてみると、明暗差の激しい文字などの表現は、ほぼフル解像度の4K表示が行なえていた。

フルHD解像度で文字をドットバイドット投写した状態
XPR-4Kで同内容の文字をドットバイドット表示した状態。滲んではいるが全てのピクセルがリアル描画されているように見える

 「これは凄い」と思いつつも「何か粗はないか」とマニア的な視点で評価したところ、黒背景に対して原色の文字を表示させてみると、他社の疑似4K表示に極めてよく似た歯抜けの表示になることに気が付いた。

 ここでいう原色とは赤緑青(RGB)の3原色のこと、そして「歯抜け表示」とは「本来はそこにピクセルが描かれるべき」箇所にピクセルが描かれない現象をいっている。これは、YUV420やYUV422などの色解像度が間引かれているときに起こるものでもあるため、念のために、テスト映像をYUV444、YUV422、YUV420と各種フォーマットで条件を変えて入力させてみたのだが、映像データとしては確実に、HT2550は、YUV444(RGB888)までの4K/60pを入力できているようで、YUV444のときとYUV420の時とでは歯抜けのされ方がまるで違うことが確認された。つまり、HT2550の映像エンジン的には、ちゃんと4K/60pの映像データが正確に入力されているのだが、表示段階のDMDチップ駆動(ないしはXPR技術適用)時に、原色表現に対しては歯抜け表示となってくるようなのだ。

XPR-4Kで同内容の文字を白色でドットバイドット表示した状態
XPR-4Kで同内容の文字を原色の青でドットバイドット表示した状態。一転して疑似4K表示っぽい歯抜け表示となってしまった

 さらに注意深く観察をしてみると、XPR-4Kで白色の文字を表示させてみると、白色で描かれているピクセルと緑とマゼンタ(紫)のピクセルが隣接して表示されている箇所があることに気が付く。同様にXPR-4Kでシアン色(水色)の文字を表示させてみるとシアン色で描かれているピクセルと緑と青のピクセルが隣接して表示されているようだ。

 緑とマゼンタは混色すると白になり、緑と青は混色すると水色になる。

 あくまで推測だが、HT2550では、フルHDのDMDチップ上の各画素の全てにおいて、全画素ずらしで4倍のフルカラー表示を行なっているわけではなく、一部の画素については空間的な誤差拡散も併用してフルカラー表現を実践しているようだ。つまり、画素として発光するポテンシャルは4Kリアル解像度分あるのだが、色表現については、ある程度の空間方向への誤差拡散が組み合わされる……と言うことのようだ。

XPR-4Kで白く描かれたドットバイドットの「動」という漢字。白と緑とマゼンタのピクセルの組み合わせで描かれていることが分かる。
XPR-4Kでシアン色で描かれたドットバイドットの「切」という漢字。シアンと緑と青のピクセルの組み合わせで描かれていることが分かる。

 さらに観察や考察を進めると、そのXPRで全画素ずらしで描画される3つのピクセルは、どうやら発色は「赤と青」「緑と赤」「緑と青」の二色混合までに制限されているようなのだ。なので、原色だけで描かれたドットバイドット表示の表現は「歯抜け」となってしまうのである。

 実際のUltra HD Blu-rayコンテンツではどう見えるのか? ネイチャー系映像コンテンツの「PLANET EARTH II」を視聴してみたが、実写系の映像になると、もともとYUV420でデータ化されていること、そして空間方向にノイズがあることにも助けられて、このHT2550の独特なXPR式のリアル(?)4K表示は、確かにJVCやEPSONの疑似4K以上の解像感があるように見える。コモドドラゴンのウロコ、ユキヒョウの毛並もかなり鮮明な4K解像感が感じられるのだ。

 静止画サンプルの表示事例を見ても、実写映像に関してはフルカラー表示1ピクセル、2色混合3ピクセルからなるXPR-4K表示が、かなりリアル4K表示に近い表示が行なえていることが分かるはずだ。

画面全体。テーブルの上の鏡像部分を撮影してみた
XPR-4K表示時。
同一箇所をHT2550のDMDチップのリアル解像度(フルHD)でドットバイトット表示させた時。両者の内容はかなり近い。ということは、XPR-4K表示はリアル4K表示に近いと言うこと
画面全体。遠景の鉄塔部分を撮影してみた
XPR-4K表示時。
同一箇所をHT2550のDMDチップのリアル解像度(フルHD)でドットバイトット表示させた時。こちらの作例テストでも両者の内容はかなり近い。XPR-4K表示は実写映像ではリアル4K表示に極めて近いと言うことはいえそうだ。

 2つ目のポイント「色や階調、動画ボケについて」はどうか。

 単板式DLPプロジェクタで懸念される「色割れ」(カラーブレーキング現象)については、一般的な動画を見る限りではあまり気にならなかった。明暗差の激しい動体を目で追ったりすると、RGBが分離して見えることもあるが、普通の映像視聴で違和感を覚えるほどではない。しかし、ゲームのような動体を常に目で追うような場合は少し気になることも。液晶のようなグラデーションぽいボケではなく、輪郭部が離散的にRGBに分離して見えるのだ。筆者的には「ゲームには不向き」だが「一般的な映像はOK」と言っておこう。

 暗部から明部への階調グラデーションは、モノクロも有彩色も両方なめらかに見える。

 HT2550にはDigital Color Transient Improvement(DCTI)とDigital Luminance Transient Improvement(DLTI)という2つの画質向上エンジンが搭載されていて、これが効果的に働くことで、時分割カラー表現、時分割階調表現の違和感を低減させているものと見られる。

リモコンの[CINEMA MASTER]ボタンから呼び出せるCinema Masterメニュー。ここでDCTIやDLTIの設定が行なえる

 DCTIはカラーグラデーションのマッハバンドを低減させるもので、こちらも空間方向の誤差拡散を行なう処理系のようだ。2色混合グラデーションなどはオンにするとかなりスムーズに見えるようになる。ただ、白黒のグラデーションにはほとんど影響がない。

 DLTIは輝度変化を滑らかにする処理が行なわれるようで、時間方向のノイズを低減する効果がある。明暗差の激しい輪郭表現に対してアンチエイリアス(ジャギー低減)効果もある。

 基本、実写系はDCTIもDLTIもオンで常用がいいと思うが、CG系というか、PC画面のようなドット・バイ・ドット表現においては両方オフがいい。

 ドット・バイ・ドット表現では、DCTIオンだと誤差拡散が裏目に出て偽色が出やすく、DLTIオンでは輝度変化を滑らかに繋ぐフィルタ処理が裏目に出て文字などは「影付き文字」「縁取り文字」のようなエラーが散見される。

 このDCTIやDLTIについては、取扱説明書には一切解説がないので、ユーザーは特性を理解して賢く使いこなして頂きたい。

Ultra HD Blu-rayのHDR表現も優秀

 HDR表現に関しても、UHD BDの「マリアンヌ」のチャプター2、夜の街に車に乗った主演のブラッドピットが到着するシーンや、「ラ・ラ・ランド」のチャプター5、夕闇のもとで主役二人が歌い踊るシーンなどでチェックしてみた。

HDR映像入力時の振る舞いについて手動設定も行なえる

 ちゃんとHDR信号に則った表示になっていて、ハイコントラストな表現ができている。高輝度部分の表現もなかなか鋭い光を放っており、2,200ルーメンというスペックから受ける期待値通りだ。

 ただし黒浮きは最近のDLP機にしてはやや強めで、2.35:1のシネスコアスペクト映像に伴う、上下黒帯の存在感が分かるほど。比較的、明るいところから暗部階調が始まるので、暗部はけっこう明るく描かれる傾向にある。よく言えば情報量の多い映像となるが、悪くいえばコントラスト感が弱い。「暗部の沈み込み」よりは「2,200ルーメンの高輝度性能」に頼ったコントラスト感やHDR感を表現している感じで、画作りの方向性は液晶チックだと思う。

 一方で発色は良好だ。本機はRec.709(sRGB相当)色空間カバー率96%以上で、別段、広色域ではないのだが、赤などは鮮烈で美しいし、有彩色の暗部階調にもちゃんと色味が残っていて、暗いシーンでも描写力はそれなりに高い。今回はウィル・スミス主演のスポーツ医療ドラマ映画「コンカッション」を視聴したが、この映画では黒人のウィル・スミスが暗がりに出がちなのだが、彼の褐色の肌も立体的に描けていた。一方で暗がりの白人の肌色などは、一部の中間色は色シフトが起きている気もしたが、全体として見れば概ね良好だと思う。

 以下に、各画調モードの色度計の計測結果を示す。

 Brightモードは輝度優先となり、超高圧水銀ランプ特有の青緑が極めて強い発色となる。それ以外の画調モードではこの傾向を抑え込んでナチュラルな発色を目指すようにチューニングされていることが分かる。全体的にバランスが取れているのはCinemaモードなので、普段はこれを使えばいいだろう。

Brightモード
Vivid TVモード
Cinemaモード
Sportモード

 なお、「ピクチャ」メニューの「詳細設定」にリモコンからは直接アクセスできない「Brilliant Color」の設定があり、デフォルトでオフになっている。このBrilliant Colorとは、単板式DLPプロジェクタの中間色再現においてRG、GB、BRの混色までを動員して光利用効率を1.5倍に引き上げて輝度を上げつつ色ダイナミックレンジも拡大させるTIの技術だ。

 オン時は中間色の艶やかさが向上し、明部階調のダイナミックレンジも拡大されるが、それと引き替えに中間階調付近の一部の組み合わせの2色混合グラデーションでマッハバンド(擬似輪郭)が発生することがある。実際に、マリアンヌの街灯表現箇所を照度計で計測してみるとオフ時で258luxだった箇所が、オンで307luxとなっていた。輝度重視で視聴したい場合にはオンにしたいが、出力される色域には大きな変化はない。

計測イメージ。実際には室内照明を消して測定した。Brilliant Colorオンにすると公称値1.5倍には及ばないまでも、確かにピーク輝度は上がる
Brilliant Colorオフ。中間色の階調は豊か
Brilliant Colorオン。中間色の階調は大ざっぱになるが瞳の中のハイライトなどはとても高輝度に光り出す

 それと、単板式DLP特有の暗部階調の"荒れ"(ザワザワ感)は、画面に近寄って見るとあるのが分かるのだが、このザワザワ感はピクセル単位で発生するものなので、XPR-4Kモードで高解像度表示になっているときは、このザワザワも4K解像度で起きるため、2mも離れた視距離ではあまり気にならなかった。

 投射レンズのフォーカス性能は「それなり」。単板式ゆえに「パネルの貼り合わせ精度」問題がないはずなのに、投射映像に各画素単位で赤緑青の色ズレが出てしまっていた。フォーカスは画面中央で合わせても画面外周はややズレ気味なので、意外にクリアな映像を得るのは難しかった。

 評価をするたびにセッティングして何度もフォーカス調整をした筆者からは「画面外周でフォーカス合わせをした方が、むしろ全体としてバランスの良いフォーカス感が得られる」というアドバイスを送らせていただく。

輝度ムラは外周が微妙に暗いが気になるほどではない。

 3D立体視にも対応。ただ、3D立体視モードを有効化させると、4K表示モードは無効化されてしまう。つまり、4Kアップスケールされた3D立体視には対応しないのだ。時分割で4K表示をやっている都合上、右目用映像表示、左目用映像表示の時分割表示までを掛け持ちでできないということだろう。なお、3D立体視モードオンと4K表モードオン(3D立体視モードオフ)のモード間移行は約27~35秒も待たされる。

3D立体視モードはデフォルトでは「オフ」になっている。これを「オン」にするとXPR-4Kモードは排他的にオフとなってしまう。

 3Dメガネは、今回の評価ではSomnus258製のDLP-Link互換3Dメガネ「GL200」を使用した。

 なお、DLPプロジェクタでは3Dメガネの互換規格「フルHD 3Dグラス・イニシアチブ」のものは使えず、DLP-Link方式にのみ対応する機種が多い。HT2550もそうだ。DLP-Linkは、時分割表示を行なうDLPプロジェクタの特性を応用して、可視光の赤フレーム表示のタイミングで3Dメガネの左右レンズのシャッターの開閉制御を行なうからだ。

 実際にいつものように「怪盗グルーの月泥棒」の遊園地のジェットコースターシーンでクロストーク具合をチェックしたが、視線角度にも依存せず、極めてクロストークの少ない映像が見えていた。

 眼鏡を通して見える映像の明るさは必要十分で、色味にもおかしなところはなし。3D映画コンテンツは問題なく楽しめると思う。

手ごろな入門機として、特に映画ファンにはオススメ

 HT2550は、評価していてとても興味深いモデルであった。いくつかの疑似4K由来の制限はあるものの、従来の半画素ずらしの弱点を大きく克服した画質を実現しつつ、なおかつ圧倒的な低価格化を実現したことで「疑似4Kの新しい形」を提案できていると思う。

 輝度信号(輝度情報)が支配的な解像感についてはリアル4K相当の表現が行なえ、色表現に関しては妥協するというXPR技術ベースの4Kは、YUV420ベースの4K/HDR映像であるUHD BDコンテンツと相性は悪くない。実際、今回の評価でも、実写映像に関してはかなりリアルに近い4K/HDR表現が行なえていたことが分かった。

 ドットバイドットのフルカラー表現が前提のPC画面やゲーム画面との相性は良くないが、一般的な4K/HDRベースの映画やビデオコンテンツを楽しむ人にはHT2550はオススメできる。

 紙スクリーンなどと組み合わせれば、20万円そこそこの超低価格で4K/HDRの100インチ環境が構築出来てしまうのは素晴らしい。ホームシアター・プロジェクター入門機としては十分元が取れる製品だ。次期モデルでは、手動式でもいいのでレンズシフト対応も欲しいところだ。

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トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。3D立体視支持者。ブログはこちら