西川善司の大画面☆マニア
第265回
新世代OLEDパネルのLG最上位4Kテレビ「G1」。ゲーミング機能もはや敵無し!
2021年7月30日 08:00
読者のほとんどは承知と思うが、現在「有機ELテレビ」として販売されている薄型テレビのほぼ全てが、LGディスプレイ製の有機ELパネルを採用している。これはLGが、同国のサムスンや、日本メーカー勢と展開した“有機ELパネル開発競争”に勝利したことに起因するものだ。
技術的な視点で見れば、最初はLG方式が最もリスクを避けた、ある意味「守りの開発技術」だったわけだが、最後にゴールしたのはLGだった(開発顛末については、「第262回:プラズマ盛衰から有機EL戦乱まで~2010年代のテレビ技術を振り返る」を参照願いたい)。
そんな“有機ELの覇者”となったLGが、有機ELテレビの2021年モデルを投入してきた。しかも、弱点とされてきた発色性能を改善した新世代パネル「OLED evo」を引っさげて、だ。
冒頭で「世界の有機ELテレビはLGディスプレイ製有機ELパネルを活用している」と書いたが、最新世代の有機ELパネルはまず先に、LGの有機ELテレビに採用されている。これは自社グループ開発の強みなわけで、日本メーカー勢からこの新型有機ELパネルを使ったモデルが発売されるのは、おそらく来年以降になるだろう。
今回は、「採れたての新型有機ELパネルの性能やいかに?」という視点で、LGエレクトロニクス・ジャパンの最上位4K有機ELテレビ「OLED55G1PJA」(35万円前後)を検証していきたい。
上から下まで厚さ23mmの薄型設計。スピーカー性能も良好
最近の有機ELテレビはやたら重くなってきているが、これは、白色有機EL型サブピクセルという構造上、カラーフィルターを通った時点で全発光量の3分の1を捨てていることに関係している。
高輝度に光らせるにはより多くの電気を流すことが必要で、それに伴い発熱量が増大。パネルの発熱を冷やすための重い放熱板をあしらう必要が出てきたのだ。加えて、薄く曲がりやすいパネルを補強する堅固なフレームで覆う必要が出てきたことも要因の1つである。
今回取り上げるOLED55G1PJAは、画面サイズが55型。ディスプレイ部は21.8kg、スタンド付きで22.5kgとなっており、同じLGの55型液晶テレビと比べて4~8kgは重い。ただ、他社にはもっと重い製品があるため、最近の有機ELテレビとしては、サイズ相応の重量に抑えられている。
重量20kg未満であれば一人で設置できるが、今回は微妙な重さだったので、編集部の助けを借りて開梱、2階リビングに設置した。実際に手伝ってもらったのは正解。「ギリギリいけるか」とも感じたが、一人で運ぶにはやや大きすぎた(※取説では2~3人での開梱・設置を推奨している)。
ディスプレイ部のサイズは1,225×23×706mm(幅×奥行き×高さ)。突起した部位がなく、厚みを23mmに押さえ込めているのは凄い。上から下まで本当にスリムなデザインだ。
デザインに関しては、日本メーカー勢と着眼ポイントが違うのが面白いところ。
日本メーカー勢の有機ELテレビは、上部を極薄とすることで、パッと見の「薄い」感を重視していて、逆に下部がでっぷりとしたデザインのものが多い。設置したあとのサイドビューは圧倒的にLGが美しいが、日本メーカー勢の下半身ぽっちゃり型の方がディスプレイ部分をつかみやすい、という運搬時のメリットはある(笑)。
ディスプレイ部の最外殻は、幅1.5mm程度の金属枠で囲われている。ここが事実上のベゼルで、有機ELパネルの表示領域までの幅は画面左右で約10mm、上部で約8mm、下部で約12mm。1m以上離れれば、ベゼルの存在感はほぼない。
スタンドは、表面をヘアライン加工した金属製。画面左右の両端下部にビス2本で組み付ける方式だ。一見すると、スタンド片側あたりビスが1本しか入らないように思えるが、樹脂のカバーを外すと2本目のネジ穴が現れる。
スタンドは全長(設置時には前後長)にして約27cm。左右のスタンド間の距離は実測で約113cm。
最近の薄型テレビは中央側に組み付けられたスタンドに乗せることができれば、テレビ台の上面からはみ出ても設置ができる製品が多いが、本機はほぼほぼ画面サイズのテレビ台が必要になる。
スタンドに角度調整機能はなく、完全なリジッド/ソリッドなスタンドである。スタンド組み付け時のディスプレイ部下辺と接地面の隙間はBDソフトパッケージ5本分だった。
スピーカーはツイーター20W×2、ミッドレンジ20W×2、ウーファー20W×2の総計60W出力の4.2chでかなり贅沢な仕様。本体のみでDolby Atmosのデコードに対応し、バーチャルサラウンド出力にも対応。映画ファンやゲームファンにも嬉しいおもてなし(?)に感激する。
スピーカーが下部に実装されていることもあり、音像は画面下部あたりに定位する感じは否めない。ただ、その音質自体はけっこう優秀で、サウンドモードを「音楽」にすれば、ベースの低音域、中音域のボーカル、高音域のハイハットがきっちりフラットに聞こえる原音主義な優等生サウンドが楽しめた。
本機には、仮想音源技術などを駆使した「AIサウンドプロ」モードが搭載されている。実際の設置環境で最適な音像再生を行なうためには、「機器設定」-「AIサービス」-「オートサウンドチューニング」メニューから簡易的なキャリブレーションを実行する必要がある。
実際にキャリブレーションを行ない、音楽を初めとして様々なサウンドを再生してみたところ、前述したような「画面下部への定位感」は払拭され、画面の上下左右よりも外側からサウンドが鳴っているような面白いサウンド体験が堪能できた。
普段から聞き慣れた楽曲などに関しては、仮想音源処理に伴った変調が介入するためか、やや雑味を伴う印象も時々あった。部屋一杯に音像は広がるので、テレビや映画鑑賞、スポーツ観戦、ライブイベント観戦などとは相性が良さそうだ。
定格消費電力は369Wで、年間消費電力量は195kWh/年。同画面サイズのLG製液晶テレビが200W前後、140kWh/年前後なので、やはり有機ELテレビの方が“電気食い”であることが分かる。
全4系統のHDMI端子がHDMI2.1対応
接続端子パネルは画面正面に向かって左側の背面側と側面側にある。
昨年モデルは、変換ケーブルを用いることでコンポーネントビデオ入力やコンポジットビデオ入力が可能だったが、今年度のモデルにはアナログ系の入力端子が全廃され、デジタル入力オンリーのHDMI入力4系統のみとなった。これも時代だろう。
4つあるHDMI入力は全てHDMI2.1対応。
4K/120Hz入力はもちろん、eARC/ALLM/VRRの全てに対応する。ARC/eARCは、HDMI 2端子のみサポート。サウンドバーやAVアンプのようなオーディオ関連機器の類を接続する場合は、HDMI 2に接続することになる。
音声系端子としては光デジタル音声出力端子、ヘッドフォン端子、LAN端子がある。
側面側にはUSB端子のみが実装されている。その数は3系統。なお、全てがUSB2.0規格までの対応となる。3つUSB端子は、全て録画用USB接続型ハードディスクの接続に対応する。
なお、ハードディスク1台あたりの容量は4TBまでに制限されており、USBハブ接続を介してのハードディスク接続には未対応。このあたりの制限は、日本の競合他社製品では対策済みなので、時代性を考えるとLGにも早期改善を願いたいところ。
USBハブなどを組み合わせてキーボード、マウス、Xbox360の有線ゲームコントローラの接続を確認。キーボードやマウスは使うことができたが、ゲームコントローラは本機のアプリストアからダウンロードできるゲームで使うことはできなかった。
キーボードの文字入力の対応度は限定的で、YouTubeアプリのキーワード検索では使えず。Webブラウザ上ではアルファベット入力は行なえたものの、日本語入力には対応していないようだ。操作の一貫性が整っていないユーザーインターフェースは要改善を望む。
無線LANは、Wi-Fi5(IEEE802.11ac)までの対応で、Wi-Fi6には対応しない。
ゲーム関連機能への力の入れようがパない! 入力遅延さらに短縮
LGはコロナ禍突入前の、ギリギリのタイミングで開催されたCES 2020にて「今後のモデルではテレビ製品でゲーミングモニター並みのゲーム対応を充実させていく」という主旨の所信表明を行なったが、2021年もこの信条は継続中のようである。
メニューに「ゲームオプティマイザ」という専用メニューを設けており、ゲームに関連した設定をここに集約させたのだ。
たしかに、これまで多くのメーカーでは、こうしたゲーム関連機能を画質系のメニュー階層下に忍ばせていたり、あるいは外部機器設定、初期設定などに組み込んでいたりとわかりにくかった。シンプルに「ゲーム関連の機能設定はここ!」というメニュー設計は分かりやすい。
最上部の設定スイッチは「ゲームオプティマイザ」の機能を、一括オン/オフを行なうものだ。このオン/オフ設定はHDMI入力系統ごとに記憶される点には留意したい。
「ゲームジャンル」はプレイするゲームに最適化された画調プロファイルを選択するもの。「標準-FPS-RPG-RTS」とゲームジャンルごとのプロファイルが用意されているが、その特徴に関しての詳しい説明はない。
筆者が見た感じでは、輝度、コントラスト、階調(ガンマ補正)、シャープネスを各ゲームジャンルごとに変えて設定しているようだ。LGのゲーミングディスプレイ製品にはほぼ同じようなゲームジャンルごとのプリセット画調モード機能があるので、そこからの流用と思われる。
傾向としては、たとえば「FPS」(一人称シューティング)モードだと暗部を持ち上げ明部の輝度を下げてコントラストを低下させ、明るいシーンでも暗いシーンでも画面全体の情報量を上げて、敵の視認性を上げる意図を感じる画調となっていた。
対して「RTS」(リアルタイムストラテジー)モードでは、画面内に所狭しと細かい文字記述やゲージ類、記号類が描画されるため、シャープネスがやや強め。
恐らく各モードの画質設計は、各ジャンルの代表的なゲームタイトルを想定して設計されたと思われるが、詳しい説明は一切ないので、「標準-FPS-RPG-RTS」の中から自分の好みに合った画調を適当に選べばよいと思う。「標準」は「最も画調をいじらない」モードなので悩んだらこれ一択か。
「ブラックスタビライザー」「ホワイトスタビライザー」も、LG製ゲーミングモニターからの輸入機能。それぞれ「暗部階調の最低具合」と「明部階調の最高具合」を制限させることで、コントラストを抑制し、画面全体の視認性を上げるものだ。
映像としての美しさや面白みは損なわれるが、画面内情報量は増加するので、一人称シューティングゲームならば暗がり潜む敵を見つけやすくするし(ブラックスタビライザー)、レーシングゲームならば眩しいトンネル出口向こうのカーブの曲がり具合を見やすくしたりする効果(ホワイトスタビライザー)が得られる。
「OLED Motion Pro」は、フレーム補間機能のような字面だが、そうではない。これはいわゆる黒挿入機能。黒挿入のタイミングは映像フレーム表示後ではなく、これから新しく表示するフレームの前に挿入するので、映像表示に若干の遅延が伴うことになる。ただ、人間の視覚特性上、黒挿入後の映像表示の方が残像感は減る。低遅延を優先するならばオフ一択だが、映像フレームを見てからの反応速度は黒挿入ありの方が上がるかもしれない。お好みで活用方針を決めたい。
「ブルーライトの低減」は、いわゆる“目に優しい”系の機能。「入力遅延の防止」は低遅延モードの度合いを設定するものだ。設定できるパラメータは「標準」と「ブースト」になっており、「ブースト」が本機で得られる最上の低遅延モードに相当する。
「AIゲームサラウンド」は、HDMI信号に乗ってきたオーディオ信号にあわせて最適なバーチャルサラウンドモードを選択する設定で、オン/オフの2択設定となる。本機だけでゲームサウンドを楽しむ時はオン、外部音響機器と連携する場合はオフでいいだろう。
「VRRおよびG-Sync」、「AMD FreeSync Premium」は、可変フレームレート映像の表示品質を向上させる技術の設定。
具体的には、可変フレームレートの映像を表示させると、映像がカクついて見える「スタッター現象」や、映像の上部と下部でずれて見える「テアリング現象」を低減、あるいは解消することができる機能になる。
VRR、G-Sync、AMD FreeSync Premiumも機能効果としてはほぼ同じだが、VRRはHDMI、G-SyncはNVIDIA、AMD FreeSync PremiumはAMDがそれぞれ開発した技術なので、本機は「それに全て対応する」と言うことをアピールしているわけだ。
第260回で取り上げた2020年モデル「OLED48CXPJA」では、この「可変フレームレート表示最適化機能」関連の設定において、設定と効果に不可思議な排他関係があって分かり難かったのだが、2021年モデルでは改善されたようだ。
今回筆者が試した感じでは、「VRRおよびG-Sync」、「AMD FreeSync Premium」の両方をオンにしておけば、NVIDIA系、AMD系の双方で、それぞれの「可変フレームレート表示最適化機能」が有効化されていた。なお、本機で利用できるG-Syncは「G-Sync Compatible」モードの方になる。
いつものように今回もLeo Bodnar Electronics「4K Lag Tester」を用いて、4K/60Hz映像入力時の入力遅延を測定してみた。
映像モードは実質上の「ゲームモード」相当する「ゲームオプティマイザ」モードを選択。前述したように本機の低遅延モードは「標準」と「ブースト」があるが、計測結果は以下の通り。
- 標準 8.8ms
- ブースト 5.2ms
本機は、補間フレーム挿入にも対応した倍速駆動システムを搭載しているので、4K/60Hz入力時の理論値として遅延は8.3msとなるはず(仕組みについてはコチラを参照のこと)。実測で8.8msはほぼ理論値に近い。60Hz換算時で約0.5フレーム遅延と言ったところだ。
日本メーカー勢も含めて、LG方式の有機ELパネルを採用した有機ELテレビでは、焼き付き抑止のゲインコントロールが介入する関係で理論値8.3msの遅延が伴う。さらに前述した倍速駆動を行なうために避けられない遅延が8.3msがあるため、最速でも60Hz映像で16.66msの遅延、すなわち60Hz換算で約1フレームの遅延が避けられなかった。
しかし、OLED48CXPJAの遅延実測でも触れたように、LGは2020年モデルから、この焼き付き抑止に起因した遅延を撤廃。OLED48CXPJAの入力遅延は9.4msとなっていた。しかし最新モデルでは、これがさらに短縮され、8.8msにまで切り詰めてきた。
しかし、驚かされるのは「ブースト」モードの5.2msだ。これは60Hz換算で約0.3フレームの遅延ということになる。
この値は、倍速駆動パネルの入力遅延値を下回っている。調べて見ると、「ブースト」モードの時には倍速駆動に関連する機能が利用出来なくなるので、どうやら、60Hz入力時は、倍速駆動をキャンセルして等速駆動にモードチェンジするようだ。ついに、LGの有機ELテレビは、ゲーミングモニターのようにリフレッシュレート可変に対応してしまったようだ。
ただ、よく考えると、納得も行く。本機は可変フレームレート映像表示に対応したVRR/FreeSync/G-Syncに対応しているので、リフレッシュレート可変に対応していても不思議ではないのだ。しかし、その機構を入力遅延低減にまで応用するとは心憎い。
なお、念のために計測したが、VRR/FreeSync/G-Syncのオン/オフの設定で、入力遅延値は変わらず。すなわち、VRR/FreeSync/G-Syncの任意のオン/オフの組み合わせで8.8ms、あるいは5.2msの入力遅延でゲームが楽しめることになる。
「入力遅延の防止」設定を「標準」設定とした時は黒挿入の「OLED Motion Pro」が利用出来るが、その際の入力遅延の実測値は下記のようになった。
- オフ 8.8ms
- 低 17.2ms
- 中 17.2ms
- 高 25.5ms
- 自動 17.2ms
OLED Motion Proの項目別入力遅延値
「自動」設定の動作根拠は不明なので、説明は省く。前述したように、多くのテレビの黒挿入アルゴリズムはそのフレームの「表示後ではなく表示前」に行なわれるため、「オフ-低-中-高」と設定値を上げるにつれて黒挿入時間が長くなり、入力遅延(事実上の表示遅延)は大きくなる。実際計測結果も概ねそのようになっている。
ゲームジャンル設定は「FPS」「RTS」「RPG」のいずれにおいても遅延に差はなかった。
ところで、使っていて気付いたのだが、「ゲームオプティマイザ」をオンにしていても、映像モード(画調モード)の方も「ゲームオプティマイザ」モードにしないと低遅延にはならない。
ゲームオプティマイザをオンにしている状態で、映像モードを「標準」設定としていると、実測遅延は85.2ms、60Hz換算で約5.1フレーム遅延となってしまっていた。
これは少々わかりにくい振る舞いだ。ゲームオプティマイザをオンにした場合は、映像モードもゲームオプティマイザに連動して設定できるようにして欲しいところ。
なおこの点について、後日LGから補足があった。LGテレビは現状、ゲーム機の接続がないとゲームオプティマイザーをオンに変更しても、ALLMは作動しないとのこと。また、画質モードと関係なくALLMを作動させた場合、メモリー使用率の高い機能である「ノイズリダクション」や「FRC」機能などがオフになるため、一般画質も劣化してしまうリスクもある、というのが彼らの見解だった。
ちなみに、最も遅延が大きかったのは「FILMMAKER MODE」で、93.4ms、60Hz換算で約5.6フレーム遅延となっていた。
自然言語操作機能が進化。でも西川善司を認識しない…涙
リモコンは、LGテレビではお馴染みの「マジックリモコン」を採用。
マジックリモコンとは、一言で言うならばWiiリモコンのようなもの。見た目は普通のテレビリモコンだが、一般的なリモコンよりもやや長細いスティック形状をしている。これを握って軽く振ると画面上に矢印カーソルが出現するので、以降はWiiリモコンのようにジェスチャー入力でテレビメニューに対する操作が行なえるわけだ。
OLED48CXPJAのレビューでも触れたが、このジェスチャー入力は、テレビ側の本体メニューだけでなく、YouTubeやAmazon Prime VideoなどのVODサービスアプリはもちろん、LGが展開する自社テレビ向けアプリストアにあるゲームでも利用できる。
リモコンの電源ボタンを押してから、地デジ放送の画面が出るまでの所要時間は、実測でやく7.0秒。
この値は最近の機種としては標準的か、やや遅い印象だ。「機器設定」-「デバイス」-「テレビ」-「高速起動+」の設定をオンにすることで、高速起動モードに遷移するが、今回試してみた感じではオンでもオフでも計測値に差はなかった。
地デジのチャンネル切り換え時間は実測で約2.5秒。HDMI入力切換時間は実測で約1.0秒。こちらはなかなか速い。
自然言語操作は2020年モデルからパワーアップ。
OLED48CXPJAでは「リモコン上のマイクボタンを押してから話しかける」という儀式が必要だったが、2021年モデルの本機は、リモコンを持たず、ハンズフリー状態で「ハイLG」と呼びかけると、自然言語操作モードに移行。その後、「フジテレビが見たい」などの自然言語による音声命令を発話できる。
さらに、へえと感心させられたのは、外部入力切換にも対応しているところ。「ハイLG…HDMI2に切り換えて」というと、ちゃんと入力切換が行なえるのだ。
ただ、レスポンス自体は、最近のスマートスピーカーと比べると微妙にちょっと遅め。「頑張って処理してます」感が漂っている。
その意味では、画面上に出現するテレビ側のメニュー操作感も、最近の機種にしてはややもっさりしている。たとえば「設定」ボタンを押して、メニューが出てくるまで実測で約2.0秒かかる。このメニューが出たあと、「ゲームオプティマイザ」のメニューにカーソルを合わせて決定ボタンを押すと、砂時計が現れ、目的のメニューが出てくるまで、実測で約4.5秒。このあたりは次のモデルで改善して欲しいところだ。
あと、地味にショックだったのは、「西川善司をYouTubeで検索」を発話すると、OLED48CXPJAはちゃんと「西川善司」と漢字まで合っていたのに、本機は何度やっても「西川けんじ」とか「西川禅師」になってしまうようになった……。
もし、2022年モデルで改善されていたら筆者は感動するかも(そもそも2021年モデルでダメになった理由を知りたい笑)。
画質チェック~昨年モデルから色深度の拡大を実感!
冒頭でも述べたように、本機の映像パネルは世代の新しい「OLED evo」を採用している。
当面は、2021年モデルのLG製テレビだけの特権となるであろう、このパネル。果たしてどんな感じなのか。顕微鏡で見てみることにした。
OLED55G1PJAのサブピクセルは、TH-55HZ2000のものとも、OLED48CXPJAのものとも違うのが分かる。白、青、緑のサブピクセルは55HZ2000に近いが、赤のサブピクセルはOLED48CXPJAに近い。
OLED48CXPJAの評価の時に気が付いた、赤のサブピクセルの小さなサブドメインが、OLED55G1PJAの赤のサブピクセルにも見て取れる。OLED48CXPJAでも、このサブドメインを個別駆動しているような挙動が見られたが、OLED55G1PJAでも同様だ。
新世代パネル「OLED evo」では、色域が拡大されたということなので、そのあたりも計測して見た。
白色光のカラースペクトラムを見る限りは、白色サブピクセルのチカラ配分が強く、パッと見、以前の有機ELパネルのものと代わり映えはしない。LG式有機ELパネルは、発光体としては青色単色であるため、青色スペクトラムのピークが鋭くて高く、緑と赤はやや鈍ったピークなのだ。
しかし、よく見ると、55HZ2000やOLED48CXPJAのものに対して、微妙に赤のピークが高くなっており、確かに改善はされているようだ。
実際の映像視聴で、このevoパネルの性能が見極められるのか、本連載でいつもリファレンス映像としている「マリアンヌ」や「ラ・ラ・ランド」の映像を見てみた。
「マリアンヌ」は、チャプター2冒頭で描かれる夜の街から社交場屋内へのシーンと、夜のアパート屋上での偽装ロマンスシーンなどを視聴。
社交場ではヒロインであるマリオン・コティヤールが着ている、黒基調にラメの入ったドレスの煌めきがリアル。黒っぽい布地に、ちりばめられたラメが、照明と視線の関係でキラキラと輝くが、一つ一つの煌めきにエネルギー感の違いを感じられる。同じテーブルに就く上流階級のマダム達のスパンコール・ドレスの輝きも同様。同じ鋭い輝き(ハイライト)でも、照明ベクトルと視線ベクトルが織りなす角度に応じて強弱が変わるので、その輝きの違いがちゃんと自分の目で分別できるため、リアルに感じられるのだ。一言で言えば「ダイナミックレンジが高い」ということになる。
ブラッド・ピットが見せる笑顔の口元の歯のてかり、マリオン・コティヤールが身に付けている貴金属の輝きも同様のリアリティを実感できた。このシーンは、元来、街灯とシャンデリアの「ベタなHDR感」に目が行きがちだが、ついに有機ELテレビで、こういう地味な表現にリアリティを感じられるようになったことはちょっと感慨深い。
暗がりの偽装ロマンスシーンでは、照明がほとんどない中で、ちゃんと主役二人の人肌の血の気が感じられる。evoパネルの色域拡張の恩恵はこういった所に出ているのかもしれない。
「ラ・ラ・ランド」では、いつものように夕闇の下で主役二人が歌い踊るシーン(チャプター5)を視聴。ここも、暗いシーンなので、有機ELテレビでは色表現が怪しくなりがちなことが多いが、本機はそうした不安がない。
エマ・ストーンの持つ赤いカバンは、暗がりにもかかわらずリアルな拡散反射系の質感を見せる。皮素材に塗られた塗料が、弱い照明下でか細い赤の陰影を見せるのだが、ちゃんとその陰影が単色に落ち込まず、擬似輪郭も見せずに、なだらかな「暗い赤の階調表現」を描き出せていた。悪条件の照明下で、この赤いカバンに立体感が見えてくるのは立派だ。
一通り見て感じたのは、新しいOLED evoパネルは「色域の拡大」というより、「色ダイナミックレンジの拡大」(色深度の改善)に恩恵をもたらしている印象を受けた。
そうそう。OLED48CXPJAの評価の際に指摘した「暗色の階調表現に現れる格子筋アーティファクト」だが、OLED55G1PJAでは目立たなくなっていた。
最もこの現象がわかりやすかったUHD BD「ソニック・ザ・ムービー」のチャプター15のラストシーンでも確認したが、以前ほどの格子筋現象は見られず。暗色階調表現が多い映画もこれで安心である。
さて、今回からHDR感の評価には「The Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク」を用いることとした。
このソフトは様々なテストに使えるものだが、今回は、様々なHDRフォーマットの映像を入力して、おかしな表示になっていないか、安定したHDR表現が実現出来ているか? をチェックしている。
最大輝度が600nitの映像から、10,000nitまでの映像をチェックしたが、正しいカラー表現が行なえるのは1,000nitを超えたあたりまでという印象。輝度表現については、4,000nitまでの階調は描き出そうとする努力がみられる。
なお、これは「本機が4,000nitで光ることができる」という意味ではなく、4,000nitのHDR映像表現についても、自身の輝度性能の範囲でトーンマッピングを行なって表示ができる、という意味だ。逆に、本機では、4,000nit以上は飽和して階調つぶれを起こしていた。まあ、一般的な映画ソフトは最大4,000nitくらいまででマスタリングされているので必要十分な性能だとは思う。
暗部については、「RAMP TONE MAPPING」で見た感じ、単色あるいは白黒モノトーンの階調表現で0.2nitくらいまでは表現できており、暗部階調性能も頑張っている。
地デジなどデジタル放送の映像は、OLED48CXPJAの時も述べたが、日本メーカー勢とそれほど違わない画質になっている。ただ、完全に互角かというと、そうでもないことに気がついた。
たとえば、画面全体がパンする映像や、画面内に細かいテクスチャ表現を伴った動体が移動する映像などでは、MPEG系のノイズ低減機構が過度に働き過ぎるのか、細かい陰影が埋没することがある。
髪の長い女性が画面内に静止している時は、髪の毛一本一本の細かい陰影が描かれるのだが、この女性が動き出すと、その髪の毛の細かい陰影が甘くなるのだ。もしかすると、時間方向のノイズとして処理されているのかもしれない。
こうした表現は、日本のメーカー勢の製品だと、陰影が埋没しない。長年、画質の厳しいMPEG2ベースのデジタル映像と付き合ってきたからこそ、の差なのかもしれない。
ただ、気になるのはそのくらいで、スタジオ内で座席に座った状態で進行するワイドショーやお笑い番組などは、激しい動きがないため、かなり品質の高い表示で楽しめる。
もっとも、MPEG2系で伝送されているのは旧来のデジタル放送の地デジ放送とBS放送くらいなので、それらを重視していないユーザーであれば気にならないだろうし、ブルーレイ世代のMPEG4ベースの映像、ベースバンド映像のゲーム機やPCの映像であれば、こうした現象とは無縁の話ではある。
総括~ゲームファン向けの機能充実が凄かった
横並びで見比べると映像エンジンの出来映えについては、まだ日本メーカー勢に一日の長があるような気はしているが、進化のスピードが速いのと、ユーザーの要望を取り入れるスピード感がとても早いので、日本メーカー勢もうかうかしてはいられなくなってきた。LGのテレビ製品は、年々完成度が上がりつつある。
新世代パネルという触れ込みで投入されたOLED evoパネルは、想像していたほどの「色域拡大」はなかったが、それでも堅実な進化が見られた。最近では、量子ドット技術などを有機ELに組み合わせる研究なども進んでいるようなので、さらなるevoパネルが登場する可能性もあるだろう。恐ろしくも楽しみである。
やはり今年のモデルは、ゲーミングモニター的な機能を充実させ、テレビ製品なのに普通のゲーミングモニター以上のゲーム系機能を集約してきたことがトピックだと感じた。
テレビで、まるでゲーミングモニターのようにリフレッシュレートの等倍速駆動と倍速駆動のモードチェンジに対応し、遅延を限界まで低減させてきたことには驚かされたし、eARC/ALLM/VRR/4K120p入力などのHDMI2.1フィーチャー全対応に留まらず、FreeSync/G-Syncにも対応。さながら「ゲームするならLG」と、言わんばかりのゲームファン向けの戦略をとってきたことに、LGの「ゲーム対応へのやる気」を感じさせられた。
今から10年前、筆者がLGのゲーミングモニターの技術取材を行なった際(記事参照)、「ゲーミングモニターの技術をテレビに投入しないのはなぜか」と聞いたことがあった。
その際、返ってきたのは「テレビ製品開発の部門とPCモニター開発の部門は別のグループなのです」という“よくある大企業”的回答が返ってきて「はあ、ここもか」と残念な気持ちになった記憶がある。
ただ、今回の新製品を見る限り、考えが変わったよう。「ゲームオプティマイザ」の設定は、ほぼLGのゲーミングモニタ製品の出張所という感じで、部門間の縄張り意識はほとんどなくなったのかもしれない。
さて、評価の最後に、Xbox Series Xを接続してのフィーチャーテストを行なってみた。
すると、OLED48CXPJAの時には全項目OKの結果だったはずなのだが、今回のテスト結果は「×」が1つあることに気が付いた。
「なんだ?」と思ってよく見てみたら、どうやらXbox Series Xのシステムアップデートが行なわれたようで、新しい評価項目が増えていたのだ。その項目とは「4K 120Hz Dolby Vision」への対応だ。
「ゲームで4K/120fpsのDolby Visionフォーマットをやるんかい!」と、筆者も驚いたが、どうやらマイクロソフトは本気らしい。
となると、「新世代ゲーム機が要求する新世代映像技術」に対し、オールOKを出せていた機種がなくなるのか……と残念な気持ちになったのだが、さすがフットワークの軽いLG。なんと! すぐさま「それ、ファームウェアアップデートで対応しますわ」という表明を行なってきた。
LGテレビ、4K/120pのDolby Visionゲームにファーム対応。'20年モデルも
対応機種は、本機G1始め、C1シリーズの2021年発売有機ELテレビとハイエンド液晶テレビのQNED99、NANO99、そして2020年モデルの一部が予定されている。'20年モデルにも対応するとは手厚いではないか。北米地区では既に新ファームウェアが提供開始しているようだ(日本での提供はまだ未定)。日本メーカー勢の対応にも期待したいところだが、果たして……。
「ゲームするならLG」のブランディングは今後、日本においてどこまで浸透していくのか、注目していかなければなるまい。