西川善司の大画面☆マニア
第264回
PS5で“3Dオーディオ”を楽しむためのサウンドシステム構築ガイド
2021年7月2日 08:00
過去二回に渡り、やや番外編的な位置づけの記事「PS5対応テレビの選び方」(第258回)、そして「PS5対応ゲーミングモニターの選び方」(第263回)を掲載したのだが、幸いなことに二回とも非常に広く読まれることになった。この人気に乗じて今回、さらなる番外編に取り組むこととした。
テーマはずばり「新世代ゲーム機におけるサウンド環境構築ガイド」である。
もはや連載タイトル「大画面☆マニア」の括りを超越してきているが、大画面(映像)の環境が整えば、音響の環境も気になってくるはず。「せっかく新世代ゲーム機が登場した直後のファーストイヤーなのだから」という理由をこじつけ、今回はこのテーマでやらせて頂くことになった。
例によって、かなり周辺領域の知識にまで言及しているため、長さについては覚悟いただきたい。下記に記事目次を添えているので、興味のあるセクションだけを飛ばし読みするのもありだろう。
新世代ゲーム機が対応した“3Dオーディオ”
ゲームグラフィックスの表現力において、PlayStation 5(PS5)やXbox Series X/Sに代表される今世代のゲーム機が「レイトレーシングに対応した」という事実を知っている人は多いと思う。中には「SSDにも対応したよ」という意見もあるだろう。しかしオーディオ・ビジュアル的なポイントとして、新世代ゲーム機はもう一つ、新しい技術に対応している。
それが、オブジェクトベースオーディオ技術を用いた“3Dオーディオ”だ。
オブジェクトベースオーディオ技術(OBA)とは、聴者を中心に据えた三次元座標を想定し、これから出力する音像に対してx、y、zの三次元座標を与えて伝送する仕組みのこと。音を鳴らす側の音響機器(具体的にはテレビ、AVアンプ、サウンドバー、ヘッドフォンなど)は、伝送されてきた3D情報付きのデータを、スピーカーの個数、設置位置に応じて、適切かつリアルタイムに処理して再生する。
対して、PlayStation 4(PS4)やXbox One、Nintedo Switchなど、旧世代のゲーム機が採用する5.1ch、7.1chといったサラウンドシステムは、出力先の音響機器に対して鳴らす音を決め打ちで振り分けていた。こうした従来型のサウンドシステムは、チャンネルベースオーディオ技術(CBA)と呼ぶ。
両者をCGにたとえるなら、オブジェクトベースは、どのスピーカーでどんな音を再生するかを、音を再生する機器側で3D座標演算を行なって“リアルタイムレンダリング”するもの。対するチャンネルベースは、どのスピーカーでどんな音を再生するかが“事前レンダリング”(いわゆるプリレンダー)されているもの……というイメージになる。
そう、音声を実際に出力するオーディオ機器側に求められる演算処理性能は、いうまでもなく前者のオブジェクトベースの方が高くなるが、近年になってOBAが普及し始めているのは、安価で高性能なOBA対応音響プロセッサ(SoC)が色々と登場してきたためだ。
もちろんPS5、Xbox Series X/Sは、従来のチャンネルベースにも対応しているので、既存の5.1chや7.1chシステムを構築してあるユーザーはその環境をそのまま利用することはできる。ただし、OBAのウリである「上下方向の音像移動表現」「高精度な音像定位表現」の再現度は曖昧なものとなる。
3Dオーディオ対応機器~テレビ、サウンドバー、AVアンプ、ヘッドフォン
オブジェクトベースの3Dオーディオ環境を構築するには、どうしたらよいのだろう。
まずは、業界標準のフォーマットである「Dolby Atmos」「DTS:X」に対応した機器を揃えることだ。
煩わしい接続等の手間もなく、機器の数も増やさずに実現するなら、OBA対応のテレビを導入することだ。たとえば、ソニーのブラビアシリーズは、フラッグシップからエントリーモデルまで全てDolby Atmos再生に対応している。パナソニックやLGの新製品もそのほとんどがDolby Atmosに対応している。テレビの買い換えも検討中であれば、こうした製品を選ぶといい。
既に手持ちのテレビに組み合わせて、“手軽に3Dオーディオ環境を整えたい”という場合は、OBA対応サウンドバーがいい。たとえば、ソニー「HT-G700」やデノン「HOME SOUND BAR 550」などは、テレビの下に設置するだけで、Dolby AtmosとDTS:Xの両方が楽しめる。また、PS5やXbox Series X/Sが出力する4K/HDR映像をパススルーできるのも魅力だ(4K/120p非対応)。
「手持ちの5.1/7.1chシステムにいくつかのスピーカーを付け足して、3Dオーディオに拡張したい」、あるいは「マルチスピーカー環境をいちから導入して、3Dオーディオを構築したい」ということならば、OBA対応AVアンプを導入するといい。
たとえばヤマハの「RX-A4A」は、OBAとしては最基本構成となる5.1.2ch(サラウンドスピーカー5基、サブウーハー1基、ハイトスピーカー2基)システムに対応したAVアンプとなっており、新世代ゲーム機がウリとしている4K/120fps入力(※)はもちろん、HDMI2.1のキーフィーチャーであるALLM、VRR、eARCにも対応している。
※Xbox Series XとNVIDIA GeForce RTX30シリーズなどの4K/120fps入力は、アップデートが必要。詳細は記事参照のこと
AVアンプを使って構築する3Dオーディオは、どのAVアンプを選んだかで部屋に設置すべきスピーカーの構成が変わってくる。
このあたりを詳しく説明していると誌面が足りないため、早々に切り上げるが、最もシンプルな構成は、前述したヤマハ「RX-A4A」などが対応する5.1.2chシステムだ。この構成の場合、ヤマハの入門用5.1chスピーカーパッケージ「NS-PA41」「NS-P41」などに、別途ハイトスピーカーを2基ほど追加する方法がオススメだ。
ハイエンドクラスのAVアンプには、デノン「AVC-X6700H」「AVC-X8500HA」(※)のような7.1.6chや、9.1.4chシステムに対応した製品もある。こうした超多チャンネルのスピーカーを用いたシステムを構築する際は、AV機器専門店で予算に合わせたスピーカー選びをアドバイスしてもらった方がいい。
※Xbox Series XとNVIDIA GeForce RTX30シリーズなどの4K/120fps入力は、別途HDMIアダプターが必要。詳細はサポートページを参照のこと
「部屋にたくさんのスピーカーは置けない。もっと手軽な構成で楽しみたい」というような、ヘッドフォンによるバーチャルサラウンド環境を望むユーザーも少なくないと思う。
「ゲーム機とバーチャルサラウンド技術」というテーマは、さらっと語るには難しいほど、とても複雑な事情が絡む。詳細は後述するが、汎用性の高い“HDMI接続できるバーチャルササラウンドヘッドフォン”は、2021年現在では、選択肢が限られる。
バーチャルサラウンドヘッドフォンの定番製品には、ソニー「MDR-HW700DS」や、パナソニック「RP-WF70」があるが、発売年時が古く、新世代ゲーム機と組み合わせるのが難しい。MDR-HW700DSのHDMI入力は、新世代ゲーム機が前提とする4K/HDR映像を入力できないし、パナソニックRP-WF70は光入力専用機のため、光出力端子がなくなってしまった新世代ゲーム機とはダイレクトに接続することが不可能になってしまった。
それでも「バーチャルサラウンドヘッドフォンが欲しい!」ということであれば、昨年夏にビクターが発売した「XP-EXT1」がある。
7.1chシステムの天井に、4基のハイトスピーカーを設置した7.1.4chシステムを再現する製品で、4K/HDRパススルーにも対応している(4K/120p非対応)。実勢価格は約10万円と高価だが、AV機器と組み合わせて活用することも想定すれば、わるい選択肢ではない。
PS5で3Dオーディオ~ゲームの場合はヘッドフォン一択
では、ここからは新世代ゲーム機別のサウンド環境構築術を解説していこう。まずはPS5から。
PS5で最もシンプルかつ、効果的に3Dオーディオを楽しむためのベストなソリューションはヘッドフォン(イヤフォン)だ。
その際、ヘッドフォンは手持ちのものでOK。PS5本体にUSBで接続するか、DualSenseコントローラーのミニジャックに接続すればいい。
あとはPS5側で設定メニューの「サウンド」設定から「3Dオーディオを有効にする」をオンにすれば完了。この3Dオーディオこそが、PS5の特徴的な音響機能である「Tempest 3Dオーディオ技術」に相当する。ユーザーを座標中心に据えた3D座標系で音像を処理し、これを普通のステレオヘッドフォンで360度全天全周に定位させて聞かせるOBAベースの技術だ。この定位感の調整は「3Dオーディオを調整」で行なうことができる。
実はPS4では、USB接続タイプのヘッドフォンを接続した場合、バーチャルサラウンド化されるのは純正品の「ワイヤレスサラウンドヘッドセット」シリーズ(CUHJ-15001/15005/15007)に限定されていた。SIEライセンス商品であっても、ソニー純正品以外は意図的に2chステレオに限定されるという“なんちゃってサラウンド”になっていたのだ。
この事実は意外と知られておらず、ただの2chステレオをワイドにぼやかしただけの“なんちゃって”サラウンドを聞いていたゲームファンは多かった……。
PS4時代の、非常に難解だった「PS4におけるヘッドフォンを使ってのバーチャルサラウンド事情」については、筆者のYouTubeチャンネルについて具体的にまとめているので興味のある人はそちらを参照頂きたい。
PS4の“純正縛り”は評判がよくなかったためか、PS5でこの制限を解除。このためPS5は、どんなUSB接続タイプのヘッドフォンでもTempest 3Dオーディオ技術が利用できるようになっているというわけだ。
今回、私物のPS4用純正ヘッドフォン「CUHJー15007」や、ゼンハイザーのPS4対応ヘッドフォン「EPOS GSP370」にて、PS5のTempest 3Dオーディオが楽しめるかテストしてみたところ、めでたくちゃんと動作することが確認できた(ちゃんとしたバーチャルサラウンドが聞けた)。なのでPS5では、PS4用USB接続型ヘッドフォンが広く使えるとみてよい、と思う。
なお現状は、OBAを用いたゲームサウンドを、テレビなどのステレオスピーカーからTempest 3Dオーディオで出力することはできない(2021年6月時点)。
複雑なことに、PS5のゲームサウンドは、HDMIでAVアンプやサウンドバーに接続すると、リニアPCM 7.1chやDolby TrueHD 7.1chなどの“チャンネルベース”として出力される。つまり、PS5のゲームサウンドはDolby AtmosやDTS:Xで出力することはできない。
PS5のゲームサウンドが、いつDolby AtmosやDTS:Xに対応するかは不明だ。いずれ対応するとは見られるが、具体的なスケジュールをSIEは示していない。
少し前、フランスのゲームメディア「Xbox Wire」が、「PS5のゲームサウンドがDolby Atmos対応しない理由は、マイクロソフトがゲーム機市場において、Dolby Atmosを独占利用できる契約を結んでいるため」という記事を出したことがあった。
しかし、この記事の掲載直後、アメリカの技術系メディア「Techradar」がマイクロソフトに確認したところ、「そうした事実はない」と否定している(記事参照)。筆者もドルビーにこの件を問うたが「契約に関する詳細について、否定も肯定もできない」という回答だった。
結論としては、2021年6月時点では、PS5ゲームで3Dオーディオを楽しむには「ヘッドフォンが最適」ということになるかと思う。
4K Ultra Blu-rayやBlu-rayなどのパッケージは、収録されているDolby AtmosやDTS:X信号をHDMIでビットストリーム出力することができる。
ただ、この出力設定がとてもわかりにくく、多くのユーザーが悩んでいるようだ。というのも、映像コンテンツ再生時のDolby Atmos/DTS:X出力は、メディアプレーヤー側の設定が優先され、PS5本体側の設定は無視されてしまうためだ。
対応機器を持っているのに、PS5で再生したパッケージコンテンツがDolby Atmos/DTS:X出力できないという方は、下の写真を参考にしてメディアプレーヤー側の設定を確認してみてほしい。
なお、PS5で映像コンテンツを再生すると「Tempest 3Dオーディオ技術」が利用できるのか? また「ヘッドフォンでDolby Atmosが利用できるのか」について気になる人が多いと思うが、答えは前者はYES、後者はNOだ。
前述したとおり、PS5でDolby Atmosを楽しむには、HDMIでビットストリーム出力するしかない。ヘッドフォンでDolby Atmosを楽しもうとしても、PS5本体でデコードできないため、チャンネルベースのDolby True HDの信号が再生されることになる。
ただし、このチャンネルベースで出力された音声にTempest 3Dオーディオ技術を活用することは可能となっており、7.1ch信号であれば、バーチャル7.1chサラウンドサウンドとしては楽しめる。
まとめると、PS5の動画コンテンツ再生は……
- HDMI出力すればオブジェクトベースのDolby Atmos/DTS:Xが楽しめる(UHD BD/BDのパッケージのみ。動画配信サービスはOBA非対応)
- ヘッドフォンで聞こうとすると、コンテンツの音声がオブジェクトベースであっても、チャンネルベースのトラックがデコードされる。ただし、これをTempest 3Dオーディオ技術を用いたバーチャルサラウンドで再生することは可能
……ということになる。ちょっとややこしい(笑)
Xbox Series X/Sで3Dオーディオ~ヘッドフォンは有償ライセンス
Xbox Series X/SはPS5と違い、ゲームサウンドをヘッドフォンのみならず、AVアンプやサウンドバーに出力して3Dオーディオで楽しむことができる(もちろん、全てのゲームではなく、3Dオーディオに対応したゲームタイトルに限られるが)。
ただし、Xbox Series X/Sのサウンド設定も、PS5とはまた違ったややこしさがある。1つ1つ見ていくことにしよう。
まず、Xbox Series X/Sでゲームサウンドをオブジェクトベースで楽しむためには、大前提として、無料のコンパニオンアプリ「Dolby Access」や「DTS Sound Unbound」をXbox Series X/Sをストアからダウンロードしてインストールする必要がある。これをインストールしないと、ゲームサウンドをHDMI出力した場合はリニアPCM 5.1ch、ないしは7.1ch出力までとなる。
そしてXbox Series X/Sにおいても、PS5と同様、Blu-rayなどの映像コンテンツにおけるサウンド出力は、本体側のサウンド設定が無視されることも留意したい。ただ、Xbox Series X/Sのメディアプレーヤー側に特別な音響設定項目はない。映像コンテンツ側の音声メニューで選択した音声トラックがそのままビットストリーム出力されるだけなので、動作イメージは直感的ではある。
無料のコンパニオンアプリの「Dolby Access」や「DTS Sound Unbound」をXbox Series X/Sをインストールしても、ヘッドフォンでバーチャルサラウンドを楽しみたい場合は、追加で課金する必要がある。具体的には、Dolby Atmosへの対応ライセンスが1,650円、DTS:Xへの対応ライセンスが2,350円となる。
もちろん、両方のライセンスを購入する必要はなく、一般ユーザーは、どちらか一方を選択して購入すればいいだろう。近年の対応ソフトの多さからいえば、Dolby Atmosが手堅い選択かもしれない。
ライセンスを購入すると、設定の「全般」-「音量とオーディオ出力」-「ヘッドセットオーディオ」において、「Dolby Atmos for Headphones」、もしくは「DTS ヘッドフォン:X」を選択できるようになる。「Dolby Access」と「DTS Sound Unbound」はインストール後、一定期間の間、「Dolby Atmos for Headphones」と「DTS ヘッドフォン:X」のそれぞれを無償で利用できる。どちらのライセンスを購入するかは、この“試用期間”で見極めるのもありだ。
なお、「Dolby Access」や「DTS Sound Unbound」で購入したライセンスはマイクロソフトアカウントに紐付けられるので、一度購入すればXbox Oneや、Windows環境下でも利用できるようになる。逆に言うと、既にXbox One、Windows環境下でライセンス購入済みの方は、改めてXbox Series X/Sのためにライセンス購入する必要はないということだ。
では、ライセンス購入しなかった場合はどうなるかというと、ヘッドフォン出力は5.1ch、あるいは7.1chのトラックをデコードする「Windows Sonic for Headphones」のみが選択可能となる。
ゲーム実況にPS5の3Dオーディオを乗せる方法~鍵は“IIコン”
ここからは、ゲーム機の音声周りに関連するトリビアを紹介していこう。
まず最初は、PS5の3Dオーディオを、ゲーム実況の視聴者にも体験してもらう方法だ。
通常は、PS5からテレビに対してHDMI出力されている音声をゲーム実況配信に乗せているケースがほとんどだと思うが、これではリニアPCM 2chにダウンミックスされた音声で配信していることになる。つまり、PS5の特徴的な音響機能であるTempest 3Dオーディオ技術が活用されていない。上述したように、PS5のゲームサウンドは、HDMI端子経由でAVアンプやサウンドバーに接続して出力すると、最大7.1chサラウンドまでのチャンネルベースオーディオになってしまうのだ。
ではどうするかというと、あえてアナログ技術を活用するのだ。
実は、PS5の「3Dオーディオ出力」は、1人プレイヤー側のDualSenseコントローラだけでなく、2プレイヤー側のDualSenseコントローラからも出力できる。なので、ゲーム実況などを行なう際、このコントローラからの音声出力を配信に乗せてやれば、聴者側もPS5の「3Dオーディオ出力」を楽しめることになる。
DualSenseコントローラから出力されるアナログの3Dオーディオは、配信に活用するPCのライン入力や、ビデオキャプチャーデバイスのAUX入力などに接続すればOK。
もちろん、配信システム側の音声トランスコードなどの影響により、プレイヤーが聞いているサウンドと完全に同一ではなくなるため、“3D効果”は幾分、弱くなる可能性は否定できないが……。
なお、2プレイヤー側のコントローラの電源を入れると、ユーザーアカウントの選択を求められる。これについては「ゲストとしてプレイ」-「クイックプレイ」という臨時アカウントを選択すればいい。
この手法で出力される3Dオーディオはアナログ信号であるため、ノイズが乗りやすい点に留意したい。筆者もこの手法で幾度となくPS5のゲーム実況をやってきたが、近くにノイズ源になりやすいACアダプターがあったり、あるいは3Dオーディオ出力を行なわせるDualSenseコントローラを、USB-Cケーブルで給電しながら使おうとすると、ブーンという強めのノイズが乗りやすい。
2プレイヤー側のDualSenseコントローラからの3Dオーディオ出力をゲーム実況配信に乗せる場合には、あらかじめ十分に充電しておき、接続するのは3.5mmのステレオミニケーブルだけにしておこう。
あると便利な光デジタル。HDMI2.1時代を見据え“卒業”を準備せよ
筆者は、自身のYouTubeチャンネルでゲーム実況ライブなどを度々行なっているのだが、その際に、よく技術的な質問を受けることがある。
そこでしばしば話題に挙がるのは「光デジタル音声端子」にまつわるものだ。
「光デジタル音声端子がゲーム機に採用されなくなって困っている」「光デジタル音声端子で7.1ch以上のCBAやOBAは出力できないのか」など、色々な話題があがる。
たしかに、光デジタル音声端子は、PS5やXbox Series X/Sにはない。前世代のPS4でも、初期型(CUH-1000系)には搭載されていたが、スリム化された新型(CUH-2000系)では省略されてしまった。Nintendo Switchの場合、最初のモデルから光デジタル音声端子はない。直近のゲーム機で搭載していたのは、PS4 ProやXbox One Xくらいである。
光デジタル音声端子は、1990年代に規格化されたもの。規格名としては「S/PDIF」(Sony/Philips Digital Interconnect Format)端子と呼ばれる。
実はとても古い規格で、その帯域は「光デジタル」というカッコいい語感の印象とは裏腹に、意外に狭く、たかだか1.5Mbps程度しかない。S/PDIF規格はもともと、音楽CDのビットレートにあわせて規格化されたものだから仕方がないのだ。
最も有名かつ普及しているサラウンド形式は5.1chサラウンドのDolby Digitalだが、これの伝送帯域は最大448kbps~640kbps程度。このDolby Digitalの拡張規格である6.1ch/7.1chサラウンドのDolby Digital EX、Dolby Digital Surround EXの帯域は1.5Mbps以下なので理論上は光デジタル伝送できるが、対応しているのはDVD「スターウォーズ」シリーズなどの一部の映像ソフトくらいで、筆者の知る限りゲームでの対応事例はない。
Blu-ray世代で主流となった7.1chサラウンドは、Dolby Digital Plus(1.7Mbps)、Dolby True HD(18Mbps)となり、S/PDIFでの伝送は行なえない。そのため事実上、「光デジタル音声端子から出力できるサラウンドサウンドは(Dolby DigitalやDTSの)5.1chまで」となっている。
逆に言えば「7.1chサラウンド以上を楽しみたければ、HDMI出力が必要」ということ。つまり、光デジタル音声端子は役割を終えた斜陽の規格なのである。
とはいえ、光デジタル音声端子を備えるオーディオ機器を現役で活用しているユーザーは少なくない。では、新世代ゲーム機が光デジタル音声端子の搭載を止めてしまった現在、どうすればいいのか。
それを解決してくれるのが、「HDMIオーディオスプリッター」という機材だ。
これは、HDMIで出力されているデジタル映像・音声のうち、音声の方だけを取り出し、光デジタル出力端子から出力してくれるというもの。たとえば、PS5にHDMIオーディオスプリッターを接続すれば、音声だけをスプリッター側の光デジタル端子から出力できる。
この時、テレビとの接続はスプリッター側に搭載されている“パススルーHDMI接続端子”を利用する。このパススルーHDMI端子からはゲーム機の映像・音声の両方が出力されるため、テレビ側でも音を鳴らすことが可能だ。筆者は、マイコンソフト社の「XDAC-1plus」を利用している。
HDMIオーディオスプリッター選びで注意したいのは、パススルーHDMI接続端子の機能性だ。最近では4K/HDR映像のHDMI出力に対応した機器が増えてきているが、製品によってはこの新しい映像形式をパススルーできないものもある。
XDAC-1plusの場合、製品ページに明記はないのだが、筆者が使用した範囲では4K/HDRをちゃんとパススルーできていた。遅延もゼロなのでゲームプレイにも支障がない。筆者はこのXDAC-1plusを、バーチャルサラウンドヘッドフォンを使用する際にも使っている。
愛用しているパナソニックのバーチャルサラウンドヘッドフォン・RP-WF70は、HDMI入力がないため、XDAC-1plusはおあつらえ向きなのだ。
なお、4K/HDR対応のHDMIオーディオスプリッターには、ラトックの「RS-HD2HDA-4K」もある。
ただ、紹介したXDAC-1plusも、RS-HD2HDA-4Kも、4K/120fpsのパススルーには対応していない。4K/120fpsのパススルーに対応したHDMIオーディオスプリッターが今後登場するかどうかは分からず、そろそろ「脱・光デジタル」を意識した方がよいかもしれない。
HDMIオーディオスプリッターと光デジタル音声端子に絡んで、ときどき寄せられるのが「Nintendo Switchのサラウンド出力をHDMIオーディオスプリッターを用いて光デジタルに変換できるか?」という質問。
これは結論から先に言うと「できない」。
というのも、Nintendo Switchは、5.1chサラウンドをDolby Digitalのような圧縮オーディオではなく、非圧縮オーディオのリニアPCM形式を使って約4.5Mbps程度で伝送しているのだ。
前述したように、光デジタル音声の帯域は約1.5Mbps程度なので、この速度は無理。素直にHDMI接続を利用するしかない(2chであれば帯域内に収まるため、光デジタルへの変換が可能)。
ちなみに、Nintendo Switchのサラウンド出力は5.1chサラウンドまでで、7.1chサラウンドには対応していない。Dolby AtmosなどのOBA技術にも対応していない。