西川善司の大画面☆マニア
第205回
HDR時代へ準備万端? 全方位進化した4K VIERA「TH-55CX800」
直下型LED+エリア駆動。満足の画質、音質、操作性
(2015/5/28 10:00)
パナソニックの4K VIERAがモデルチェンジ。昨年春のAX800シリーズは、色やプラズマを思わせる画質で人気を集めたが、その後継シリーズとなるのがVIERA CX800シリーズだ。CX800で注目されるのは、新たに高輝度IPSパネルを採用したほか、次世代の映像技術として注目度が高まっている「HDR(ハイダイナミックレンジ)」にも対応したこと。さらに、Firefox OSや音声操作の対応など使い勝手の面でも一新されている。
画質、音質、使い勝手などの強化が図られているが、大画面マニアとして注目したいのは、やはり画質の部分。HDRは後日のアップデートでの対応となるが、HDR対応に向けて明るさも向上し、直下型LED(60/55型のみ)も採用した。
1月には、次世代の4K BD「ULTRA HD Blu-ray」の話題をお届けしたが、同規格にはHDR対応も含まれている。その規格化に際してリーダーシップを取ってきたパナソニックが、いち早くHDR対応として発売したVIERA CX800シリーズの実力を検証してみよう。
CX800シリーズは、60/55/49型の3サイズで、スタンドデザインの異なる合計6モデルが用意されるが、今回は55型の「TH-55CX800」を試用した。実勢価格は約39万円。
設置性チェック~圧倒的な狭額縁設計と大幅に強化されたサウンド
設置直後の第一印象は「55型という画面サイズの割りにボディサイズがコンパクト」といったものだった。
TH-55CX800の外形寸法はスタンド込みで1,239×235×768mm(幅×奥行き×高さ)。ここ最近の狭額縁化が進んだ55型テレビとしては標準的な大きさではあるが、筆者宅の東芝「55ZG2」(2011年モデル/1,304×314×874mm)の前側に重ねる形で設置したところ、VIERAが明らかに一回り小さい。
なお、CX800の60型「TH-60CX800」の外形寸法は1,347×373×845mm。つまり3~4年前の55型テレビの設置場所に、2015年モデルであれば60型も充分置けるということ。買い替え派は「狭額縁モデルであれば1サイズアップも可能」ということを覚えておくといいだろう。
さて、その狭い額縁は実測してみると左右が約11mm、上辺が約12mm、下辺はボディ下端までいれて約20mmといったところ。部屋の照明が暗ければ、ほとんど額縁の存在を意識しないでの映像が楽しめる。通常は、天井照明が上辺額縁に映り込みがちだが、本機の場合は、額縁が狭いがために気にならない。
接地面から下辺までの隙間は実測で約39mm程度。薄手のブルーレイパッケージを4段重ねたくらいで、下辺額縁も狭いこともあり、数年前のテレビと比べると画面はかなり下に位置することになる。設置台の高さがある程度ないと、椅子に座って視聴する場合などは見下ろす感じの位置関係になる。ソファなどの座高の低い着座環境であれば問題ないが、買い替え派は少々意識しておくべきポイントになると思う。
スタンド部は実測で幅約54cm。本体中央に固定化されているタイプでチルトやスイーベル機構はなし。なお、VIERA CX800シリーズには末尾に“N”が付く「スラントデザイン」タイプもラインナップされている。CX800Nの方は、画面を上向き約3度に傾斜させており、スタンド部も画面の左右端付近に固定されるデザインとなっている。前述した画面下辺が下すぎるような設置ケースなどではCX800Nのほうがいいかもしれない。
重量はスタンド込みで22kg。55型で標準的な重さといったところだ。2階に上げたりするのは難しいが、設置台に載せるくらいであれば成人男性1人でも問題なく行なえる(2人以上での設置が推奨されている)。
設置した際の室内情景の映り込みはそこそこにはある。これは、コントラスト重視のため表示面をグレア加工しているため。映り込みを気にする人は、画面に相対する位置に、照明器具や窓が来ないように設置したい。
CX800シリーズでは、サウンドの強化が強くアピールされている。スピーカーは、ディスプレイ部の下辺左右に下向きに設置されたいわゆるインビジブルデザインを踏襲するが、スピーカーユニットはかなり贅沢なものを採用している。サウンド出力は10W+10W+10W+10Wの総出力40Wだ。
そこそこの上級モデルであっても、低音再生用ウーファユニットは背面中央に一個だけ実装するパターンが多かったが、CX800シリーズでは、ウーファユニットを独立駆動の形で左右にあしらっている。さらに中高音域再生を担うミッドレンジユニットは、角形ユニットながら駆動ユニット(ドライバー)をデュアル化することで音質の改善に努めている。このドライバーのデュアル化は高音圧出力(大音量)時に音質を維持することはもちろん、角形ユニットのような異形振動板で問題となる分割振動現象を低減させる効果がある。
さらに、パッシブラジエータを装備し、低音を増強している。音質設計にはかなりこだわっているようだ。
実際にサウンドを聴いてみたが、薄型テレビのインビジブルデザインスピーカーとしてはなかなかの音質にまとまっている。音声モードは、基本「スタンダード」で不満はないが、「ミュージック」に設定するか、あるいは「低音強調」を「オン」とすると、パッシブラジエータの効果が分かって面白い。バスドラムの乾いた低音が確かな輪郭を持って聞こえてくる。中音域とのバランスはもう少し調整したいとは思ったが、素の状態としては悪くない。なにより、大音量にしても音質に大きな変化がないのがいい。
消費電力は254W。年間消費電力量は175kWh/年。直下型バックライト採用機の4Kテレビ製品としては、競合機とほぼ同等といえる。
接続性チェック~3系統のHDMI端子は全て4K(HDMI2.0/HDCP2.2)対応
接続端子は、画面正面向かって左側の側面と背面にある。HDMI端子は背面側に2系統、側面に1系統あり、それぞれHDMI1/2、HDMI3となっている。全てのHDMI端子が4K/60pとHDCP 2.2に対応しているとのこと。
実際にソニーの4Kチューナ「FMP-X7」(HDCP 2.2出力)を接続したところ、全てのHDMI端子でその映像を映すことが出来た。なお、オーディオリターンチャンネル(ARC)はHDMI1にのみ。CX800シリーズは、BT.2020の広色域表示に対応するほか、将来的にはハイダイナミックレンジ(HDR)にも対応する。
PCやゲーム機との接続時に気にする人も多いオーバースキャン設定、HDMI階調レベル(RGBレンジ)設定については、ちゃんと設定項目が用意されている。前者は「映像調整」-「画面の設定」-「オーバースキャン」にて、後者は「映像調整」-「オプション機能」-「HDMI RGBレンジ設定」にて設定が行なえる。今回テストした範囲では「HDMI RGBレンジ設定」設定は「オート」でPCもPS3、PS4も正しい階調レベルが選択されていることを確認した。
4K VIERAといえば、DisplayPort端子の搭載を期待する人も多いとは思うが、CX800シリーズには搭載が見送られている。今期の4K VIERAのDisplayPort搭載はAX900シリーズのみだ。
アナログ入力は1系統のみだが、映像入力に関してはコンポジットビデオ入力とD4入力の両方が用意されている。ただし、同一系統扱いなのでどちらか一方の排他接続となっていて、両方接続時にはD4入力端子の方が優先される。なお、アナログ音声入力はHDMI1/2/3用のアナログ音声入力端子としても利用できる。音声関連では、側面にヘッドフォン出力1系統、背面に光デジタル音声出力を1系統装備している。
USB端子は側面に3系統を配備。うち1系統はUSB 3.0対応で、それ以外はUSB 2.0対応の端子になる。筆者が試したところでは、3つのUSB端子に大きな機能差はないようで、全てのUSB端子で録画用USB HDDを認識できたし、USBキーボードやUSBメモリなども利用できた。
ネットワーク機能としてはIEEE 802.11a/b/g/n/acに準拠した無線LANと、Ethernetも備えている。Bluetooth Ver.3.0にも対応。Bluetoothキーボードなどとの接続が可能だが、ヘッドフォンなどのBluetoothオーディオには対応していない。Bluetoothキーボード製品として、マイクロソフトの「Universal Mobile Keyboard」とロジクールの「diNovo Mini」をペアリングしてみたところ、前者は認識はするもののペアリンクはできず。しかし、後者はペアリングができ普通に使えた。
SDカードスロットは、SDXCに対応。JPEG写真やH.265/H.264/MPEG-2/FLV/MKVなどの動画や、MP3/AAC/FLAC/WAVなどの音楽ファイルを内蔵のメディアプレイヤーで再生できる。USBメモリでも同様の動画/音楽ファイルが再生可能だ。
3D立体視規格のパイオニアであるパナソニックだが、最近の液晶VIERAは3D立体視非対応モデルも出てきている。しかし、CX800シリーズはその点、心配無用。ちゃんと対応している。ただし、3D立体視は意外にも偏光方式を採用している。そのため3Dメガネは電池いらずの安価なものが利用出来る。
3D元年と言われた2010年頃は、パナソニックと言えばアクティブ眼鏡式/フレームシーケンシャル式の3D立体視の最先鋒メーカーだったはずなのだが、時代が変われば変わるものである。
操作性チェック ~Firefox OSで高速レスポンス。音声操作はTVに直接話しかけるだけ
最近のパナソニックは、液晶VIERAの上位モデルにはリモコンを2基付属させることを徹底しているが、CX800シリーズも、チャンネル切換用の数字ボタンを備えた縦長バータイプのリモコンとタッチパッドリモコンの2つが付属する。
数字ボタン付きリモコンは、ここ数年ずっとVIERAシリーズに採用されている左右非対称型のもので、各ボタンはサイズも大きく刻印も大判文字で見やすく扱いやすい。
今秋サービスイン予定のネットVODサービスNETFLIXを呼び出すための[NETFLIX]ボタンを設けた関係で、[番組表]ボタンや[録画一覧]ボタンなどが、従来VIERAとは異なった位置に配置換えとなったが、チャンネル切換、音量操作、HDMI CEC対応の録再制御ボタンなど、主要操作系はそのまま。VIERAユーザーは違和感なく使えることだろう。
さてさて、気になるの変わり種リモコンの方だが、2年ほど前から採用になったタッチパッドリモコンから機能面での大きな進化はない。ただし、デザインは一新されており、緩やかな湾曲デザインとなった。LGが力を入れる湾曲スマートフォンを彷彿とさせる見た目だが、別に頬にくっつけて利用する必要はない。普通に片手で持って使うことができる。
それと実際に使っていて「変わったな」と感じたのは全体的な操作レスポンス。ほぼ最近のスマホ並の高速レスポンスでアプリ画面、YouTubeチャンネルに切り替わり、ストレスがないのだ。
インターネット接続が必須にはなるが、音声入力コマンドの受付も良好。見ている番組で気になったタレントや店舗情報などは、[マイク]ボタンを押して「○○をインターネットで検索」と言えばすぐに検索結果を表示してくれる。少し前までは、同じ事をすると、Webブラウザを起動するのに20秒掛かったりして「こんなに待たされるならばスマホを使うよ」と思ったものだが、本機ではそうした待たされ感がない。動画検索は「○○をYouTubeで検索」で行なえ、これまた検索結果の表示までが早い。以前は、YouTubeはスマホつ使って検索し、見る事が多かった筆者も、CX800評価中は、YouTubeがスピーディに、なおかつ大画面で見られる便利さにハマってしまい、しばらく車関係のYouTube視聴をし続けてしまった。
もちろん、音声検索は番組表に対しても有効。番組名や番組情報に対して音声キーワードで検索ができるので便利であった。
この音声入力、実はCX800シリーズでは、このタッチパッドリモコンを使わなくてもできるようになってしまった。新搭載の「ダイレクト音声操作」機能を有効にしておくと「マイクオン」としゃべるとテレビ本体で音声入力を受け付けるようになる。なお、「マイクオフ」でこの機能をオフに出きる。これは便利で、家事をしているときなど両手がふさがっている時などは重宝する。
さて、CX800シリーズはOSに「Firefox OS」が採用されており、専用マーケットからアプリをダウンロード・インストールすることで機能強化ができるようになっている。
Firefox OS搭載のCX800シリーズには、AX系シリーズVIERAに搭載されてきた家族ごとの「マイホーム」画面機能はなくなっている。個人的には、現在選局されている画面を大きめのプレビュー画面にライブ表示したまま、現在放送中の別番組を小さなプレビュー画面でライブ表示してくれる「テレビのホーム」機能はザッピング視聴時に便利と感じていたので残念……と思いきや「2画面」アプリが、その機能そのものを実現してくれた。しかも、動作速度もキビキビしていて操作感が心地よい。
電源オン操作から地デジ放送の画面が出てくるまでの待ち時間は実測で約2.0秒。なかなか早い。
地デジ放送のチャンネル切換の所要時間も実測で約2.0秒。HDMI入力の切換所要時間は実測で約3.0秒。これらは最近では標準的な早さといったところ。
CX800シリーズは、表示遅延を低減させる「ゲームモード」も搭載。「ゲームモード=オン」としていつものように約3ms、60Hz(60fps)時0.2フレーム遅延の東芝REGZA「26ZP2」との比較計測を行なったところ、「1080pドットバイドット」設定状態で遅延量が異なることが判明。
「1080pドットバイドット=オン」(4Kアップスケールなし)時では、約33msで60fps時、約2フレームの遅延が実測され、「1080pドットバイドット=オフ」(4Kアップスケールあり)では約24msで60fps時約1.4フレームの遅延となっていた。4Kアップスケールありの方が早いというのは、想像していた結果と異なったので少々驚いた。
画質チェック~直下型LED×広色域IPS液晶×エリア駆動が織りなす4K高画質体験
液晶パネルの解像度は4K/3,840×2,160ピクセルで、パネルタイプはIPS型。IPS型は、上下左右の斜め方向から見たときにも色変移が起きにくいという特徴があり、日本ではこの特性に対する人気が高い。ただ、黒のしまりや暗部階調特性においてはVA型液晶パネルの方が優秀と言われる。
そこでパナソニックは、CX800シリーズにおいては、そんなIPS型液晶にVA型液晶並の「黒のしまり」「暗部階調特性」を実現させるべく、映像中の明暗分布に連動して発光具合を局所的に変調できるエリア駆動直下型バックライトシステムを組み合わせてきた。
エリア駆動対応直下型バックライトは設定項目の「バックライトAI」で行なう事ができ、その制御強度を「オフ・弱・中・強」で与えることができる。中設定以上は、エリア駆動のそれと分かる、アグレッシブな明暗制御を行なってくれる。
例えばBDビデオ「ゼロ・グラビティ」のオープニングシーンでは見切れた地球と漆黒の宇宙空間が描かれるが、宇宙空間部分はかなり黒く描いてくる。部屋を暗室にしていても、この漆黒部分はかなり黒く見えており黒浮き感は少ない。一方で、見切れている地球上の大陸や海はまばゆいばかりの光を放っており、映像全体としてはかなり激しい明暗が同居できており、「これぞエリア駆動」といった味わいになっている。
このエリア駆動機能と合わせて楽しみたいのが「ダイナミックレンジリマスター」機能だ。これはいわゆるハイダイナミックレンジ復元機能に相当するもの。映像中の丸められてしまった高輝度階調描写を推測アルゴリズムを適用してエンハンス・復元するものだが、この機能はエリア駆動強度を中以上に設定したときに映えて見える。「ゼロ・グラビティ」では、微細凹凸を伴った金属製のパーツで覆われた様々な機械や宇宙船が登場するのだが、そのハイライト付近の描写がとても質感たっぷりで見えるのだ。太陽光に照らされた地球上の雲や地形の陰影も「ダイナミックレンジリマスター」機能をオンにした方が明部階調が復元されて立体的に見えるようになる。
直下型バックライト採用機が得意とする輝度均一性(ユニフォミティ)については、テスト画像を表示して見た限りでは、最外周が若干暗くなること以外は特に気になるポイントは無し。ほぼ均一の輝度が保たれているといえる。なお、最外周が暗めになるのは最近の狭額縁モデルの共通した課題と言え、他社製品でもしばしば見かける。ここは今後の改善ポイントといえるかもしれない。
発色はどうか。CX800シリーズのIPS型液晶パネルは広色域対応パネルなのだが、これがエリア駆動による輝度ダイナミックレンジ拡大と、パナソニックが誇る6軸色補正「ヘキサクロマドライブ」機能と組み合わさった効果なのか、色ダイナミックレンジの広さが非常に良好であった。
見どころは幾つかある。
1つ目は明色。「カラーリマスター」を有効化したときの赤、緑、青の純色がとても鮮烈で深みがあるのだ。特に赤は白色LEDから取りだしている赤とは思えないほど鋭い。
2つ目は暗色。ヘキサクロマドライブの恩恵が強いのだとは思うが、暗いシーンの色味が豊かなのだ。例えば室内シーンの照明が当たっていない「陰」に置いてある有彩色の家財道具などは「明るい場所での見え方」が想像できるほどリアルな暗色を出してくれている。液晶は、暗部になればなるほど、迷光の影響でその色あいはグレーの支配率が上がってしまうのだが、そこはそれ、CX800シリーズではエリア駆動によって迷光の割合が下げられ、さらにヘキサクロマドライブによって色補正も行なわれるため暗部の色情報が潤沢に見えるのである。
3つ目は肌色。これも、特に陰影部の肌色が美しく見える。人間の肌は半透明材質であり、暗部に現れる透過光は波長の長い赤に寄りがちな特性がある。ここが、非常にうまく再現されるのだ。暗がりの人物はもちろんのこと、日向の人物でも、頬に出る陰影の濃淡、肩周りに出る頭の陰などの色味がとてもリアルなのだ。
「カラーリマスター」は、常用でいいだろう。
CX800シリーズには、補間フレーム挿入型倍速駆動エンジンが搭載されており、これは設定機能項目名としては「Wスピード」として提供され「オフ-弱-中-強」から設定が選べるようになっている。[強]設定が最も補間フレームの支配率が高いモードになる。
例によって補間フレーム生成には難度の高いシーンとなっている「ダークナイト」のブルーレイのチャプター1およびチャプター9のビル群の空撮シーンで確認してみたが、ビルの窓枠に出がちなピクセル振動のような補間フレームエラーは確認されず。補間フレーム精度はかなり優秀だといえる。もちろん細かく見ていけば遮蔽物からビルが出現するような表現では糸を引くようなピクセルエラーがあるにはあるが、よほどその箇所に注目していない限りは気にならない。CX800シリーズの補間フレーム精度はかなり優秀だ。
フルHD映像を4K化する超解像エンジンとして「4Kファインリマスターエンジン」を搭載している。実機側の設定項目としては「リマスター超解像」という項目名になっており、「オフ-弱-中-強-オート」の5つの選択肢から設定を選べるようになっている。強度を上げれば上げるほど映像内の高周波の陰影表現が鮮鋭化されるわけだが、実際に効き具合を検証したところ、意外にも「強」設定でも効果はマイルドであった。
さらに、様々な映像を入れてモード設定も変更して検証した結果分かったのは、CX800シリーズでは「リマスター超解像」設定を「オフ」にしていても、フルHD→4K化のアップスケール処理の際に実質的な超解像処理が介入しているということ。調べてみたところ、最新のVIERAの超解像は、解像度変換(アップスケール)時の超解像処理を「適応型リマスター超解像」(モデルベース型)と、陰影鮮鋭化に相当する「適応型ディテール超解像」(模様判別型)の二段階処理を行なっており、「リマスター超解像」の設定は主に後段側に効く設定のようなのだ。
では、気になる前段の「適応型リマスター超解像」の性能なのだが、これは単純な信号処理的なアプローチではなく、モデルベース型超解像エンジンなので、処理品質はかなり優秀であった。
例えば、PCのテキスト画面のような黒背景のドット単位描写の漢字などに対しては、斜め線であってもドットバイドットの表現には4K化するにしてもわざとアンチエイリアス処理はせず、カクカクしたドットの表現を維持してくれる。一方で実写表現のように1点が鋭く輝き周辺画素に淡い色が分布するような表現だと、これがカメラの撮像素子による誤差拡散処理だと見抜き、4K化したときには4K解像度のドット単位の表現に変換してくれる。
この変換は輪郭だけでなくテクスチャ表現にもかなりの正確性を持って実践されており、ここまで賢い4Kアップスケールは珍しい。「いかにも陰影強化しました」というわざとらしさもないので安心して常用出来ると思う。
なお、「確実に4K化超解像処理を外したい」というユーザーのために「映像調整」-「オプション機能」階層下に「1080pドットバイドット」設定が新設されている。ここをオンとすると、「適応型リマスター超解像」がキャンセルされ、フルHD映像の1ピクセルを4K映像パネルに対しポイントサンプル的な2×2ピクセルとして描き出してくれる。簡単に言えばCX800シリーズをフルHD映像パネルとして扱って表示してくれると言うことだ。これは古めのゲームやCGを楽しみたいユーザーには喜ばれるかも知れない。
4Kネイティブ映像の圧倒的な細やかさ
4K映像は「FMP-X7」で録画しておいた「小動物の世界」を視聴。これは8Kカメラで中南米の昆虫の世界をクローズアップ撮影した映像を4Kにダウンコンバートして4K試験放送で放送されたコンテンツになる。
やはりリアル4Kコンテンツは、アップスケールされた映像とは違い、4K解像度のドット単位の表現のきめ細やかさが違う。甲虫達の外骨格のシボの陰影、6本足に映える産毛のような体毛、チョウの羽根の鱗粉、草花の葉脈などの表現は、まるで自分の視力が向上して顔を目一杯近づけて見ているような気になれる。
発色もお見事。ヘラクレスオオカブトの外骨格の赤茶けた陰影、ニジイロクワガタの外骨格の異方性鏡面反射をする金属質なマゼンタの色あいなどには感動すら覚えた。
3Dは偏光式
3D映像は例によって「怪盗グルーの月泥棒」ジェットコースターシーンを視聴。二重映りのクロストーク現象評価用として活用しているシビアなシーンなのだが、さすがは偏光式の3D立体視。映像がとても明るくそれでいてクロストークもほとんど感じられなかった。4Kテレビでの偏光方式3D立体視は片目あたり3,840×1,080ピクセルとなるため、偏光方式の弱点として指摘される縦解像度間引きは起こらない。横解像度に対してはリマスター超解像が効いてくれるので「フルHD+」の3D立体視が楽しめるのは3Dファンにとっては嬉しい限りだ。
なお、3D立体視の視聴に関しては、気を付けるべきポイントがあったので言及しておこう。それは設置位置の問題だ。画面より着座位置が高く、見下ろすように視聴する場合、盛大にクロストークが発生してしまう。偏光方式の3D立体視では、画面中央面に対して直行相対する位置で見ないと、正しく光が偏光してくれないためだ。もし、クロストークが多く見えるときには、正面に座るだけでなく、着座位置の高/低も意識して、スイートスポットを探して欲しい。
プリセット画質モード
プリセット画調モードの傾向は、今年2月に本連載で取り上げたAX700シリーズとほぼ同じだが、今回も、そのインプレッションを簡単に述べておくことにしよう。
「ダイナミック」は、全モード中、最も明るいモードで、室内が相当に明るい時に使うとよい。モード名の割りには暗部階調は意外とリニアリティが保たれていて、アニメやCG映画などとは相性が良さそうだ。明部はモード名から連想されるようにやや飛ばし気味である。
「スタンダード」は、コントラスト感と階調表現のバランスの取れたモード。発色も素直で使い勝手が良い。AX700シリーズの時は明部が飛ばし気味な感じが見られたが、CX800シリーズではそうしたクセはなくなっている。
「リビング」は、色温度と輝度の上がった「スタンダード」に相当するモードで、日本の明るい照明環境に適した画調だ。「ダイナミックでは明るすぎるが、明るめの表示で愉しみたい。しかし、色や階調もそれなりに重視したい」…そんなユーザーにはうってつけのモードと言える。
「シネマ」と「シネマプロ」は映画鑑賞用モードなのはモード名から察することができると思うが、両モード微妙に趣が異なる。「シネマ」は、CX800シリーズの映像エンジンの機能と広色域パネルのポテンシャルを積極的に活用しようとするモードだ。CX800シリーズが売りとしているハイダイナミックレンジ感、豊かな色調を満喫したいならば「シネマ」だ。もちろん、「シネマ」なので、色温度は低めでオリジナル映像の雰囲気はちゃんと維持してくれる。
一方で「シネマプロ」は輝度を抑え、完全暗室にして視聴するために設計されたモードで、CX800シリーズに搭載された高画質エンジンのかなりの機能をオフとしている。階調は最明部であっても輝度は落としてあり、長時間視聴にも耐えうる配慮もある。色調はsRGB準拠。PCモニター的な活用を行なう際にも「シネマプロ」は向いていると言える。
レスポンスや操作性が満足度を向上。全方位で進化した4K VIERA
4K VIERAは年を重ねるごとに、着実な進化を見せてくれている。
操作系/ユーザビリティにおいては今回のFirefox OSの恩恵なのか、Firefox OSを動かすために高性能プロセッサ(SoC)を搭載した効果なのかは分からないが、本機の操作に対するレスポンスは良好だ。テレビに求められるスマート機能とは、「多機能」「高機能」も重要だとは思うが、この「スピード感」こそがユーザーに「使える」と思わせる最大要因なのでは…と感じた次第だ。
音声入力機能もテレビ自身に話しかけられるようになって「本来の使いやすさ」が実現されたように思える。たしかに「テレビ朝日を見る」「消音」といった操作は、喋りかけるよりもリモコンを押した方が早いかもしれない。しかし、家事をしているときなど、リモコンを探して握らずとも操作できるのはありがたい。音声入力機能の本命・理想形は、むしろ「テレビに話しかける」形態だったのだ。ただ、テレビに直接話しかけて音声操作できるため、マイク付きのタッチパッドリモコンを使う必要性が薄れてしまった気もするわけだが(笑)。
画質面では超解像機能、ダイナミックレンジリマスター、カラーリマスターなどの、フルHDコンテンツの4K/高画質化機能はさらに磨きがかかり、フルオート設定でも満足に近い表示を行なってくれるようになった。補間フレーム挿入型倍速駆動も以前のエラーは低減され、ゲームモードもごく僅かだが遅延時間も短縮されている。CX800シリーズは、まさに全方位に向けて進化を果たした4K VIERAといえる。
そして、フルHDコンテンツの4K表示だけでなく、リアル4Kコンテンツ表示能力もかなり高められたことも実感できた。これは来たるULTRA HD Blu-rayやHDR時代を睨んでの、基本性能向上なのだろう。HDRやULTRA HD Blu-rayが出てきた時には、再び評価してみたい。
(協力:パナソニック)