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オーボエとフルートの美しい響きをDSDで。京アニ映画「リズと青い鳥」OST

 アニメオタクにとって、アニメにハマるきっかけとなった作品は色々あると思うが、筆者の場合は幼少の時によく見ていた「世界名作劇場」ものが原点だ。遠い異国を舞台に、少年少女がさまざまな試練を乗り越えて成長するさまが色鮮やかな景色とともに描かれているのが好きだった——という記憶を、名作劇場風の柔らかい雰囲気で始まる「リズと青い鳥」を観ながらふと思い出した。そして劇中曲の良さに惹かれ、オリジナルサウンドトラックをDSDで購入。最近ずっと聴いている。

映画「リズと青い鳥」オリジナルサウンドトラックをオンキヨーDP-S1+UE900sで

 リズと青い鳥(リズ青)は、武田綾乃の小説「響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章」の中から、2人の吹奏楽部員の関係にフォーカスして京都アニメーション(京アニ)が映画化。TVアニメ版「響け! ユーフォニアム」のスピンオフにあたる。クラシックを聴くのは好きだけど、吹奏楽部の活動には縁の無い学校生活を送っていた筆者は率直に言えば興味が沸かず、TV版は観ていなかった。だがアニメオタク仲間が相次いでオススメしだしたことから、これは観なければいけない映画なのでは……と興味をそそられた。結果、自分でも意外なほどハマってしまったのは、音楽の力が大きかったように思う。

キャラの靴音や鳥のさえずりが聞こえる、異色のサントラ

 北宇治高校三年生のみぞれと希美は、中学時代、一緒に吹奏楽部に入って以来の親友。口数の少ない物静かなみぞれはオーボエ、明るく人当たりの良い希美はフルートを担当している。高三の彼女たちにとって最後の出場となるコンクール、選ばれた自由曲は童話を下敷きにした長編「リズと青い鳥」。だが第3楽章の冒頭、リズという少女と青い鳥の別れをオーボエとフルートの掛け合いで描く合奏パートがなかなか噛み合わず、2人は苦戦し続ける。親友でありながらお互いの気持ちを理解し合えない、すれ違いが原因でーー。

映画「リズと青い鳥」
(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 「けいおん!」や「たまこまーけっと」、「聲の形」などを手がけた京アニの山田尚子監督と、吉田玲子の脚本のタッグで、声の出演はみぞれ役が種﨑敦美、希美役が東山奈央。

 音楽は牛尾憲輔氏と松田彬人氏の2人が担当。サントラには牛尾氏による38曲と、松田氏の7曲が収録されている。映画では主に牛尾氏の曲が使われ、みぞれや希美たちの吹奏楽練習シーンと、リズと青い鳥の交流を描く劇中劇で松田氏の曲が流れるかたちだ。

 ハイレゾサントラは、e-onkyo musicでは96kHz/24bitのWAV/FLACとDSD 5.6MHzの3種類が配信中。価格は3,456円(税込)で共通なので、音質重視でDSD版を選んだ。同時に買ったCD版(同3,780円)と聴き比べると、当たり前だがDSD版の方が圧倒的に良い。一方、CDはブックレットに載っている歌詞や奏者一覧が目当てだったが、モノとして手元にある満足感があって、久しぶりのCD購入だけれど買って良かった。

kensuke ushio/映画『リズと青い鳥』オリジナルサウンドトラック「girls,dance,staircase」

 映画は童話のリズと青い鳥の出会いから始まる。音楽は松田氏の楽曲「物語の始まり」(39曲目、CDではDisc2の1曲目)で、後のシーンでも度々耳にすることになる、オーボエとフルートの掛け合いが美しく響き合う。そして日曜の朝、部活練習のために学校の音楽室へ急ぐみぞれと希美の、2人だけの登校シーンに切り替わる。ここは牛尾氏の「wind,glass,bluebird」(1曲目)だ。山田尚子監督といえば、足を切り取った構図でキャラクターの感情を巧みに描き出す演出でおなじみだが、今作では劇伴にみぞれと希美の靴音を混ぜることで、キャラの実在感を映像と音の両面から浮かび上がらせているのが衝撃的だった。筆者が知る限り、こんなアニメサントラは聴いたことが無い。

 例えば冒頭のwind,glass,bluebird。ピアノとシロフォンが中心のコロコロと涼しげなメロディに2人の靴音を加えつつ、風のざわめきや鳥のさえずり、靴箱や廊下、水飲み場、そして音楽室の鍵を開ける音にいたるまで、時にテンポ良く、時にズレを生みながら、2人の周りで聞こえているはずの環境音を音楽を形作る要素として扱っている。聴いているだけで、先を行く希美が階段で軽やかな足取りでターンしたり、たっぷり5mは離れて後を付いていくみぞれが遠慮がちに音楽室を開けるといった映画の導入部が脳裏に鮮やかによみがえる。YouTubeで公開されているメイキング動画によると、このシーンは山田監督と牛尾氏が打ち合わせを重ね、音と映像をしっかりリンクさせて作ったようだ。なお、同じような曲作りは終盤のシーンで流れる「wind,glass,girls」(37曲目)でも行なわれ、映画の始まりと終わりの対比を効果的に演出している。

 手持ちのハイレゾプレーヤー「rubato(DP-S1)」はDSD 5.6MHzのネイティブ再生に対応しており、イヤフォン(UE900s)を組み合わせてwind,glass,bluebirdを聴くと、音場が左右に広がり、奥行きの見通しも良く、まるで映画の中に入り込んだような感覚が味わえる。再生時間が2分10秒を超えたあたりで予鈴のチャイムの音を忍ばせたり、3分あたりではフッと音場が狭まって屋外から校舎内に入ったことを感じさせるなど、観ているだけでは分からなかった音の演出にも気づく。会話らしい会話はほぼ無いが「1人でどんどん先に進む希美のあとを、ただ黙ってついていくみぞれ」という、物語全体を通してキーとなる2人の関係が説明されなくても伝わってくる。

『リズと青い鳥』メイキングVol.8 音楽シーン編集編

 牛尾氏の曲は、映画のコンセプトである「みぞれと希美を"ビーカーや壁になって"そっと見守る」というスタンスが徹底されているためか、どこか無機質で物静かな曲調。ただ、公式PVでも使われたピアノの調べが美しい「reflexion,allegretto,you」や、希美たちフルートの女子数人が楽しげに歓談するシーンの「flute,girls」、オーボエ仲間の後輩・梨々花が登場する時の「doublelead,girls」など分かりやすいメロディの曲もある。個人的には作業用BGMとして夜静かに流しておきたい感じだ。

 一方、松田氏の「繰り返される日々」(40曲目)や「リズと少女の世界」(41曲目)は、吹奏楽曲なので音数が非常に多く迫力もあり、管楽器の豊かな響きが味わえる。特に、松田氏が手がけた「リズと青い鳥 第三楽章『愛ゆえの決断』」(44曲目)は映画のクライマックス、部のメンバー全員を集めた通し練習のシーンで流れるが、この演奏がとても素晴らしい。みぞれのオーボエが真の実力を見せつけ、圧倒されて涙を抑えられない希美のフルートが次第にかすれていく映像を、いつ聴いても脳裏に思い浮かべてしまう。

 劇場ではサラウンドで音の広がりを楽しめるが、サントラを買えば、音の使われ方や余韻の描写などをいつでもどこでも細かく聴けるのでオススメだ。高音質なDSDがCDよりも安く手に入る点も嬉しい。特に第三楽章の、オーボエの音の消え際の艶やかさ、フルートの涼しい響きに耳を傾けて欲しい。DSD再生には対応プレーヤーが必要となり、ファイルサイズも8GB以上あってストレージの容量をかなり占有するが、最近はDSDネイティブ再生対応で大容量メモリーカードが扱えるハイレゾプレーヤーが手頃な価格で買えて、いつでも手軽に楽しめる。筆者が試聴に使ったプレーヤーも期間限定ながら2万円以下で買えた。

 ひとつ気をつけたいのがDSDのファイル形式。e-onkyo musicで配信しているリズ青DSDサントラはDIFF形式で、曲名やアーティスト、ジャケット画像が埋め込まれていない。筆者は購入後DP-S1に音源を移して初めて気づいたが、moraではDSF形式で配信しており、こちらを買えばおそらく楽曲名なども手間なく表示できるのだろう。e-onkyo musicでも形式を揃えて欲しかったが……この問題はフリーソフト「dff2dsf」を使って購入したデータをDSFに変換し、手作業で楽曲名やジャケット画像を追加することで解決した。

 リズ青のストーリーと音楽に惹かれて「響け! ユーフォニアム」シリーズに足を踏み入れたが、2019年春には完全新作映画「劇場版 響け! ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~」の公開が予定されており、興味はまだ尽きない。これから予習としてTVシリーズを通しで観てみるつもりだ。

庄司亮一