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特撮魂が蘇る! 5.1chとヘッドフォンサラウンドで満喫「SSSS.GRIDMAN 1」

「こういう映像が見たかった!」と歓喜できる映像をアニメで実現

筆者がアニメ好きということはAV Watchの読者ならばよくご存じだと思うが、特撮モノも大好物だ。仮面ライダーもスーパー戦隊シリーズも毎週欠かさず見ている。が、巨大ヒーローモノ、ずばり言えばウルトラマンは今ではほとんど見ていない。平成以降の作品で珍しく熱中したのは、かつてのウルトラマンたちが人間の姿も含めて登場しまくった「ウルトラマンメビウス」くらいだ。

「SSSS.GRIDMAN 1」

最新のウルトラマンならば、CGを駆使してさぞかし見応えのある映像を楽しませてくれるものと思うが、少なくとも自分は着ぐるみのヒーローと怪獣がプロレスを行なう昔の巨大ヒーローモノに満足できず、見るのをやめてしまった。基本的にカメラのアングルが等身大の全身を映すようになっているので、ヒーローや怪獣の巨大さが伝わらない。当時の作品では、見上げるような構図はスタジオの天井が映ってしまうので、人間視点で映像を撮るのが困難だったわけだ。

同様のことを感じた人は少なくないだろう。また、その当時の特撮技術では自分のイメージした映像を作ることができないと感じて、手描き故に可能性無限大のアニメで才能を花開させたクリエーターは山のようにいる。代表と言えば、言わずと知れた庵野秀明。初期のGAINAXの作品は、特撮ファンが「こういう映像を見たかった」と言わんばかりの映像でファンの心をがっちりと掴んだし、巨大ロボットだけでなく、船舶や車なども含めてメカ好きにはたまらない作画が大きな魅力だった。代表例は言うまでもなく、TVシリーズ版の「新世紀エヴァンゲリオン」だ。

そろそろ本題の「SSSS.GRIDMAN」の話をしよう。これは、1993年から放送された円谷プロの「電光超人グリッドマン」を原作としたTVアニメーション。制作はTRIGGERで、元GAINAXで活躍した面々が中心となって起こしたアニメ制作会社だ。最初の経緯はドワンゴとカラー(庵野秀明らが代表となるアニメ制作会社)が共同企画して短編作品を配信していた「日本アニメ(ーター)見本市」。ここで発表された「電光超人グリッドマン boys invent great hero」がきっかけとなり、TVシリーズ化に至ったようだ。

「SSSS.GRIDMAN 1」のパッケージ。厚い冊子は絵コンテ集
(C)円谷プロ (C)2018 TRIGGER・雨宮哲/「GRIDMAN」製作委員会

本編ディスクに期間限定配信されたエピソードも収録。ボイスドラマCD付き

電光超人グリッドマンは、当時としてはまだ普及しはじめたばかりのパソコン通信を題材に、今でいう電脳世界で戦うなど、先進的な設定を採り入れた作品。本作ではそれを元に現代的にアレンジし、原作とは異なる新たなグリッドマンとして映像化している。

TVアニメシリーズは昨年12月で終了したが、ゼロ年代SFを想起させるアイデアや、巨大なヒーローや怪獣が現れる世界設定、そこに生きる少年少女たちの等身大の悩みや葛藤が盛り込まれ、ジュブナイル的な青春物語としてもよく出来た内容は大満足だった。現在でも人気の高まりは衰える様子もない。

そのTVシリーズを収録したBD/DVDは、TVシリーズ用の2チャンネル音声(リニアPCM、DVDはドルビーデジタル2.0ch)に加えて、イベント劇場上映で使用された5.1ch音声(DTS HD MasterAudio、DVD版はドルビーデジタル5.1)まで収録。さらには、サラウンド音声を手持ちのヘッドフォンで楽しめる「DTS Headphone:X」まで収録した豪華仕様となっている。価格は各8,000円。

音声メニューを見ると、2.0ch音声、5.1ch音声、DTS Headphone:X、オーディオコメンタリーが収録されている
(C)円谷プロ (C)2018 TRIGGER・雨宮哲/「GRIDMAN」製作委員会

TVシリーズ用の音声と同時に5.1ch音声も制作し、BD/DVDに収録した作品は過去にも例があるが、タイトルとしてはまだまだ少ない。この調子でぜひとも5.1ch音声収録のTVシリーズが増えてほしい。なんなら放送もAAC 5.1chでお願いしたい。

このようにサラウンド音声が大好きで、TVシリーズのBDにはなかなか手を出さない筆者が久しぶりに全巻購入することを決めたのは5.1ch音声を収録しているから。しかも、臨場感あふれるDTS Headphone:Xまで収録しているので、多くの人が手軽にサラウンド音声を楽しめる。

作品としても実に良く出来ていたが、5.1ch音声収録というだけでもこうして紹介する価値がある。それくらい5.1ch音声になると面白さが倍増する。BD/DVDを購入した人はぜひともヘッドフォンでサラウンドを体験してみてほしい。本格的な5.1chシステムがあるからDTS Headphone:Xは不要という人も一度だけでいいから試してみよう。BD/DVDを購入するほどのファンならばきっと幸せになれる。

トップメニューでDTS Headphone:X音声を選択すると現れるガイド画面。これは、DTS Headphone:X収録のソフトには例外なく収録されているが、背景がグリッドマン仕様になっている
(C)円谷プロ (C)2018 TRIGGER・雨宮哲/「GRIDMAN」製作委員会
ガイド画面その2。ガイドに従ってヘッドフォンを接続し、音声出力が切り替わっていることを確認してもらう画面。テスト音源はオープニング曲のカラオケ版だ!
(C)円谷プロ (C)2018 TRIGGER・雨宮哲/「GRIDMAN」製作委員会
ガイド画面その3。5.1chの各チャンネルにグリッドマンとその支援者が配置され、各チャンネルのテスト音(録り下ろしのオリジナルボイス)が再生される。各チャンネルの音がきちんと再生されていれば、「Play Movie」を選択して上映開始となる
(C)円谷プロ (C)2018 TRIGGER・雨宮哲/「GRIDMAN」製作委員会

古いパソコンから、GRIDMANが現れた!

「裕太、君の使命を果たすんだ」

「SSSS.GRIDMAN 1」はTVシリーズの第1話~第3話を収録している。主人公の裕太は、見知らぬ場所で目を覚まし、自分の名前さえ思い出せない記憶喪失であることに気付く。クラスメイトの六花は自分の親が営むジャンクショップ&喫茶店の前で倒れていた裕太を見つけ、仕方なく介抱していたようだ。裕太はそこにある古いパソコンから何者かが呼びかけていることに気付く。パソコンの向こうにいるハイパーエージェントを名乗る異形の人物(?)こそがGRIDMANだ。しかし、その姿は裕太にしか見えない。GRIDMANとは何か? 世界にどんな危機が迫っているというのか? 自分の使命とは何か? 一体何が起きているのかわからないまま、物語は始まる。

(C)円谷プロ (C)2018 TRIGGER・雨宮哲/「GRIDMAN」製作委員会

ここでいきなり怪獣出現とはいかず、ひとまずは学校の生活が描かれる。霧の向こうに怪獣のシルエットがいくつも浮かんでいる異様な世界だが、裕太以外の人物は今のところ誰もそれに気付いていない。ちなみに、彼らが住む世界は誰もがスマホを使っていることから、ほぼ現代と変わらない時代であるとわかる。場所は標識や看板の文字から日本とわかるが、ツツジ台と呼ばれる地名のほかは不明だ。

このあたりの場面では、ごく普通の生活が描かれることもあって、ことさらにサラウンドを強調した演出はない。とはいえ、屋外や屋上らしき場所で聞こえる蝉の声などは四方から聴こえてナチュラルに空間を感じさせるし、教室内のクラスメートのざわめきもあちこちから聴こえる。また、本作でも画面外にいる人物はセンターではなく横や後ろから聴こえてくる。筆者は短絡的に「ガルパン」流の音響だと思ってしまうが、実際のところ、あらゆる声がセンターから聴こえるというのは自然な空間感を考えるとナンセンスだ。もちろん、後ろから聴こえるような声は重要なセリフではなく、声を掛けられた主人公が振り向けばその友人の声はセンターから聴こえてくるので、聞き取りづらくなるようなこともない。

そして、いよいよ怪獣の登場だ。突然に怪獣が出現し、街を破壊しはじめる。裕太と六花らはGRIDMANの謎を調べるべく、六花のジャンクショップに居たが、学校で部活動をしていたクラスメイトが怪獣の攻撃で命を落としてしまう。そして裕太はGRIDMANに言われるがままに彼と合体し、巨大な姿を現す。

当然ながらこの場面が一番の見物だ。怪獣も引きのアングルで全体を見せるばかりではなく、路上にいる人が電線越しに見ていたり、マンションの非常階段越しに頭部が見えたりと、手前に見慣れたオブジェクトを配置して巨大さを印象づける演出がたっぷり。怪獣は道路の車を蹴散らし、ビルなどを破壊するが、蹴散らされる車や破壊されて瓦礫をまきちらすビルの音も迫力たっぷりだ。

(C)円谷プロ (C)2018 TRIGGER・雨宮哲/「GRIDMAN」製作委員会

地上に降り立ったGRIDMANは派手に瓦礫をまき散らすようにして着地するが、その音が迫力たっぷり。サブウーファが鳴り響き、その巨体ゆえの重量感をダイレクトに伝えてくる。巨大ヒーロー物の音声はこうでないといけない。

怪獣が吐き出す爆炎はびゅんびゅん飛んでいくし、まだ本調子ではなく動きの重いGRIDMANは苦戦する。しかしゆっくりとした動きだからこそ、巨大なヒーローが動いているという実感もある。このときも電線越しにヒーローの姿を見せている。

電柱や電線が妙にリアルだと思っていたが、エンディングで「電柱作画/ディテールワークス」としてスタッフが表示されていたのには笑った。だが、こういうディテールへのこだわりが、リアリティーを産んでいるのも事実だ。

苦戦するGRIDMANを助けたのは六花たち。怪獣の弱点に気付き、それをジャンクPCを使ったGRIDMANに伝えたのだ。ここで、1話冒頭ではなかったオープニング曲が鳴り響く。音楽が前方に広々と展開し、パワー全開となったGRIDMANが華麗にポーズを決め、迫力のあるアクションをみせる。ここでのアングルも下から見上げるものが中心で、迫力たっぷり。そこにずっしりと重みのある足音や地響き、四方に鳴り響く怪獣の声が重なり、映像の迫力を倍加する。作画の魅力がさらに重厚になったように感じてしまう。

これは訓練でもリハーサルでもない! 一刻も早くサラウンド音声を体験せよ

どうにか危機を乗り越えたが街は破壊し尽くされたまま。しかし、一夜明ければ破壊されたはずの街や学校は元通りで、誰もそのことを覚えていない。しかも、怪獣に殺されたクラスメートは数年前に死んでいたことになっているなど、実に都合よく世界が改竄されている。序盤だけにまだまだわからないことばかりだ。

世界の危機を救うアクションと、クラスメイトとの交流を通して世界の謎に近づいていく展開は、TVシリーズを見ているだけでも実に面白かったが、こうしてサラウンド音声で見直すと、アクションの迫力が増すし、ナチュラルな空間描写は世界への没入度を高めてくれる。やっぱり良い映像にはそれに相応しい音が欠かせないと改めて実感させてくれた。

5.1chの音声を収録し、誰でも手軽に体験できるようにしたことが、BD/DVDの一番の魅力だと思う。筆者はイベント上映のことを知らなかったので、5.1ch音声は第1巻だけではないかと思っていたが、どうやらイベント上映は全話行なわれたようで、1月16日に発売された第2巻以降も5.1ch音声は収録されるようだ。これで安心して全話を5.1ch音声で楽しめる。もはや買わない理由はないだろう。

「SSSS.GRIDMAN」は大きな人気となっていることもあり、サラウンドの魅力をよく知らなかった人がその面白さを体験する絶好の機会になるはず。何度でも繰り返すが、DTS Headphone:Xは手持ちのヘッドホンで楽しめる(PCで再生する場合は再生ソフトがDTS音声に対応している必要があるので注意)。ぜひとも本作でサラウンドの面白さを実感してほしい。気がついたら、ソフトを購入するときにはスペックを確認して5.1ch音声収録かどうか、DTS Headphone:X音声かどうかを確認するクセがついてしまうはずだ。

10.6(土)スタート!新番組『SSSS.GRIDMAN』放送直前PV!

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。