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曲も必聴の「若おかみは小学生!」。冬の注目アニソンを良い音で聴く

2018年も残すところあと数日、平成最後の年末が終わろうとしている。紅白歌合戦にはAqoursの出演が決まり、来年4月に声優紅白歌合戦の開催決定と、嬉しいアニソンニュースもあった。ハイレゾアニソン界隈もよりいっそう盛り上げるべく、筆者も力を尽くす所存だ。音楽的にも音質的にも注目のアニソンを紹介していこう。

今回は、10月クールのテレビアニメだけでなく、劇場映画からも選曲した。なお、再生システムには新たな機材が加わった。防音スタジオのリファレンススピーカーをDALIのRUBICON2へと変更した。以前のモデルよりも、低歪で透明感のあるサウンドになった。テンポの速い楽曲にも追従するので、アニソンとの相性も向上したと感じている。

RELEASE THE SPYCE OP主題歌「スパッと!スパイ&スパイス」(96kHz/24bit)

「勇者であるシリーズ」を手掛けたシナリオ制作陣が送るオリジナルTVアニメ。女子高生が正義のスパイとして活躍するアクションコメディ。

スパッと!スパイ&スパイス/ツキカゲ(安齋由香里、沼倉愛美、藤田茜、洲崎綾、のぐちゆり、内田彩)

過去編を小説で描写するメディアミックス展開となっており、『勇者であるシリーズ』のファンにはお馴染みの手法が取られている。

終盤に主要キャラについて仰天の出来事があったが、最終的にはひと安心の大団円。固い絆で結ばれた師弟関係は、「女の子が頑張る深夜アニメ」というフォーマットでは割と珍しい要素であり強く引き込まれた。世界観がしっかりしているので、桃の新しい弟子 伊知香にテレジアを加えた新ツキカゲ6人の物語も見てみたい。

OP/EDは主演声優陣5人による歌唱。作詞・編曲をヒゲドライバーが手掛ける。本楽曲は生のブラスとスラップを取り入れた肉厚のベース音が聴き所だろう。ブラスは、生楽器ならではの空気感とディテール表現が躍動感をアップさせているし、ベースは量感たっぷりで重心も低い。バディ同士で次々に歌い次いでいくAメロは、左右に広がるコーラスにも注目。ボーカルとオケの分離は、もうひと越欲しいところ。口径の大きいスピーカーやローエンドの深いヘッドフォンでゴリゴリの低域を楽しみたい。

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・ツキカゲ/スパッと!スパイ&スパイス

色づく世界の明日から OP主題歌「17才」(96kHz/24bit)

P.A.WORKS制作によるオリジナルTVアニメ。凪のあすからの篠原俊哉監督と月がきれいの柿原優子シリーズ構成による現代ファンタジー。魔法が存在する日本の長崎を舞台に、60年後の未来からヒロイン瞳美がタイムスリップ。“瞳美の祖母”が通う高校で魔法写真美術部に入り、仲間とともに少しずつ成長していく。

17才/ハルカトミユキ

P.A.WORKSならではの超美麗な背景の中、リアルな間合いで会話するキャラクターたち。切ない恋模様がありつつも、やはり未来への帰りの時は無情にも近づく。“魔法”というフィクションが、現代(60年前)はまだ発展途上にあり、社会インフラのような存在へと徐々に階段を昇っている様子が丁寧に描かれている。こんな魔法なら使われてみたいと思った方も多いのではなかろうか。

OPは2人組バンドのハルカトミユキ。ボーカル/ギターのハルカによる作詞にキーボード/コーラスのミユキが作曲を担当。タイアップ自体は初ではないが、コンペ経由で決まった初めてのアニメ主題歌だそうだ。フルバージョンをハイレゾで聴くと、後半に掛けてのカタルシスがテレビ版を大きく越えている。

序盤はギターと鍵盤を中心にシンプルな構成で始まって、弦の音が近く響きもリアルだ。楽曲の展開によって音場の広がりが増していく構成になっているが、ハイレゾ版では部屋を満たすほどの音のシャワーが筆者の鳥肌を誘った。ボーカルはさすが96kHz制作のクオリティ。空気感はもちろん、憂いを帯びた微細なニュアンスの変化も、テレビ版では骨格しか伝わらなかったのが肉付きや体温まで分かるような再現度。

言葉の内容と音階の変化だけではない、人体に共鳴して声となる、そんな当たり前のことが音から感じられるのだ。コーラスは奥行きがあって緻密。幻想的なアニメの世界観にピッタリだ。1番はアニメと同じ尺(約1:30)なので、映像と合わせて流してみたくなる。

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・ハルカトミユキ/17才

ツルネ ―風舞高校弓道部― ED主題歌「オレンジ色」(96kHz/24bit)

KAエスマ文庫から刊行の同名原作を元にしたTVアニメ。京都アニメーション制作による。京アニの部活ものといえば、響け! ユーフォニアムやFree!など大ヒット作が既に存在しており、本作はその流れに連なる地力を感じさせる。

オレンジ色/ChouCho

5人の男子部員達の友情や青春描写が一番のポイントであるが、脇を固めるキャラクターも非常に魅力的だ。優しくも何か陰のありそうな指導者滝川さん。実は六段のトミー先生。もっと喋って欲しい女子部員3人。声がそっくりなのに声優が違うドッペル兄弟などなど。メインのストーリー展開に引き込まれながらも、活躍して欲しいキャラが気になる秀作だ。

EDは作詞/作曲をギタリスト兼コンポーザーの藤井万利子、編曲はキーボーディストの村山☆潤。小編成の弦カルテットに、穏やかなバンドセクションがChouChoの歌声をしっとりと聴かせる。ミックスがとてもしっかりしている印象だ。自然な質感の弦カルを奥に並べ、バンドを前面に、ボーカルの浮き立ちは格別の出来。

弦カルとボーカルを阻害しないよう、バンドセクションは優しい音でまとまっている。音数はそれほど多くないものの、サビに入ってもクリアに定位するボーカルにはゾクッとする。カルテットは音像に迫った存在感のある録り音で、間奏になって少し大きめの音量で入ってくるチェロの鳴りに意識を持って行かれる。質感は自然でなめらか。ピュアオーディオのスピーカーでもマッチするだろう。

ミックスの意図を正確に再現できるのは、ハイレゾ版のメリットだ。ヘッドフォンも良いが、ぜひスピーカーでも聴いて欲しい。なお、同じくChouChoが担当した10話の挿入歌もハイレゾ版が早くも配信されている。

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・ChouCho/オレンジ色

劇場版 若おかみは小学生! 主題歌「また明日」(96kHz/24bit)

令丈ヒロ子による児童文学シリーズを劇場アニメ化。青い鳥文庫から全20巻(他短編3冊)が発売されており、2018年4月から2クールでTVアニメ化された。TV版終了直後に劇場映画が公開されたものの、当初興行成績は振るわなかった。しかし、鑑賞した客が口コミで絶賛するなどして徐々に広がり、一旦上映を終了した劇場が再上映を決定するなど話題となった。

また明日(アルバム「red」に収録)/藤原さくら

筆者も噂を聞きつけて、11月初頭のトークショー付き上映会に足を運んだ。暖かくも泣かせる深いドラマが描かれており、言葉に表せない感動で胸がいっぱいに。「大人こそ見るべき!」とあえて言わなくても、会場のほとんどは大きなお友達で埋められていた。

主題歌は、TVアニメ後期のED「NEW DAY」を担当した藤原さくらが続投。「また明日」と「NEW DAY」は同じアルバム「red」に収録されている。控え目に抑えられた音圧で、POPSしかもアニメ向けとしては驚異的なダイナミクスに耳を奪われる。分離がよく音像も立体的で上品だ。アコースティック楽器、特にエレキギターとアコースティックベース、アコーディオンが素晴らしい質感で、音に潤いと格別のリアリティを与えている。

ミックスによって弱音が過度に持ち上げられてないため、耳を済まして細かい音まで聴き取りたい。ボーカルは少し擦れたような息遣いが持ち味だと思うが、ハイレゾ版は今そこで歌ってくれているような感覚になり、実に見事だ。一般のアニソンと比べると音量が小さく感じられるかもしれないが、よく聴くとライブのように音楽に引き込まれていくことだろう。筆者も音をチェックしていたつもりが、すっかり忘れて楽曲に浸っていた。

ハイレゾはあくまで音の入れ物であり、音の善し悪しはレコーディングやミックス、マスタリングによるところが大きいのは、方々で言われてきた。現在は、CDを買わないとスタッフクレジットは分からないが、せめて各エンジニアの名前は配信ページで載せていくのはどうだろうか。「あのエンジニアの楽曲だ。聴いてみよう!」なんて、ちょっとマニアックだけど、ホントに音のいい曲と出会うと気になって仕方ないものだ。来年もそんな音のいいアニソンを探していきたい。

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・藤原さくら/red


    【使用機材】
  • NAS「Soundgenic RAHF-S1」SSD 1TB(アイ・オー・データ機器)
  • ユニバーサルプレーヤー(ネットワーク再生)「BDP-103DJP」(OPPO Digital Japan)
  • AVアンプ「AVR-X6300H」(デノン)
  • スピーカー「RUBICON2」(DALI)

橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト