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YOASOBI「アイドル」ハイレゾで聴かなきゃもったいない! 4月期注目アニソン

YOASOBI「アイドル」Official Music Videoより
(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会

最近、アニメの主題歌であってもデジタルシングルのみリリースという形態がチラホラ見られるようになってきた。CDというフィジカルメディアは発売されず、当然ブックレットもない。CDプレーヤーを持っていないことが当たり前、ノートパソコンにもCDドライブが内蔵されなくなった昨今、自然な流れと言えばその通りだ。一方、筆者のような'90年代からのアニソンリスナーからすれば、ちょっぴり寂しい気もする。

しかし、アニソンはまだ恵まれているのかも。注目は、劇伴の取り扱いだ。いわゆるオリジナルサウンドトラックは、作品によっては発売さえされない。あるいは、CDも配信もなく、Blu-rayの限定特典だけだったりする。もちろんハイレゾ配信も絶望的だ。やはりファンが買って支えることは、とても大事なのだと思えてならない。

ハイレゾに関しては、AmazonやAppleなどのストリーミングが主流になっていると思われるものの、ダウンロード配信は、音質面のメリットも歴然としてあるし、万一の配信停止やサービス終了のリスクもない。個人的にはまだまだダウンロード購入を推していきたい。

本企画は、音楽的にも音質的にも注目のアニソンを紹介するもの。さっそく、今期の注目ソングをみていこう。

「この素晴らしい世界に爆焔を!」ED主題歌「JUMP IN」([ORT]96kHz/24bit)

TVアニメ『この素晴らしい世界に爆焔を!』 ノンクレジットED

この素晴らしい世界に祝福を! のスピンオフ作品「この素晴らしい世界に爆焔を!」のTVアニメ化。通称“このすば”のアニメシリーズは、3期が制作されることも発表され、原作完結後もその熱は冷めることがない。

爆焔を! の内容は、1期のさらに前、爆裂魔法に異様なまでに固執するめぐみんが、その究極の上級魔法を習得し、自称ライバルのゆんゆんと旅に出る流れを描いている。

アクセルの街にたどり着いてからは、カズマとアクアが何度もカメオ出演していて、あえて顔を出さない演出はめぐみんの視点(認識)にこだわったのだと理解できてニヤリとさせる。個人的にはめぐみんの爆裂魔法発動の演出が本編シリーズよりもカッコよくなっていて、劇伴も屈指のアレンジで印象に残っている。

ED主題歌は、めぐみんとゆんゆんによるキャラクターソング。作詞作曲はシンガーソングライターのYeYe。編曲はTiMTが手掛ける。オリジナルの48kHz/24bit音源を日本コロムビア独自の倍音再構築技術ORTマスタリングにより96kHzとしてリリース。ORTの特徴として、楽曲を理解したマスタリングエンジニアが独自にパラメーターを調整して音作りを進める点がある。機械的な倍音生成とは違い、自然なハイレゾ感が個人的にはお気に入りだ。そのORT版を聞いた。何度かORTの楽曲は聴いているが、「無理矢理倍音を足してる感」がほとんどない。ちょっとダウナーな2人のボーカルとコーラスが耳をくすぐる感じや、シンセサウンドの奥行き表現の巧みさ、ベーストラックの密度感など、実に自然。元データが48kHz制作であることを隠そうとしない、つまり“情報量の無駄な拡張”をしないのも好印象。

各トラックの整理がされており、マスキング(周波数帯域の被り)も感じられず、ミックスが優れている。ORTマスタリングにより、2MXの素性の良さがさらに拡張されているのだろう。初めから96kHzで作ってくれたらそれに越したことはないけれど、ORTを施した楽曲は、食わず嫌いしてはもったいない程の味わい深さがあると言える。

JUMP IN [ORT]/めぐみん、ゆんゆん
(P)2023 Nippon Columbia Co., Ltd.
  • Amazon music HD:ハイレゾ配信
  • Apple Music:ハイレゾ配信

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「推しの子」OP主題歌「アイドル」(96kHz/24bit)

YOASOBI「アイドル」 Official Music Video

今季アニメでは、トップレベルの話題作ともいえる推しの子。筆者は、8話くらいまで放送されてから1話を視聴したのだが、あっけなく度肝を抜かれ、当日中に全てを見終えてしまった。

母を殺した黒幕への復讐を誓うサスペンス要素、業界の裏側も含めたお仕事系としての深み、この2つだけでも十分面白いのに、キャラクターが魅力的すぎて困る。筆者としては、幼少期のアクアと有馬かながお気に入り。

「Full moon…!」のMVがワンコーラスそのまま流れたとき、彼女には報われてほしいなぁと心から思ってしまった。スタッフからもきっと愛されているキャラクターなのだろう。

音楽面でいえば、伊賀拓郎氏の劇伴も聴き逃せない。優しく印象に残るメロディは、単体で聴き込みたい楽曲ばかりだ。

OP主題歌は、YOASOBIが手掛ける。オリコン上半期デジタルシングル(単曲)ランキングにおいて、史上最速9週分の集計で1位を獲得。オリコン史上最速となる登場9週目で累計再生回数2億回を突破するなど、「アイドル」は数々の記録を打ち立てている。YouTubeでもあらゆる人が歌ったり踊ったり演奏したりしているので、アニメ本編を観ていない方も、一度は聞いたことがあるだろう。

ハイレゾ版を聴いた。96kHzによる音源制作は、高域の伸びや前後感、音場の広がりなどに大きな差が出てくる。さらに注目したいのは、低域の質感や厚み、密度感の表現力だ。本楽曲では、特に低域の迫力とカッコよさがテレビ放送やYouTubeのMVとは段違い。打ち込みであっても、その肉厚さ、立体感、スピーカーから飛び出してくるような感覚は、ハイレゾを聴いて初めて気付けるマスターサウンドの本域。

バックコーラスのREAL AKIBA BOYZの掛け声は、オンエアではまるでサンプリングされたコーラス音源? と思ってしまったが、あれは数人のダンサーによる“ガチオタ”ボイスだ。ハイレゾ版では、音量バランスこそ変わらないものの、オケの少し後ろにすっと引っ込んだコールが明瞭に聞こえてくる。

音像がきめ細かく、生々しさもあえて若干残しているように感じる。違う意味でゾクゾクしてくる。ikuraによるラップは、幾重にも重ねた2番冒頭が聴きどころ。分離のいいラップが耳を容赦なく刺激する。MVと合わせて、ハイレゾも聴かないともったいないだろう。

アイドル/YOASOBI
  • Amazon music HD:CD音質配信
  • Apple Music:CD音質配信

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「久保さんは僕を許さない」OP主題歌「ドラマチックじゃなくても」(96kHz/24bit)

花澤香菜「ドラマチックじゃなくても」Music Video

週刊ヤングジャンプにて連載されていた同名コミックのテレビアニメ化。感染拡大の影響により、7話以降の放送が延期されていたが、4月クールの枠で1話目から再放送。待望の7話以降も無事最終話まで放送された。

存在感がなさ過ぎて、周りの人に認識してもらえない白石君を、とある事情から見つけることができるヒロインの久保さん。女性キャラの方からグイグイくる、しかも恋愛初心者で恋心をいまいち分かっていないという設定は新鮮だった。

白石君は、とても純朴な少年で久保さんにたじたじなところもかわいらしく、どっちもヒロインに見えてきてヤバかった。久保さんの姉・明菜は、視聴者の気持ちを代弁するようなめざとくお節介な役どころで、筆者も一緒になってニヤニヤ。伊藤×花澤の姉妹掛け合いは、違和感がなさ過ぎて配役GJ! と膝を打つ。

OPは、主演の花澤香菜が歌う優しくも爽やかなナンバー。作曲は、ROUND TABLEの北川勝利。編曲は、北川勝利、Tansa、宮川弾らが担当。

生バンドセクション、ストリングス、オーボエ、フルート、トランペットと豪華編成を活かすダイナミックレンジの広い良質なハイレゾ版だ。音量をグッと上げても耳に痛くなく、目の前で演奏してくれているような臨場感が高まって贅沢なサウンドを楽しませてくれる。

ストリングスは、近い音に感じられるマイキングと音作りな模様。その分、透明感があって、煌めき度も高い。ミックスとマスタリングは、生楽器の質感がきちんと生っぽく伝わるように加工を抑えている印象。

生の質感は、ポップスだとあえてマスクする方向にまとめられることも多いが、本楽曲では花澤の天使のような歌声とも相まって、ベストな采配だ。子音が優しく耳をくすぐり、豊富な倍音に癒やしの効果がありそうな花澤のボーカルはハイレゾとの相性抜群。聴かずは一生の不覚と言えよう。

ドラマチックじゃなくても/花澤香菜
(P)PONY CANYON INC.
  • Amazon music HD:ハイレゾ配信
  • Apple Music:ハイレゾ配信

【moraで購入】

【e-onkyo musicで購入】

e-onkyo musicは、Qobuzとの事業提携により、新しいプレーヤーアプリを開発し、ハイレゾに対応したストリーミングサービスも開始すると予告している。今年の後半にはサービスが始まるとのアナウンスはされており、筆者の元にも断片的に情報は入ってきているものの、詳細なサービス内容は依然不明のままだ。

Beagle Kickとして楽曲を配信してきた筆者は、MQA版の配信終了に落胆し、WAV版の配信終了に伴って192kHz/24bitマルチトラックの限定配信を別のサイト(DLsite)へ移行する作業に追われた。Qobuzとの提携は、ドラスティックに進められていると推察できる。

もちろん、Qobuzとのサービス統合によって、高音質の音楽体験がもっと身近で便利になることは喜ばしい。特にストリーミングは、その音質に期待も高まる。筆者としては、他社を圧倒したmora qualitasの音質がいまだに記憶に残っている。TIDALがいっこうに日本でサービスインしない現状において、希望の星ともいえるQobuzとe-onkyo musicの今後に期待せずにはいられない。

【使用機材】

  • NAS/ネットワークトランスポート「Soundgenic RAHF-S1」SSD 1TB(アイ・オー・データ機器)
  • USB-DAC「NEO iDSD」(iFi audio)
  • プリメインアンプ「L-505uXII」(ラックスマン)
  • スピーカー「RUBICON2」(DALI)
  • ポータブルプレーヤー「PLENUE R2」(COWON)/ HPH-MT8(YAMAHA) / IE 400PRO(ゼンハイザー)
橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト