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「スローループ」や「高木さん」をハイレゾで。1月アニメ注目曲

ちょうど本稿を書いている3月末の休日。国内最大のアニメイベント「AnimeJapan 2022」が開催された。昨年はオンライン開催であったが、今年は念願のリアル開催。コロナ前は、人気のステージになると、それこそ熱量と運を併せ持った猛者達が集う場所のように記憶しているが、そこはコロナ時代の新スタイル。出展社のYouTubeチャンネルで一部のステージを無料生中継しているではないか。

遠くても現地に脚を運ぶことがファン魂の見せ所! みたいな意識は、'90年代からオタクをやっている自分のような人間には染みついている。本稿で取り上げるからかい上手の高木さん3の挿入歌、「風見鶏を見つけて」は生歌で披露されたようで、中継を見ながらぐぬぬ……と唇をかみ締めた。来年こそは、都合を付けて足を運びたいものだ。

さて、本企画は、音楽的にも音質的にも注目のアニソンを紹介するもの。さっそく、今期の注目ソングをみていこう。

「スローループ」OP主題歌「やじるし→」(48kHz/24bit)

ぽかぽかイオン 「やじるし→」Music Video(1chorus)

「まんがタイムきららフォワード」にて連載の中の同名コミックのTVアニメ化。続編以外では、久しぶりの新作きらら系アニメということで、注目も集まった。メインキャラの少し重めの境遇は意外性を放ちつつも、尊くも穏やかな絆と友情の物語を見ていると、いつの間にか疲れた心が癒やされていく。

詳細なフライフィッシング描写は、唐突さと押し付けがましい感じは皆無で、釣り未経験の筆者も退屈しない。恋と小春の関係を見ていたら、こんな友達が自分にもいたらなぁと少年時代を懐かしんでしまった。

やじるし→/ぽかぽかイオン
(P)FlyingDog, Inc.

OP主題歌は、恋の双子兄弟役で出演もしている東山奈央と安野希世乃によるユニット・ぽかぽかイオン。2017年に本人達が結成した非公式ユニットということだが、5年の歳月を経て正式にユニット化。本作がデビューシングルとなる。作編曲は、主にCMソングなどを手掛ける山下宏明が担当。ハイレゾ版をチェックした。

テレビ版と比べて明らかに違ったのは、楽器音の厚みと質感の豊かさだ。軽やかで軽快な楽曲にしては、意外なほど肉付きがあり、豊かな中低域が演奏のリアリティを高めている。特にストリングスのチェロやヴィオラの音像は太くて存在感が高い。イヤフォンだけでなく、中低域がしっかり出るスピーカーやヘッドフォンでも聴いてほしい。

ミックスは、楽器音の質感を残す仕上がりとなっているから、生演奏の空気感まで堪能できるのも良い。東山と安野のボーカルは、基本センターに定位したミックスが個人的に好みだった。ハモる部分のみ若干左右にPANを振っているが、Bメロやサビがクロスオーバーするときも、変わらず定位はセンターだ。混濁なくお互いの声を緻密に描き分けるのは、ハイレゾの、特に24bitの恩恵が大きいと感じた。

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「CUE!」OP主題歌「スタートライン」(96kHz/24bit)

TVアニメ「CUE!」オープニングテーマ「スタートライン」Music Video Full

スマートフォン向けアプリゲームを原案として、新人声優達の奮闘を描くお仕事もののサクセスストーリー。物語はオリジナル展開となっているが、2019年に結成した声優ユニット・AiRBLUE(エールブルー)の16人がついにTVアニメで活躍するということで、ライブやイベントで彼女たちを応援していたファンにとっては、万感の思いがあったに違いない。

筆者は、ゲームタイトルを数年前に見たことがある程度で、アニメが初見だった。最初はファンタジーとリアルの力点がどこに置かれているのか分からず戸惑いもあった。事務所や寮のマネタイズとか、女性の声優志望にあんなに奇天烈なキャラは滅多にいないとか、9年間声優を目指して活動していた筆者にとって、リアリティのさじ加減が気になってしまうのだ。

一方で、本人達が仕事に向き合う瞬間は、描写や会話も含め、結構リアルで息を呑むような現場感も魅力。筆者も自主的にWEBラジオをやったし、オーディションも当たり前のように落ちたものだ。後半クールは予告を見る限り、さらにシビアな展開もあるようなので、彼女たちの成長と奮闘から目が離せない。

スタートライン/AiRBLUE
(P)PONY CANYON INC.

主題歌は、AiRBLUEの16人が担当。作詞・作曲はshilo、編曲はアニメの劇伴でも活躍する宝野聡史。16人もボーカルがいて、音数の多いアニソンとなれば、かなり音作りも難しいと思われる。ハイレゾ版を聴いてみたが、ダイナミクスの狭さ故に、前後感がやや乏しい点は惜しいところ。ボーカルとオケの分離は96kHzなら、もう少し期待したいところだ。

テレビ版と比べると、やはり音の密度と情報量は雲泥の差である。こんなにオケに細かい音が鳴っていたのかと気づかされるだろう。ボーカルのユニゾンパートでは、声の粒立ちや合唱の解像感において、明らかにハイレゾ版に軍配が上がる。

テレビ版(配信の圧縮音源も同様)では、サビで一斉に歌うとゴチャッとした固まりになってしまい、トランジェントも悪いので、いかにも録音した音声であると分かってしまうのは残念だ。

16人のAiRBLUEの面々には、レギュラーでのアフレコは初めての方も半分くらいいるという。かけがえのない瞬間をハイレゾで収めた楽曲は、きっと一生の思い出になる。念願のアニメ化、初のOP。本人たちにはもちろん、ファンにとっても宝物のような一曲といえよう。

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「からかい上手の高木さん3」ED主題歌「まっすぐ」(96kHz/24bit)

大原ゆい子「まっすぐ」ミュージックビデオ/「からかい上手の高木さん3」オープニングテーマ

ゲッサンにて連載中の同名コミックのTVアニメ化第3期。TOKYO MX等のU局から、毎日放送・TBS系列の全国ネット放送へと変更され、6月公開の劇場版も控えて、ファンの期待もますます高まる人気作。3期ともなると、ますます西片君と高木さんのイチャイチャ度というか、キュンキュン度が高まって、毎回もだえながら視聴した。

特に本シリーズでは、「西片君、高木さんのこと好きすぎるだろ!」と突っ込みたくなるシーンが劇的に増えて、ちゃんと物語の中でも好意を自覚するような描写も増えてきた。本作の裏の“ヒロイン”は西片君ではないかと筆者は思えてならない。

最終回、西片君がどうしてもホワイトデーの当日に渡したくて、高木さんを追いかけて猛ダッシュするシーンは、大原ゆい子の挿入歌も相まって、ボロ泣きしてしまった。「西片君め!」(筆者談)

まっすぐ/大原ゆい子
2022 TOHO CO.,LTD
2022 山本崇一朗・小学館/からかい上手の高木さん3製作委員会

OP主題歌は、お馴染みシンガーソングライターの大原ゆい子が手掛ける。編曲はギタリストの吉田穣。ハイレゾ版は、スピーカーとヘッドフォンで聞こえ方が結構変わった。スピーカーで聴くと、ライブハウスのような押し出しの強いバンド演奏によるオケが印象的。

大原のボーカルは、オケに比べてコンプレッションが弱めなのか、その分抑揚に真実味がある反面、ちょっとオケに埋もれて聞き取りづらい箇所もある。

ヘッドフォンに変えると、くすぐるような甘いボーカルの声を間近で堪能するようなリアル感を楽しめるとともに、楽曲全体での浮き立ちも遜色なく聴けた。音圧は結構強めなのだが、スピーカーで音量を上げて鳴らすと、ライブハウスで生バンドを聴いているような気分に浸れるので、これはこれで味があるかもしれない。

なんにせよ、高木さんシリーズ最高峰の可愛さが炸裂しているボーカルを、スタジオクオリティで堪能できるハイレゾ版はファン必聴の一曲だ。

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ハイレゾを聞くための方法として、一番手っ取り早いのは? この問いは、時代と共に答えが移り変わってきた。現在では、Apple MusicかAmazon music HDで、スマホにスティックタイプのUSB-DAC付きヘッドフォンアンプなどを繋ぐのが最も簡便だろう。

筆者は、去年くらいから宅録をされるナレーターへの情報発信を始めたことで、オーディオインターフェースの傾向なども改めて調べる機会が増えた。オーディオインターフェースは、ザックリ言うと、マイク入力とLINE出力が1台に同居している機材で、主にパソコンで音楽制作するために使用されてきた。

従来は、一部の人しか所有していなかったオーディオインターフェースも、動画配信者やゲーム実況などでも使われることがある。音楽制作よりも配信に特化したモデルもあるくらいだ。

実は、オーディオインターフェースでもハイレゾに対応している機種が多い。古い機種になると、たまに上限が96kHzまでの製品もあるが、おおむね192kHz/24bitまで対応している。ヘッドフォンアンプの性能(S/N等)はもう少し上を目指して欲しいと思うケースも少なくないが、LINE出力のバランスは業務用を想定して音色に癖のない機種が多い。

オーディオインターフェースは使っているけれど、ハイレゾは聴いたことないという方、もしかしたらいるのではないだろうか。ぜひ、ハイレゾの再生ができる音楽アプリと組み合わせて、お好きな楽曲を楽しんでほしいと思う。

【使用機材】

  • NAS/ネットワークトランスポート「Soundgenic RAHF-S1」SSD 1TB(アイ・オー・データ機器)
  • USB-DAC「NEO iDSD」(iFi audio)
  • プリメインアンプ「L-505uXII」(ラックスマン)
  • スピーカー「RUBICON2」(DALI)
  • ポータブルプレーヤー「PLENUE R2」(COWON)/HPH-MT8(YAMAHA) /IE 400PRO(ゼンハイザー)
橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト