日沼諭史の体当たりばったり!
第38回
個人的スポーツイヤフォン決定戦! 会議、自転車、ランを全部カバーするのは?
2020年10月29日 08:30
私生活も仕事も、ほとんど自宅とオンラインで済ませるようになったことで、身の回りに揃えるものが以前とは少しずつ変わってきた、という人も多いのではないだろうか。
筆者はどうかというと、メインPCがデスクトップに、モニターは新調した。オンライン会議・取材用にアクションカムをWebカメラ化したうえで、それをイイ感じに固定するのに周辺機材を買いまくった。自宅にこもると運動不足になるから、健康のために室内サイクリング環境を充実させたし、自宅で料理することも増えたので包丁を2本買い足したりもした。今日も自分でさばく刺身がうまい。
そんななかで、少しずつ不満が積み重なってきたのがヘッドフォンやイヤフォンなどのデバイスだ。オンライン会議・取材はヘッドフォンや外部スピーカーを使い、室内サイクリング中にはイヤフォンで動画視聴。さらに外をランニングするときは音楽を聴くためにまた別のイヤフォンをする。実に面倒くさい。
なぜいちいち用途ごとに変えるのかというと、手持ちのデバイスにはそれぞれに向き不向きがあり、使い分けざるをえないのだ。できることなら、これらをすべて1つのイヤフォンでまかないたい。少なくともスポーツに使う以上はスポーツイヤフォンがいいだろうし、仕事、室内サイクリング、屋外ランニングの3つの用途を兼ねるのならばやっぱりワイヤレスの方が都合がいい。
であれば、あらゆる場面でバランス良く使えるスポーツワイヤレスイヤフォンを見つけるしかない。というわけで、筆者が個人的に決定版と思えるようなスポーツワイヤレスイヤフォンを求め、3つの製品「Bose Sport Earbuds」(税込2万4,200円)、「NUARL N6 mini」(同1万890円)、「AfterShokz OpenMove」(同9,999円)を試してみることにした。
仕事・自転車・ランニング、3つのシチュエーションにおける課題
今回は3つの製品について、筆者の主な用途である「オンライン会議・取材」と、「室内サイクリング中の動画・音楽鑑賞」、「屋外ランニング中の音楽再生」という3つのシチュエーションすべてにおいて、総合的にどれくらい快適に使えるか、をテーマにしている。なので、まずは筆者が各シチュエーションで何が課題と感じているのかを説明しておこうと思う。
1つ目の「オンライン会議・取材」については、再生用デバイスはデスクトップPC(Windows 10)が前提となる。ここで求められるイヤフォンの性能としては、声の聞き取りやすさも大事だが、どちらかというと長時間装着し続けたときのストレスが気になるところ。
なぜなら、数十分程度の短い会議もあるけれど、だいたいは1時間前後、取材内容によっては1時間半~2時間にまで及び、しかもダブルヘッダー、トリプルヘッダーもありうるからだ。先日はクアドラプルヘッダーもあった。つまり4連続だ。つらい。
オンライン化で物理的な移動が不要になり、そのおかげで時間・体力は節約できるようになったものの、こうやって同じ日に会議や取材が立て続けに入ることも珍しくない。当然、その間はずっとイヤフォンを装着していることになるわけで、ストレスを感じずに長時間装着していられるかどうか、というのはけっこう重要なのだ。
2つ目の「室内サイクリング中の動画・音楽鑑賞」(連続使用時間は1時間前後)は、再生用デバイスにスマートフォン「arrows 5G F-51A」を使用する。サイクリング中の装着感のほか、大量に汗をかく状況下での扱いやすさや、サイクルトレーナーのわりと騒々しい音をどれだけ遮断して動画・音楽を聞き取りやすくしてくれるか、といったあたりが課題となる。
3つ目の「屋外ランニング中の音楽再生」(連続使用時間は1時間以内)は、スマートウォッチ「Garmin Fenix 6S」を使う。走っているときの振動が大きいことから、このシチュエーションではフィット感が一番大事。重すぎたり、ズレたり、耳から外れてしまいそうな不安があると、余計に気力・体力を消耗してしまう。また、屋外で走るときは近づくクルマなどの音から危険を察知するため、音楽が多少聞こえづらくなったとしても、周囲の音をある程度聞き取れた方がいいこともある。
そして、以上3つのシチュエーションすべてを1つのヘッドセットでカバーするにあたっては、ある用途(再生デバイス)から別の用途(再生デバイス)へ移行するときに、どれだけシームレスに切り替えられるか、というのもポイントになってくる。当然ながらスポーツを想定した防水・防汗性能があることは必須。バッテリーの持続時間、充電のしやすさなど一般的な使い勝手の良さも、仕事&スポーツにおける使用感に影響するはずだ。
なお、音質については今回はあまり重視しない。仕事用途では人の声を聞くことがメインになるし、スポーツ用途ではノイズに囲まれた(またはノイズをあえて聞く必要がある)環境なので、繊細な音の違いまで聞き分ける必要性は低いからだ。もちろん「重視しない」というだけであって、音の良さはしっかりチェックしていこうと思う。
優しい付け心地の「Bose Sport Earbuds」はセンサーによる“装着検出”が面白い
Boseがスポーツ向けとして明確にアピールしている完全ワイヤレスイヤフォンが、この「Bose Sport Earbuds」だ。同じタイミングで発売されたシリーズ製品に「Bose QuietComfort Earbuds」があり、こちらは防水などのスポーツ向け仕様ではないものの、ノイズキャンセリング機能を備えたフラッグシップ機となっている。
話を戻すと、Bose Sport Earbudsはカナル型、かつ3サイズのスタビライザー付きで耳穴にしっかり固定できる、まさにスポーツ向けの仕様。防水性能はIPX4で、水がじゃぶじゃぶかかるような場所だと心配だが、雨や汗くらいなら大丈夫なはずだ。
バッテリー稼働時間は最大5時間、USB Type-C接続の充電ケースを使うと2回満充電できるので、トータルで15時間稼働することになる。イヤフォンのボディがそこそこ大きく、やや重さもある(といっても片側6.75g)わりには、なんとなく稼働時間は短いかな、と思わなくもない。
対応コーデックがSBCとAACのみというのも寂しい感じはあるものの、音質面ではBoseらしいメリハリのあるサウンドが楽しめる。それでいて他の音で隠れてしまいがちな細部の音を粒度高く再現してくれる緻密さもあり、aptXなどの高音質コーデックでないにも関わらず、その音のクオリティには「さすがBose」とうならされる。
そしてイヤフォン自体の重さはあるはずなのに、耳穴が過剰に圧迫されず、今回の3製品のなかでは最も優しい装着感だった。耳穴に差し込んだイヤーチップ部分に加えてスタビライザーでも保持していることが理由だろうか。あるいはイヤーチップ自体の構造と素材にも工夫があるのかもしれない。長時間装着していても疲れや痛みが出ることはほとんどなかった。
イヤフォンのボディがやや大きめなので、耳周辺にしたたる汗をタオルで拭う際にはズレないように少し気を使う。それでも、イヤフォン本体の操作についてはワンタップに何も割り当てられておらず、少なくともダブルタップ(または長押し)が必要なので、指がうっかり当たったりしても操作ミスにつながることはない。このあたりはスポーツ用として気が利いているな、と感じる部分だ。
それにプラスして、センサーによる「装着検出」機能を搭載し、右イヤフォンを取り外すと曲が停止して、装着すると再生を始める、他にはない使い勝手を実現しているのも面白い。
装着検出による自動操作は、Bluetoothの基本的なオーディオコマンドを受け付けるデバイス・アプリであれば対応するようだ。必ずしも自分が愛用しているデバイス・アプリが対応しているとは限らないが、Netflixやポッドキャスト、Onkyo HF Playerなど多くのスマートフォンアプリが対応し、Windows 10上のオーディオプレーヤーやスマートウォッチでも機能することを確認した。
この装着検出の機能は、室内サイクリング中に便利さを実感しやすい。スマートフォンの動画を見ていて家族に声をかけられたとき、通常であれば動画を一時停止してイヤフォンを外し、やり取りが終われば再びイヤフォンを装着して動画を再開する、みたいな手順になる。が、装着検出機能を利用すればスマートフォンの操作が一切不要になる。イヤフォンを「外す・つける」だけで動画の途中を見逃さずに済むのは、シンプルにありがたい。
また、スポーツ向けモデルとしては珍しく、通話時のノイズ抑制機能を備えているのも、今回の場合は都合がいい。スポーツ中だけでなくオンライン会議・取材でも、自分の声以外の周囲のノイズを抑えて自分の声を相手に伝えやすくできるわけだ。
Bose Sport Earbudsを相手に使ってもらって試した限りでは、たしかにその相手の周囲の人の声などは抑制されるようだった。ただ、相手がキーボードを叩いている音はガッツリ聞こえてくるので、あまりこの機能に期待しすぎるのもよくないかもしれない。シチュエーションによって効果には差があると考えておいた方がよさそうだ。
なお、今回紹介する他のイヤフォンと比べてBose Sport Earbudsは1~2ランク上の価格帯(税込2万4,200円)となっており、予算的な観点からは単純に比較しにくい部分もある。Boseならではのサウンド・性能と、装着検出機能などの独自の工夫、さらにはブランドの信頼性を考慮に入れつつ判断したいところだ。
本体もケースもコンパクトでオシャレ。しかも高性能な「NUARL N6 mini」
「NUARL N6 mini」は、防水でスポーツにも使える製品でありながら、オシャレなデザインのカナル型完全ワイヤレスイヤフォンだ。特徴的なのはそのコンパクトなサイズで、片耳あたりの重量はわずか4.5g。充電ケースも重量36gと軽く、完全ワイヤレスイヤフォンでは筆者がこれまでに見たことのないような小ささだ。携帯のしやすさは抜群だろう。
改めて防水性能に触れると、IPX7ということで、水に沈めても問題ないレベル。雨や汗に耐えられるのはもちろんのこと、水のなかで軽く洗うくらいまでなら大丈夫そうだ。3製品のなかでは唯一、高音質のaptXにも対応し、稼働時間はSBC/AAC時で最大8時間、aptX時で最大5.5時間と、小さいのにスタミナは十分。
ケースの充電はUSB Type-Cで、内蔵バッテリーはイヤフォン本体を2回充電できる容量をもっているため、合わせると最長32時間稼働することになる。丸1日あるいは2日、かなりハードに使っても、バッテリー切れが心配になるようなことはなさそうだ。
サウンドは素直でクセがない印象。こぢんまりとしたボディを考えると、そのわりに低音からしっかりと鳴らしているなあと感じる。日常の音楽鑑賞用途でもほとんど不満はない。aptX対応ということもあって、音のリッチさというか、濃度の高さみたいな面でも聴き応えがある。デザインがカジュアルな雰囲気を醸し出しているけれど、意外に本格派のつくりになっているな、と感じる。
このコンパクトサイズのボディは、オンライン会議・取材で耳に取り付けていてもほとんど目立たないというメリットもある。耳穴だけで固定する形になるのでわずかな圧迫感はあるものの、ランニングでも軽さを実感でき、走っている最中にズレたりしないのはもちろん、軽快感があって、そのうち装着していることを忘れてしまいそうになるほど。
遮音性については一般的なカナル型と同等程度と感じる。屋外ランニング時は周囲の音が常にはっきり聞こえるわけではないけれど、外音取り込みの機能があるので、有効にすればクルマ通りの多い場所などでも不安なく走れるだろう。ただし、外音取り込みを有効にするにはいったん音楽再生を停止する必要がある。瞬間的に切り替えるというわけにはいかないので注意したい。
ただ、それよりも地味にストレスだなあと思ったのが、イヤフォン本体をワンタップするだけで音楽の再生・停止操作ができてしまうこと。汗を拭く際に手やタオルがイヤフォンに当たり、再生中の音楽を停止させる誤操作を何度も繰り返してしまった。
普通に動画・音楽鑑賞をする分には、簡単操作で楽に扱えるのはいいのだけれど、スポーツ用途ではこの仕様は操作ミスが多発しがち。操作のカスタマイズもできないので、対策としては「気を付ける」ほかないのが残念だ。
とはいえ、やはりこのコンパクトさは特筆に値する。洗練されたデザインとあわせて考えると、女性にもおすすめしやすいモデルだ。基本性能も十分以上に高く、コストパフォーマンスの面でも満足度の高い製品ではないだろうか。
完成度の高い骨伝導「AfterShokz OpenMove」、マルチポイントにも対応
「AfterShokz OpenMove」は他2つと違い、完全ワイヤレスでも、イヤフォンでもなく、骨伝導方式を採用したワイヤレスヘッドセットだ。頭部を後方から挟み込むネックバンド型で、耳に掛け、こめかみあたりに振動板を当てることで聴覚神経に音を伝える仕組み。骨伝導ということで、耳穴をふさがずに使えるのがやはり一番の特徴だろう。
防水・防じん性能はIP55で、雨や汗、粉じんなどからの保護が可能となっている。対応コーデックは明らかになっていないが、使用しているチップから判断するとSBCおよびAACと思われる。ネックバンド型なので完全ワイヤレスイヤフォンのような充電ケースはなく、USB Type-Cケーブルを直接差し込んで充電する形。動作時間は最大6時間となっている。
ところで、筆者はこれまでにも何種類か他の骨伝導タイプのイヤフォン、ヘッドセットを試したことがあるのだが、正直に言うと、あまりいい印象がない。特に耳に固定する際の微妙なさじ加減で音の聞こえ方が大きく変わってしまう不安定さが気になっていた。よく聞こえる位置にしようと思うと外れそうになるし、反対に安定する位置にするとほとんど音が聞こえない、ということばかり。
そのうえ、低音が完全に抜けたシャリシャリ音だったりもする。自分の耳に合っていない、ということなのかもしれないが、利用シーンがかなり限定されるなあ、というイメージしか持てなかったのである。が、このOpenMoveはこれまでの骨伝導のイメージをガラッと変えてくれた。
耳に掛けるスタイルにはなるが、位置調整にはある程度自由度があり、最もよく聞こえて安定する位置が簡単に探り当てられ、ビシッと決まる。サウンドとしてはやはり中高音寄りだけれど、意外なほど低音も残っている。付属の耳栓を同時に使えば低音はさらに強まり、若干こもり気味ではあるものの全体的な音の明瞭さも底上げされる。
人の声の聞こえ方も自然で、オンライン会議でも全く違和感なく会話可能だ。耳穴を塞がないので周囲のノイズは盛大に入ってくるが、会議・取材中はおおよそ静かな自室内なので、子供たちが同じ部屋で騒いだりしない限り聞き取りづらさはない。
室内サイクリングだとペダルを回しているときのチェーンの音やギアチェンジの音がほぼそのまま耳に入るので、動画の音声や音楽はかなり聞き取りづらい。少しボリュームを大きめに調整しておく必要がある。ただ、途中で家族に話しかけられても、耳から外したりせずにそのまま受け答えできるのは楽ちんだ。
屋外ランニングのときも、周囲の音がしっかり聞こえるので安心感は強い。耳穴をふさがない骨伝導ならではのメリットを改めて実感する。ランニング中は近くを通るクルマの排気音やタイヤノイズで音楽がまともに聞こえないときの方が多いが、このあたりは安心・安全とのトレードオフで仕方のないところだろう。
挟み込む力が強めということもあって、ランニング時の振動でズレることはまずない。汗をタオルで拭くときには当たりやすいので、その場合は簡単にズレて聞こえなくなってしまうけれど、指先で軽く元に戻せるので面倒とも思うこともないはずだ。
しかしながら、こめかみ付近への圧迫は常に意識する。頭のサイズにもよると思うが、他2つのインイヤータイプのイヤフォンよりも使用時のストレスは大きい。長時間のオンライン取材だと頭痛がしてくる感じもあり、筆者としては連続使用時間は1時間くらいに止めたいところ。なので、1時間程度で終わる室内サイクリングや屋外ランニングでは許容範囲内だが、それより長時間のオンライン会議・取材での使用はちょっと避けたい。
一度に長時間使うことは(筆者としては)ないので、最大6時間という稼働時間でも十分だとは思う。ただ、完全ワイヤレスイヤフォンのように充電ケースにしまうわけではなく、そのせいでなんとなく「こまめに充電しなきゃ」という気持ちにさせられる。できればネックバンド型というバッテリー容量を稼ぎやすい構造を活かして、稼働時間はもう少し長めにとってくれるとありがたかったかもしれない。
最後に1つ、他の2製品にはないOpenMoveの特徴として、2つのデバイスに同時接続できる「マルチポイント」に対応している点は見逃せない。現在では一般的になったマルチペアリングのように、複数デバイスを記憶しておける(他のデバイスと接続するときに再ペアリングの必要がない)だけでなく、マルチポイントでは実際に複数台と接続を維持できるようになるのだ。
たとえば音楽再生(もしくは通話)しているデバイスでいったん再生停止した後、もう一方のデバイスで再生し始めた音楽がすぐに聞こえるようになる。ヘッドセット側で何らかの操作をする必要はない。今回でいうとOpenMoveをPCとスマートフォンの両方に接続しておき、PCでオンライン会議を終えたらすぐに室内サイクリングを一発キメる(スマートフォンで動画を見る)なんていう場合でも、PC側のBluetoothをオフにする必要がなく、実にシームレスに切り替えられるのだ。
同時に接続できるのは2台までなので、今回のようにPC、スマートフォン、スマートウォッチという3台のデバイスで活用したい、という条件だと完全には満足させられない。けれど、2台だけでも同時接続しておけると使い勝手としてはかなり違ってくる。このマルチポイントの機能だけでも購入する価値があるのでは、と思うほどだ。
それぞれに個性あふれるヘッドセット、どれを選ぶべきか
以上3つのヘッドセットを3つの用途で試してみた。筆者の望む使い勝手を、すべてのシチュエーションにおいて1つのヘッドセットで完璧にクリアすることは難しいけれども、最も重視したい用途は何なのか、どこを妥協するのか、などをはっきりさせれば、どれか1つに絞ることはできそうだ。
機能面では独自の装着センサーやノイズ抑制機能を備え、いつでもBoseサウンドを楽しめる「Bose Sport Earbuds」が魅力的。でも基本性能の高さと価格のバランスという面から見ると「NUARL N6 mini」も選択肢としては有力だ。「AfterShokz OpenMove」は長時間の使用をためらうところはあるけれど、骨伝導ヘッドセットとしての完成度、マルチポイント対応にはものすごく惹かれる。
かといって全部購入してしまうと、またも使い分けることになって元の木阿弥になるに違いない。それぞれに個性のある、なかなかに悩ましい3製品。みなさんが個人的にビビッと来たモノはあっただろうか。