日沼諭史の体当たりばったり!

第37回

室内サイクリングマシン最高峰「KICKR BIKE」がカッコいい。“勝ちきる”人の最強バイク!

室内サイクリングマシンのWahoo「KICKR BIKE」を試してみた

8月29日から9月20日までの日程で「ツール・ド・フランス2020」が開催される。新型コロナウイルスの影響で例年より遅いタイミングとなったが、昨年同様、衛星放送のJ SPORTSとJ SPORTSオンデマンドで視聴可能だ。これに先立ち、7月には同じようにプロ選手が争う「バーチャル・ツール・ド・フランス」が室内サイクリングソフトの「Zwift」上で行なわれたのは記憶に新しいところ。

このZwiftを最大限に楽しむのに不可欠と言えるのがスマートサイクルトレーナーである、というのはみなさんご存じの通り。筆者もほぼ毎日、Wahooのダイレクトドライブ式のスマートサイクルトレーナー「KICKR」で走りまくっているのだが、最近、そのシリーズに新たに「KICKR BIKE」という製品が加わったことをご存じだろうか。

従来製品のKICKRなどは、既存の自転車とセットで使う後付のデバイス。しかしKICKR BIKEはそれらが1つにまとまった、単体で使えるインドアサイクリング専用マシンだ。見た目はなんとなく未来感のあるデザインで、トレーニングジムにあるフィットネスバイクをロードバイクの姿にしたようなもの。

KICKR BIKEは日本国内では6~7月頃からデリバリーが始まり、価格は税込およそ50万円。もちろん、筆者がポケットマネーでひょいっと買えるような金額では全然ない。なので、KICKR BIKEをWahoo Fitnessさんからお借りして、KICKRとの違いや乗り心地を確かめてみた。これまでの製品にない極めて重要な特徴も紹介しよう。

手に入れたら即バーチャルサイクリング可能。50万円は高い? 安い?

KICKR BIKEは、スマートサイクルトレーナーの進化版としてWahooが投入した室内専用バイクだ。屋外で走行することがないため車輪は前後とも省かれ、ハンドル、サドル、ペダルに、極太フレームと大型のフライホイールからなる削ぎ落とされたデザイン。中身としては、従来のダイレクトドライブ式と同じようにフライホイールと電気(と磁気)の力でペダルの重さを再現している。変速機構も搭載しており、こちらも自転車のような物理的な多段ギアではなく、電気的な仕組みによってシミュレートしている。

なんとなく未来感のあるデザインではないか
大型のフライホイール
フライホイールと電気(と磁気)の力でペダルの重さを再現している

未来のロードバイクのような雰囲気でなんだかワクワクする外観。でも、できることとしては従来のスマートサイクルトレーナー(+自転車の組み合わせ)とさほど変わらないようにも思える。ディスプレイの有無などはさておき、カジュアルなスタイルのフィットネスバイクとも機能的にはそれほど違わない気がしなくもない。50万円というインパクトのある価格は果たして妥当なのか……と感じる人もいるだろう。

たしかにKICKR(実売16万円前後)と比べると圧倒的に高額。でも、KICKRの場合は別途自転車も必要だ。それに適したロードバイクを用意するとなれば(KICKRには11速のスプロケットが付属しており、それに合うコンポーネントを装備した自転車を考えると)、少なくとも20万円以上のクラスになるだろう。もちろん安価なクロスバイクを組み合わせてもいいのだけれど。

従来製品のKICKRと比較。KICKRは自転車の後輪の代わりに装着するダイレクトドライブ式と呼ばれるタイプだ
前後方向の長さはKICKR BIKEの方が40cmほど短い
ただし脚部は少し幅広になっている
必要な設置スペースとしてはKICKRとほぼ変わらず。KICKR用にサイズを合わせたマットをそのまま使えた
移動用のキャスターもついている

また、KICKR BIKEには仮想空間の勾配に合わせて車体の角度をリアルタイムに変える機能もある。すでにWahooが販売している「KICKR CLIMB」(実売7万5,000円前後)と同等の機能を内蔵しているわけで、この時点ですでに40万円、あるいは50万円以上の価値がある、と言えなくもない。さらにチェーンやスプロケットなどの消耗パーツがKICKR BIKEには存在せず、メンテナンスフリーというのも大きい。トータルで考えれば50万円というのは高すぎるわけではないだろう。

車体を傾けて勾配を再現する、「KICKR CLIMB」と同等の機能も内蔵する
タイヤもなければチェーンやスプロケットもない(見えない)

そもそも1台100万円を超えることがざらにある自転車の世界の基準で考えれば、そう驚くものでもない……ような気もする。ちなみに、KICKR BIKEはかなり大型の製品だが、製品代金には送料が含まれ、配達時には組み立て(土台となる脚部やペダルの取り付けなど)と室内への設置作業を無償で行なってくれるという。全体の重量は40kgを超えるので、ありがたいサービスだ。

もちろん、たとえばKICKR BIKEでZwiftをプレーしようと思うと、他にもソフトを動作させるスマートフォンやタブレット、もしくはApple TVやPC(とモニター)などが必要になり、心拍数を計測したいならさらに心拍センサーも用意しなければならない。とはいえ、すでにそうした機材を持っているのなら、KICKR BIKEをドンと1台導入するだけで即Zwiftを始められるのだ。

そして、後述するKICKR BIKEならではの要素も含めて考えると、もはや金額には換算できないプライスレスな価値を提供してくれる最高のフィットネスバイクとしか思えなくなる。これからZwiftを始めたい人はもちろん、ガチの自転車乗りも、自転車乗りになりたいと思っている人も、きっと欲しくなるに違いないのだ。なぜなのか。

あらゆる箇所を調整でき、フィッティングはアプリで簡単

KICKR BIKEの最大の特徴の1つ、それは“自分の体型や使い方に合った自由自在な調整が可能”なことだ。フィットネスバイクなんだから、トレーニングジムにあるものと同じように調整できて当たり前では? と思うかもしれないが、KICKR BIKEがロードバイクと同じような形をしていることがここで大きな意味をもってくる。つまり、ロードバイクのそれに近いイメージでフィッティングを何度も、好きなだけできるということなのだ。

ロードバイクを購入するときは、身長、股下の長さ、腕の長さなど、体型に合わせて適切なサイズのものを決めることになる。そのために専門店では詳細な計測を行ない、パフォーマンスを最大限に発揮できる(その人にとって乗りやすい)ジオメトリの自転車を選ぶわけだ。KICKR BIKEにはそうしたフィッティングにも対応しうる多数の調整機構が用意されており、しかも簡単にセットアップできるようになっている。

サドルの高さと前後位置、ハンドルの高さ、トップチューブの長さ、シートチューブの高さを調整できるのは当たり前。これらは固定用レバーを緩めて各部を動かし、再度レバーを締め付けるだけの簡単操作だ。調整する部分には細かく目盛りが刻まれているので、それを目安に再調整することで、より自分の体型に合うセッティングに近づけることができる。

ハンドルとサドルの高さを調整可能
トップチューブ上にある四角形のハンドルでロック解除するとトップチューブの前部分を伸縮できる
同じくトップチューブの後ろ部分も伸縮
シートチューブはレバーを倒し、丸いロックを引っ張りながらフレーム全体を動かす。A~Fの6段階

ただ、KICKR BIKEはロードバイクに近いとはいえやや異なる特殊な形状をしている。なので、すでにジャストフィットなロードバイクに乗っている人がそれと全く同じセッティングにしたいときには戸惑ってしまうかもしれない。しかし、スマートフォンの「Wahoo」アプリを使えばそんな問題もあっさり解決だ。

各部の設定値を決めるために使う「Wahoo」アプリの設定画面

Wahooアプリでは、3つの方法でKICKR BIKEをユーザーの最適なセッティングに調整できるようになっている。まず1つ目、最も正確に調整する方法が、専門のフィッティングシステムで計測・分析したデータを元に設定するもの。現在はGURU Fit System、RETÜL FIT、Trek Precision Fitという3種類のシステムに対応している。ただ、ここまで専門的なシステムを使ってデータを収集しているユーザーはおそらくまれだろう。

ウィザード形式でセットアップを進めていける
設定方法は3パターン
最も正確に設定できるフィッティングシステムによる計測値を使う方法は現在のところ3種類

ということで、最も多くの人に使いやすいセットアップ方法となるのが、次の「自分の自転車を写真撮影して設定値を自動で割り出す」方法となる。自転車をまっすぐ立てた状態で真横からスマートフォンで撮影し、その写真上でサドルやステム、ハブの中心などを指定することで自動で最適な設定値を割り出してくれるというものだ。

多くの人が一番使いやすいのが、自分の自転車を写真撮影する方法だろう
自分の自転車をまっすぐ立てて、真横から撮影する

筆者もこの方法でセットアップしてみたところ、大まかなところは問題なく決まり、あとは乗りながら微調整していくことで自分の自転車とほとんど変わらないポジションにできた。写真撮影の方法や細かなポイント指定時のズレで設定値は変わってくるので、一発でベストポジションが決まることは少ないと思われるが、目安をつける方法としては簡単だし、面倒が少ない。

シルエットに合わせてシャッターを切る
サドルやハブなどの中心位置を指定する
ホイールベースは自分で計測するか、メーカーの公称値を入力
自転車のクランク長も指定
入力が完了すると、KICKR BIKE本体側の調整手順が指示される
トップチューブの長さも決める
最後にスマートフォンとペアリングして、ギア比などの設定へ移ることになる

最後の方法は、身長と股下の長さを入力するという古典的なもの。追加で自分の好みのポジションも選べば、それに合った設定値が割り出されることになる。これはこれで一番手間が少ないので、手っ取り早くKICKR BIKEを試したいときには向いている。ロードバイクを所有していない人にも都合が良いだろう。

身長と股下の長さを入力する方法もある
好みのポジションを選べば完了

クランク長やギア比、コンポーネントメーカーも選び放題

自分の体型にフィットする“自転車作り”はこれに止まらない。面白いというか、おそらくロード乗りにとってはかなり重要なポイントとして、クランクの長さを簡単に変えられる機能がある。KICKR BIKEのクランクは扇状の変わった形をしており、先端部に並ぶ5つのネジ穴から選んでペダルを装着することで、165mmから175mmまで、2.5mm刻みでクランク長を変更できるのだ。

165mmから175mmまで、2.5mm刻みで変えられる

ロードバイクに慣れてくると、より自分(の走り方)にフィットするパーツのサイズがどういうものかを考えてしまうもの。頻繁に変更する箇所ではないとはいえ、クランクサイズはその最たるものの1つだろう(と個人的には思っている)。ただ、ロードバイク用のクランクは高額なこともあり、サイズ違いを試すのは簡単なことではない。長さを変えたところでパフォーマンスが上がる保証もないし、取り付け・取り外しの手間もかかる。

しかしKICKR BIKEであれば、そんなことは関係なしにいつでもクランク長を変えることができ、どの長さが一番適しているのかをいくらでも試行錯誤しながら決められる。フレーム側の調整機構も含め、こうした各部のサイズ調整が自由に行なえることで、反対に、購入する自転車のフィッティングに反映させることも可能だろう。実際、Wahooの担当者によれば、自転車のフィッティングに役立てるためにKICKR BIKEを導入しているサイクルショップもあるとのことだ。

そしてもう1つ、さらに便利なKICKR BIKEの特徴が、シフトのタイプやギア比、ギアの歯数などを自由度高く選択できること。最初の方で説明したように、KICKR BIKEの変速機構は電気的な仕組みでシミュレートしている。そのため、コンポーネントのメーカーごとの構造の違いやギア比もシミュレートの仕方次第というわけだ。シマノの伝統的なメカニカルシフトはもちろん、電動のDi2シンクロシフト、スラムからカンパニョーロまで、自分の自転車の装備に合わせて選ぶことができる。

中央の三角形に見える部分がシマノの設定にした場合のシフトアップ(左半分)・ダウン(右半分)のボタン。ちなみにブレーキレバーはフライホイールの停止に使える
内側にもボタンがある。これはカンパニョーロ風のシフト操作を再現するときに使うようだ。右上に見える2つのボタンは手動で斜度調整するためのもの

また、フロントのリング数は1~3を選択でき、歯数はたとえばアウターが35~70T、インナーが10~49Tなどから指定可能。リアスプロケットの段数も9~12から選べ、歯数はその段数に応じて幅広い選択肢が用意されている。無難な構成にすることもできるし、通常ならありえない超高速志向や超ヒルクライム仕様のセッティングにしてしまうのもアリなのである。

メーカーごとの操作の違いを再現できる
フロントのチェーンリング数と歯数、リアスプロケットの段数と歯数の調整幅も幅広い

シフト段数・丁数変更が容易なのは、Zwiftにおいて計り知れない強みがあるのではないかと筆者は思っている。Zwiftには平坦ばかりのコースもあれば極端な上り坂が続くコースも、アップダウンの激しいコースもある。もちろんそれらが混在している場合もあるが、そういったコースを舞台に行なわれるバーチャルレースに参加するときは、コースごとに最適と思われるセッティングにアプリから一発で切り替えられるのだ(設定をプロファイルとして保存しておき、すぐに呼び出せるようにもなっている)。

従来のスマートサイクルトレーナーも含め、リアルの自転車だと追加の投資と面倒なパーツ交換作業が必要になるが、KICKR BIKEは不要。ほとんど手間なく、最も有利なセッティングでレースに臨めるのは大きい。うまく活かすことができれば勝利にさらに一歩近づけるだろう。

トップチューブ前方右側にあるシフトインジケーターで現在のギアを確認できる。汗がかかりやすい場所で、ハンドル周りにタオルを掛けると見えなくなるのがちょっと残念かも

なお、KICKR BIKEにはフラットペダルが付属しているが、クランクのネジ穴は一般的なサイズのものなので、ビンディングペダルに交換するのも簡単。サドルについても固定方法は一般のロードバイクと共通となっている。屋外での実走と違ってどっしり座って走りがちな屋内サイクリングは股ずれしやすい場合もあるから、付属のサドルが自分に合わないようであれば交換するのが良さそうだ。ハンドルも標準はやや幅広(左右端の実測で約440mm)なので、こちらも気になるなら交換したい。

フラットペダルが付属している
普段使っているビンディングペダルに交換
サドルの交換もできる
ハンドルは実測440mmと幅広なものとなっている(写真にあるサイクルコンピューターは別売)
シフトインジケーターの裏側にはシフト・ブレーキを電気的に接続するためのインターフェースがある。USBポートもあり、スマートフォンなどを充電できる
今回お借りするにあたり、Wahoo Japanの樋澤氏にレクチャーもしていただいた。 樋澤氏によれば、このコロナ禍で室内サイクリングマシンのニーズや注目は大幅に高まっているそうだ
バーチャルサイクリングソフトとしては、Zwiftだけでなく、実写とCGを組み合わせた「Rouvy」などいくつかある

ガチ踏みしている最中でもOK。パワーロスのないシフト操作で有利に

前準備の説明が長くなってしまったが、実際の走行感はどうだろう。普段使っている従来型KICKR+自転車の時と条件をできるだけ合わせるため、いつものビンディングペダルとサドルに交換してから乗車してみる。

ペダルを踏み込んで最初に気付くのがスタート時の軽さだ。少しだけペダルに力を入れるだけでフライホイールが自動で回転し始めるので、スタート時の踏み込みに余計な力を加える必要がなくなっている。

従来型のKICKRなどでは、ゼロスタート時にフライホイールの抵抗が大きく、安定してペダリングできるまでに力一杯踏み込んだりする場合もあった。ギアが重い状態だと特に違和感を覚えやすいはずだ。それがKICKR BIKEでは明らかに軽減されており、スムーズなスタートが可能になっている。

KICKR BIKEでZwiftのバーチャルレースに参加してみた

ただ、ペダリングしたときのフィーリングはやや独特なところがあるように思う。チェーン駆動ではなく、電気・磁気による仕組みで負荷を再現しているためなのだろうか。特に1、2速のような低い(軽い)ギアにしているときに感じやすく、ある程度シフトアップすると自然になるので、変速機構をシミュレートしている部分で若干の違和感が出やすい状態になっているのかもしれない。

また、これはあくまでも自分の自転車(シマノ105装着)+KICKRとの比較になるのだが、踏み足(上から下にペダルを踏み込む時)は感覚としてはほとんど同じなのだけれど、引き足(下から上にペダルを引き上げる時)はより力が必要になるように思える。踏み足と引き足の両方をきれいに使わせられるような感じで、むしろ正しいペダリングの仕方を学べそう。実車にあるような慣性の再現はそこまで大げさにしていないのかもしれない。

でもって、見るからに太いフレームのせいで、乗り心地はカッチカチに堅いのかと思いきや、これが意外としなやかに動く。おそらく勾配を再現する構造部分で、前後方向にほどよい遊びがあるおかげだろう。この点はフレームのしなりのようにも感じられて、実車の雰囲気がよく出ている。

前後方向にほどよくしなる感じが出ている

騒音については、チェーンや変速時の音が全くしない代わりに、モーター音がそこそこ大きい。ダイレクトドライブ式のKICKRの方がモーター音としては静粛性が高いかもしれない。チェーンや変速時の音も含めて考えると、総合的にはKICKR BIKEとKICKRは同じくらいの音量ではないだろうか。そうはいっても、マンションの上下階に響くような大きなノイズではないだろうし、振動もほとんどないので、念のため厚めのクッションを敷いておけば集合住宅でも問題なく使えるはずだ。

シフト操作は、シマノのメカニカルシフトに慣れている筆者にとっては、最初は少し戸惑った部分。ロードバイクと同じブレーキ・シフト一体型のレバーだが、(Wahooアプリで「Shimano (Di2 または機械式)」を選んだ状態でも)シフトアップ・シフトダウンはレバーをストロークするのではなくスイッチをポチッと押すだけとなる。もしかするとDi2と似た操作感なのかもしれないけれど、スイッチの位置が近いこともあり、上り坂でシフトダウンすべきところを誤ってシフトアップしてしまい、激重になって脚が終わりそうになる、という悲劇を何度か繰り返した。もちろん慣れていくことでミスは減っていったのだが……。

しかし、ここにはもう1つKICKR BIKEのアドバンテージがある。電気的機構で再現しているシフト・ギアのおかげで、いくらガチ踏みしているときでもスイッチ1つでシフトチェンジでき、加減速時のパワーロスが一切ないのだ。通常、自転車でシフトチェンジするときは変速ショックが多かれ少なかれ存在する。仕組み上ペダリングしながら変速しなければいけないため、瞬間的に踏み込む力を抜いて変速ショックを和らげたりするものだ。ということは、多少なりともそこにパワーロスがあるはずなのである。

ガンガン踏み込みながらどのタイミングでもシフトアップ・ダウンしていける

一方、KICKR BIKEは変速ショックがゼロに近い。完全にゼロではなく、仮想的に、ごく小さなショックをあえて作り出している程度のもの。おそらく変速したことをわかるようにするためだろう。スプリントで、あるいは上り坂で思い切り踏み込んでいる時に、一切タイミングを図ることなくいきなりシフトアップ・ダウンしても何も問題ない。

表現として適切ではないかもしれないが、セミオートマのクルマを運転しているような感じと言えばいいだろうか。このおかげでどんなときでも脚力を確実にペダル、モーターに伝えて前に進むことができる。バーチャルレースでスムーズなシフトチェンジが有利に働くことは間違いないだろう。

毎回のメンテナンスも楽ちん。勝ちたいなら買うしかない!

最後にフィットネスバイクとして大切なポイントが、KICKR BIKE使用後のメンテナンス(清掃)のしやすさ。室内サイクリングでは大量の汗をかくので、その日のレースやワークアウトが終わる頃には、自転車の場合ハンドルやステム、トップチューブが汗まみれになる。さらに下の方にあるブレーキキャリパー、ペダル、クランク、チェーンなどにも汗がしたたる。これを防ぐためにタオルを掛けたり、トップチューブ上に橋渡して使うカバーを装着したりするわけだが、それでも防ぎ切れないものだ。

なので、終わった後は毎回必ずタオルで拭くことになるのだけれど、自転車の可動部は油脂類が付着しているので、汗拭き用のタオルでそのまま拭うわけにもいかない。別途雑巾なんかを用意しなければならず、わりと面倒だ。だからといってそのままにしておくとあっという間に錆びる。

ところがKICKR BIKEだと、むき出しの可動部が少なく、油脂類が付着している部分も見えるところにはほとんどないため、タオルでガンガン拭いていける。一番汗がかかるフレーム部分はプラスチック外装のため、水分は簡単に拭き取れるし、もし拭き残しがあっても錆びにはならない。お手入れのしやすさは抜群だ。毎日乗るのも億劫にならないので“コロナ太り解消”にもいいだろう。

ただ、ドリンクホルダーの位置がちょうど汗のしたたる位置にあるので、このあたりはロードバイク風のデザインとは切り離して、もう少し手に取りやすい位置にしてくれるとありがたかったかもしれない。それと、できれば取り付け・取り外しが簡単で洗濯も容易な専用のフレームカバーなんかがオプションであるとオシャレでうれしいなあ、と思ったりもした。

ドリンクホルダーがあるのは便利だが、そこは汗がしたたる位置。手に取りやすいハンドル前などにセットできたほうが良かったように思う

そんなわけで、自分の体型に合うフィッティングを好きなだけ試すことができ、自由度の高いセッティングでお気に入りの自転車を作り上げることも可能で、電動フィットネスバイクならではのストレスフリーでパワーロスのないKICKR BIKEは、バーチャルレースはもちろん、リアルレースでも“勝ちきる”ことを目標とする人にとって最高の室内トレーニング用バイクだと断言できる。これだけのメリットがあって50万円ならお買い得だ! と誰もが思えるのではないだろうか(実際に買えるかどうかは別として)。

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。AV機器、モバイル機器、IoT機器のほか、オンラインサービス、エンタープライズ向けソリューション、オートバイを含むオートモーティブ分野から旅行まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「できるGoProスタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS+Androidアプリ 完全大事典」シリーズ(技術評論社)など。Footprint Technologies株式会社 代表取締役。