日沼諭史の体当たりばったり!

第48回

トライアスロンを手軽に記録。Wahooのスマートウォッチ「ELEMNT RIVAL」

トライアスリート必携! Wahooの「ELEMNT RIVAL」などを試してみた

トライアスロンのオリンピックディスタンス(スタンダードディスタンス)と呼ばれる一般的なレースは、スイム1.5km、バイク40km、ラン10kmの3種目を連続で行なう、実に過酷な競技だ。どれか1つだけなら完遂できるとしても、3つ全てを一気にこなすとなるとハードルはとんでもなく高い。

とりあえず短い距離から練習するにしても、それなりに疲弊した身体で公道を走るのは危険だ。なので、そういうときはバーチャル環境を積極的に取り入れたいと思う筆者である。とにかく体力に自信がないのである。そんなわけで、前回は一部をバーチャルにした仮想トライアスロンにチャレンジし、メディアプレーヤー内蔵の骨伝導イヤフォンをレビューした。

"完全防水"骨伝導プレーヤー「OpenSwim」で仮想トライアスロンに挑戦!

このとき、イヤフォンと一緒にトライアスロン向けのアイテムを4つほど使っていた。メインはWahooの「ELEMNT RIVAL」というマルチスポーツGPSウォッチ。これがあると(環境によっては)自動的に3種目それぞれと全体の記録をまとめて残せるようになるのだ。今回は「ELEMNT RIVAL」のスゴいところを紹介するとともに、安全に、かつハードル低くトライアスロンに挑戦するための方法を提案したい。

「ELEMNT RIVAL」ならトライアスロンの個別の種目、区間の記録が簡単に

まずはじめに、トライアスロンという競技がおおよそどういう形で行なわれるものなのかを確認しておこう。トライアスロンは通常、海岸の陸や水中がスタート地点となり、そこからスイム(スイミング)で一定距離を泳いだ後、上陸してバイク(自転車)に乗り換え所定のコースを走行する。その後、自転車を降りてラン(ランニング)に移行しゴールを目指す、というのがざっくりとした競技の流れだ。

スイムからバイクへ、バイクからランへと移行するそれぞれの切り替え区間(時間)は「トランジション」と呼ばれる。このトランジションでは着替えや装備の交換、必要に応じてエネルギー・水分補給なんかを行なったりする。スイムのスタートからランのゴールまで、トランジションの時間も含む合計タイムが記録になるので、それぞれの種目を頑張るのはもちろんだが、トランジションもできるだけ素早くこなす必要がある。

なので、練習においても個別の種目のタイムを計っておきたいし、トランジションもできればタイム計測してシミュレーションしておきたい。それに便利な機能をもっているのが、「ELEMNT RIVAL」(直販価格3万6,000円)というスマートなスポーツウォッチだ。

ELEMNT RIVAL

心拍計、GPS、高度計、加速度計といったセンサーを内蔵し、スイミング、サイクリング、ランニングほか、さまざまなアクティビティのログをリアルタイムに記録する機能をもつ。スマートフォンとの連携で着信通知などを表示することもできるので、普段から装着して日常の時計(スマートウォッチ)代わりに使ってもいい。が、どちらかというとスポーツに特化したウォッチと考えておいた方がいいだろう。

背面には心拍センサーなど

「ELEMNT RIVAL」がもつ数ある機能のなかでも特に面白いのが、「マルチスポーツGPSウォッチ」をうたっているとおり、複数のアクティビティを連続で記録していけるところ。トライアスロンのように複数の種目を連続的に行なう場合、安価なスポーツウォッチでは1種目を開始・終了するごとにその都度同じような操作を繰り返さなければならない。

が、「ELEMNT RIVAL」には「トライアスロン」というアクティビティ項目があらかじめ用意されており、これをスタートさせるだけで、「スイム→トランジション→バイク→トランジション→ラン」という各種目・区間の記録を簡単に残していける。こうした種目などの設定はプロファイルという形で「ELEMNT RIVAL」に登録されている。

「トライアスロン」というアクティビティがあらかじめ登録済み
専用アプリ「ELEMNT」。さまざまなアクティビティのプロファイル(プロフィール)を確認・カスタマイズできる

基本的には、アクティビティを選択してボタンプッシュでスタートし、スイムが終わったら再びボタンを1回長押しし、トランジションから次のバイクに移行するときにまたボタンを1回長押しし……という使い方。つまり、切り替わりのところでボタンを押せばいいだけ。最終的にゴールでボタンを押して終了すると、すべてのアクティビティのデータが専用スマートフォンアプリやStravaなどの連携サービスにアップロードされる。

ボタンを押してトライアスロンのアクティビティをスタート
スイムの計測が開始
スイムが終了したらボタンを長押し
そうするとトランジションに入ったことになる
トランジションからバイクに移行するときは、もう一度ボタンを長押し
バイクの計測が開始。ランニングも同様の手順になる

当然ながらタイムだけでなく速度・パワー・ケイデンス・心拍の推移、一定距離ごとのペースなど詳細なデータが残り、アプリやWeb上で見ていけるので後から分析も可能。屋外のアクティビティについては地図上に経路をプロット表示してくれる。

種目ごとの詳細なデータが記録される

ボタンを押さずにトランジションできる「タッチレストランジション」

で、「ELEMNT RIVAL」がさらにすごいのは、機器や環境などの条件を満たせば、そもそもボタンを押すことなく区間ごとの切り替えができる「タッチレストランジション」という機能もあることだ。自転車に装着するサイクルコンピュータ「ELEMNT ROAM」(直販価格4万6,000円)または「ELEMNT BOLT」(直販価格4万2,000円)と組み合わせることで利用可能になる。

「ELEMNT ROAM」

「ELEMNT RIVAL」が内蔵するセンサーを活用し、サイクルコンピュータと接近したかどうかなどの情報も加味することで、アクティビティの変更を検知し、トランジションを含む切り替えを自動で行なってくれる。ユーザーがすべきボタン押下操作はスタートとゴールのときだけで、その間の操作は不要。ハードな競技だけに、途中でボタンを押すことを忘れてしまうこともあるだろうから、トライアスリートにとってはうれしい機能ではないだろうか。

「ELEMNT RIVAL」を「ELEMNT ROAM」などと連携するときは、スイム前にあらかじめ「マルチスポーツ」モードにして待機状態にしておく

ただ、このタッチレストランジション、かなり厳密に挙動などを解析して検知していることから、本格的にトライアスロンらしい動きをしないと期待したような切り替え動作が働かないようだ。筆者が今回チャレンジした室内でのバーチャルサイクリング(と家庭用プールでのスイミング)を含む仮想トライアスロンも、一部GPSを使えない屋内だし、設備上の都合から「室内サイクリング→ラン→スイム」という変則的な順番になってしまったこともあって、使えない。

そんなわけでタッチレストランジションは不可だが、「室内サイクリング→ラン→スイム」の順番で、それを単純なボタン操作で記録していくことはできる。アプリで「マルチスポーツ」のプロファイルを新たに作成し、「KICKR」(室内サイクリング)、「ランニング」、「オープンウォータースイミング」の3つのアクティビティを登録し、「ELEMNT RIVAL」に同期するだけだ。

アプリの「設定」から「ワークアウトプロフィールを追加」をタップし、「カスタムマルチスポーツプロフィール」を選択
「区間を追加」で「KICKR」、「ランニング」、「オープンウォータースイミング」を追加し、「仮想トライアスロン」として保存
「ELEMNT RIVAL」に同期され、アクティビティの選択肢の1つに「仮想トライアスロン」が現れる

これにより、最初はスマートサイクルトレーナーのKICKRシリーズを使った室内バーチャルサイクリングからスタートし、その後トランジションを経てランニングへ。さらにもう一度トランジションを経て最後のスイミングをこなすという、仮想トライアスロンのすべての記録を残せるようになる。

実際に「ELEMNT RIVAL」などを使って3種目をひと通りこなしてみたところでは、手動とはいえボタンを長押しするだけで簡単に次の区間計測を始められ、トランジションのタイムもきちんと残すことができた。アプリに保存されたアクティビティログでは、最初の区間のバーチャルサイクリングについては走行距離やパワーカーブ、ケイデンスなどがわかり、ランニングは1kmごとのペース、勾配の推移が表示され、屋外なので経路も表示された。もちろんトランジション区間の時間や移動距離も個別に記録されている。

バーチャルサイクリングからスタートし……
トランジションを経て……
ランへ
最後はスイム……的な何か。もう泳ぐ体力も気力もない
距離としてはオリンピックディスタンスの半分くらいになってしまったが、それでもバテた(左)、バイクの記録(右)
トランジションの記録(左)、ランの記録(右)

マルチスポーツ非対応のスポーツウォッチだと、トライアスロンのスタートからゴールまで、多数の面倒な操作が必要になってくるだろう。しかし「ELEMNT RIVAL」であれば都合6回ほどボタンを押すだけでよく、負担はかなり小さく感じた。リアルなトライアスロンのレース中だと、精神的な負担もより減らせるのは間違いないし、それが記録の良し悪しに関わってくる可能性もあるのではないだろうか。

ロードバイクをそのままセットできる新型スマートローラー「KICKR ROLLR」

ところで、筆者が仮想トライアスロンにチャレンジするにあたり、もう1つ新たに試したのが、Wahooが2022年2月に発表した新型スマートローラー「KICKR ROLLR」。直販価格は10万円で、同社のエントリーモデルであるサイクルトレーナー「KICKR SNAP」(同6万8,950円)とその上位モデル「KICKR CORE」(同11万3,000円)の中間に当たる。比較的リーズナブルに入手できるバーチャルサイクリング向けのスマートなローラー台だ。

「KICKR ROLLR」

「KICKR ROLLR」の最大の特長は、自転車のセッティングのしやすさ。屋外を走るのに使っているようなロードバイクをそのまま素早くローラー台にセットして、室内サイクリングに移行できるのだ。

たとえば上位モデルの「KICKR CORE」や「KICKR」は、ダイレクトドライブ式ということで、少なくとも自転車の後輪を取り外したうえで固定しなければならない。また、下位モデルの「KICKR SNAP」も後輪のハブを位置合わせして固定し、ローラー部分を押しつける、という手順が必要になる。このあたりは他社のサイクルトレーナーも同様の仕組みなので、いつもは屋外でサイクリングに使っている自転車を室内用にするにはひと手間かかるわけだ。

しかし「KICKR ROLLR」は、そうした手間がほとんどない。最初に自転車のサイズに合わせてサイズ調整しておけば、後は自転車を差し込むようにしてセットし、前輪側に用意されているノブを回して挟み込んで固定するだけ。おそらく慣れれば数十秒で屋外モードから室内モードに移ることができるだろう。

最初は分解された状態で届く。といってもパーツは2つなので、組み立ては簡単だ
後輪を載せるローラーは2つ
自転車を仮置きする
中間にあるストッパーを緩め、前後に伸ばして位置調整
最後にグレーのノブを回転させて前輪を挟んで固定し、設置完了

ただし、バーチャルサイクリングに使うときには注意しなければならない点がある。スピードセンサーしか内蔵していないため、バーチャルサイクリングソフトの「Zwift」などをプレーするときには、「POWRLINK ZERO」(直販価格11万3,000円)などのパワーメーターとなるデバイスを追加で用意しなければならないのだ。パワーメーターは他社のペダル型でもいいし、自転車のクランクに取り付けるタイプでもいい。

バーチャルサイクリングするならSPEEDPLAYベースの「POWRLINK ZERO」のようなパワーメーターも必要
専用の充電器で充電して使う
もちろんSPEEDPLAY用のクリートも必要だ

そういった後付のパワーメーターは高価なものが多いので、「KICKR ROLLR」はもともとそれらのパワーメーターを使ってサイクリングしているロードバイクユーザー向け、ということになりそうだ。それと、ローラーの動作音はそれなりに大きく、Zwift上でおおむね時速40kmを超えたあたりからなかなかの騒音と振動が発生するので、集合住宅で使うのは難しいかもしれない。騒音を気にする環境なら、やはりダイレクトドライブ式がおすすめだ。

通常のタイヤで200kmほど走行してみてもタイヤカスなどは出ず。ローラー用タイヤは必要なさそう

スポーツにガッツリ取り組みたい人や、バーチャルサイクリングユーザーに

トライアスリートとして活動している人、これからトライアスロンにチャレンジしたいと思っている人にとって、日々のトレーニングから本格レースまで、最小限の操作で正確に記録を残していける「ELEMNT RIVAL」は、きっと大きな力になってくれる。「ELEMNT ROAM」などと組み合わせたタッチレストランジション機能も引きは強い。

トライアスロンはまだちょっと……という人もいるだろう。それでも、屋内外でランニングやサイクリングをするときのアクティビティトラッカーとして普通に使えるし、Zwiftのようなバーチャルサイクリングをするときの心拍センサーとしても機能してくれる。まずは筆者のように仮想トライアスロンから身体を慣らして、いつかは本物のトライアスロンも、みたいな考えがある人にも「ELEMNT RIVAL」は役立つはず。

「心拍数ブロードキャスティング」をオンにすると心拍計として外部機器から認識できるようになる

3万6,000円と入手しやすい価格で、そういう意味でもハードルは低い。しかし、わりとマジメなスポーツ重視のスマートウォッチなので、ストイックに競技に取り組む人向け、という雰囲気は否めないところではある。アクティビティ中に音楽を聞くなどのある意味余計な機能はないから、そこは前回紹介したShokzの「OpenSwim」のようなイヤフォン型メディアプレーヤーをあわせて使うといいだろう。

最後に紹介した「KICKR ROLLR」は、価格がこなれていて屋外用のロードバイクを流用しやすい点はうれしいところ。だが、これからバーチャルサイクリングを始めようと考えている人には、パワーメーターの追加が必要だったり騒音対策も考えなければならなかったりして、結局高くつく可能性がある。そのあたりはしっかり見極めて選んだ方が良さそうだ。

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。AV機器、モバイル機器、IoT機器のほか、オンラインサービス、エンタープライズ向けソリューション、オートバイを含むオートモーティブ分野から旅行まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「できるGoProスタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS+Androidアプリ 完全大事典」シリーズ(技術評論社)など。Footprint Technologies株式会社 代表取締役。