日沼諭史の体当たりばったり!
第49回
動画初心者脱却! 撮影のコツは「耐える」こと!? ソニーに教えてもらった
2023年1月24日 08:00
世はまさに動画戦国時代。YouTubeをはじめとする動画サイト・アプリではアマチュアからプロまでどんどん動画配信しているし、以前はテキストでしかニュース配信していなかったメディアも動画コンテンツで伝え始めている。Watchの各媒体も動画チャンネルをスタートさせていて、1ライターである筆者としても、もはや指をくわえてのほほんとはしていられない状況……なのかも。
しかし、写真を撮るのには慣れていたとしても、動画となると勝手は大きく変わってくる。スマートフォンなどで動画撮影することもあるけれど、後で見返すとなんだかイマイチ感が漂うし、でも具体的にどこがイマイチなのかは気付けない。結果、いつまでたっても動画撮影が上手にならなかったりする。そんな風に悩んで動画を諦めそうになっている人は筆者以外にもいるのではないだろうか。
右も左もわからない動画初心者からなんとかして脱却したい! そう思ってAV Watch編集部に相談してみたところ、ソニーのカメラ商品担当の方に直接講義してもらえることになった。というか、2023年からいよいよ編集部単独で動画チャンネルを始めるらしく、それに向けての勉強会も兼ねているらしい。民生用から業務用まで、ビデオカメラ開発に長い歴史をもつ日本有数のメーカーに話を聞けるまたとないチャンス! というわけで、ソニーに伺って動画撮影の基礎の基礎を学んできた。
すでに本格的に動画撮影している人は、今回の内容は「当たり前の作法」として実践していることかもしれない。が、今まで「なんとなく」で動画撮影していたけれど、ちゃんと頭で理解して撮れるようになりたい人、もしくはこれまで写真撮影は趣味にしていたけれど動画となるとさっぱりコツがつかめない、みたいな人にはきっと参考になるはず。使う機材がカメラかスマホかに関係なく、動画撮影が上手くなりたい人にぜひ読んでいただきたい。
撮影を始める前に~ストーリーを具体的にイメージしよう
動画撮影をさっそく始める前に、まず初めに準備しておきたいこと。それはソニーの担当者いわく「何を、どのように撮るのか」だ。そんなの当然でしょ、なんて言われそうだが、ここで言う「何を、どのように」というのは、被写体を明確にし、動画全体のストーリーと再生時間(尺)もあらかじめ具体的にイメージしておくこと、だという。
そもそも仕事のプレゼン資料にしても、まさしくこういった記事の原稿にしても、細部を作り(書き)始める前に、全体の流れやストーリー、ボリューム(ページ数や文字数)をある程度決めて、場合によってはアウトラインを固めてから中身を肉付けしていくものだ。それは動画も同じこと。いきなり撮影し始める前に、何を、どういう流れで、どれくらいの時間で見せたいかを、頭の中で組み立てておきたい(と言いつつ筆者の場合、それこそ行き当たりばったりで原稿を書き始めて無駄に時間をかけてしまうこともあるけど!)。
とはいえ、動画を撮るときというのは、子供の姿を撮りたいとか、旅行先の景色を記録したいとか、単純な動機がきっかけだったりもする。そこに何らかのメッセージを込めて誰かに伝えたい、と事前に考えて撮ることの方が少ないだろう。しかし、だとしても、場当たり的にだらだら撮影しただけの映像より、あらかじめ頭で描いた構図や流れに沿って撮影した方が、何を撮ろうとしているのかが伝わりやすく、後の編集作業も楽になったりするものだ。
そういうことで、構図をきちんとイメージして「さあ撮るぞ」という決意のもと、しっかりカメラを構えたらRECボタンを押して撮影開始。このとき、常に被写体の目線の高さに合わせてカメラを構えることも大事なことだという。人だけでなくペットを撮影するときも、その目線に合わせて撮影することで、わかりやすい、安心して見られる映像になるだろう。
カメラの扱い方その1:基本はフィックスで撮る
次に動画撮影で初心者が陥りがちな失敗として挙がったのは、カメラの扱い方。たとえば学校の運動会などで我が子の頑張る姿をしっかり映像に残したいがために、走っているところをカメラで追いかけるようにして撮影することがあるかもしれない。けれど、そうやってカメラを動かすのは実は「高等テクニック」。だいたいは手ブレでガタガタの映像になったり、傾いてしまったりして、「見ていてつらい」映像になってしまうのがオチだ。
そういった「被写体を追いかけてカメラを振り回す」のが、動画初心者がよくやってしまう行動の1つなわけだが、ここで大事なのはカメラを動かさないこと。いわゆる「フィックス」の状態で撮影するのを基本にすべきだという。
我が子の走る姿を撮影するのであれば、走る範囲を見極めて引きのアングルで撮ることで安定した映像になる。または、被写体が画面外からフレームインしてくるように撮影する、というのもいい見せ方だ。動きの予測がつきにくいときは、4K解像度の設定にして広めの視野で捉えておき、後でフルHDにクロップして仕上げる、という方法もある。
いずれにしろ、被写体を追いかけたくなるところをぐっと堪え、フィックスで撮ることが大切。どちらかというと「画面の中で被写体が動く」のを意識して撮るといいようだ。カメラを振る映像はテレビ番組や映画でよく見るイメージもあるが、実際のところ「映像作品では、シーンの6割がフィックスと言われている」そうで、プロが手がける映像でもフィックスは基本であることを覚えておきたい。
カメラの扱い方その2:ズームしながら撮らない
撮影中にいきなりズームイン・アウトすることも、初心者が犯しがちな失敗パターンだ。これは最初に説明した「ストーリーを具体的にイメージしよう」という点が実践できていないから、という問題にもつながってくるが、撮影中に気になるものを見つけたからと言って唐突にズーム操作するようなことは避けたい。
なぜなら、これもカメラを振るのと同じく、安定してズームするのは高度なテクニックを要するもので、映像が不安定になってしまうため。ブレのない安定した映像で撮影する、というのは大前提なのだ。そこで代わりに使えるテクニックが、ズームイン状態のカットと、ズームアウト状態のカットという2つのシーンに分けて撮影すること。そうすればブレることは少ないし、テンポのいい映像にもなる。
もちろん、ズームが演出として効果的に働く場面もある。遠くの景色の中に人がいて、その姿がくっきり見えるようにゆっくりズームインしていく、みたいな演出も考えられるだろうし、反対に目一杯ズームインしたところから徐々に引いていって、それがどんな場所・モノなのかを明らかにする、といった見せ方もあるだろう。そのような「スパイス的な使い方は大いにアリ」だ。
しかし、「スパイス的」なものだけあって、見ている人の心理として「ズームに何らかの意図を感じてしまう」ことが少なくない。意味のないズームは逆効果で、見ている方としてはもやもやするだろう。ズームは、それをしている最中の途中経過にこそ意味があるべきものなので「ここぞというとき」に絞って使うようにしたい。
カメラの扱い方その3:5秒フィックス→動かす→5秒フィックス
そうはいっても、カメラを一切動かさないフィックス撮影のみだと、それこそ単調な止め絵みたいなものだらけで面白味がない映像になってしまう可能性もある。特に動きの少ない風景などを撮影する場面では、代わりに積極的にカメラを動かしていくことも必要だ。
そのときに心がけたい撮り方が、「5秒フィックス→カメラを動かす→5秒フィックス」という流れ。カメラを動かすときは原則1方向、1回のみとし、前後に必ず十分なフィックスの時間を設ける。「たとえるなら、習字の書き方」とも話していたが、習字では最初に筆を下ろし、溜めをつくってからゆっくり線を引き、最後にまた溜めをつくって止めたりする。カメラもそのイメージで動かすわけだ。
もちろん、カメラを動かすときは可能な限りブレを少なくするのが必須。そのためには足は肩幅に広げ、肘と脇を締め、水平を保ちながらゆっくり動かす。極力安定した映像を狙うなら三脚を使うのがベストだろう。もしくは自動で水平を保ってくれるジンバルのようなアイテムを併用するのも手だ。
ただし、ジンバルは「横揺れは少ないが縦揺れは残りやすい」場合があるため、いずれにしてもブレを最小限にするには姿勢に注意しなければいけない。ジンバルを使って歩きながら撮影するときも、膝を柔らかく使うことが重要、とのことだ。
シャッタースピードの決め方は?
ここまで撮影の心構えやカメラの扱い方について説明してきたが、冒頭でも書いたように動画と写真では勝手が異なるところが多々ある。たとえばカメラの設定はどのようにするのが最適なのだろうか。
写真だと瞬間を切り取るだけなので、あくまでも「きちんと見られる」ものに仕上げるだけであれば、シャッタースピードや絞り、ISO感度はかなり自由に選ぶことができる。しかし、映像を連続して撮ることになる動画は、さまざまな外的要因からカメラ設定に制約が出やすい、ということを覚えておく必要がある。
まずはシャッタースピード。これは動画のフレームレートとの関連性が大きいため、最も注意しておくべきポイントだ。仮にフレームレート60fpsの動画を撮影しようとしたときにシャッタースピードが「1/60」(60分の1)未満になっていると、想定しているフレームレートより画像枚数(変化)が少なくなるため、動きに違和感のある映像になりかねない。かといって、フレームレートより画像枚数が多くなるシャッタースピードであればなんでもいいのか、というとそういうわけでもない。
ここでソニーの担当者がおすすめしているシャッタースピードの求め方が、「1/(フレームレート×2)」という計算式。たとえば30fpsで動画撮影するのであれば「1/60」というシャッタースピードにするのが適していることになる。シネマチックな24fpsにするのであれば「1/48」となるが、カメラにはそうした中途半端なシャッタースピードの設定はないので「1/50」とする。こうすることで、水が早く流れているようなシーンを撮るときに、肉眼で見るのに近い自然なブレ感を再現できる、というメリットもある。
ところで、そこから考えると60fpsの動画なら「1/125」となるわけだが、ここでもう1つ気を付けたいのがフリッカーだ。「1/125」というのは、蛍光灯のような光源があるところで撮影したときに、画面全体が点滅するようなフリッカー現象が発生しやすいシャッタースピードで、映像が見にくくなってしまう。そのため、シャッタースピードは最大でも「1/100」に抑えるべき、とのこと。特に屋内で撮影するときはこの原則を守りたい。
見やすい明るさをキープするには?
次に考えるべきポイントは明るさだ。見やすい映像にするには適切な明るさで撮影する必要があるが、先ほど説明したようにシャッタースピードはフレームレートによってほぼ固定されてしまうため、写真撮影のときのようにシャッタースピードを調整して明るさを変える、という方法はとれなくなる。
となると、カメラ本体でとれる残りの手段としては、絞り(F値)を変えるか、ISO感度を変えるかのどちらか。だが、このうち絞りも動画撮影ではそこまで自由に変えられない。というのも、映像のテイストとして背景をぼかすようにして撮りきりたいなら開放のままとなるし、人物や背景を含めてしっかり見せたいなら絞る方向になるからだ。しかも、絞りを一連の動画撮影のなかでたびたび変えるのは「違和感のある映像になりやすい」。なので、絞りもほとんど固定となる。
そういうわけで、明るさ調整で最も利用しやすいのはISO感度の変更ということになるが、これも高くするとノイズが目立つ問題がある。暗いからといってむやみに高感度にするのは避けたいところだ。したがって、カメラ本体だけで適切な明るさをキープできない場面では、外部の機材に頼ることになるだろう。
たとえば、ISO感度を最低にしても露出オーバーとなるような明るすぎる場所では「NDフィルター」を使う。業務用のビデオカメラだと内蔵しているものもあるというが、写真用カメラやFX30のような動画用カメラでは、レンズに装着する一般的なNDフィルターを利用することになる。撮影中に暗い場所から明るい場所に移動するなど、素早く明るさ調整しなければならない場面が想定されるときは、回転させたりすることでフィルター濃度を変更できる可変NDフィルターを使うのがおすすめだ。
反対に暗すぎてISO感度を高くするとノイズがのってしまう場面では、やはりライティングを駆使することになる。メインの被写体となるのが人物(の顔付近)だけであれば、カメラに装着する小型のLEDライトでも間に合うだろう。しかし、室内全体を明るく照らさなければならないようなときは、大型の照明機材が必要となって、その分コストも労力も増えることに注意したい。
動画撮影時にこうしたカメラ設定をあまり自由度高く変えられないスマートフォンでは、せいぜいできることとしてはライティングで工夫することくらいだろう。その意味でも、レンズを交換することが可能なカメラは、動画撮影において大きなアドバンテージがあると言える。動画でも、写真のときと同じようにズームレンズが1本あると便利だが、明るさを稼ぐことを考えると、短焦点・固定焦点のレンズを1、2本備えておくと安心、とのことだ。
動画用カメラと写真用カメラの違いはどこにある?
そんな風にレンズ交換などで柔軟な撮影が可能になるカメラ。写真用のカメラを動画撮影に流用するのももちろんアリだが、ソニーの映像制作用カメラである「FX30」のように、最近では写真用カメラのようなフォルムで、動画撮影に特化したカメラもいくつか登場し始めている。では、写真用カメラと動画特化のカメラとで、具体的にどこがどう違うのだろうか。もし本格的に動画撮影に取り組むのであれば、その違いも知っておくと機材購入時の参考になりそうだ。
まず写真用カメラと動画用カメラの外観を比べた時、大きく異なる点は操作性。下記の画像にあるように、動画特化のカメラであるFX30にはファインダーはなく、専らディスプレイで映像を確認することになる。動画用カメラはシャッターボタン外側が電源スイッチではなくズームレバーになっているうえ、モード切替のダイヤルもない。動画撮影を開始・終了するRECボタンの位置は写真用カメラだとシャッターボタンの近くにあったりするが、動画用カメラでは天面手前側に移動していることもわかる。
これらの違いが生まれている要因は、ひとえにカメラの使い方の違いからくるものだという。写真撮影だとカメラを顔の前で構え、ファインダーを覗いて撮影するスタイルが標準的。しかし、動画撮影ではそれだと視点が高すぎる場合が多く、胸か腹、あるいは腰あたりからのアングルが適切なものとなる。したがって、撮影者は上からカメラを見下ろす形で(角度が可変の)ディスプレイを見ながら撮影するので、ファインダーは不要になるわけだ。
また、胸~腰あたりに構えるということで、カメラの保持の仕方も写真用とは変わってくることになる。人差し指をシャッターボタンに置くのではなく、親指を天面に置くような握り方がより自然だ。そういうこともあり、RECボタンも親指で押しやすい位置に調整されている。
しかもFX30では、RECボタンがさらにカメラ前面(下記写真内の「6」のボタン)にも用意されている。これは、手ブレ防止のジンバルとセットで使うときに、真上からボタンを押してしまうとバランスが崩れやすいため、とのこと。撮影の開始と終了のたびに映像に余計な動きが入ってしまわないように、という配慮だそうだ。
モード切替については、動画撮影では一度設定を決めるとほとんどそこから変更することがないため、物理的なダイヤルはなくしてシンプルにし、代わりにディスプレイ内で設定できるようにしている。電源も同じように、動画撮影ではずっと電源を入れたまま撮影し続けるパターンが多いことから、誤ってオフにしにくい位置と形状になっている。FX30ではディスプレイの左上というかなり目立たない(誤操作しにくい)場所だ。
外観上の他の違いとしては、動画用カメラ(FX30)はねじ穴やファンクションボタンが多いこと、といったあたりが目に付きやすいところだろうか。モード切替ダイヤルのようなスペースをとる物理スイッチをなくした代わりに、動画撮影に便利なアクセサリーを取り付けやすくしたり、機能ショートカットを使いやすくしたりする工夫を加えているわけだ。また、処理負荷の高い動画撮影において、長時間安定稼働させるために冷却機構を内蔵している、というのもFX30の特徴だろう。
そしてもう1つ、動画用カメラでは「パワーズームレンズ」が使えるのも大きなメリットだ。写真用カメラでは手でレンズのズームリングを回転させなければならず、どうしてもぎこちない動きになってしまうが、パワーズームレンズは動画用カメラのズームレバー操作で、一定速度のスムーズなズームイン・アウトが簡単に行なえる。安定した見やすい映像を狙うなら、やはり動画用カメラが圧倒的に有利と言えるのだ。
基礎を押さえたうえで動画の撮影へ、成果は!?
そんなこんなで、動画撮影の基礎を学んだ後に実際にFX30を使って撮影してみたのが下記の動画だ。単なる風景を撮影しただけの映像なので、あまり面白味はないかもしれないが、教わったことを忠実に再現することを心がけたおかげで、少なくとも「見ていられない」ような動画にはなっていない……と思う。もっと手ブレを抑えた方が良さそうだけれども。
なお、動画においては音声をいかにきれいに録るか、というのも大事な部分。被写体の声だけを録りたいならショットガンマイクのような指向性の強いマイクを使うのもいいし、ワイヤレスピンマイクを演者の人に身に付けてもらうのもいいだろう。カメラ用の外部マイクには指向性を変える機能や、ローカットフィルター、ノイズキャンセリング機能をもつモデルもあるので、用途やシチュエーションに合わせて活用したい。
今後動画撮影するときには、ここでの経験をフルに活かして臨みたいところ。写真より考えるべきことが多く感じる動画撮影だが、自分なりの「型」がある程度決まれば、手間取ったり悩んだりすることも少なくなりそうな予感はする。とりあえず、スマートフォンで撮影するときも、とにかく動かさず、耐えること。それを守るだけでもすいぶんと動画の「クオリティ」は上がるはずだ。