ミニレビュー

Auracastの便利さってこういうコトか! 新幹線でスマホ音声を家族とシェアしたら楽しかった

JBLの完全ワイヤレスを使って、新幹線でAuracastを体験してみた(※画像のUIは、撮影時のもの)

Bluetoothの新世代規格・LE Audioの機能として注目が集まっている「Auracast(オーラキャスト)」。従来、 Bluetoothといえば1対1の通信が基本だったわけだが、AuracastではBluetoothの利便性を保ったまま1台のデバイスから複数デバイスへ音声の同時伝送(ブロードキャスト)が行なえるようになった。

駅・空港やイベント会場など、公共施設での便利な利用シーンが想定されており、さまざまな分野での拡張が期待される。

なお、一般ユーザー目線では、対応機器が出始めた状態の現在は「自分だったらどういう時に活用できるんだろう?」と、イメージしきれていない人も多いかもしれない。

かくいう筆者も、これまでは「技術的な知識として入れとこう」的に、何となく情報を追っていた感じだった。

……のだが、ついに先日、プライベートで「Auracastって便利だわ」となる体験をしたのでちょっと語りたい。

遡ること9月上旬、家族旅行で東京〜大阪間の新幹線(往復)に乗った。その車内で、Auracast対応イヤフォンを使ってスマホの音声を家族とシェアしてみたところ、これが想像以上に快適で、「我々一般人がAuracastで叶う便利シーンてこういうコトか!」と実感したのだ。

せっかくなので、その際の所感をミニレポート的にお届けする。

サラッとAuracast対応を打ち出すJBLの完全ワイヤレス

さて、Auracast再生を行なうには、コンテンツを再生するスマホなどのデバイスのほかに、「Auracast送信するブロードキャストデバイス」と「Auracast受信デバイス」が必要となる。筆者は今回、JBLの完全ワイヤレスイヤフォン「Tour Pro 3」と「Sense Pro」を使った。

そう、JBLといえば言わずと知れた名門老舗ブランドなわけだが、往年の高音質を軸にしつつ、このような機能性でも個性が光る製品を続々送り出していることに注目したい。

「JBL Tour Pro 3」(Latte)

特にAuracast体験の軸になる機能を持っているのが、Tour Pro 3だ。ご存じ、JBL完全ワイヤレスイヤフォンのフラッグシップで、2024年に発売された大ヒットモデル。

最大の特徴は、充電ケースにタッチディスプレイを搭載することで、ここから再生操作やANCモードの変更などが行なえる上、Bluetoothトランスミッター機能まで搭載している。

実はこの充電ケース、Auracastのブロードキャストデバイスにもなるのだ。「イヤフォン本体がAuracast受信機で、充電ケースがAuracast送信機」という仕様はかなり先進的なデザイン。

昨年の発売以降、玉石混交の完全ワイヤレスイヤフォン市場でユニークな地位を築いているTour Pro 3だが、改めて“先駆的”という面でも強い。

「JBL Sense Pro」(グレージュ)

続いて、もうひとつのAuracast受信デバイスとして使ったのが、オープンイヤー型の新モデル、Sense Pro。近年人気の、耳をふさがず周囲の音を取り込みながら音楽を楽しめる、“ながら聴きイヤフォン”である。

Sense Proは、JBL自ら「オープン型完全ワイヤレスの最高峰を目指した」と謳う最新モデルで、新開発の専用16.2mm径ドライバーと独自の「リアアコースティックポート」によって、オープン型ながら強力な重低音再生を実現していたり、「角度調整ヒンジ構造」と「リキッドシリコンイヤーフック」で高いフィット性も備えるという、“つよつよな”新製品だ。

11月の一般発売に先駆け、10月26日までクラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING」で支援を募っているが、10月10日時点ですでに目標額の5,692%(!)を達成して大成功している大注目モデルである。

で、そのイヤフォン本体が、しっかりAuracastの受信デバイスとして使えるのだ(※Tour Pro 3とは異なり、充電ケースがAuracastのブロードキャストデバイスにはならないので、Auracast送信対応機器が別途必要となる)。

なお、ぶっちゃけた話をすると、今回はメーカーから提供されたそれらのサンプル機が筆者の手元にあったので、何気なく「Auracast試してみるか……」くらいのノリでやってみた。そうしたら、「かなり良いじゃん……!」ってなった感じだ。

スマホ+JBLイヤフォンでAuracast再生の基本手順

改めて、今回のAuracast体験環境を説明すると、まず体験したのは筆者と夫の2人。場所は東京〜大阪間の新幹線のぞみ内で、約2時間半の乗車時間で体験した。コンテンツ再生デバイスには、夫のAndroidスマートフォン(Pixel 8a)を使用し、筆者がSense Pro、夫がTour Pro 3を装着して音声シェアした。詳しい手順は以下の通り。

【1】Tour Pro 3の充電ケースをスマホと有線接続
まずは、コンテンツ再生に使う夫のスマホと、Tour Pro 3の充電ケースをUSB-Cで有線接続。続いて、充電ケースのディスプレイをスライドしてBluetooth設定の画面を表示させ、そこにある「Auracast」の項目をオンにする。

これだけで配信側の準備は終わり。Auracast受信デバイスとなるTour Pro 3のイヤフォン本体については、特に何もする必要がない。

なおTour Pro 3には、スマホやタブレット等と有線接続するUSB-Cケーブルと3.5mmステレオミニケーブルが1本ずつ標準付属している。対応機能を使いこなすための必須アイテムを、あらかじめ同梱してくれている配慮がありがたい。

【2】Sense Proの接続
続いて、もう1台のAuracast受信デバイスとなるSense Proの接続設定を行なう。まず、筆者のスマホとSense Proを通常通りBluetooth接続。続いて、そのスマホにインストールした「JBL Headphones」アプリから設定画面を開いて「Auracast」の項目をオンに。

すると「近くにあるブロードキャスト」の一覧にTour Pro 3が表示されるので、それをタップして選択すれば接続完了だ。

この時、コンテンツ再生を行なうデバイス(今回は夫のスマホ)側で、YouTubeなど再生に使うアプリを起動しておかないと、ブロードキャストデバイスの一覧に対応機器(今回はTour Pro 3)が表示されないので注意されたい。

ちなみに補足しておくと、「Pixel 8」以降のPixelシリーズは、スマホ単体でAuracast送信に対応している。ソニーのヘッドフォン(WH-1000XM6など)と組み合わせてAuracastを利用可能と公式アナウンスされており、対応製品を使用すればブロードキャストデバイスはなくてもOKだ。

ただ、現状はiPhoneも含めAuracast非対応の再生デバイスを使用するケースも多いと思われるため、本記事ではTour Pro 3の充電ケースをブロードキャストデバイスとして使うパターンで紹介させていただいた。

新幹線でコンテンツをシェアしながら会話できるという楽しさ

というわけで、東京〜大阪間を往く約2時間半、新幹線の車内Wi-Fiを活用しながら、YouTubeの将棋実況チャンネル「将棋実況 そら」を、夫婦で一緒に視聴してみた。

筆者がSense Proを着用し
夫がTour Pro 3を着用

まず感じたのは、1台のスマホの音を2人同時に“しっかり”聴けるという快適さ。片耳ずつイヤフォンを分け合うのではなく、それぞれ自分の耳にフィットさせた状態で、同じコンテンツを楽しめるのが良い。今回使った限りでは、遅延もほぼ感じることがなく、実況の同じポイントで夫婦揃って笑ったりできたほどだ。

特に、筆者が装着したSense Proはオープン型だが、新幹線の走行音や車内の騒音に負けることなく、想像以上にしっかり音声を楽しむことができてびっくりした。音漏れを最小限にしつつ、耳にはしっかりした音声を届けるという「JBL OpenSoundテクノロジー」が効いているのだろう。

サウンドを鳴らすと同時に、逆位相の音をぶつけることで音の拡散を劇的に低減する技術だ。

おそらく飛行機だと周囲の騒音に負けてしまうと思われるが、オープン型にしては低音がしっかりしているチューニングの妙もあり、新幹線くらいだとちょうど“音漏れを気にせず、音声が良い具合に聴こえる”というバランスで楽しめた。

おかげで車内のアナウンスにも気づくことができるし、コンテンツを視聴しながら夫との会話も両立できて、かなり便利だった。夫のTour Pro 3はアンビエントモードで使用していて、Sense Proほどオープンではなくとも、すぐ隣にいる筆者が話す声は余裕で聴き取れていたので、会話はバッチリ成り立った。

まあこの辺はAuracastだけでなく、JBLイヤフォンの使い勝手との合わせ技ではある。Sense Proのようなオープン型や、Tour Pro 3のようにアンビエントモードを搭載する完全ワイヤレスを組み合わせることで、“Auracastで音声シェアしている相手と会話も成り立つ”という状況が作れるわけだ。

特に、我が家は中年夫婦2人の旅行であるが、小さいお子さん連れで旅行する時にもかなり良いんじゃないだろうか。新幹線での退屈しのぎに、親御さんのスマホでコンテンツを再生して、親子で音声シェアして視聴しながらコミュニケーションも取る……という使い方はかなり有力であろう。

また、音楽コンテンツを再生した場合も、それぞれのイヤフォンのキャラクターがちゃんと感じられたのが良かった。

Sense Proは上述の通り低音がしっかり出ているのが特徴で、オープン型と侮っているとびっくりするほど、想定以上に“音楽を聴くイヤフォン”として楽しめる。

さすがに静かなピアノ曲なんかを新幹線で聴くと、周囲の騒音にかき消されやすいが、それでも旋律は追える感じ。移動中に気軽に音楽を楽しむには、十分なクオリティだ。

なお、音楽をガッツリ満喫するなら、強いのは言うまでもなくTour Pro 3。もちろんANCをオンにすればさらに没入度が増し、音楽の細部まで堪能できる。

新幹線が、“ただの移動”から“共有する時間”へ

そんなわけで、手元に対応機器もあるし、ふと「試してみるか……」くらいのノリでやってみたAuracast再生。結果、新幹線内の過ごし方が、“ただの移動”から“共有する時間”へ変わった。Bluetooth技術はさりげなく、ちょっとずつ進化していて、こんな風にいつもの旅行の一コマを変えてくれるんだなあ……と実感する体験だった。

杉浦みな子

オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀……と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハーです。 執筆履歴はhttps://sugiuraminako.edire.co/から。