【新製品レビュー】

無線LANでiPhoneワンセグ。「SEG CLIP mobile」を試す

緊急時には外部バッテリに変身。他社製品との比較も


SEG CLIP mobile

 2011年3月に起きた東日本大震災において、ワンセグが果たした役割は小さくなかったと思う。災害中は、正確な最新情報の取得は重要な要素のひとつだ。あの震災の中、多くの人が、ワンセグのおかげで、何が起きているかを知ることができたはずだ。

 かくいう筆者は地震発生時、都内で外出中だったのだが、iPhoneしか持っておらず、ワンセグも見られずに、「何が起きてるんだ」と非常に不安な思いをしたものである。その時はネットを見ることができたが、通信回線が停止するような災害が発生した時のことを考えると、やはりワンセグを見られる機器があるに越したことはない。

 ワンセグというと、日本の普通のケータイならばほとんどの機種に内蔵されている。最近ではスマートフォンが増えているが、日本で発売されるAndroid端末の多くもワンセグを搭載するようになった。一方のiPhoneシリーズはワンセグを搭載していないが、その代わりに、iPhoneでワンセグを視聴するためのアクセサリ製品がいくつか存在している。アイ・オー・データ機器が発売した「SEG CLIP mobile(GV-SC500IP)」(6月中旬発売/12,075円)も、そんな製品のひとつだ。




■約50gの軽量デザイン

SEG CLIP mobileはiPhoneと比べてもかなり小柄

 SEG CLIP mobileのサイズは、85×41×11mm(幅×奥行き×高さ)、重さは約50g。サイズ的にはかなり小さく、カバンに入れておいてもほとんど邪魔にはならない。むしろカバンの中で迷子になりそうなレベルだ。色が黒いので、とくに注意が必要である。

 本体からはストラップ状のループが出ているが、これはストラップではなく、ループアンテナ。ちょっと引っ張ったくらいでは、まったく抜ける気配はないが、ストラップとしては使用できない、と注意がなされている。SEG CLIP mobile自体の重量くらいなら支えられそうだが、無理に引っ張ったりすると断線の危険性があるのだろう。


 iPhoneとの接続は無線LANで行なうため、ケーブル接続する必要はないが、SEG CLIP mobile側も充電する必要がある。電池容量は1,020mAh(3.8Wh)で、連続視聴時間は最大約4時間とのことだ。映像を受信するiPhone側も電池は消費するので、利用状況によっては視聴時間はさらに短くなることになる。充電はUSB経由で行なう。なお、バッテリは交換可能で、別売(GV-SC500BA/3,255円/7月中旬発売)もされる。

 また、同梱の変換ケーブルを使うことで、USB出力の外付け電池としても利用できる。1,020mAhはiPhone自体の電池容量より少ないが、SEGCLIP mobileが満充電の場合、iPhoneの使用時間を約30%程度延長できるという。緊急時に便利な機能だが、ワンセグをたくさん使う場合は、外付け電池として使う余裕はなさそうだ。

側面にスイッチと充電・給電兼用USB端子があるのみ電池容量は1,020mAh(3.8Wh)

 視聴に用いるアプリ「SegClip」は、App Storeからダウンロードする。もちろん無料だ。iPhoneだけでなく、iPadやiPod touchでも使うことができる。ちなみに対応はiOS 3.1.2以降となっている。



■ワンセグ録画機能はなく視聴のみ

 視聴の手順としては、まずSEG CLIP mobile側面の電源スイッチを「ON」にして、続いてiPhone側で無線LAN接続先の設定をSEG CLIP mobileに変更し、それからアプリを起動させる。初回起動時のみチャンネル設定が必要だが、以降はアプリ起動時にチャンネルリストが表示され、それをタップするとすぐに視聴できるようになる。

 SEG CLIP mobileは電源がオンになると、すぐにアクセスポイントとして見えるようになるので、接続に時間はそれほどかからない。しかし無線LANの切り替えが必要というのはちょっと手間だ。SEG CLIP mobileをオフにしても、iPhoneはSEG CLIP mobileの設定を維持してしまい、インターネット通信ができなくなるので、使用後には必ず無線LAN設定を切り替える必要がある。

視聴画面。オンスクリーン表示は放っておくと消える字幕表示も可能だ

 視聴アプリは非常にシンプルで、録画機能はない。字幕のオン/オフと音声のステレオ・モノラル切り替え、画面の拡大率変更ができる。映像表示は横全画面専用で、縦画面では表示できないが、横画面ではiPhoneの上下に合わせ、180度回転する機能もある。一方、チャンネルリストは縦画面専用なので、リストからチャンネルを切り替えてザッピングする、というのがやりにくい。ちなみに視聴中は画面表示をオフにしても、音声のみの聴取が可能なので、移動中にスポーツ中継を音だけで聴く、といった用途にも使える。

 放送波に乗っているEPG番組表を見ることもできるが、これはチューニングしていないチャンネルのものは見られない。しかしキャッシュはするので、直前にチューニングしたチャンネルの番組表はチャンネルリストから見ることもできる。

 ワンセグは、放送自体が320×180ドットと解像度が低めなので、iPhoneで全画面表示すると画質の悪さが目立つ。しかしこれはワンセグ放送自体がそうなっているからなので、ほかのワンセグ機器に比べて画質が劣っているというわけではない。

 視聴中は、SEG CLIP mobileとiPhoneを離れた場所に設置できる。自宅など固定環境で視聴するときは、SEG CLIP mobileを窓際などワンセグ電波の捕らえやすい場所に置いて、iPhone 4は卓上の見やすい位置に置く、といった「離れ業」も可能だ。iPhoneとSEG CLIP mobileは、両方とも充電しながらワンセグを視聴できるので、長時間の番組も大丈夫。しかし、両方とも使っていると少々熱を帯びてくるので、ちょっと心配になる。

チャンネルリスト。こちらはなぜか縦画面専用EPG番組表も縦画面表示専用

 ワンセグの音声は、Bluetoothヘッドホンへ出力できた。筆者が試したのはSCMS-T(ワンセグの音声を伝送するときに使われるBluetoothの拡張仕様)対応のヘッドホンだが、実際にSCMS-Tを使って通信しているかは不明だ。過去、ソフトバンク純正のワンセグチューナ「TV&バッテリー」がアプリのバージョンアップとともにBluetoothによる音声出力ができなくなった例もあるので、この仕様が将来に変更されるかもしれない。

 ただし、iPhoneでBluetoothを使うと、映像にノイズが増え、視聴が困難になってしまう。正直言って、あまり実用的ではない。あくまで推測だが、iPhoneはBluetoothと無線LANで、アンテナか無線チップを共有していて、それらの同時使用が何らかの影響を及ぼしている可能性がある。ちなみに、iPadでは同様のノイズが少ないように感じられた。

iPad版の視聴画面。このほかにも全画面表示も可能iPad版ではチャンネルリスト、EPG番組表と映像を同時に見られる


■自宅・移動中の両方で使うiPhoneワンセグの選択肢として

左から「ちょいテレi」、「SEG CLIP mobile」、「TV&バッテリー」

 iPhoneでワンセグを視聴するための製品としては、この「SEG CLIP mobile」に加え、ソフトバンクの「TV&バッテリー(9,980円)」とバッファローの「ちょいテレi(11,130円)」などがある。どの製品が良いかは、利用シーンによって異なるという印象だ。それぞれにメリットとデメリットがあるので、自分にあったものを選ぶべきだろう。

 個人的には、ちょいテレiがいちばん手軽で使いやすいと感じる。Dockコネクタにぶっ挿せば、それだけでワンセグを視聴できるという手間のなさが魅力だ。録画対応など、アプリも高機能である。しかしDockコネクタにユニットが接続されっぱなしというのは、手に持って視聴するときは少々邪魔だ。SEG CLIP mobileのように、iPhone自体を充電しながら視聴できないので、長時間視聴にも向かない。

TV&バッテリー(右)は厚みがあるので、一回り大きいと印象

 TV&バッテリーは、ちょっと古い製品(2009年発売)だが、それだけにアプリもいろいろ進化していて、小技が効かせられる。たとえばアプリ内で無線LANの切り替えができたり、別売りアプリでリモート視聴にも対応できたりする。ただ一方で、本体が少々厚ぼったく、カバンの中の小物入れに入れにくいかな、という印象も受ける。また、iPhoneしかサポートされないので、iPadやiPod touchでも使いたい人には向いていない。

 これら2製品と比べると、SEG CLIP mobileは、まずコンセントから給電しながら使えるので、自宅やオフィスで長時間視聴したい人におすすめだ。一方で本体サイズが小さく、持ち運びしやすいので、移動中に見たい、というような人にも悪くない。緊急時に予備電池として使えるのも嬉しいポイントだ。ただしアプリの機能面では、縦画面表示できなかったり、ザッピングしにくい、録画できないなど、ほかの製品と見劣りする面がある。ここは今後のアップデートにも期待したいところだ。


(2011年 6月 23日)

[AV Watch編集部白根雅彦 ]