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aiboで生まれた「感動体験」を世界に。ソニー平井社長に聞く8K、車、OS、スマホの次

 CESでは恒例となった、ソニー・平井一夫社長のラウンドテーブル取材のレポートをお送りする。今年のCESは、例年以上に自動車や社会システムなど「家電の外」のテクノロジーに関する発表が多いように感じる。そんな中でもソニーは、例年通り、テレビやオーディオ、カメラなどの「コンシューマ機器」が軸であることに変わりはない。一方でニュース的なトピックとしては、ソニーが車載用イメージセンサービジネスを本格化し、既にBOSCH・デンソー・ヒュンダイ・KIA・日産・トヨタといった企業とのパートナーシップを発表したことも大きい。

 業界全体が変化する中で、2018年のソニーはどの方向に向かおうとしているのだろうか?

ソニーのDNAはコンシューマ(個人)向け。企業によって方向が違うのは「必然」

 ソニーのプレスカンファレンスは、今年もコンシューマ機器を中心に展開された。これは、ソニーのビジネス軸が昨年と変わりないことを示している。平井社長自身も、こだわりが「まずは個人向け」であることを認める。

平井社長(以下敬称略):ソニーとしては、いつの時代であっても「これはすばらしい」と言ってもらえる商品を届けるのがDNAです。これは変わることがありません。

ソニー 平井一夫社長

 一方、CESの主催者が「全米家電協会(CEA)」から「全米民生技術協会(CTA)」に変わったことが象徴しているように、もはや主催者も「エレクトロニクスだけではない」と認識しています。その中でも一番大きいのは、自動車メーカーがCESに参加したことです。これは大きな変化でした。

 エレクトロニクス業界は、昔はどの企業も同じ方向を向いていたような気がします。しかし、今は向かう方向がだんだん、企業それぞれで変わってきたのではないか、と思うんです。我々はコンシューマにこだわりますが、パナソニックさんはB2Bにシフトしてきたように、です。これは悪いことではありません。企業の資産をどう生かすか、ということなので、むしろ「同じになるはずがない」んです。

 では、その中で成長戦略・投資戦略はどう考えているのだろうか? そこには、現在の家電の業界構造が大きく影響してくる。

平井:コンシューマエレクトロニクスの領域では、あまり大型の投資案件は出てこないと思っています。投資が必要だったのは昔ならディスプレイパネルです。弊社もやっていましたが、いまはやっていません。もはやパネルはコモディティ化しました。どこに差別化要因があるかといえば、パネルを駆動するチップセットにあるわけです。ですから、そうした部分では積極的な投資と技術開発を行ないます。しかしその額は、ディスプレイパネル事業とは全く違うレベルで済みます。

 カメラについては、レンズの技術を伸ばす、センサーの技術を伸ばす、という部分がありますが、これもそんなに大きくはありません。

 大きいのは半導体、イメージセンサーです。こちらは数千億単位の投資をしないといけません。投資ヘビーではありますが、成長ドライバーでもあるので、がんばらねばなりません。

 一方、B2Bとコンシューマの比率については、B2B比率が若干伸びる可能性はありますが、積極的にそちらに事業を振っていくつもりはありません。

 やはりソニーは、コンシューマ向けの製品をいかに強いものにするかがDNAであり、そこに強みがある会社です。ですから積極展開します。

ソニーの“クルマ”への取り組み

 とはいえ、ソニーの今年のプレスカンファレンスでは、「自動運転」を軸とした車載用イメージセンサーのニュースが注目を集めた。2014年のCESで車載への取り組みを発表してから4年、ついに、自動車メーカーとのパートナーシップを発表するに至った。

自動車メーカー、大手自動車部品メーカーとのパートナーシップを発表

平井:車載用イメージセンサーをやります、と商品化の発表をしたのは、2014年のことです。その頃からパートナーに対するご質問はいただいていたのですが、相手がいる話ですから軽々にはお話しできません。今の段階になってどういう会社と仕事をしているか、ようやく一部ですが発表をさせていただきました。具体的にどういうことをやっているかは、適宜議論しながら皆様にもお伝えしていきます。

 ここで気になるのは、ソニーが車メーカー・自動車向け部材大手とどういう関係を組み立て、どこまで深く関わるか、ということだ。イメージセンサーは自動運転車の中核パーツであり、ソフトウエアやソリューションの組み立て方によっては、自動車作りでソニーがイニシアチブをとる、という可能性も出てくる。だが、平井社長は「ソニーが自動車を作る」ようなイメージは否定する。

平井:個々の内容は控えますが、メーカーによって関わりかたは違います。とはいえ、ソニーが車作りそのものに関わっていく……というにはいっていく、という印象を与えたのなら、それは違います。あくまでイメージングの領域で自動運転に関わる、という話です。

 パーツをメーカーに売るだけなのか、そうでないのかは、相手によりけりです。しかし、いまや、単純に半導体を売るだけではバリューが生まれないのも事実。プラスアルファ、「ソニーとやるから」という形でないといけません。結局、製造の技術的な差だけでは追いつかれてしまいます。その上で、プラスアルファの協業の形を考えないといけません。

 例えば……現在はスマホでも、各社にイメージセンサーを供給しています。しかしそこでは、単に売るだけなら差異化できません。スマートフォンメーカー側が「一緒に開発してくれないか」「この課題を解決したい」という要望に応えて開発できる技術力が必要です。

 ですから、「いちサプライヤーになるだけ」ということは避けたいですね。

 今回発表されたパートナーは、アジア系の自動車関連会社が中心という部分はありつつも、業界をリードする、トップクラスの企業の名がずらりと並び、そこにインパクトがあった。ならば自動車向けでの業績貢献も近いうちに……と思われそうだが、そういうわけではない。コンシューマ機器と異なり、自動車は生産開始までのタイムスパンも長いからだ。また、数量的にもいきなり多くなるわけではない。

平井:いずれにしても、自動車向けのイメージセンサーが、今の半導体事業の営業利益に直結する規模のビジネスになるのはまだまだ先の話です。そういう意味では、パートナーさんと積極的なビジネス展開のお話や技術開発は進めるものの、現段階の半導体事業においては、スマホ・デジタルイメージングなどの既存領域でいかにビジネスを大きくするかがポイントではないか、と思います。

 自動車においても、その領域のマーケットリーダーにはなっていきたいと思いますし、それだけの技術力はもっています。マーケットリーダーになるには、いかに車メーカーとパートナーシップを組むかが大切です。

 またイメージセンサーは、自動車以外だとファクトリーオートメーションや監視カメラなどが有望です。センサーが使われる機会は多くなりますので、車のみならず積極的に入っていきたいです。

 なお筆者は、CES会期中に、ソニーの車載向けイメージセンサー事業の責任者との単独インタビューを行なった。その記事も近日中に公開の予定である。詳しくは、公開後にそちらもご参照いただければと思う。

音声アシスタントは「Google中心」

 今年のCESは、ある意味で「音声アシスタント対決」の様相を呈している。昨年はスマートスピーカーが注目を集めたが、今年はそれがテレビや自動車に広がり、連携機器も多彩になってきている。会場にはAmazonのAlexaと、Googleアシスタントの宣伝があふれている。ソニーは音声アシスタントの世界をどう見ているのだろうか?

平井:音声アシスタントは、機能としてはすばらしいものだと思います。

 しかしそれが一人歩きしてはしょうがない。画質の良いテレビや音質の良いスピーカーと組み合わせられて、まずは商品の機能が突きつけられて、はじめて音声アシスタントの機能が顧客体験につながるのだと思っています。重要な機能ではありますが、商品自体の強みを徹底的に追求していくことがより大事だと思います。

 やはり、テレビとスピーカーなどの連携、ネットワークとつながる部分は強化していかなくてはいけない、と思います。とはいえまずは「商品として(魅力が)立っているかどうか」が、ソニーとしては重要です。

スマートスピーカーにGoogleアシスタントを内蔵

 現在、ソニーはテレビやスピーカーにおいて、Googleとのパートナーシップを中心に動いている。日本ではLINEとも提携しているが、ことアメリカ市場ではやはり「ソニーはGoogle一色」という印象が強い。テレビのリモコンには、ついにGoogleアシスタントのボタンまで用意された。

テレビのリモコンにトスピーカーにGoogleアシスタントを内蔵

 一方で、aiboやXperia Earなどの製品では、自社の音声アシスタントを活用している。両者を分けるポイントや、他の企業との連携の可能性はどうなのだろうか?

平井:パートナーとしては現状、Googleを中心に考えています。しかしGoogleだけ、にこだわっているわけではなく、様々なパートナーと話し合いは続けていきますし、場合によっては新しいパートナーを……ということもありうるでしょう。

 今がいろんな商品とどういう風につながるかを前提に見た上で、ベストな技術を使っていこうという考え方です。Googleアシスタントはテレビやスピーカーなど、色々な製品とつないで使うところが多いので、彼らの技術を利用させていただいています。逆にaiboはスタンドアロンに近い部分がありますから社内の技術を使っています。用途と商品などを総合的に判断しています。

 ひとつ言えることがあります。以前のソニーであれば「なんでも自前」でやろうとしたでしょう。しかし、今のソニーはそうではない自前でないものを使ってもいいし、自前のものもあってもいい。かなりオープンマインドにかなりなってきたのでは、と思っています。

 今年発表された防滴ヘッドホンである「WF-SP700N」や「WI-SP600N」は、スマホと連携することで「Googleアシスタント」に対応する。また、昨年発売済みのフラッグシップ・ヘッドホンシリーズである「1000Xシリーズ」も、アップデートでGoogleアシスタントに対応する。このあたりの、「ヘッドホンの機能強化」も、音声アシスタントとAIの時代を見据えたものだ。

平井:ポータブルオーディオへのAIの活用は、どちらかというと「Googleアシスタントの機能の拡張」として見ています。スマホとつながる環境においては非常に便利な機能だと思っていますし、ユーザビリティの向上にもつながります。

 オーディオの機能向上は常に考えていて、昨年発売した1000Xシリーズでも色々やりました。ノイズキャンセルするのはあたりまえ、そこであえて外の音も聞こえる、音声は聞こえやすくする、といった機能を入れています。ここの開発には、AIを使っている部分もあります。1000Xはスマホアプリと連携して活用するもので、今のアプリは簡単な機能だけを入れていますが、今後はアプリ追加を含め、その発展も視野に入っています。

 では、AIそのものはAV機器にどう活用するのだろうか? どうやら軸は「使い勝手」になるようだ。

平井:音作り・絵作りにAIを活用する可能性もあります。しかし、私はユーザーの皆さんが楽しんでいただける、音楽のジャンルや種類をより「発見」する、巡り合わせのヒット率を高めることが、活用の方法になるのではないか、と考えています。オンラインサービス各社もそこに力を入れていますが、自分がローカルに持っているカタログもうまく整理し、お客様に出会いが提供できればいいのでは、と考えます。

 音作り・絵作りについては、ユーザーの方からのフィードバックのループが作れれば、活用の可能性があります。例えば「もっと赤を強くしてみましょう」だとか「2万Hz以上を持ち上げましょう」とか、いろいろできます。しかし、それにはフィードバック・ループがなければ実現できません。そこをどう考えるかだと思います。

様相が異なる「8K」と「高級オーディオ」の取り組み

 4Kテレビのビジネスが軌道に乗り、次は「8K」の声が聞こえてくる。ブースでは8Kパネルを使った技術展示も行なわれている。だが平井社長は、「個人市場への8Kテレビ」について、現状ではあまり積極的ではない、と事情を説明する。

平井:対コンシューマでいえば、まだまだ4Kへの移行が定着したところです。お客様に8Kのコンテンツを届けるのも難しい中で、「8Kテレビ」をメッセージングするのは難しいです。もちろん、処理するためのチップセットの性能はどんどんあげていかないといけませんし、画質はもっと追求できます。

 今回、技術展示として「X1 Ultimate」を使った、一番上位での活用をお見せしました。そこで8Kも展開しましたが、それをすぐに商品化するわけではありません。この技術でここまでの絵が出せる、というアピールです。

8K世代の新プロセッサ「X1 Ultimate」を参考出展

 制作側はもう8Kで作り、届ける時はHDであったり4Kであったりで届ける……という形でしょう。制作サイドは先に走っていいのですが、問題はコンシューマに映像をどう届けるのか、ということです。ですから、8Kをいつコンシューマに展開するかは、まだ言えません。

 4Kはまだまだ伸びる市場です。そこに「もう8Kです」とあえていうのは、混乱を招く元です。ユーザーにもベネフィットがないですし、業界にもプラスな部分はありません。

 ソニーの製品群は、このところポータブルや4Kテレビに集中している。高級オーディオなどの数量が出にくい市場には消極的にも見えるが、平井社長は「消極的ではない」と否定する。どうやら少々考え方が違うようだ。

平井:高級オーディオは、市場としては小さいが重要です。にもかかわらず、マイナーな改善はしているのですが、確かに、製品のフルモデルチェンジは、最近していません。

 ですが、ある意味、高級モデルはひんぱんにモデルチェンジしたくない、というところもあります。いいと思ったらじっくりその製品を売って欲しい。そうでないと、ファンの信頼を得ることはできないと思います。

スマホは「次のパラダイム」に向けた準備のために必要

 業績面での課題として、スマホ事業が挙げられることは多い。日本市場ではそれなりの存在感があるが、海外でソニーはマイナーなメーカーである。今年のCESでは久々に新製品を発表したものの、それも完全なハイエンドフラッグシップではない。

 ソニーの中のスマホ事業は、やはり今も「調整局面」であるようだ。

平井:数年前から、シェアや台数よりは、利益・黒字化が大事、という決断をしています。(事業売却を検討している)富士通も含め、他社のスマホビジネスを買収・提携するといったことはまったくありません。

 Xperiaは日本ではマーケットシェアがあるので、ユーザーに本当に評価していただける機能をどう追加するか、コストダウンをいかにやるか、不良率を下げ返品率を下げるなど、地道な改善の積み重ねをやっていきます。

 一方で「スマホを止めるつもりはない」ということも繰り返し強調する。このメッセージングは、過去2年間変わっていない。

平井:ソニーの将来の戦略として「コミュニケーションビジネス」の可能性が大きいのは間違いありません。今はスマホですが、どこかでパラダイムシフトがやってくるでしょう。むしろ、次のパラダイムシフトを作るくらいの勢いでやらないといけません。

 次のパラダイムでも、弊社は引き続きプレイヤーでいたい、と思っています。そのためには、今のパートナー、例えばネットワーク各社さんであったりQualcommであったりとの関係をキープしたい。止めてしまうと、次からまた新たに関係を構築しなければなりませんから、もう次はできません。

 今年はAndroidの登場から10年の節目の年だ。スマートフォンを普及させ、様々な家電を高度化した主軸技術でありつつも、GoogleのOSに「乗っかる」形になり、メーカー間の差別化の方向性も変わった。過去のプラットフォームで強みを発揮した日本メーカーの多くが、ルールの変化に伴い影響力を落とした、という事実もある。この10年を、平井社長はどう分析しているのだろうか?

平井:Androidには功罪はありましたが、私の観点からするならば、OSに対して投資するのではなく、OSは「与えられた条件」として、そこからどう差別化するか、という課題を突きつけられた10年だったと感じます。そこではいいことも悪いこともあったのですが、「違うもの」にフォーカスするのを強いられたわけで、その影響は悪いことばかりではなかった。10年前に、そうしたゲームチェンジャーと言えるものを体験したのはいいことだと考えます。

 OS的には、ソニーでAndroidにかわるものを作る意味はない、と考えます。しかし、PlayStationはもう長い歴史があるビジネスなので、この部分は独自で投資をして強くする。それが、PlayStationというビジネスとしての責任ではないか、と考えます。

「ソニー復活の象徴」としてのaibo、アメリカでも「かわいい」は通じるか

 今回のCESでの発表の中でも、会場がもっとも盛り上がったのが「aibo」の登場だ。日本では1月11日から発売がスタートするが、海外ではこれが初お披露目となる。会見場から漏れた声が「おお」という野太いものではなく「ああ……」というかわいいものを愛でる時のような吐息だったのが印象的だった。

aiboをCESで披露

 今回aiboを持ってきた理由も、そんな「リアクション」と大きく関係している。

平井:今回CESに持ってきて紹介したのは、かなり話題になっているものの、アメリカなど日本以外の方々はまだ実物をご覧になっていないからです。プレスカンファレンスでも、みなさん非常にいいリアクションをされていましたが、みなさんがaiboをどう見ているか、ここに注目しています。aiboは日本人の目でみて「かわいい」ものになっていますが、例えばアメリカ人や中国人の目から見ても「かわいい」のか……。そういうリアクションをとりたいんです。

aiboと平井社長

 まだ発表できる状況にないですが、aiboは海外展開も考えています。ただし、aiboは部品点数も多く、製造に時間がかかる製品です。まずは日本の需要をちゃんと満たす、それをまずやって、生産能力が上がった上でどこの国からやるかを検討します。確実にやれる時じゃないとお客様にご迷惑をかけます。

 私はPlayStationのビジネスを長くやっていて、そこでいろんな勉強もさせていただきました。確実に発売できる時にやるのが、結局は不利益にならないやり方ではないか、と思うのです。

aibo大人気

 ソニーとして、aiboの復活はどのような意味を持っているのだろうか? aiboは平井社長直轄のプロジェクトである。その立ち上げの意味と社内への影響はどのようなものだったのだろうか。

平井:過去我々も、苦しい時期を通り抜けました。その時にも、業績が上向いた時に「いい」と思えるものがなければいけない、と言い続けてきました。そんな、ある意味では、自分の夢、復活したソニーの象徴として、元AIBOの開発者の方々と議論して、「ここまできたんだからやるしかない」と決断し、プロジェクトをスタートしたのが1年半前のことです。

 これは「ソニーらしいな」と思ったのですが、開発する側にとっても、どれだけの時間と手間がかかっても、aiboを開発するのは楽しいようなんですね。何時に開発チームのところにいってもなにかやっている。そして、みんなの目が輝いている。社長直轄でしたから、社員の中には「いまさらaiboか」と思う社員もいたかもしれません。しかし、私がプロテクトして「好きなようにやってくれ」といって1年半であそこまで作りこんじゃうのはすごいことです。

 ある意味、私はaiboで「感動体験」をしたんですけれど、また別の商品で「こういうのをやろうよ!」というものをいくつか投げかけてみて、面白いものが出てくれば、と議論しているところです。

 ソニーの社員は、私が言うのもなんですが、「こういうものをここまでの時期に、こんなかたちでやるんだ」という目的があれば、すごいものを作れるんです。

「ビクトリーラップ」の時期じゃない

 ソニーの業績は大きく上向いている。営業利益の予測値は、前年同期比2.2倍となる6,300億円。過去最高の利益水準となる。だが、平井社長は「そこに危険がある」と話す。

平井:残る課題事業は、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントのターンアラウンドです。幸い、2017年は「スパイダーマン:ホームカミング」から「ブレードランナー 2049」まで、いいタイトルが揃いました。ですが今年もヒットが揃うかは、まだわかりません。

SPEのターンアラウンドが課題

 それから、これは「顕在化していない課題」と言えると思うのですが……。

 正直申し上げて、まだ2017年度が終わったわけではありません。しかし、社内では「ビクトリーラップ」状態になっているような気がするんです。ここまでがんばってきたのに、マネジメントも社員も気を緩めてしまう。これが問題です。「まだ終わっていない。危機感を持ち続けないと、3、4年前の苦しい時期に逆戻りするんだ」ということを言い続けています。

 実際、計画通りに行けば、今年度は昨年度に比べ3,400億円利益が多くなります。しかし、震災対策などの一時要因を除くと1,400億、さらに、その多くが為替差益です。そうすると、本当の利益の上積みは650億円。

 これが実力です。それを社内に伝えて、「もっとがんばらないと」と常に伝えることを意識しています。

 具体的な業績内容は、後日行われる第3四半期の業績発表までお待ちいただきたいのですが、PlayStation 4はかなり好調な年末商戦でした。累計で早期に7,300万台を超えましたし、PlayStation Networkの成長も堅調です。テレビ・オーディオ・デジタルイメージングを中心に、どの製品も良い年末商戦を迎えられたと分析しています。レンズで若干商品が足りなかった部分がありましたが……。

 しかし、これでビクトリーラップに入ってはいけないんです。家電ビジネスにおいて、第4四半期は鬼門なんです。在庫調整などの要因も出てくる可能性がありますし。4Qをどうコントロールするか、3月31日まで緊張感をもってあたります。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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