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ソニーテレビの復活とその後。音声でカンタン+高画質の'18年TV戦略を聞く
2018年1月13日 08:00
ソニーのテレビ商品企画の責任者である、長尾和芳氏のインタビューをお届けする。ソニーのテレビ事業は現在好調であり、過去の赤字状態を脱出した。だが、テレビという商品の販売が右肩上がりに戻ったわけではなく、慎重な高付加価値戦略の結果、今の好調が維持されている……と言ってもいい。ではこれから、ソニーはテレビ事業をどうしようとしているのだろうか。2018年度の新機種について、日本だけでなくアメリカ・海外の視点からも含めて語ってもらった。
OLEDはデザインラインナップ拡充、プロセッサ名でなく「画質」で語る
2018年のCESでソニーが発表したテレビは2つある。有機EL(OLED)のラインである「BRAVIA A8Fシリーズ」と、液晶のハイエンドラインである「同X900Fシリーズ」である。どちらも、CESの場では基本的にアメリカ市場向けの発表なのだが、例年そうであるように、これらの製品の日本版が、適切な時期に登場する……と考えていただいてかまわない。
日本市場的には、まずOLEDの「A8F」が気になるところだろう。OLEDは昨年の「A1シリーズが非常に好調だった。これは、日本でも海外でも同様である。
長尾氏(以下敬称略):昨年はOLEDが非常に高い評価を得て、実売的にもかなり順調に推移しました。ある意味想定以上に売れた、と言っていいでしょう。特に年末商戦には、先進国・中国の結果が良かった。日本でも、ずっと金額ベースでは1位のシェアをキープできました。他社の低価格攻勢もあって、数量的には及ばない時期も出てきましたが、高付加価値帯では圧倒的なシェアを持っています。
その中で、'18年はOLEDのラインナップを強化します。A8Fは「下方展開」と言って良く、A1とは併売になります。
A1はデザインまで含めて評価が高かったのですが、「斜めになっているのが気になる」「壁掛け時に厚みが出る」などの声もあり、よりスタンダードなモデルが必要、と判断しました。
スペック的に見れば、A1とA8Fの間に大きな違いはない。画像処理プロセッサは「X1 Extreme」であり、画面を振動させて音を出す「アコースティックサーフェス」も健在。表で見れば、デザイン的な違いしかない、といってもいい。
もちろん、1年間かかった分ソフトウェアの改善が進んでおり、「映像のチューニングは若干異なる」(長尾氏)という。ただそれは商品の味付けと言う部分が大きく、大きな機能アップと言うわけではない。
今年はLGを中心に、他のメーカーは「画像処理プロセッサ」の力をアピールポイントとするところが目立ちはじめた。そこを考えると、X1 Extremeという、昨年と同じプロセッサを使うソニーは保守的にも見える。しかし、当然だが、同社側はそうは考えていないようだ。
長尾:我々は、ずっとプロセッサを開発し続けてきました。だから今年どうこう、という話ではありません。どちらかというと、いままでの訴求のポイントをずらさずに、「出てくる画質」で勝負します。X1 Extremeを通じて我々がずっと言い続けてきた、他社が訴求していなかった部分に、他社がキャッチアップしてきた、と考えています。
プロセッサそのものより、そこで出る画質を訴求する、というやり方は変えるべきではない、と考えています。また、X1 Extremeを使いこなす過程で、ノウハウの蓄積は十分されています。ですから、今年についてはこの方針で大丈夫、と考えます。
一方で、CES会場では画像処理エンジンの「次のフラッグシップ」である「X1 Ultimate」を発表し、技術展示している。こちらはまだまだ製品化まで時間がかかるようだ。展示の意図も「この技術を使えばここまでできる、という限界を示す意味が強い」という。
アメリカで進む液晶の大型化。大型にこそ動画“ぼけ”対策が必要に新技術を導入
X1 Extremeの使いこなし、という意味では、実はOLEDよりも液晶の方に大きな変化がある。「X900Fシリーズ」には、新たな高画質化機能として「X-Motion Clarity」が追加された。
これは動画の「ぼけ」を緩和する、いわゆる動画応答性の改善技術であり、その性質上、液晶のみに搭載される。
X-Motion Clarityの動作原理はなかなかにユニークだ。動画応答性の改善には、補完フレームを生成してなめらかにする方法(ソニーでいえばMotion Flow)と、各フレームの間に黒のフレームを挿入し「キレ」を出す方法との2つがあるが、X-Motion Clarityは主に後者である。
ただし、単純にフレーム単位で入れるのではない。映像を解析し、オブジェクト単位に分割した上で、動きの大きなオブジェクト(例えば手前にあって大きく動いている人間や車など)の領域にだけ「黒い同じ形のオブジェクト」を挿入する。そうすると、動きが大きいオブジェクトからはぼけが減り、背景などの動きが小さい部分はそのままでいい。単に黒を入れるとその部分の輝度は落ちるので、今度は同じ領域だけバックライトの輝度も突き上げる。
こうした複雑な処理を組み合わせることで、全体に黒挿入を行なうよりも、全体輝度を保った上で精細感・映像のキレを高めることができるわけだ。
ちなみにこの技術は、もともと「X-tended Dynamic Range(XDR)として導入されていたものの応用である。XDRでは映像をオブジェクト単位に解析し、オブジェクト毎に輝度を補完し、コントラストを改善していた。XDRのオブジェクト解析技術を動画応答性の改善に使ったのがX-Motion Clarity、と考えればわかりやすいだろう。
実はこの機能、液晶テレビの「市場性」と大きな関係がある。
長尾:実は現在アメリカでは、テレビの大型化がさらに進んでいます。高付加価値市場では、75型のニーズが急速に高まっており、85型も求められるようになっています。特にアメリカ市場で進む75型以上の製品では、動画応答性を改善しないと満足度が高まりません。ですから、X-Motion Clarityの導入が必要だったのです。
OLEDは非常に良い製品なのですが、ことサイズ、という点では液晶が有利です。テレビ市場はOLEDでカバーできるわけではなく、やはり液晶にも大きな需要があります。ですから、液晶のプレミアム路線の強化は非常に重要です。液晶もまだまだ進化の余地があります。OLEDだけでは、画質の伸びしろの方向性が限られてしまいます。
音声アシスタントでテレビはもっと「かんたん」になる
画質の他に、長尾氏が「2018年のテレビの柱」として挙げるのが「音声アシスタント対応」だ。ソニーはテレビのOSにAndroid TVを採用しており、最新バージョンでは、Googleアシスタントが使えるようになった。今年のテレビのリモコンでは、「音声認識」ボタンが「Googleアシスタント」ボタンになっている。
長尾:音声対応は、画質に並ぶもう一つの軸です。ソニーブースのテレビ関連も、半分が画質ですが、もう半分はスマートホーム関連になっています。
弊社は2015年からAndroid TVを採用していますが、音声検索が非常に使われている、というデータがあります。使う方は、ほぼ毎日使われており、ニーズも高いです。
ご存じの通り、アメリカ市場でのスマートスピーカーの伸びはすさまじく、機能も着実に進化しています。BRAVIAの標準機能として搭載されるメリットとしては、ビジュアルフィードバック(画面上に認識した音声が出る、結果がビジュアルで表示される)がある、ということです。使い勝手としては非常に進化したものになります。
ソニーは音声アシスタントのパートナーとしてGoogleを選んでいる。だが、アメリカではAmazonの「Alexa」が大きなシェアをもっており、統計によってはシェア7割を超える、ともされている。ソニーとしては、そのシェアの違いをどう考えているのだろうか?
長尾:Google一辺倒ではなく、AlexaデバイスからBRAVIAをコントロールする機能も用意しています。すでにアメリカやUKの製品では利用可能ですね。Amazonと共同で提供するものなのですが、時期が整えば、日本を含めた他の地域でも展開したいです。
今は、スマートスピーカーを複数の部屋に置く方が増えており、今後は使い分け、もしくはテレビ中心に使う方も出てくるでしょう。
日本でも、音声アシスタントの機能は柱にしていきます。
日本のテレビは録画なども含め、特に機能が多いものです。そのため、「使いにくい」お叱りをうけることもあります。我々はずっと、いかに使いやすくするか、という観点で、リモコンとUIを工夫してきましたが、必ずしも成功したものばかりではなく、正直、葛藤の歴史です。
音声アシスタントにより、そうした部分に解決が見られると期待しています。若い方というよりも高齢者に使いやすくなるのではないかと。そのため、テレビの機能はすべて音声で呼び出せるようにしていきたいです。
Googleは音声のエコシステムを提供してくれていますが、我々が実装しようとしているのは「テレビとのインテグレーション」です。そこは独自に実装し、差別化に利用します。CMで見たことが、より自然に使っていただけるようになり、「いままでできなかったことができる喜び」を感じていただけるのでは……と期待しています。