西田宗千佳のRandomTracking

第437回

次世代機「Project Scarlett」登場のXbox会見。xCloudは10月、“サブスク推し”

今年のE3(Electronic Entertainment Expo)記事は、米国時間6月9日に開催された、マイクロソフトのカンファレンス「Xbox E3 2019 Briefing」のレポートからお届けする。

Xbox E3 2019 Briefingの会場となったMicrosoft Theater

今年のE3は、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が出展を見合わせることになった。その影響を会期前に読み取る事は難しいが、いつも会場の外にあった「PlayStation」のロゴがないことから、「ああ、確かにいつもとは違うのだ」という印象を抱かせる。

E3メイン会場であるロサンゼルス・コンベンションセンター。いつもなら「PlayStation」ロゴがある場所に、今年は「アベンジャーズ」ロゴ
Xbox E3 2019 Briefing 会場

一方でマイクロソフトのブースは、昨年に本会場から、すぐ近所の「Microsoft Theater」へ移している。今年もその態勢に変わりはなく、カンファレンスも同じくMicrosoft Theaterで行なわれた。こうすることでファンをXboxに集中させようという狙いなのだが、E3というイベントそのものから離れたわけではない。E3という場を使い、XboxとWindows上のゲームについて注目を集めよう、という意図には変わりはない。

会場には熱心なXboxのファンがつめかけた。一斉に腕をクロスして「X」ロゴを掲げるシーンも
会場内のステージでは、会期中、Xbox One向けの最新ゲームプレイが楽しめる

そして、ゲームの発表はもちろん、2020年発売予定の次世代機「Project Scarlett」のアピールも行なった。

なお、発表されたゲームそのものの詳細については、10日掲載のニュース記事と、僚誌GAME Watchで詳しく紹介している。そちらを併読していただけるとありがたい。

拡大するゲーム市場を「タイトル」で支える

マイクロソフト・Head of Xboxのフィル・スペンサー氏は、会の冒頭でこう述べた。

「過去20年の間に、ゲームのプレイ人口は3倍に増えた。いまや世界の20億人がゲームをプレイしている」

マイクロソフト・Head of Xboxのフィル・スペンサー氏

ゲームの市場拡大により、その中核にあるコアなゲーム市場の価値は高まった。XboxとPCによるゲームは、そのただ中にある。そうした市場でゲームを楽しむファンに対し、「どこでも」、「どんな機器でも」、「最高のゲーム体験を」提供するのがXbox事業の使命であり、そのためには魅力あるゲームをアピールするのが重要……ということだ。

人気カーレースゲーム「Forza Horizon 4」には、車や世界がレゴになってしまうアドオンが公開へ。例年なら置かれている実際の車に対し、今回あったのは「レゴで作った実物大の車」
Microsoft Fright Simulator」が、2020年に復活。衛星写真をマイクロソフトのクラウドである「Azure」を使って処理し、リアルな地形を実現
9月発売予定の人気ゲーム最新作「Gears 5」には、早期購入キャンペーンとして「ターミネーター」のキャラクターが提供
日本のインディ開発チーム「DESKWORKS」が開発した「RPGタイム! ~ライトの伝説~」が、E3のステージで大々的に取り上げられた。ノートへの手書きっぽい絵がそのままゲームに。2020年発売

CD Projekt REDの期待の新作「Cyberpunk 2077」には、キアヌ・リーブスが、本人のCG・本人の声・本人のモーションで登場することが発表され、会場にはサプライズゲストとして、キアヌ本人が登場して発売日を紹介する一幕もあった。

CD Projekt RED「Cyberpunk 2077」(2020年3月発売)をアピールするために登場したキアヌ・リーブス。ゲーム中にも登場する。壇上で「サイバーパンク! 身体改造! 未来都市! 最高だろ!」と語りかけた

Xboxでのゲーム体験を強化するために、Xbox Elite Wireless Controllerの「Series 2」も発表になった。感度などのセッティングを変えながらゲームが遊べるので、「こだわる」ファンにはうれしい製品。アナログスティックの感度調節や、Bluetoothでの接続に対応した。

Xbox Elite Wireless Controller「Series 2」。アナログスティックの感度調整機能やBluetoothによるワイヤレス接続などが特徴

「Project xCloud」は10月に公開

そして、プラットフォーム施策としての大きな発表は、やはり、クラウドゲーミングサービスの「Project xCloud」と、次世代機「Project Scarlett」の発表だろう。

「Project xCloud」は、ゲーム機を使わずクラウドでサービスとして提供されるものと、自宅にあるXbox Oneを自分専用のクラウドサーバーにして遊ぶ「Console Streaming」と呼ばれるものの2パターンがあることが発表された。後者はSIEがPS4で「リモートプレイ」として提供しているものと、実質的ほぼ同じと考えて良さそうだ。Console Streamingが「自由に無料で遊べる」(スペンサー氏)とアピールされていることから、クラウドサーバーで展開するものは有料の可能性もある。

「Project xCloud」は10月にスタートする

カンファレンス後にオープンになった試遊場では、Project xCloudのデモに触れることができた。スマホにアダプターをつけてコントローラーに固定したもので遊ぶことができた。調子がいいときはちゃんと動いていたが、筆者が体験した時には「Wi-Fiの動作不良で」(担当者)通信がうまく行かず、コマ落ちなども見受けられた。なので、このデモだけで真価を問うべきではなかろう。Project xCloud向けの開発情報には、ディプレイサイズに合わせた文字サイズ変更などの機能も盛り込まれているという。ライバルとどう違う体験になるかが気になる。

会場でデモが展示された「Project xCloud」。スマートフォンにケーブルでコントローラーを接続。スマホとネットの接続にはWi-Fiを利用していた
スマホとタブレット、両方での展示が行なわれていた

テストは10月開始になり、その後、正式公開に向けた準備が行なわれる予定だという。

次世代機「Project Scarlett」は2020年ホリデーシーズンに

最大のトピックは、やはり“次世代機”である、「Project Scarlett」の発表だ。以前より開発計画の存在は知られていたが、ついに正式に公開された。

次世代機は「Project Scarlett」。価格やデザインは未公表だ
「Project Scarlett」開発チームがビデオに登場、概要を説明しつつ、機器の中を「チラ見せ」

壇上のビデオでは、Project Scarlettの開発チームが、それぞれに概要を語っていく。簡単にまとめると次のようなものになる。

  • カスタムされたプロセッサーを搭載
  • AMDの新アーキテクチャ「Zen 2」と「Navi」を採用、プロセッサーパワーはXbox One Xの4倍
  • メモリは広帯域の「GDDR 6」を採用
  • 最大で120fps、8K、VRR(可変リフレッシュレート)に対応
  • リアルタイムのレイトレーシングに対応
  • 新生代SSDにより、従来比で約40倍のパフォーマンスを発揮
「Project Scarlett」とともに登場することが明言された、人気ゲーム「Halo」シリーズ最新作「Halo Infinite」。レイトレーシング対応らしく、陰影がリアルなシーンが印象的

いくつかより明確になってはいるが、「AMDの新アーキテクチャによるプラットフォームで、レイトレーシングに対応」という点や、「SSDを標準搭載し、従来比40倍の読み込み速度を実現」といった部分は、SIEが開発中であることを公表している「次世代プレイステーション」に非常に似ている。

どうやら、こうした部分が次世代機の共通の特徴になりそうだ。PCではグラフィックス面で先行しているが、「読み込み速度」や「最適化された体験」で差別化するのがコンソールのアイデンティティ、といえる。

スペンサー氏は、Project Scarlettが「2020年ホリデーシーズン」に出荷されると発表した。正式な名称や価格、デザインなどは追って発表される。

スペンサー氏は、Project Scarlettが「2020年ホリデーシーズン」に出荷されると公表

SIEの次世代プレイステーションも2020年発売が濃厚であるため、来年の年末は久々に「ゲーム機戦争」といえる状況になりそうだ。

マイクロソフトも「サブスクリプション」推しに

そして、新しいゲームや次世代機と同じくらい、マイクロソフトがアピールに力を入れたものがある。それが「定額制プラン」、いわゆるサブスクリプションだ。

マイクロソフトは海外で「Xbox GamePass」というサブスクリプションサービスを、月額9.99ドルで提供している。これに加入すると100本以上のXboxプラットフォーム用ゲームが遊び放題になる。しかも、自社スタジオであるMicrosoft Game Studioの作品は、すべて発売日からこのプランの中に入る。

海外でマイクロソフトが展開中の「Xbox GamePass」。今年は特にこのサービスを推すコメントが目立った

5月にはこのサブスクリプションのPC版である「Xbox GamePass for PC」が発表になっているが、さらに、「Xbox Game Pass Ultimate」も発表になった。

コンソール版とPC版、Xbox Live ゴールドメンバーシップまでセットの「Xbox GamePass Ultimate」。月額約15ドル。少々高価だが、お得感の強いパッケージでユーザー引きつけを狙う

これは、コンソール版とPC版をセットにした上で、Xbox向けの有料会員サービスである「Xbox Live Goldメンバーシップ」をセットにしたものだ。それで、価格は月額14.99ドル。しかもE3会期中の今なら1ドルで入れる、という大判振る舞いだ。

米マイクロソフト公式ページより。E3会期中の今なら「1ドル」というディスカウントキャンペーン展開中

各産業で「月額料金制」サービスが注目を集めている。マイクロソフトは元々、Xbox Liveの有料サービスで成功した経験をもっているが、それをさらに押し上げ、月額単価が高いがゲームファンには価値あるサービスとすることで、ビジネス収益全体の安定を図ろうとしているのだろう……と推察できる。

ネットサービスの有料化は、すでに数年前からあたりまえになった。マイクロソフトは、今後はゲームそのものの付加価値も含め、より単価の高いサブスクリプションへと移行しようとしているのだろう。

こうした動きがゲーム業界全体に広がるかどうかは、しばらく注視が必要だ。アップルはオリジナルゲームを軸にした定額制サービス「Apple Arcade」を展開するが、一方、「定額制を導入するのでは」と言われたGoogleのStadiaは、結局、サービス利用料は会費制としたものの、「遊び放題」プランにはしなかった。

他社がどう出るかは注目したいところだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41