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第401回

新型機発表で「未来にコミット」。Microsoftのゲームは「コミュニティ」を軸に

 今年のE3レポートは、マイクロソフトのプレスカンファレンスから始める。例年、同じ日の正午にマイクロソフトが、夕方にソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)がプレスカンファレンスを行なう、という形だったのだが、今年は日曜の正午にマイクロソフトが、月曜の夕方にSIEがプレスカンファレンスを行なうスケジュールになり、日程が別れた。そこでまず、マイクロソフトのプレスカンファレンスの内容をお伝えする。

発表会場となったMicrosoft Theater

 なお、プレスカンファレンス翌日、短時間ながら、Xbox Business アジア担当LeadのJeremy Hinton氏に単独インタビューすることができた。その内容もお伝えする。

多数のタイトルを発表、日本メーカー開発の大作も

 現世代のゲーム機は、発売から5年弱が経過している。新しもの好きとしてはそろそろ次の世代が気になるところだが、ビジネスの視点で見れば、ハードウェアが行き渡り、ソフトをより多く販売できるタイミングと言える。ソフト開発的にも、同じ世代の中で「三週目」のラインナップが揃う頃であり、質・量ともに充実する時期といえる。去年から続く傾向ではあるが、今年はそれにさらに拍車がかかっている。マイクロソフトのカンファレンスでも、50のタイトルが立て続けに発表された。今世代は特に「ゲーマー向けに、ゲームを語る」ことが成功の必須条件といえる部分が強く、マイクロソフトも昨年来、そうしたやり方を採っている。

今回はゲームタイトルをひたすらアピール。50本のゲームタイトルが紹介された。

 どのようなゲームが出たのか、個々のタイトルの詳細は、僚誌GAME Watchの記事をご参照いただきたいが、特に盛り上がったタイトルの写真を以下に並べさせていただく。

ヒットゲーム「HALO」の新作「HALO INFINITE」が登場。主人公のマスター・チーフの姿が見えた瞬間に、会場は大盛り上がり
日本のゲームメーカーであるFROM SOFTWAREと、アメリカの大手パブリシャーであるActivisionがタッグを組んで開発中の「SEKIRO:SHADOW DIE TWICE」
マイクロソフトのヒットレースゲーム「Forza Horizon」の新作「4」が登場。春夏秋冬、季節変化の要素が採り入れられることが発表されると、天井からは大量の「落ち葉」が(もちろん本物ではなく、紙製)
カプコンの人気タイトル「Devil May Cry」の新作「5」が登場
バンダイナムコが、少年ジャンプの人気キャラクターが登場するアクションゲーム「JUMP FORCE」を発表。ルフィ・孫悟空・ナルトなどの他、「デスノート」のリュークも登場
マイクロソフトの「Gears」シリーズ最新作「Gears 5」が発表に。この他、スピンオフしたスマホ向けゲームやストラテジーゲームも発表された

展示会場も変更し、次世代機も「チラ見せ」。狙いは「コミュニティ重視」

 今年のマイクロソフトのE3での出展には、例年と大きく違う点がある。それは、メイン会場であるLos Angeles Convention Centerにはブースを設けずに、会場外であるMicrosoft Theaterで開催された。この施設は、2014年まではNokia Theaterと呼ばれていた常設型のライブ施設。MTV Video Music AwardsやAmerican Idolのファイナルが開かれたこともあり、任天堂がE3でプレスカンファレンスを開催していた頃には、何度か利用されたこともある施設だ。

今年のE3では、マイクロソフトはE3メイン会場を飛び出し、発表会を行ったMicrosoft Theaterで展示・試遊を行なう

 E3は、アメリカのゲーム企業が集まって展開する一種の「お祭り」だが、すべての企業が集まってイベント化することについては異論を唱える企業も出ている。最大手の1社であるエレクトロニック・アーツ(EA)は2016年からE3には出展せず、独自の「EA Play」というイベントを開催している。マイクロソフトも、E3というタイミングは使いつつも、E3会場からは離れることで、ある種の独自性を打ち出したかったのだろう、という印象を受けた。

 米マイクロソフト・Head of Xboxのフィル・スペンサー氏は、プレスカンファレンスの中で、「ゲームにとって、コミュニティはなによりも重要なものだ」と話した。ネットワークサービスであるXbox Liveでつながり、Xbox OneやWindows 10でゲームをする人々の期待に応えることこそが、ビジネスの成功に重要であるから、このようなアピールをしたのだろう。会場をMicrosoft Theaterに移したのも、「ひとつのコミュニティ」というイメージを強くし、Xboxのファンに訴える作戦であるように思える。

米マイクロソフト・Head of Xboxのフィル・スペンサー氏

 その上で、Xboxのプラットフォームとしての価値を高めるために発表したのが、傘下のゲームスタジオ群である「Microsoft Studio」の強化だ。Ninja Theory、Playground Games、Undead Labs、Compulsion Gamesという4つのゲームデベロッパーを買収し、トータルで11のデベロッパーがMicrosoft Studio傘下になった。新たに買収した4社は、Xbox向けにもタイトルを開発し、定評のある企業ばかりだ。これらの企業は独立してゲーム開発を行なうことができるが、やはり狙いは、XboxやWindowsに向けたゲームタイトルの拡充と見られる。これもまた「コミュニティの強化」である。

4つのゲームデベロッパーを買収し、いわゆるファーストパーティーである「Microsoft Studio」を強化。各社は独自にビジネスを展開できるが、やはりXbox向けのゲームが主軸になるだろう

 Microsoft Studioの強化以外にも、発表会の中で、ビジネス的な側面に触れた部分が2回あった。

 ひとつは、月額固定制での「遊び放題型」ゲームサービスである「Xbox Game Pass」の拡充。これは、月額9.99ドルで100本以上のゲームタイトルが遊び放題になるもの。日本では「準備中」であるがサービスが行なわれていないので、あまり知られていないだろう。マイクロソフトはこれに力を入れており、今回のプレスカンファレンスで発表されたばかりの「Forza Motorsports Horizon 4」や「Crackdown 3」が、単品版販売のリリースと同じタイミングで遊べることなどが発表された。毎月定期収入の入ってくるサービスを強化することは、ビジネスを安定させる上で重要な施策であり、評価できる。

月額固定制での「遊び放題型」ゲームサービスである「Xbox Game Pass」を強化。日本での展開が待たれる

 もうひとつは「未来」に向けた施策だ。第一報をお伝えしているが、発表会の最後に、フィル・スペンサー氏は、「ストリーミング形式でのゲームサービス」と「次世代Xboxというハードウェア」の両方を開発中であることを発表した。

 前者は、ハードウェアなしでゲームを楽しむための施策だ。スペンサー氏は「どのデバイスでも、コンソールクオリティのゲームを体験できる」としており、クオリティにこだわったサービスになりそうである。

ストリーミング・ゲームサービスを開発中であることを公表。「どのデバイスでも、コンソールクオリティのゲームを体験できる」という

 ストリーミング・ゲームサービスとしては、ソニー・インタラクティブエンタテイメント(SIE)が「PlayStation Now」を展開中だが、Googleもストリーミング形式・月額制での遊び放題によるゲームサービスを企画中……との噂がある。濃いゲームへの入り口としても、プレイヤーがいつもゲームに触れていられる窓口としても、この種のサービスの価値はある。これまでは回線速度やビジネスモデルの問題から、ビジネス的に大きな成功例はないのだが、マイクロソフトもこのジャンルに注目しているとなれば、2019年以降に向けて、再びサービス開発が過熱しそうだ。

 次世代ハードウェアについては、存在が示され、シルエットが公開されただけである。シルエットについても、正式なデザインのものかはわからない。

新型ハードウェアの開発が進んでいることも公表。こちらはシルエットが公開されたのみ

 一方、技術的に見ると、今回はマイクロソフトが「マイクロソフトの持つ技術」をアピールするシーンが目立ったようにも感じる。「Game Pass」でゲームのダウンロードを高速化する手段には、マイクロソフトの機械学習技術を使う。そうして、必要なコンポーネントを判定し、ダウンロードにかかる時間を最大2分の1まで短縮する。また、Microsoft Researchが開発しているAI技術をゲームキャラクターのAIとして使う準備も進めているという。

「Game Pass」でのゲームのダウンロードを高速化するために、機械学習を使った最適化をする。機能としては秋に公開
今後、ゲームのAIを賢くするために、Microsoft Researchで開発されているAI技術を活用するという

 これらのことは、「マイクロソフト」という一つの会社のビジネスとして考えれば、ある意味当たり前の施策でもある。だが、大企業であればあるほど、すべての事業が一枚岩ではない。特にXbox事業は、過去、マイクロソフトの「本業」とは一線を画して進められてきたようなところがある。ライバルのSIEにしても、ソニーのリソースをすべて使えているか、というとそうではない。今回、技術的な側面での「マイクロソフト」を押し出したのは、Xboxが全社的なコミットを受けた事業である……というアピールをする、という側面が大きかったように思える。

 Xbox事業は今世代、SIEにシェアで差をつけられている。それでもユーザーを不安がらせず、「今後も強くビジネスを推進していく」ことをアピールすることは、コミュニティを安心させ、強化する上でとても重要なことだ。ほとんど情報が公開できないにもかかわらず、次世代機やストリーミング・ゲームサービスの存在を公表した背景にも、「これからもXboxのビジネスを強化していく」というユーザーへのコミットメントの一環、という部分があるのではないだろうか。

「コミュニティ」を大事に、ゲーム機だけにこだわらずゲームを展開

 ではここからは、Xbox Business アジア担当LeadのJeremy Hinton氏のインタビューをお届けしよう。日本でのXboxのビジネスは正直厳しいが、日本を含めたアジア市場にどのような展望をもっているのか、語ってもらった。やはりここでも、キーワードは「コミュニティ」だ。

Xbox Business アジア担当LeadのJeremy Hinton氏

――アジアでのXboxビジネスの状況をどう見ているか、教えてください。

Hinton氏(以下敬称略):昨日のプレスブリーフィングの中では、11のゲームがアジアのデベロッパーからのものでした。我々は、さらに提供するゲームの幅を広げ、アジアを含む世界中の消費者に選択肢を与えたいと思います。そのためには、特にアジアリージョンでは、やらなければいけないことが多数あり、努力していきます。

――プレスブリーフィングでは、日本のデベロッパーから、4つの大きなタイトル(「キングダム ハーツ 3」「SEKIRO:SHADOW DIE TWICE」「JUMP FORCE」「デビル・メイ・クライ5」)が発表されました。日本の大型タイトルが多く用意されたことには、どのような意味がありますか?

Hinton:日本はゲーム産業にとって、精神的なふるさとです。驚くほどクリエイティブで、素晴らしいデベロッパーが多数あります。日本のゲームは依然世界中で広く楽しまれています。今回、新しい4つのタイトルを発表できたことは光栄です。

――日本でのXboxのビジネス状況をどう分析していますか? 正直、非常に厳しいものだと思いますが。

Hinton:いくつかの方法を考えています。

 まず、日本のゲームパブリシャー・コンテンツクリエイターとの話し合いを続けていく、ということです。そして、XboxとPCを使っている世界中の消費者に、素晴らしいゲームを届けることが大切です。我々は、日本のタイトルが世界中でブレイクする手助けをしたいと考えています。

 そして同時に、もっと日本国内での販売について努力しなければいけない、と理解しています。日本には非常に強力な2つのコンペティターがいますからね。

 ただもっと、機器を問わずに楽しめるゲームについてもアピールする必要があると思っています。例えばMinecraftは、PCでもXboxでも、Nintendo Switchでも楽しめます。こうした、機器を問わないプレイスタイルを広げていく必要があります。

――フィル・スペンサー氏は、昨日のカンファレンスで「ゲームにおいてはコミュニティが重要」と説明しました。これはどういう意味を持っているのか、もう少し教えていただけますか?

Hinton:そうですね、いくつかの意味合いがあります。

 人々がゲームをするときには、プラットフォームや人々との関係を選びます。それが「コミュニティ」です。私たちは、可能な限り、良いゲームをプレイできる場を提供したい、と考えています。そして、そこでお互いにゲームを楽しんでほしい、と思っているんです。

 先ほどのMinecraftはいい例です。SwitchでもXboxでもiOSでもAndroidでも、一緒にプレイすることができる。この関係こそが「コミュニティ」です。我々はビジネス判断として、「良いコミュニティを提供することが重要」と定めた、ということです。

――プレスブリーフィングの中で、コンソールの次世代機や、ストリーミング・ゲームサービスが発表されたことには驚きました。詳細を発表する時期ではありませんよね。

Hinton:確かに、詳細はまだお伝えできませんし、発表しませんでしたね。

――では、なぜ、このタイミングで新しいゲーム機やサービスの存在を発表したのでしょうか。

Hinton:それは、我々のゲームビジネスに対するコミットメントを示すことになる、と考えたからです。多数のゲームタイトルを発表しましたが、これもコミットメント。「これからもゲームをプレイするためのコミュニティを作っていく」と宣言することなのです。マイクロソフトは、機械学習やAIの技術を開発しており、それをゲームに生かしていきますが、そうした技術投資も、同じ理由で行なうものです。

――現状、PCとXboxの両方でゲームを展開していますが、この方針は今後も変わりませんか?

Hinton:はい、我々としては、PCとコンソール、どちらも選べることが重要であり、双方が同じコミュニティであることが望ましいと思っています。また、ゲームによっては、プラットフォームによる「向き不向き」があります。Gearsシリーズの一つとして発表した「Gears Tactics」はストラテジーベースのゲームで、PCでのみ提供されます。「Gears POP!」はスマートフォンのみで提供されます。それぞれ、そのプラットフォームにあったゲーム内容になっているからです。こうした部分も含め、幅広い展開を進めていきます。

――ところで、今回は、展示場所を、(E3メイン会場の)Los Angeles Convention Centerから、Microsoft Theaterに移動しましたね。なぜですか?

Hinton:動こうと考えてはいたんです。だって「Microsoft」Theaterですからね(笑) 常に、イベントのコンセプトと我々がやりたいことの間で葛藤していました。私たちは、もっとたくさんの人を招きたいと思っていました。昨日はプレスカンファレンスに7,000人の人々に来ていただきました。何千人ものファンを招きたい、と思っていたんです。壇上にはたくさんのコンソールがセットアップされていて、会場に来て自由に楽しむことができます。

――アメリカでは、月額料金制のサービスである「Game Pass」があり、プレスブリーフィングでも強化が発表されました。しかし、日本では展開されていません。日本のファンは待ち望んでいると思うのですが。

Hinton:はい、わかっています。我々はGame Passを、日本を含む世界中の国々で展開したいと考え、準備を進めています。残念ながら現状、いつ日本でスタートできるか、というアナウンスができる状況にはないのですが。

――最後に、日本のXboxのファンに向けて、メッセージをいただけますか?

Hinton:日本のファンは、世界中でもとても熱心なファンの方々だと思います。とても感謝しています。これから、多数の日本のデベロッパーによるゲームが登場しますし、ベストな欧米のデベロッパーによる作品も提供していきます。特に「Forza Horizon」シリーズは、日本の自動車カルチャーに強く影響を受けています。今後も、Xboxでゲームを楽しんでいただければと思います。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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